とても気まずい
レテはネアスをニラミつける。彼は後ずさりする。他の者たちは諦めた。シルフィーは穏やかな風を吹きつける。ウィルくんはレテの周りを光で照らす。ラトゥールは光の風の糸で銅ララリを宙に浮かせる。
「セトヒロは精霊伝説のヒロイン、タダの神官の名前のはずはないわ。神官は子供相手にウソばっかりついて良いのかな。騎士はダメ、ドロス、どうなの?」
レテはドロスをニラむ。
「時には真実を伝えない事もありますが、明確なウソはイケません。禁止されている訳ではありませんが信頼をなくすので神官長にバレたら注意を受けます。時と場合によります。セトヒロは誰も本当だと思わないので問題なしと判断されると思います」
ドロスが答える。
「お姉さん神官さんはセトヒロかもしれない。世界で一番性格の悪い女、彼女は世界で一番性格がひん曲がっている女の子だ。似ている、でも、いないに決まっている」
ネアスは答える。
「ウソはダメ、バレバレかな。キミはセトヒロがいると思っている。違うわ、お姉さん神官とセトヒロは違う。気に入らない!」
レテはネアスをニラミつける。彼はレテを見返す。
「お姉さん神官さんがセトヒロの真似をしただけです、ネアスさん。あまりお話をしていないので尻尾を出さずに済んだのでしょう。王都の風の神殿で確認するのが良いと思います。誰か知っている人はいるハズです」
ルアが提案する。
「ルア様に賛成です。きれいな人のようですから風の神殿でも有名なハズです。見つけるのは簡単です。会ってみたら美人のおばさんです。性格が悪いので老け込んでいるかもです」
ミヤはルアを援護する。
「私も賛成です。何名か心当たりの人物がいますが名誉に関わる問題なので名前は出しません。外れていたら大変です。田舎で心が緩む事はあります。王都は神官長や貴族、王族の目があり緊張を強いられます」
ドロスはレテを見る。
「賛成三、私はどうしようかな。ネアスのキモチを砕く事は出来ないわ。実際はタダの神官さん、田舎での束の間の休日の軽い遊びかな。性格が悪いからってヒドイ目に合う必要はないわ。そっとして置くのもやさしさ。思い出はきれいなままが一番かな」
レテは平静さを取り戻す。
「ありがとう、レテ。お姉さん神官さんが実はセトヒロだって思っていた方が楽しい。ガーおじが伝説の戦士だって思うくらいに良い事さ。どっちでも大差はない、精霊の剣は僕の手に入る事はない。危険な冒険は無理そうだ」
ネアスが本音を口に出す。
「夢には近づかない方が賢明ですね。どうしても手が届きそうだと頑張ってしまいます。無理はイケません。他にも楽しい事はたくさんあります」
ルアは微笑む。
「ラトゥールの末裔は誰にでも影響を与えるようです。ネアス様も例外ではなかったんですね。私は安心しました。いつでもご相談ください。男同士でしか話せない事柄もあります。ガーおじ様の代わりにはなれませんが気軽に声をかけてください」
ドロスは笑みを浮かべる。
「セトヒロさんはいません。確実です。これは事実です。お二人には関係ないことです」
ミヤは断言する。
「ラトゥールは伝説の存在だった。三岩人とは会う機会は発生する事はなかった。たくさんのリンリンを見る事も想像していなかった。リンリン祭りでもあの数は来ない、鳥さんがララリを運んでくれる。変な亡霊は魔王の魂の中、セトヒロだけはいない。不自然じゃないかな、お姉さん神官さんはセトヒロかもしれない」
レテは思い直す。ネアスは驚く。
「レテには悪いけど信じられない。精霊の剣の事もいつも信じている訳じゃない。何十回もウソだって思っている。今はウソの方に傾いている。村から王都に旅立つ時は期待していた。レテに出会った時は信じそうになった。ゴブジンセイバーを手に入れた時は忘れた」
ネアスがレテに伝える。
「明日はどうなるのか気になりますね。私も母と朝の準備をする前にお祈りをする事に決めました。ネアス様に風が精霊の剣を運んでくれますように。母にも話してもよろしいでしょうか、ネアス様」
ルアがネアスに尋ねる。彼はうなずく。
「私も祈ります。ネアス様に風が精霊の剣を運んでくれますように。明日は本当かウソ、どちらでしょうね」
ミヤは微笑む。
「精霊の剣がネアス様の手元に辿り着いた時はお姉さん神官も自動的にセトヒロ確定でよろしいのでしょう、レテ様。ネアス様に風が精霊の剣を運んでくれますように」
ドロスはレテに尋ねる。
「クヤシイ、今日は眠れない夜になりそう。アーシャかラーナに付き合ってもらうわ。精霊伝説は実在のお話って事になるわ。かつてこの世界には支配者がいた。それを二人が倒した。ありえないかな、セトヒロはいない」
レテは答える。
「レテたちだけさ、僕の話を笑わないで聞いてくれる人は今まではガーおじだけだった。くだらない話をガーおじは聞いてくれた。レテもガーおじの影響を受けたハズだ」
ネアスはレテに問いかける。
