街特製クッキー
レテが質問を投げかけると三岩人は顔を見合わせる。食堂からルアと神官長がドリンクと軽食を持っているのがレテの目に入る。ドロスはネアスが持っていた銅ララリが気になるようだ。
「ルア、ありがと。午前中は大変だったみたいね。どのくらい礼拝に来たのかな、岩祭りの時くらい?」
レテはルアに話しかける。
「お待たせしました、皆様。レテ様の予想通りです、通常の岩祭りの時に見かける程の人の多さでした。明日からは近隣の村からも礼拝に来ると思うのでお手伝いを続ける予定です」
ルアが皆にドリンクを配る。レテは早速口に含む。ルアは光の風の糸に見とれそうになるのをガマンする。
「町長も応援に来たんでしょ。一旦帰ったのかな、それとも忙しくてへばっちゃった?ストーンマキガン特製クッキーを速く食べるのが得意なだけの町長!私より速いのは認めるけど、石投げは私の勝ちかな」
レテは三岩人を見る。彼らはじっと見つめ合っている。
「レテ様の読みは流石です。町長は焦ってしまってジャマだったので普段通りの仕事に戻ってもらいました。そのおかげで私はお手伝いに専念出来ます」
ルアは街特製クッキーを皆に渡そうとする。三岩人はすぐに彼女の運んできた皿に手を伸ばしてクッキーを頬張る。ネアスも一つ取るが固くてかじれない
「私の分はレテ様に差し上げます。ルア様、大変申し訳ありません。どうしても苦手を克服できません。固さの後に喜びが待っているのは理解しています」
ドロスはドリンクを飲む。
「外の様子を確認してきます。三岩人の皆様のお力でゆっくりと休憩を取る事が出来ました。街の皆様に祈りを捧げてまいります。ここはドロスさんにお任せします」
神官長は足早に去っていく。
「神官長と三岩人は仲が悪いのかな、因縁があるの?気になる、気になる!」
レテは躊躇せずに三岩人に問いかける。彼らは街特製クッキーを食べる事に集中している。レテはルアを見る。
「噂では神官長と三岩人は貴重な品で争っているそうです。町長の話では朝の街の市場で四人一緒に歩いているのを見かけた事があるそうです。狭い通りに消えてしまい、その後の事は分からないそうです」
ルアは三岩人を見ながら答える。三人は気にしていないようだ。
「神官長は日の出る前に出かける事があります。私が夜更かしをし過ぎて起きていた時に見かけました。私達を起こさないように静かに歩いていました」
ドロスは答える。レテは察する。彼女は話題を変えようと贈り物の袋を開ける。レテはオーラルの実、マッスルニャンダドリンク、石のアクセサリーなどを見つけた。
「オーラルの実、出来はどうかな。香りはバツグン。みんなで食べましょう!」
レテは光の風の糸でオーラルの実を数個包み込み、宙に浮かせる。三岩人も光の風の糸に目を移す。光の風の糸の一部が針状になりオーラルの実を切る。
「レテは器用だ。僕もラトゥールの力は使えるハズだけど、いつになっても出来そうにない技だ。細かい作業は得意じゃない、練習をしないとイケない」
ネアスは決心する。
「キミには別のやり方があるかな。同じ事が出来るのも楽しいけどネアスには独自の道を進んで欲しいわ。私の事は気にしないで好きにラトゥールの力を使ってみると良いかな。今は疲れているからダメ」
レテは光の風の糸で切ったオーラルの実の全員に配る。彼女も口に含む。笑顔がこぼれる。
「瑞々しいオーラルの実です。貴族用に栽培されたモノでしょうか。私が食べた中で一番オイシイです。家族にも食べさせてみたいです」
ルアが笑みを浮かべる。レテは残ったオーラルの実を皿に置く。
「おすそ分け、おすそ分け。一人でたくさん食べても、もったいないかな。残りはミヤとルアの家族の分ね。ありがと、三岩人」
レテは三岩人にお礼を述べる。
「俺たちまで頂いて申し訳ありません。石飛ばしの件ですがお急ぎでしょうか。俺たちは年に一回休みの日に石飛ばしの勝負をします。去年の勝者が今年の勝者とは限りません。今すぐ準備をして始めます」
カーンが伝えると二人も続く。レテは止めようとする。
「後で良いかな、今はここに残ってね。ネアス、勝負よ。去年の勝者を当てる。私はドン、彼は余裕な様子。キミもドンを選んでも構わないかな」
レテはネアスに告げる。
「僕はカーンさんだ。彼が説明する事が多い。石飛ばしも得意なハズだ。足も長いように見える。遠くに飛ばせる」
ネアスはレテの足を見ようとするが止める。彼女はわざと足に手を当ててネアスを見つめてからかおうとする。
「デン様です。作戦を考えるのが得意なデン様は石飛ばしでも有利な位置に立つと思います。私も参戦してよろしいでしょうか、レテ様」
ドロスがレテに尋ねる。
「参加自由!絶対に勝ちを目指す、その心があるなら誰でも気軽に勝負に挑んで構わないかな。ルアもどう、負けたらクヤシイだけ。私は誰にも負けない!」
レテはルアを誘う。
「私は結果を知っているので参加できません。母がその日に街特製クッキーを届けるのが決まりなんです。その日の夜に結果を教えてくれます」
ルアが残念そうに答える。
