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 レテも窓の外を眺める。光の風の粒の姿は見えない。ネアスはクロウの顔を見つめている。ラーナは無表情を装っている。

「節約したララリですごい刺客を養成しているのかな。子供の頃から訓練、訓練。ジャマモノを倒すためにガンバル、ガンバル」

 レテはラーナを見る。

「魔力が少なければ魔術で倒されてオシマイかしら。不意をついても一人が精一杯。ララリがいくらあっても足りなくなるわ。魔術の書物は貴重で、冒険者が発見したら貴族で取り合う。その時に刺客同士で戦わせる、ウ~ン、イマイチね」

 ラーナが答える。

「解読にも時間がかかる。モーチモテ博士は別としても魔術は扱いが難しい。貴族は魔術の研究と趣味に生涯をかけている。俺も人の事は言えない立場だ。刺客に頼む事はないが、気に入らない相手か。ネアスくんには心当たりあるか?」

 クロウはネアスに問いかける。

「ガーおじを箱詰めにした石職人ギルドの人たちです。刺客を頼む事はありませんが彼らは危ない、危険です。僕だけが知っている」

 ネアスは真面目に答えてしまう。クロウは焦る。

「クロウ、旅人の翼を持つ冒険者らしくない質問かしら。地下室に閉じ込められたら怒っても当然、気にしないで、ネーくん」

 ラーナはネアスに微笑みかける。ネアスの顔が赤くなる。

「ファレドがヤツラを追っているから心配はないわ。騎士団に引き渡すって約束。ネアスは関与しちゃダメ、ラトゥールとシルちゃんがいても危険かな。私も一人では相手にしないわ。アーシャとネアス、キャビで万全かな」

 レテもネアスに微笑む。ネアスの顔がさらに赤くなる。

「申し訳ない、調子に乗りやすいのが俺の最大の欠点です。理解しても治らない。イヤミではありません。荒々しい相手には数で対抗するのが一番です。彼らは近づきもしないでしょう。マトモなヤツラならばの話ですが……」

 クロウが口ごもる。

「ネーくんを脅かさないで、クロウ!マトモじゃないヤツラが集まるなんて不可能。ケンカして自滅。何も出来ないわ、魔術も知性がなければ何も起きないし、たくさんのヘボな魔術師が集まったとしたら、どうしようもなく不幸かしら」

 ラーナは答える。

「ファレドさんが追っているのか、僕も手伝いたい。ダメだ、ファレドさんと一緒はマズイ。違う、ファレドさんが悪い訳じゃない。僕は彼らを止めたいけど、しかし、だが、言葉が出ない。手伝いはヤメたい、ダメだろうか、レテ」

 ネアスはレテに尋ねる。

「私はファレドに任せれば良いって言ったのよ、ネアス。キミは足手まといになる、確実にね。全員が悪党退治をする必要はないかな、私もアイツラには関わり合いを持ちたくないわ。気分が悪くなるだけ、貴族の護衛の方がマシかな」

 レテはネアスに教えてあげる。

「冒険者の中には盗賊を捕まえる事に熱心な者もいます。王国内にはあまりいませんが、一人でも武器を持たない者を襲えば危険です。私も一度だけ捕まえた事がありますがマトモに武器も扱えない愚かな男でした。イミフメイな言葉を言っていました。お前が悪い、お前さえいなければ。初めて会った男です。冒険者ギルドに連れていきました」

 クロウが静かに答える。

「モテない男の僻みみたいね。キミは俺の良さを分かっていない。目を開けろ、俺は将来偉くなる。キミは後悔する、ラーナ。キミは何も分かっていない。頭の悪い女だ」

 ラーナはささやく。

「王国にも変な人が増えたのかな、流星が人の心を惑わせる。ドロスが言っていたかな、ウソっぽくだけどね。魔術師の間ではそんな話題は出たりするの、ラーナ」

 レテはラーナに問いかける。ネアスはキモチを整えている。

「流星が落ちた日は旅の途中ね。クロウが現場に行きたいってウルサイのをなだめるのが大変だったわ。ちょっとの寄り道だから問題ない、王都はすぐ近くだ。クロウに従っていたらレテに出会わないで王都に行ったハズね。あなたは私に大きな借りがあるのよ」

