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お迎え

 レテが話を続けようとすると神殿の裏口の扉が開く音が聞こえる。軽快な鼻歌が三人の耳に聞こえる。レテはウィルくんとラトゥールを引っ込める。

「誰かな、挨拶は大事。相手は警戒していないようだから味方かな。聞いた事のあるような感じ、誰だっけ?」

 レテはアーシャとネアスを交互に見る。

「もう来る、僕の予想は副騎士団長だ」

 ネアスは急いで答える。

「違います、ネアス様。キャビさんです」

 アーシャも予想する。

「体はガーおじ、何度も聞いた声だから違うかな。正解はキハータ!」

 レテは精神を集中させる。人影が声を出す。

「クロウです。お迎えにあがりました。ラーナの予測通りでした。レテ様たちは風の神殿にいる。俺は行き違いなるから嫌だと行ったんですがお嬢様は厳しい」

 クロウは静かにレテたちに近づいてくる。

「クロウさん、こんにちは。勝負は引き分けだ、レテ。クロウさんに迎えに来てもらえるなんて信じられない。クロウさんは旅人の翼を持つ冒険者だ。ユーフさんに詳しい話を聞きました。お知り合いになれて光栄です」

 ネアスは丁寧に頭を下げる。クロウはニヤニヤする。

「昔の実績って言いたいけどクロウはまだ若いし、これからもたくさんの冒険を成功させるのよね。三岩人と違ってね」

 レテは精神を緩める。

「ラーナさんはお見通しでしたか。すぐに高級宿に連れて行くって言いましたが無理だと思いました。返事は元気、騎士団の鉄則です」

 アーシャは答える。

「ネアス様、私の方こそラトゥールの末裔であるあなたの知り合いになれた事は幸いです。一つの大きな冒険、それと成し遂げるのも良いかと最近は思っています」

 クロウはレテを見る。

「ネアスで構いません。僕は新人冒険者です。ラトゥールの末裔は別問題です。ラトゥールの末裔の加護をクロウさんに。空高く風を運びますように」

 ネアスは祈りを唱える。クロウはネアスを見る。

「そうね、旅人の翼を持つ冒険者が新人をサマズケにすると、ネアスの肩身が狭くなるかな。ラトゥールの末裔の加護をクロウに。空高く風を運びますように」

 レテは祈りを唱える。クロウは困惑する。

「俺が調べた伝承には存在しない言葉だ。ネアス様、どこで見つけたのでしょうか。リンリン森林の光が関係しているハズだ。ラーナより先に聞いたらマズイな。しかし、空高く風を運ぶ?」

 クロウは全部口に出しています。

「クロウさん、落ち着いてください。ラーナさんがお待ちですのでひとまず外に出ましょう。レテ様もよろしいでしょうか」

 アーシャはレテに尋ねる。

「待ち人あり。王都で一番美しい女性。ネアス、気分はどう、男の子は何を考えているのかな。気になる、気になる」

 レテは贈り物の袋をシルフィーの風で宙に浮かべると裏口に進んでいく。

「僕を待っている人はいない。ラトゥールの力をラーナさんは知りたいのさ。モテるのはラトゥール。僕はラトゥールにモテる。モテる精霊にモテる人。違う、見るだけでもうれしい。そうじゃない、ラーナさんはお話も得意さ」

 ネアスは動揺する。光の風がネアスから巻き起こり、シルフィーの風はさらに光の風を遠くに吹き飛ばす。

「ネアスさんにラーナさんは興味があります。待ち人ありです。精霊使い、どうやってラトゥール様を射止めたのか。私も気になります」

 アーシャは光の風に触れる。

「レテ様がいなければラーナはネアス様のそばから離れなかったでしょう。結婚していたかもしれません。彼女の魔術に対する情熱は本物です。彼女も恋の季節のハズです、待ち人ありです」

 クロウはレテたちの後に続く。

「賛成三、ネアスを待っている人はいるわ。精霊にモテるだけじゃツマラナイでしょ。女の子と仲良くする事も大事、大事。でも、浮気はダメ。二番目、三番目とかは言葉にもしちゃいけないわ」

 レテはネアスを見つめる。彼は目を逸らす。

「ネアスさん、どういう事ですか。今の態度は露骨です。すぐにバレます。二番目がいます。確実です」

 アーシャはネアスを問い詰める。

「アーシャさん、厳しくすると男は逃げます。やさしく聞くのがよろしいかと思います。ネアス様に二番目はいません。そうでしょう、彼には早すぎます」

 クロウが助け舟を出す。ネアスはうなずく。

「お姉さん神官が一番なの、ネアス。そこまできれいな人だったの?ラーナよりきれいなら頭に残っていても仕方がないけど、昔の話でしょ。私は二番目の女、事実は変えられないのね。あきらめも必要なのかな」

 レテはネアスをからかう。

「僕は初めてレテに出会った時に感じた風が忘れられない。空からいつもと違う風が吹きつけてきた。上を見上げたかったけどクレーターから目を離せなかった。今は分かる、あれはシルフィーさんの風だ。一番目の風、その後にレテが現れた」

