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光の風の糸

 レテは精神を集中させる。彼女の体は光の風の糸で覆われる。三岩人は恐れ慄く。ドロスは素早くネアスのそばに座り込む。光の風の糸はうねうね動いている。

「ラトゥール、ドンデンカーンの事をどう思う。私をからかって遊んでいるみたい、小娘って舐めきっているわ。ラトゥールの末裔なんてタダのお世辞、彼らは私を好き放題にしようとしている。ラトゥール、助けてくれるかな」

 レテはラトゥールにお願いする。光の風の糸が針状に鋭くまとまる。光の風の針は切っ先をドンデンカーンに向ける。

「レテ様、我々は味方だ。無礼な発言は石職人の悪いクセだ。ラトゥール様もご理解ください。ネアス様、助けてください!」

 ドンはネアスを見る。彼は光の風の針を見ている。

「全ては俺のせいだ。カーンです。俺が犠牲になります」

 カーンは三人の前に立ち、ハンマーをデンに渡す。

「良いのですか、カン。イヤ、カーン、良いのか。お前の大事なハンマーだ。独身のお前は誰よりもハンマーを大切にしていた。ハンマーも最後まで一緒にいたいハズだ。これは受け取れない」

 デンはカーンにハンマーを返そうとするのをドンは止める。

「一番反りが合わないお前に渡した意味を悟れ、デン。カーンはレテ様とラトゥール様に捧げる。ハンマーはデンと共に残るべきだ」

 ドンはデンにハンマーを受け取らせようとすると光の風の針が間を遮る。

「ラトゥールは認めないって、ハンマーが欲しいみたいね。受け取りなさい、ラトゥール」

 レテはラトゥールに伝える。彼女の周りから別の光の風の糸が伸びてハンマーを奪う。カーンは顔を手で覆う。

「レテ様、無慈悲です。ハンマーは石職人にとっては最も大事な物です。ストーンマキガン生まれでない私でも理解している事です」

 ドロスがレテに伝える。光の風の糸はハンマーを上下に動かしている。

「ネアスはどう思う、禁止は解除。意見を述べなさい」

 レテはネアスに問いかける。

「レテの好きにするのが一番だ。カーン・ボンボンバー、ドンデンボンボンに賛成一さ。それ以外は考えてない」

 ネアスはカーンを見る。カーンは顔から手を取り払う。

「私もネアス様に賛成です。ドンデンボンボンはすばらしい、賛成二です」

 ドロスはすぐさま答える。

「我々も賛成だ。賛成五だ」

 ドンが答える。レテはうなずく。

「私も賛成。賛成六でカーン・ボンボンバー、ドンデンボンボンね。カーンも構わないかな」

 レテの気持ちがちょっとだけ落ち着く。

「もちろんだ、レテ様。長い名前は家の掟だ。昔、私の祖先が長い名前を付けている戦士に憧れて、様々な名前を取り入れた。深い意味はないので問題はない。ハンマーも差し上げます。代わりの物はたくさんあります。同じハンマーは常に三つ用意しています」

 カーンが答える。

「使用する分と壊れた時の分、保管用。大事な事、新しく買える物なの、カーン?」

 レテはカーンに確かめる。

「ハンマーは石職人が自らの手で作るのが伝統です。最近の若い者たちは専門の職人に任せますが我々は違います」

 カーンは答える。

「私たちドンデンボンボンは共にハンマーを作ります。飲み屋でケンカをした後でもハンマーが必要ならば協力します」

 デンはハンマーをカーンに手渡し、別のハンマーを腰から取ってレテに見せる。

「俺たち三人はそうやって三岩人まで上り詰めました。最高のハンマーは最大の武器です。しかし、俺たちには三岩人は務まらなかった」

 ドンは悲しげに述べる。

「ファレドが大棟梁になったって事は他の石職人にイジワルされたのかな。嫉妬はどの世界でもつきものかな」

 レテは静かに答える。

「私たち三岩人がファレドを大棟梁に任命しました。私たちはハンマー作りと岩の扱いは誰にも負けない自信がありますが古文書やシューティング翠岩祭に関しては何も分かりませんでした」

 デンが答える。

「ファレドは古文書の内容を俺達に分かり易く教えてくれました。これは街の地図でバツ印の場所だけ建物がない。意味は簡単だ、その場所を空き地にする。ついでにそこで祭りの出し物を行えば良い。すぐに動くべきだ。流星はすでに落ちた」

 ドンが続きを話す。カーンがカバンから紙を取り出しレテに見せる。

「大棟梁、三岩人より偉い、すごい、強い。流星必要」

 レテは大きく書かれている文字を読む。

「我々三岩人に伝えられている古文書です。分かりやすいので仕事のジャマになりません。必要ないのでレテ様に差し上げます」

 カーンがレテに手渡そうとすると彼女はネアスを指で突っつく。彼は古文書を受け取ってカバンにしまう。

「石職人ギルドにも冒険者にもラトゥール様に関係する事が伝わっている。風の神殿では祈りを込めるのみ、不思議な話です。風の神殿の神官にこそ明確な指示が必要です」

 ドロスは古文書をちらっと見る。ネアスはすぐにカバンから古文書を取り出してドロスに渡す。

「ストーンマキガンは石職人が作った街です。神官の皆様には風の大神殿があります。我々もいつかあのような建物を作りたいと願っています」

 デンが答える。

「王族と一部の貴族と神官しか中に入れないなんてケチな話だ。レテ様は見学した事はあるのですか。俺は見たい!」

 ドンが元気に質問する。

「騎士は外で待機、王族の方も儀式で大忙しで余裕がなかったようにみえたかな。大神殿の神官長がテキパキと指示を出していたわ。間違ってシグード様にもそっちだって言って青くなっていたわ」