 ラーナはクロウを見つめる。

「クレーターでレテ様とネアス様に出会っていただけだ。運命は変えられない、リンリン森林で夜を過ごす事もすばらしい経験になっただろう」

 クロウはレテを見る。

「今日の事かな。ネアスと一緒に私が起こしたのかな、それともネアスだけでも充分だったのかな。私たちはリンリン森林の中にいたからどこまで光が広がっていたかは知らないわ。クロウにおすそ分け」

 レテはカバンから魔王の魂を取り出し、クロウに投げる。彼は二本の指で掴む。

「おもちゃの玉かしら。ミヤと一緒に遊んだ記念に貰ったの、レテ。貴重品には見えないわ。精霊の力がこもっているハズはないわね」

 ラーナは興味を示さない。クロウは目を近づけて観察する。彼は中の液体に気づく。

「魔王の魂です。灰色の手の力が宿っています」

 ネアスはクロウに伝える。クロウは戸惑う。

「勇者ゲームの魔王の魂、仲間に付き合わされた事がある。酒を飲みながら遊ぶのは最適でした。灰色の手、聞いた事がない」

 クロウはレテを見る。

「クロウにもわからないのね、残念。亡霊が宿っている魔王の魂、灰色の手は気にしないで、何となく手が汚れただけ。ラーナは魔力を感じない?」

 レテはラーナに問いかける。

「亡霊は専門外。知らない事にはむやみに首を突っ込まない。魔術は危険が伴うから不用意な行動は禁止、だから事故が起きやすいのかしら」

 ラーナは笑みを浮かべる。

「僕が間違った踊りをしたので近寄ってきました。レイレイ祭りです」

 ネアスはクロウを見る。

「あれですか、そうであれば私が常に持ち歩いている亡霊払いの道具が効くハズです。たいした力を持つ亡霊ではありません。何人もの神官の力を合わせて亡霊を呼び、願いを聞き、大人しく暮らしてもらうための祭りです。ネアス様だけではとは言い切れませんね」

