武器屋へ
ストーンマンガンの並木道を三人は並んで歩いていく。ガンガンという騒音が鳴り響き続けている。
「建物を壊しているみたいね。騎士団のみんなに聞いたら、昨日から急に壊し始めたみたい。理由は調査中でお任せしますって言われたわ」
石造りの建物が軒を連ねている。その家の何件かで職人たちがハンマーで壁を叩いている。住民も特に不満はなさそうにその様子を満足そうに眺めている。
「せっかくだから、聞き込みをしてみようよ。レテ」
ネアスが耳を抑えながら、二人に提案する。
「ナンパで自信がついたのかな、ネアスくん。じゃ、よろしくね」
レテがネアスの肩を押して、職人の方に向かわせようとする。
「ネアス殿、頑張るのじゃ。ワシは実は傷心気味じゃ、後は任せたのじゃ」
ネアスは近くの職人に事情を聞こうとする。
「申し訳ないのですが、お話良いですか」
「ああ、今は仕事中だから後にしてくれ。昼にでも話を聞いてやる。今は祭りの最中だ。すまねえな、旅の人」
ネアスはめげずに今度は住民に話を聞こうとする。
「すいません、自分の家が壊されているようですが、構わないのですか」
「私も事情は分からないのです。でも、新しい家を建ててくれるっていうし、街のためと言われると断れなくて」
住民は大声で答えてくれる。レテがすかさず質問をする。
「住み慣れた家でしょ、街のためとはいってもイヤじゃないのかな。私だったら断るけどね、無理しなくて良いのよ」
「レテ様、おはようございます。ご心配なく。古い家ですが、歴史があるってほどでもないのですよね。ちょっと住みにくくなってきて、子供もおおきくなってねえ」
住民は世間話をしようとする。
「僕の田舎の家と同じですね。両親も残すほどでもないって、難しいみたいですね」
「宿の料理もおいしいですし、旅行気分ですよ。王都の宿に泊まっても良いって言われているし、ありがたいくらいですよ。レテ様のご友人様」
「彼はネアスよ。ずいぶん羽振りが良いわね、興味が出てきたわ、早く町長に話を聞きたくなってきたわ」
「ワシはガーランドじゃ。レテ殿の友人じゃ」
すかさず、ガーおじは自己紹介する。
「ネアス様、ガーランド様。よろしくお願いいたします。レテ様にご同行を許されるとはうらやましい限りです」
「ネアス様か、初めてだよ。持つべきものは友だね」
ネアスはうっとりする。
「恥ずかしいから、やめなさい。ネアス、そんな事ばかり言っているとガーおじみたいになっちゃうよ。モテない人生よ」
「モテだけがすべてではないのじゃ、レテ殿。それでも、ワシはモッテモテ道を歩んでいくつもりじゃ。困難な道ほど、楽しいものじゃ」
「おもしれえじゃねえか、モテてえなら。石職人が一番だぜ、この街では飲み屋に行けば女の子と飲み放題だぜ。ララリも稼げるしな」
話を聞いていたようで、石職人の若者が声を掛けてくる。
「この街に住むなら、それが一番かもしれないわね。たくさん仕事もあるし、モテるみたいだしね。体力があればの話だけどね」
レテも若者に同士を示し、住民もそれにうなずく。
「石職人か、僕でもなれるのかな。お兄さんはすごい体格も良いし、筋肉もすごい」
「へ、まあな。力仕事だから、あんたには難しいかもしれないな。だが、やる気と根性があれば、後はなんとかなる」
若者はすぐに仕事に戻り、軽快なリズムで壁をハンマーで叩き出す。
「筋肉は大事じゃ。ワシも昔はムキムキだったはずじゃ、早く戻さねば」
ガーおじは自分の貧相な体を見て、ため息をつく。
「レテ様と一緒にお仕事されるのも重要な事ですよ。ここの街の住民はきっとあなた達を尊敬しますよ、必ず」
家の住民は二人をなぐさめるように声をかける。
「あんまり期待しすぎるのも良くないわよ。私と一緒にいてもモテるわけでもないし、ララリも上げないわよ」
レテはさらに続ける。
「私は二人の命の恩人だし、宿代、食事代、武器代も貸してあげているのよ。さらにモテようだなんて、アマイ、アマイ」
「レテの言う通りかもしれない。僕は早くカバンの水筒をどうにかしないと、重くて大変だし、ララリに変えてレテへの借ララリを返さないといけない」
ネアスは重くなったようでカバンを地面に下ろす。ドスンと音がする。
「ずいぶんと入っておるようじゃな。ワシはどうやって返そうか、検討もつかないのじゃ。ウ~ン、どうしたものか」
ガーおじはネアスのカバンを持ち上げようとするが、重たかったようで途中で降ろしてしまう。
「私はやさしいから待ってあげるからダイジョブ、ダイジョブ。でも、モテる事ばっかり考えられるようだとどうにかなるかも」
レテは冗談めかして、二人に忠告を与える。
「僕達にはいろいろと調査しないといけないことがあるからな。とりあえず、モッテモテ道はお預けかな、寂しいな」
「仕方がないのじゃ。ワシも記憶を取り戻す事が最優先じゃ、後は装備を整えて、レテ殿の役にたちたいのじゃ」
二人はレテの忠告に耳を貸すことにしたようだ。
「ガーランド様は記憶がないのですか、それは大変ですね。そちらの力にはなりませんが、この街には優秀な鍛冶屋が多くいますので、しっかりした装備を整えてくださいね」
住民は自分も仕事があるという事で家を立ち去っていくようである。
「町長と話をする前に少し情報を得られていたわね。ネアス、ナイスよ」
レテはネアスを褒め称える。
「二人のフォローのおかげだよ、一人だと世間話もうまくいかなかったかもしれないよ。ガーおじもありがとう」
ネアスは重いバックを持ち上げ、武器屋に行く準備を始める。
「今度こそ武器屋じゃ、さっそく出発じゃ。さあ、ついてくるのじゃ」
ガーおじが率先して道を走り始める。
「ガーおじ、武器屋の場所が分かるのかしら。いつまでも武器もないようだとかわいそうね。ネアスの依頼主も見つかると良いわね」
「道具屋さんにお昼頃にいることが多いって言っていたから、時間があったら寄りたいかな。これからの予定の消化具合次第だけどね」
ネアスが冷静に伝えるとレテはびっくりする。
「意外と考えているのね。重そうだから、武器と防具は早めに見繕いたいわね。ガーおじ、けっこう進んでいっちゃったね」
「ネアス、私たちも急ごう!」