「三岩人とルアは仲が良かったのね。一言言ってくれても良かったかな、変なおじいちゃんと知り合いははずかしいわね。私もガーおじと一緒にいた事は積極的には言いたくないかな。変な目で見られたらイヤ」
レテは三岩人を見る。
「ルアさんはユクルさんの娘さんですか。いつもお世話になっています。ドンは詳しいハズです。私は岩に集中しすぎるたちです」
カーンがドンを見る。
「昔ギルドに務めていた。俺たちはいつも彼女の特製クッキーを楽しみにしていた。結婚した後も時折クッキーを届けてくれていたので石飛ばしの日にもお願いしたのがはじまりだ。小さい頃は一緒に付いてきていたな、お兄さんは元気……」
ドンが話を続けようとするとデンが割り込む。
「ドン!ルアさん、何でもありません。えー、その、ですな、ネアス様もレテ様の機嫌が良くなって安心でしょう。男には女の事は全く分かりません。黙っていると話せ、しゃべれば黙れ。石と同じで選ぶ時が楽しいモノです」
デンは何とかごまかそうとする。レテはデンをにらみつめる。
「それはデンの知っている女の話。私とネアスは違うわ。秘密だから説明は出来ないけどあなた達が思っているような事は起きていないわ」
レテが断言する。
「安心しました。ラーナ様の事もありますのでレテ様が気をもんでいると勘違いしていました。他人のモノが欲しくなります。ヒトのキモチは変わります」
ドロスは安堵する。レテはドロスをにらむ。ネアスは黙る事に決めた。
「兄はいつも迷惑をかけてばかりです。ここにいる方は事情を知っているので問題ありません。ドンデンカーン様」
ルアが皆に謝る。
「私は知らないので席を外しましょう。誰にでも秘密はあります。それとも私の秘密をお教えしましょうか、たくさんあるので一つだけです」
ドロスはその場を去ろうとする。
「兄は町長の助手でストーンシールドの考案者の一人です。噂は大体は合っています」
ルアがドロスに伝える。彼は立ち止まる。
「では私の秘密も明かしましょう。私は十本の手、それぞれに秘密を割り振っています。ルアさん、どれか選んでください」
ドロスは両手を広げる。ルアは戸惑う。
「飲み屋で女の子を口説くのに使う戦法かな。ルア、だまされちゃダメ。一本ずつ折っていきましょう。反対側にね」
レテは楽しげにドロスの指を見つめる。彼は両手を背中に回す。
「昔は石のアクセサリーで女性を口説いたモノだ。今はイヤがられるそうだ。王都の金属のアクセサリーが人気だと聞いている。時代は変わった」
ドンは寂しげにつぶやく。
「私の友人も石のアクセサリーは身につけません。ゴテゴテしてイヤだそうです。レテ様の髪飾りのようなデザインが人気のようです」
ルアはドロスを無視する。
「ホントはリンリンを形取ったアクセサリーだったのにラトゥールの自己主張が激しくて鳥の形に変わったわ。いつになったら元に戻してくれるのかな」
レテは髪飾りを外してルアに見せてあげる。
「きれいな鳥の形です。私も欲しいと思ったのですがラトゥール様の力では無理ですね。ララリもありませんから大丈夫です」
ルアは髪飾りを見つめている。
「ラトゥール様は不思議な力をお持ちのようです。俺はてっきり巨大な槍で災厄を追い払ったと思っておりました。俺も近くで見ても良いですか、レテ様」
カーンがレテに尋ねる。彼女はうなずく。ドンとデンを見る事にした。
「私はリンリンの方が好きかな。ネアスもそうでしょ、ラトゥールは自由を満喫し過ぎ、ちょっとは私に気を使うべきかな」
レテはネアスを見る。
「ラトゥールもレテと一緒だからはしゃいでいるのさ。僕には良く分かる、きれいでやさしくてかわいいレテと共にいる。何かをしたくなるのは当たり前さ。失敗はだらけなのが僕たちの問題だ」
ネアスが答える。レテは照れる。
「恋人たちはケンカばかりですが、いつの間にか仲直りをしている。ネアス様、参考にします。きっとお役に立てます」
ドロスはこりずにつぶやく。レテは気にしない。
「兄もお二人にお会いする事が出来たら、あのような事にはならなかったでしょう。そう思います」
ルアが答える。
「街を良くする、ツマラナイかな。私がお兄さんに会っていたら、彼はもっと悪い事をしたかもしれないわ。女性に対するうらみはコワイかな」
レテは本音で答える。
「レテはお兄さんに言うハズだ。シルちゃん、お願い。空に飛ばして上げて、イケる、イケる。理由はいらない」
ネアスは答える。
「兄は高い所が苦手です。レテ様の予測は正しいと思います。空に飛ばされたら怒ります。家で母に不満を言うでしょうね」
ルアは悲しげに答える。
「僕もガーおじに文句は言ったさ。急に吹っ飛ばすのはどうかしているってね。初対面で空に飛ばすなんて非常識さ。ガーおじは僕に言った。ネアス殿は空が好きなのじゃ、問題ないのじゃ。きれいな女性と共にいる機会はない。好きなように振る舞うのが一番じゃが文句は全てワシに言うのじゃ。約束なのじゃ」
ネアスは思い出に浸る。
「ネアス様、良い話に聞こえますがマズイ気もします。私は関係ありません」
ドロスはネアスに助言する。
「ふ~ん、ガーおじとはそんな話をしていたのね。ルアに感謝、感謝」




