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三岩人

 レテはドロスをにらみ続ける。ネアスは黙って階段を降りていく。ドロスはネアスの後に続きレテから逃れようとする。

「二人とも話はまだ終わっていないわ。ネアスもドロスの影響を受けちゃダメ、悪いクセはすぐに体に染み込むわ。止まりなさい、ドロス、ネアス!」

 レテは大声で叫ぶ。ネアスは立ち止まらない。

「レテ様、お話は後で伺います。三岩人の皆様がお待ちです、レテ様の到着をお知らせしています。今後の役に立つ面会になるのは間違いありません。私の事は忘れてください、一夜の恋の男です。レテ様たちには遠く及びません」

 ドロスが答える。ネアスは階段の下で待っている。

「私もネアスと出会うまでは、長くなるかな。この話はアーシャとラーナに聞かせてあげようかな。サンガンジンと挨拶だけして二人に会いに行くのが一番ね」

 レテは扉の中に入る。ドロスはそそくさと階段を駆け下りる。

「また明日ね、鳥さん。ネアスと仲良くしてね!」

 レテは扉を閉めてネアスの元に向かう。彼は静かに礼拝堂に響く壁を叩く音に耳を傾けている。

「外で鳴っている音とは違う感じね。穏やかな音、力が入っていないのかな。三岩人はおじいちゃんの集まりみたいね。楽勝、楽勝。きっと私を恐れて会いたくなかったのかな。伸び盛りの私と最後が近い三岩人。どう考えても比較されたくないかな」

 レテはネアスに微笑みかける。彼もぎこちなく笑う。

「レテ様、ネアス様。扉を開けます。三岩人の方々がお待ちです。私もしっかりと話はしていませんが貫禄のある方々です。ご注意してください、レテ様ならば心配はないと思いますが神官長も緊張しています」

 ドロスは扉を開ける。

「ファレドより地位は低いんでしょ。私がファレドに勝ったから自動的に三岩人も負けた事になるわ。事実は変わらない。認めなくても構わないかな」

 レテは礼拝堂に進む。ネアスも後に続く。礼拝堂では神官長が一人の年配の男性と会話をしている。彼女が部屋の中を見渡すと二人の年配の男性が壁をハンマーで叩いている姿が目に止まる。神官長はレテたちに気づき近寄ってくる。

「レテ様、ちょうど良いタイミングです。ラトゥール様のお導きでしょう、ストーンマキガンの三岩人の皆様が面会にいらっしゃいました」

 神官長はレテに挨拶をすると二人の男性も壁を叩くのを止める。ドロスはその場を去ろうとする。

「ドロスはここに残りなさい。さっきの事は帳消しにしてあげる。ネアスの様子を見ていてね。ちょっと疲れがたまっているみたい」

 レテはドロスにお願いする。ドロスはうなずく。

「私は飲み物を用意します。ルアさんもお手伝いに来てくださっているのでオイシイドリンクを用意できます。楽しみにしてください」

 神官長は駆け足で食堂に向かう。ネアスは祭壇に向かう。彼は銅ララリを力強く握締めている。

「ドンデンカーンさん、私もお祈りをしよっと。ちょっと待ってくれるかな」

 レテはネアスの後に続く。

「お待ちしております、レテ様。ラトゥールの末裔に栄光を!」

 三人の年配の男性はひざまずき祈りを込める。ドロスも目を閉じて祈る。

「ラトゥールは偉いのね、うれしい、楽しい、ずうずうしいかな」

 レテはネアスの隣で祈りを込める。彼は銅ララリを一枚彼女に手渡そうとする。レテは受け取らない。

「ダメ、私はララリをしっかりと稼いで貯めるわ。鳥さんにお祈りは出来ないかな、ネアス一人で頑張りなさい」

 レテはネアスに伝える。彼は悲しそうな顔になるが一人で銅ララリに力を込めて祈る。神殿の外から鳥たちの鳴き声が聞こえている。

「鳥さんたちの集めた銅ララリでプレゼントなんてイヤ、冒険者として稼ぐのよ、ネアス。分かってくれるかな」

 レテはネアスに小声で話す。ネアスは首を振る。

「午後は長いし説得時間はたくさんあるわ。キミの邪な考えを振り払ってあげるわ。覚悟シておく事ね」

 レテは祈りを終えると三岩人の元に行く。ネアスもついていく。

「レテ様、ネアス様の祈りに鳥たちも喜んでいます。自らの目で確かめる事の重要さを改めて体感しました。貴方がたはラトゥールの末裔です。我々三岩人はお二人に従います。それは石職人ギルドの全ての者が貴方がたの味方と言う事です」

 三岩人の一人がレテたちに伝える。

「我々は老いて判断力が衰えたようです。本来であれば昨日の朝に風の神殿で忠誠を誓うべきでした。一日中話し合いに費やしてしまいました。ファレドも我々に愛想をつかしてしまいました。申し訳ありません」

 三岩人の二人目がレテたちに伝える。

「本日はラトゥールの末裔として生まれ変わられた貴方がたに贈り物をお持ちしました。我らの忠誠の証としてレテ様には大棟梁の役職について頂きたいと思っております。もちろん、ネアス様が大棟梁でも我々は構いません」

