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きれいな川の水

 レテはミヤの灰色の手をじっと見つめる。ミヤの服は絶対防壁作りと宝探しですっかり汚れている。ミヤは気にせずにうれしそうに灰色の手を見つめている。ファレドとニャンはレテの発言を聞き、少しずつ距離を取ろうと試みる。

「ミヤをこの状態で風の神殿に返すのは問題ね。服は高級宿で洗って貰えば良いけど、灰色の手は解決したかな。ミヤの分だけでもね」

 レテはミヤの手を取って、きれいな川に向かう。

「ドロスさんなら簡単に解決方法を見つけてくれるハズです。亡霊の事は王国でも指二回分くらいは詳しいそうです」

 ミヤが元気に答える。

「ギンドラの街まで行く事が出来るのであれば、詳しい者を紹介できます。ララリはかかりますが確か水の呪いを解く手段はあったと思います。レテ様のお力なら問題ないでしょう」

 ファレドはその場を動かずに提案する。

「ニャンはお菓子の亡霊だと思っていたにゃん。水の呪いならギンドラ街で有名にゃん。ララリに汚い事でニャン族でも話題になったにゃん。水には関わっていけないにゃん」

 ニャンが答える。

「ウ~ン、どうなのかな。最初は水が欲しくてたまらない亡霊。次に甘いニャン族小ドリンク、つまりお菓子が欲しい亡霊。今は灰色の手、初めて見る人は水の呪いだと思う。きれいでやさしくてかわいい私と離れたくないって線は消えたかな」

 レテはきれいな川に進む。

「何者かがレテ様に害を与えるために水に呪いを込めた。ラトゥールの力を望む者の犯行と考えるのが自然です。実力ではレテ様に敵いませんが呪いならばチャンスはあります」

 ファレドは答える。

「でも、呪いを使ったヒトは冒険者さんたちに追われるって聞いています。専門の冒険者さんがどこまでも追い詰める。だから呪いに手を出してはイケナイ」

 ミヤはレテの手をギュッと握る。

「そうだにゃん。亡霊になるのは仕方がない時もあるにゃん。呪いはダメにゃん。やる気満々にゃん。絶対に悪い事を狙っているにゃん」

 ニャンはレテたちの後についていく事にした。

「呪いの事件なんて王都でも数件あったかどうかのハズ。呪いをかけた方もかけられた方もヒドイ目に合うわ。騎士団が関わったって話も聞いた事がないかな。まあ、何にも協力できないかな。魔術師協会にお任せ、お任せ」

 レテはきれいな川の近くでしゃがみ込む。ミヤも隣に座る。

「水の呪いにも種類があります。レテ様の手のように付着させて不快感を味わせて日常生活を妨害する。街の人々は怖がって近づかないでしょう。寂しくなります。」

 ファレドは絶対防壁を手で叩きながら答える。

「買い物は難しいかな。手袋をはめたらビチョビチョでキモチ悪そうね。きれいな川のお水さん。水の呪いを解いてください。リンリンの友達のネアスの恋人のレテのお願い。あなたはリンリンの仲間でしょ、私に力を貸す義務があるかな」