 クロウは魔王の魂をテーブルに素早く置く。

「そう、ラトゥールの末裔が呼び出した亡霊。リンリン森林が光に包まれたのとは関係は薄いように見える。でも、その場に亡霊はいた。確証はない」

 ラーナは小声で話す。

「きれいでやさしくてかわいい私と一緒にいたいって結論を出したけど、外部の意見も参考にするわ。何でも言ってね、採用は難しいかな」

 レテは答える。

「ここは高級宿さ。灰色の手で汚したら大変だ。風の神殿か別の所で話した方が良い。暴れられたら大変だ」

 ネアスは魔王の魂を持つ。何も起きない。

「直接はイヤだけどネーくんの手なら構わないかしら。魔力を探ってみるわ」

 ラーナはネアスの手に触れる。彼は真っ赤になる。ラーナは精神を研ぎ澄ます。彼女の魔力がネアスに伝わる。彼から光の風の粒が吹き出す。

「マズイんじゃないか、ラーナ。魔術の事でキミに文句は言わないが、これはヤバいぞ。ネアスくん、ラーナの手を離すんだ」

 クロウはネアスの手を掴む。クロウに光の風の粒が吹きつける。彼は微笑む。

「もう、ラトゥール。イタズラはダメ。ラーナに迷惑をかけちゃダメ、静かに見守る。ネアスの魔力もないハズなのに……」

 レテは三人を眺める。

「これがラトゥールの力、風、光、糸、紡ぐ。暖かい、冷たい、分からないわ。ネーくん、もっと力を!」

 ラーナは興奮する。クロウは彼女の手を無理やり引き離す。

「終わりだ、ラーナ。ネアスくんに無理をさせてはいけない。キミの魔力はすばらしい、それを忘れてはいけない」

 クロウはネアスの様子を見る。彼は目を閉じている。

「ネアス、ダイジョブ。疲れちゃったかな。でも、ラーナが何かを掴んだみたいね、立派、立派。私は協力しないわ、ラーナ。ネアスにお任せ」

 レテはネアスの手に触れる。暖かい。

「ありがとう、ネアス、レテ。魔術師のダメな所、相手の都合を考えない。自分の事だけに集中してしまう。次は気をつけるわ」

 ラーナは二人にお礼を言う。ネアスは目を開ける。

「僕はラーナさんの魔力を感じました。これが魔力、僕にはない気がしてきた。魔力はないと魔法の石は使えないのに変な話だ」

 ネアスは自信を失う。

「ラーナは特別だ。魔術師の先生を探すのも大変だったようだ。すぐに追い出し、次が来る。俺が初めて彼女に会った時も泣きながら貴族の女性が庭を走っていった。俺はなぐさめようとしたが無視された。魔力は貴族にとって大事な事だと確信した瞬間だ」

 クロウがネアスに伝える。

「紡ぐ、暖かい、冷たい。ラーナは感じたのね。ラトゥールはイタズラ好きで私の事が好き、ネアスの事は好きかもしれない。紡ぐ、ウ~ン、ピンと来ないかな。風、光は当然として、糸を紡ぐのは知っているけど……」

 レテは考え込む。

「ラトゥールは糸みたいな光を出すから、そう感じたのかしら。実は違うかもしれないわ。どうしても見た事が私の意識に残っているからタダの長いモノ、光っている、まとめるかしら。難しいわ」

 ラーナはレテに伝える。

「魔王の魂のみを手に触れるのが一番さ。ラーナさん、よろしくお願いします。僕とラトゥール邪魔しません」

 ネアスが魔王の魂をテーブルに置こうとするのをレテはそっと止める。

「ネアス、私の言う事を聞いてくれるかな。キミは忘れっぽいわ、モテない秘訣二ね。ラーナの言葉を思い出しなさい。それまでは黙っている事、ラトゥールの末裔じゃなかったら大変、大変」

 レテはネアスに教えてあげる。彼は黙って魔王の魂をカバンにしまって、目を閉じる。

「しかし、キャビさんとアーシャさんは遅い。俺が様子を見てこよう」

 クロウは異変が起きる前にこの場を立ち去ろうとする。彼が扉の外に出るとキハータが立ちふさがっていた。

「クロウ様、話はお済みですか。それとも休憩でしょうか?」

 キハータが問いかける。

「ネーくん、私は気にしてないけど勉強は必要ね。みんながレテのようにきれいでやさしくてかわいいわけじゃないわ。女の子に不用意な発言は厳禁、ヒントは必要、レテ?」

 ラーナはレテに問いかける。

「いらない、ネアスはお休みの時間。魔力の使い過ぎ、外は静かで二人は戻らない。ラトゥールの散歩も終わりかな」

 レテが立ち上がり窓を閉じようとすると彼女の横を素早く鳥が突っ切る。レテは油断していた

「ネーくん、危ない。目を開けて!」

 ラーナがネアスに警告するが間に合わない。鳥はネアスの頭を目指す。彼のカバンから魔王の魂が飛び出し、鳥にぶつかっていく。鳥は素早く避けて、天井で体勢を整える。レテとラーナは精神を集中させる。

「何だ、僕は悪者なのか!」

 ネアスは頭を手で抑える。リンリン草が彼の頭からこぼれ落ちる。鳥はリンリン草に食らいつき、おいしそうにつついている。二人は精神を緩める。

「不幸を呼ぶ草、リンリン草。幸運の女神様には敵わないかな」


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