 ネアスがレテを見る。

「ネアス、それは私がおまけでシルちゃんが本命って事かな。ヒドくない、アーシャ、クロウ。二人も聞いたよね、圧倒的な差をつけられた二番目の女の子!」

 レテは不機嫌になる。ネアスはうろたえる。光の風は収まる。

「レテ様、精霊と人は違います。私には分かります。人ではなくモノに惹かれる、冒険者になる素質がネアス様にはあります。人の世界は狭い、旅は自由です。ララリが必要なのが問題ですがね」

 クロウがレテに伝える。

「男の人は皆さん、言い訳ばかりです。ネアスさんはシルフィーさんとレテ様のどちらを大事に思っているのか知りたいです。クロウさんの話は関係ありません」

 アーシャはネアスを見つめる。彼の顔が赤くなる。

「ネアスはアーシャに弱いのかな。すぐに真っ赤になるわ。私の顔は見慣れたのかな、シルちゃんはキミが好きみたいだし、私は意外とモテないのかな」

 レテは疑問を口にする。

「二、三日できれいな女の子と話す事が得意になれる訳はない。失敗は常に僕につきまとう。レテと一緒にいて上手く立ち回れるハズはない。僕はあきらめている。僕はアーシャさんにじっと見られると緊張する。理由は分からない、どうしてレテだと問題ないだろうか」

 ネアスはレテを見る。彼女はネアスを見つめる。彼の顔がさらに赤くなる。

「ネアス様はウソが苦手ですか。冒険者は交渉をする事も多いので欠点ですが精霊の力を借りる事が出来る。これで帳消しです。経験をつければ立派な冒険者になるでしょう。ラトゥール様はあなたをどこに導くのでしょうか?」

 クロウはニヤつく。

「とりあえず、ラーナさんの所に急ぎましょう。副騎士団長が帰ってきた後だと流石にきまずいです。出発の時間です」

 アーシャが裏口を開けようとするのをレテは止める。

「外の様子はどうなのかな、クロウ。ラトゥールの末裔だって叫ばれているのはイヤ、うるさいヤツラは吹っ飛ばしたくなるかな」

 レテはクロウに尋ねる。

「神官の皆さんが歌を歌っているので心配はありません。風を呼ぶ男、王国の民が好きな歌です。いつ聞いてもすばらしい、神官の透き通る声に良くあう歌です」

 クロウが答える。ネアスが口を開こうとするのをレテは手で抑える。

「ネアスはダメ、朝からヒドイ目にあったわ。午後はゴブちゃんの事もあるから厄介事は少なめにしたいかな。何もないのもツマラナイわ。風が俺を呼ぶ、皆が俺を呼ぶ、俺が風を呼ぶ。風は冷たく、女はツレナイ」

 レテが代わりに歌う。

「私はそこまで好きではないです。男はいつも暖かい、風は俺を地べたに潰す。俺は立ち上がる、負け嫌いの俺には地べたは冷たい。お父さんは好きですが私は聞き飽きました」

 アーシャが続きを歌う。

「礼拝に来る皆さんは年配の方が多いので良い選択です。風よ来い、俺に吹け、フラレたキモチを吹きとばせ。風よ吹け、俺よ飛べ、明日へ行くのさ!」

 クロウは気持ちよく歌う。ネアスはうらやましそうに眺めている。

「変装して僕も神官長たちと歌ってみよう。レテみたいに僕の顔はバレていない。気づかれなければ問題はない。何になろうか。この前はお店の店員さんだった」

 ネアスは周囲を見渡すが何もない。

「ネアスさん、変装はもうしない事にしましょう。ネアスさんは忘れてしまったんですか?良くない事が起きる前触れです。心配です」

 アーシャはレテを見つめる。レテはうなずく。

「今日ネアスは考える事があるハズ。忘れちゃったのかな、私は構わないけど思い出す努力は必要ね。難しい問題だから忘れるのも仕方がないかな」

 レテはちょっと反省する。

「冒険者は無理と言われると燃えるモノです。ネアス様は不可能な事を成し遂げた方です。ラトゥールの力を借りる。レテ様だけではなく、あなたも力を借りている。それは真実です。私はネアス様に賭けましょう、問題の内容は答えなくても構いません

 クロウがネアスを励ます。

「クロウさんは僕の味方、心強い。旅人の翼よ、僕にヒントをくれないか?ラトゥールの知り合いの知り合いの願いさ」

 ネアスはクロウのカバンに祈る。クロウは旅人の翼を取り出す。翼は光を放つ。彼は光に魅入られる。

「ラーナに怒鳴られても構わない。旅人の翼はトゥールの翼。ネアス様、お取りください。あなたに相応しい」

 クロウは旅人の翼をネアスに渡そうとするが彼は受け取らない。

「無理です。それは優れた冒険者の証です。僕には受け取れない」

 ネアスは裏口の扉を開ける。神官長たちの歌が聞こえてくる。

「厄介事は増やさない。ネアスと一緒だと難しいかな。タイクツよりずっと良いわ。対処できなくても気にしない、気にしない」

 レテは旅人の翼を見つめる。翼はクロウの手から飛び立ち、裏口から外に羽ばたいていく。

「追いかけます!」

 アーシャは素早く外に出る。ネアスも後に続く。

「気をつけてね、二人とも。ラーナは絶対怒るわね」


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