 三岩人の三人目が大きな袋を地面に置く。ネアスの目が袋の釘付けになる。

「話が急すぎるかな。それに石職人で一番偉い人たちなのにずいぶんと丁寧な話し方ね。オラオラしているアイツラを抑えきれないのも納得かな」

 レテは三岩人を見つめる。

「ドンだ。レテ様は話が分かるようで助かる。昨日は一日中練習していたんだ。デンがうるさくてな。オマエは口が悪いから誤解される。またギルドを壊されたら大変だってな」

 三人の中で一番筋肉のある男性が答える。レテは微笑む。

「デンです。せっかく練習をしたので私は言葉使いを変えません。我々は石職人ですがラトゥール様への気持ちは誰にも負けないつもりです。ドンの発言は無視してください。私は練習通りに進めていきます」

 三人の中で一番ひげが長い男性が答える。レテは微笑む。

「カーンズドラ・ネッスラッピ・フーニーヤー・カンカトラン・ルードベリー・エッポルケネスト・ミミガタクナイ・スツトボルケー・アイトリススト・ボンボンバーだ」

 三人の中で一番性格の悪そうな男性が答える。レテは足で地面を叩く。

「カもガも同じ!仲良しみたいね、ガとカで始まる男はダメね。イライラする、面会はオシマイ、大棟梁なんて面倒な仕事はしない。ネアスもダメ、石職人はイヤなヤツラ、決定。覆る事はない」

 レテが立ち去ろうとするとネアスがレテの腕を掴む。銅ララリが転がっていく。ドロスは急いでララリを集める。

「イーだ!長い名前はもう覚えたくない、カーンズドラ・ネッスラッピ・フーニーヤー・カンカトラン・ルードベリー・エッポルケネスト・ミミガタクナイ・スツトボルケー・アイトリススト・ボンボンバー!勝手に頭に入ってくる。イーだ!」

 レテはネアスでふざける。

「レテ様、カーンは真面目な男だ。自己紹介を省く事など頭にも浮かない。カーンがいなければ三岩人は崩壊してしまう、どうする、デン?」

 ドンは焦る。

「私の言う通りにしておけば良かったのです。カーンには自己紹介はしないように伝えました。ドンが羽目を外したせいで全てが終わりました。カーン、オマエの責任だ。その覚悟は出来ているハズだ。私の忠告と一日の練習を無駄にしてまで自己紹介をしたのはオマエの判断だ」

 デンはカーンを叱りつける。

「レテ様、俺の名前を覚えてくれて感謝します。たくさん話したい事がありましたが俺の役目は終わりです。二岩人の話しを聞いてもらえるとうれしいです」

 カーンは静かにその場を立ち去ろうとする。その時、光の風の糸がネアスの手からカーンの元に吹く。風の糸はカーンを拘束する。

「ネアス、厄介事には関わらないのが一番よ。私の直感はつげているわ。カーンはイジワルで特製たまごサンドをぺっぺってするし、モテないから僻む。ネアスにはやさしいのかな、そこは良い所かな」

 レテはカーンを見つめる。三岩人は光の風の糸に魅入られている。

「無理はなさらない方がよろしいかと思います。ネアス様、力を使う時ではありません。あなたの力は大事な時に取っておくべきです」

 ドロスはネアスの顔色が悪くなった事に気づく。彼はネアスに銅ララリを握らせる。ネアスはリラックスして光の風の糸は姿を消す。

「男の子同士で感じ合う事があるのね。銅ララリは大事なモノだったのね、私には分からなかったわ。ドロス、ありがと。ネアスは座って休憩、休憩」

 レテはネアスを座らせるとカーンを見る。

「ネアス様、ありがとうございました。私は今日からカーンです。ズドラの後の名は捨てました。イヤ。カーン・ボンボンバーでもよろしいでしょうか?」

 カーンはレテに提案する。レテは天井を見上げる。

「カーン、往生際が悪いぞ。ドンデーンボンボンで良い。古いしきたりは必要ない。ラトゥールの末裔が現れたのだ」

 ドンはデンに提案する。

「ドンよ、どうして私がデーンなのだ。ドーンデンボンボンで良いと思います。ネアス様も賛成してくれるでしょう」

 デンはネアスを見る。ネアスはレテの手を叩く。彼女は無視する。

「ネアス様は事情がありまして話す事が出来ません。私が代わりにお答えします。ネアス様はレテ様の機嫌を良くするための方法を考えるのに必死ですのでジャマはしないで頂きたいと思っているハズです」

 ドロスが答える。ネアスはうなずきかけるが踏みとどまる。

「ネアス様はレテ様を怒らせたのか。風の槍で追い回させたら大変だ。女性の機嫌を戻すには贈り物が一番だ。俺が良い店を紹介しよう」

 ドンが提案する。レテは彼らを泳がせる事にした。

「独身の私には難しい問題だ。カン・ボンボンバーも良い響きだ。どちらを選ぶべきだろうか。ネアス様に選んで貰いたかったが仕方がない。レテ様、よろしくお願いします」

 カンはレテに提案する。

「袋の中には銀ララリも入っております。ストーンマキガンで女性の気に入る品は少ないですが、ぜひお役に立ててください。デンでございます」

 デンはしっかりアピールする。レテは口を開かない。

「レテ様に相応しい品。私には思いつきません。しかし、ネアス様はご存知のハズです。そうでなければ今頃私たちは風でふっ飛ばされています。お二人だけに分かる事があるようです。レテ様、ご気分はいかがですか」

 ドロスは不安に襲われてレテに問いかける。

「すごく良い気分、私は怒ってなんかいない!機嫌も悪くない!ナニカガが芽生えた!」


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