 レテはシグードの顔を思い浮かべてしまい焦る。光の風の糸がざわざわする。

「レテ様、こちらの袋はネアス様とガーおじ様の件のお詫びの品です。ぜひお受け取りください。お三人に役に立ちそうな物を集めました。若い者たちにも手伝ってもらったので安心してください」

 カーンは袋をレテの方に動かす。彼女は袋を受け取らない。

「これで私も王族や大臣に石職人ギルドの件は黙っておけって事かな。でも、アイツラが捕まったらウソはつけないし、貴族も建物の見学に来ているかもね」

 レテはドンデンボンボンを見る。

「その件に関してもレテ様に伝える事があります。若い者たちも彼らには困っていたようです。ララリ使いが荒く、貸しララリをしている者もいました。これはファレドが昨日の夜の間に聞き出した事です。頼りになる女性でした」

 カーンが答える。ドンとデンはカーンに任せたようだ。

「ファレド様はどこにいるのでしょうか、ふとした瞬間に美しさが垣間見えました。上手に隠していらっしゃったが私の目はごまかせません」

 ドロスはこりずにつぶやく。

「気に入らない人を箱詰めにするヤツばっかりじゃこの街は出来上がらないわね。あの箱も石職人の技術の結晶なのかな」

 レテはイヤミを口に出す。

「貴族の依頼で石の箱を作る時があります。ララリになるので問題の人物は率先して引き受けていました。ストーンシールドも彼らの手で作りました。仲間内では人気があったようです。我々は岩の扱いを教える事で忙しくしていました。言い訳です」

 カーンが答える。

「見習い神官に儀式を教えるだけで私も精一杯です。残りの時間は呪いと薬草の研究に専念したいです。彼女たちはララリ目当てに神官になりたいわけではないハズです」

 ドロスが答える。

「ドンデンボンボンも大変だったのね。ララリ払いの良い男は人気があるわ。どこからかなんて誰も気にしない。ネアスはマネしちゃダメ、銅ララリを渡しなさい」

 レテはネアスに要求する。彼はしぶしぶ彼女にララリを手渡す。光の風の針はほぐれる。

「シューティング翠岩祭りの準備にも彼らは反対でした。その間はギルドでララリを払う予定だったのですが足りなかったようです。貴族の依頼も以前程はなく、ララリを稼げる仕事は少なかったようです」

 カーンが答える。

「ストーンシールドは三岩人の制作だと噂を聞いていました。噂は当てになりません。それでも私は買うつもりはなかったのですが……」

 ドロスが気になった点を口に出す。

「俺は反対だった。ウソはイケない。若手のためにもならん。彼らの最高傑作だと売り込んだ方が良かったのだ。石職人としてのプライドを傷つけてしまったんだ」

 ドンが口を挟む。

「いいえ、ドン。あれは彼らからの提案です。ギルドの運営にララリは必要です。我々の代になってから貯蓄のララリは減る一方だったから意見を聞いた事は問題ない。ギルドに損害は起きなかったのが幸いでした」

 デンが口を滑らす。

「町長とガーおじは尊い犠牲だったのかな。まともな感覚の持ち主はストーンシールドに惹かれないわ。どうして三岩人は賛成したのかな、気になる、気になる」

 レテがカーンに問いかける。

「町長の手伝いをしていた男性がヒドく熱心に我々に勧めました。このままでは街は衰退する一方だ。石職人の修行は厳しく高い能力を必要とされるために若者はなりたくない。冒険者なら運が良ければ一気にララリを稼ぐ事が出来る。その若者も石職人の道を諦めたそうで気持ちが分かると言っていました」

 カーンが答える。

「良き志を持った若者だった。もう一度石職人の修行をする事を勧めたが丁重に断られた。今は別の夢があると言っていた。彼らと共に街を良くする活動を考えていると言っていた」

 ドンがカーンに続く。

「彼も厄介な者たちに関わって苦労をしただろう。我々は後輩の指導に忙しくて彼の行方に関しては知りません。岩と向き合い、岩の声を聞く。古来からの三岩人の役割です。レテ様も一度岩と一人っきりで過ごす事をオススメします。イライラも消えます」

 デンは余計な一言を付け加える。

「余計なお世話かな、私には私のリラックス方法があるわ。リンリン森林で過ごす。アーライト河を眺める。ウィルくんの光で夜に見るのが一番、一番」

 レテはネアスを見つめる。

「岩の声、僕も聞いてみたい。雲は僕に何も語りかけてくれないから寂しいって思っていた所です。岩は僕に何を教えてくれるのだろうか、カチカチの筋肉をつける方法、あるいは石を遠くに飛ばせるコツとかが良い」

 ネアスは興奮する。レテは微笑む。

「石飛ばしは苦手でした。一番になった事はありません。精霊伝説の一巻を近所の子供で最初に読み切るのは楽勝でした」

 ドロスが笑みを浮かべる。

「石飛ばしはストーンマキガンが本場ね、三岩人で誰が一番得意なのかな」


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