「イミフメイ、キミは何を言っているのかな。私とキミの関係にガーおじは全く関与していないわ。説教したい、根性を叩き直す。根本が良くないわ。悪い芽は摘むべきかな」
レテはネアスの手を取る。彼は逃げようとするが無理のようだ。ネアスはドロスを見る。
「きれいでやさしくてかわいいレテ様の説教です。良い経験になります。羨む方も多いでしょう。私もアーシャ様に説教してもらいたいです。ドロスさん、何を考えているんですか?呪いに夢中で私を見てくれません!」
ドロスは妄想を口に出す。
「兄も私は素っ気ないと言っていました。変な本が出回っているのでしょうか。私は詳しくないので分かりません」
ルアが口にする。
「私も知らないです。大人になれば分かると思っていましたが違うのですね。調査が必要です。ネアス様はご存知ですか?」
ミヤはネアスを救い出そうとする。
「王都では高値で取引されている本があるって村で聞いた事があります。実在の騎士をモデルにお話が進行しているそうです。精霊伝説と違って現実が舞台なので、騎士にバレたら大変な事になると聞きました。冒険者の方の話では合言葉を伝えると本屋さんが案内してくれるそうです。知っている人に信頼を得て騎士に話さず、内容も秘密にする事が条件のようです。本当かどうかは……」
ネアスが続けようとするとレテが口を挟む。
「その話は知っているわ。新人騎士に探らせている最中、ウソばっかり書いてあるって噂だから捕まえる予定。新人なら顔がバレていないから問題ないハズ。王都に帰ったら報告を聞いてみようかな。ドロスが犯人かな、文章も書けそうだし、ララリも研究に必要ね」
レテはドロスを見つめる。
「私の妄想です。気になさらないでください。危険な真似をするのは苦手です。呪いも細心の注意を払えば安全です。騎士に捕まったら神官を辞める事になります。それはとても困ります」
ドロスは静かに答える。レテはうなずきネアスを引きずっていく。
「レテ様、説教は後にしても良いかと思います。袋の中身はよろしいのでしょうか?ネアスさんも気になっています」
ルアも助け舟を出す。レテはシルフィーにお願いする。袋から紙が飛び出し、袋は地面に落ちる。風がレテに紙を運ぶ。彼女は目を通して口にする。
「ドンデンカーンより。残りの品はギルドに残っています。ご自由に取りに来てください。歓迎の用意もしていますので今夜、ご友人の皆様と来てくださる事を願っています。石職人一同で準備を進めておりますのでぜひ、いらしてください。出迎えにルキンが行くので楽しみにしてください。ルアさんのお母様の料理は格別です。ストーンマキガン伝統の料理の品々を堪能して王都で任務の励みになればと思っております。不躾なお願いをしてしまい申し訳ありませんでした。ギルドではその話はなしで楽しんでください。我々はレテ様、ネアス様の邪魔は致しません。街は我々が守ります」
レテは読み終える。
「僕は間違いを犯した。三岩人の皆さんは良い人だった。僕は謝らないとイケない。お姉さん神官の事を考えている場合じゃない」
ネアスは反省する。
「母は先程楽しそうに出かけました。お昼の休憩に家に帰った時の話です。私の心は荒んでいたようです。考え過ぎはダメですね」
ルアはドロスを見る。
「考えたからこその結論です。初めに手紙を見たら何も考えずに気楽に宴会を開く者たちがいると思ったハズです。疲れ切った私には料理は楽しみです」
ドロスが答える。
「神官らしい回答です。私も覚えておきます。残りはギルド、残念です」
ミヤが答える。
「私は今でも気楽な三岩人って思っているかな。さてとお姉さん神官さんのお話の二人っきりでする時間ね。楽しみ、楽しみ。キミの中に巣食っている邪悪でウソつきでお姉さんぶっている女を取り除くには荒っぽい手段も必要かな。痛くないからダイジョブ、ダイジョブ」
レテはネアスを図書室に引きずろうとする。小さな風の槍はカバンに戻る。
「記憶は消せない、レテ。お姉さん神官の話はしない、約束する。精霊の剣の祈りをしないようにこれから毎朝僕は祈る。お姉さん神官さん、祈りは必要ありません」
ネアスは祈る。レテは微笑む。
「届かない祈りに意味はないわ、ネアス。直接言わないと彼女は止めないかな。精霊の剣の存在をたまに信じてしまう子はいないわ。どっちか選ぶハズ、あるかないか」
レテはネアスに伝える。
「ネアス様はなぜ精霊の剣がないと思うのですか?信じていた方が楽しくないですか?たまに信じるんですよね」
ルアはネアスに問いかける。
「甘いお菓子も毎日では飽きます。同じだと予想します」
ミヤが答える。
「モテない日は信じない。いえ、ネアス様は今までモテて来なかった」
ドロスは口を閉じる。レテが口を開こうとすると裏口の扉が開く音が聞こえる。
「レテ様、失礼します。お迎えに参りました。副騎士団長がお待ちです」
アーシャの声が礼拝堂に響く。
「宴会に参加出来るかは副騎士団長次第ね、あっちでは何か起きたかな」