 レテはきれいな川に脅しをかけてから手を水の中に入れる。ミヤも後に続こうとするが彼女は止める。

「水の流れが早いからミヤはダメ、ホントは近づくのもダメだけど汚れは落とさないとね。私の手が自由になってからミヤも試してみてね」

 レテは両手を水につける。ミヤはうなずく。

「亡霊さんはアーライト河に流れていくのですね。王都で色々なお店や出来事を見学するのも楽しいと思います。飽きたらリンリン森林に戻ってくるのが最適です」

 ミヤはレテの手を眺める。変化はないようだ。

「リンリンにはきれいな川の水が必要にゃん。きっとレテ様のお願いを叶えてくれるにゃん。ニャンは大人だから自分で安全に洗えるにゃん」

 ニャンは薬草採取と宝探しで汚れた手を洗い始める。気持ちよさそうだ。

「レテ様の言う通り、雨上がりのきれいな川は危険だ。ニャンさん、用心してください。問題ないとは思いますが……」

 ファレドは心配なようできれいな川に近づいてくる。

「そろそろかな、効果てきめん。呪いを解く効能がある水。ネアスに変わりに販売してもらって今後の生活の足しにしようかな」

 レテは手を水から出す。灰色が薄くなった気はする。

「ちょっとだけ効果があったようですね。私も試してみます。ついでに土も落とします」

 ミヤはジャブジャブ手を洗い始める。レテは精神を集中させる。

「今日は良い天気にゃん。足も洗うにゃん。体も洗いたいにゃんが女性の前だから遠慮するにゃん。冷たくて気持ち良いにゃん」

 ニャンは足をきれいな川に入れる。

「ニャン、足元に注意してね。二人一緒に川に流れていたら私はどちらかを後回しにしないとイケないわ。それはニャンの方、落ち着いて私の助けを待っているのよ」

 レテはもう一度両手をきれいな川に入れる。

「ネアス様はどうなされたのですか、レテ様。お二人はご一緒だと思っていました。危険ではありませんか?」

 ファレドが疑問を口にする。

「ネアスはモラと一緒に空を満喫中。あそこに襲撃に行く手段があるなら私も危ないかな。あそこ、あの辺りの大きな木の上でゆっくりと私の帰りを待っているわ」

 レテは顔をネアスの方角に向ける。ファレドもそちらに目を向ける。

「安全でしょうね。私はすぐに迎えに来て欲しいと思いますがネアス様は特別な方なのでしょう。短期間でレテ様の心を掴みました」

 ファレドは高い木々を見つめる。

「どこですか、ネアス様のどこに惹かれたんですか?」

 ミヤは絶好の機会を感じて質問する。

「そうね、草占いで負けた、くやしかったかな。今でもネアスに草占いで勝てる気はしない。私が幸運の女神様である限り勝ち目はない。初めての勝負で負けた、そうなのよ。初めては大事!後はシルちゃんにやさしくしてくれそうって思ったわ」

 レテは答えてあげる。

「おもしろい話です。私も勝負を挑みましょう!」

 ファレドは石の間に生えていた草を抜き取る。

「きれいになったにゃん。冷たい水は気持ち良いにゃん。ニャンはファレド様が勝つと思うにゃん。レテ様はネアス様に運をあげたにゃん」

 ニャンは水浴びを終えて体をフルフルさせる。

「私はレテ様が勝つと思います。レテ様はネアス様以外には負けません。幸運の女神様が不幸なのは変です」

 ミヤは足も洗い始める。

「ファレドと草占いをするなんてネアスがいなかったら考えもしなかったかな。私一人だったらシルちゃんの力で吹っ飛ばしてオシマイ、オシマイ。ギルドも壊したかもね。ウウン、風の槍を使う事もなかったかな」

 レテは微笑む。

「私は九枚です。手の感触では五枚以下はありえないハズです。何枚重なっているかが勝負の分かれ目でしょう」

 ファレドが先に答える。

「私は十一枚、枚数は最初から決めていたわ。勝者は何をするのかな、ファレド。ツマラナイ贈り物はダメ。ファレドもそうでしょ。あなたも美人だから冒険者や石職人にプレゼントは貰った事はあるハズ」

 レテは答える。

「剣や冒険の道具、酒や手作りの石細工のアクセサリー。家を作ってくれると言う方もいました。剣の技術を教えてくれる方もいました。今の私にはどれも必要がない」

 ファレドはきれいな川を見つめる。

「私はオイシイお菓子が多いです。他はきれいな石をくれた男の子もいました」

 ミヤは足を洗いながら答える。

「ニャンは鈴を貰ったにゃん。今、身につけている鈴じゃないニャン。大事に隠してあるにゃん。みんなにも秘密にゃん」

 ニャンは体を整えながら答える。

「三人ともモテるのね。ネアスとガーおじはプレゼントを貰った事はないのかな。ガーおじは記憶がないから別ね」

 レテは高い木々を見つめる。

「レテ様は使者よりラトゥールの力を授かった。その代償は彼に全てを捧げる事。夜の街で聞いた噂です。私が聞いた中ではマトモな方です」

 ファレドはレテを見る。

「ステキな話ね。ストーンマキガンの街の詩人さんのお話かな、彼は私から何も奪ってはいないわ。違う、最初の勝利を取られたわね。大事な一勝目、ずっと忘れられない勝負」

 レテはファレドの手を見る。

「ネアス様は初めて会った時も今日もにこやかでした。レテ様のおかげです。きっとレテ様の顔を見ると最初の勝利を思い出す。毎日楽しいハズです」

 ミヤは答える。

「そんな事はないにゃん。自信はないにゃん、ネアス様は勝負事が好きにゃん。勇者ゲームは長くて難しくて大変だったにゃん」

 ニャンは自分の体を見ている。

「懐かしいな、子どもの頃に遊んだゲームだ。レテ様もご存知ですか、勇者と魔王の対決。時間がかかるのが難点でした」

 ファレドはレテを見る。

「私こそ王都で最も勇者ゲームを遊んだ子ども。強いとは言わないわ、シルちゃんにも教えたけど、いつも風でアイテムを吹き飛ばしちゃうのよ。ラトゥールは覚えてくれるかな。期待しているわ」

 レテは髪飾りに触れる。かすかに暖かい。

「昔のゲームですね。私は知りません。ドロスさんは物持ちが良いので保管しているかもしれません。帰ったら尋ねてみます」

 ミヤは水を足でパシャパシャして遊んでいる。

「魔王の魂にゃん。ネアス様にもらったにゃん。もう遊ぶ事はないと思うって言っていたにゃん。ニャンは取っておいた方がララリになるかもって言ったにゃん」

 ニャンは黒い丸い玉をカバンから取り出す。

「私は魔王を選ぶ事が多かった。勇者は気持ちが乗らなかった。魔王の城を強固にするのが楽しみだった事を思い出しました」

 ファレドは魔王の魂を見つめる。

「賞品は決定、私はニャンの魔王の魂が欲しいわ。ファレドはどうかな?」


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