表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/315

トゲトゲ

 レテはゴブジンセイバーを空に掲げる。ミヤも剣を見上げる。光の先では動きは見られない。ウィルくんはゴブジンセイバーの上に移動する。

「レテ、ウィンドコンチェルト!」

 レテは名前を唱える。

「ファレドだ、レテ様。ニャン族の方が怯えている。すぐに来てくれないか?」

 きれいな川の方から声が聞こえる。レテはゴブジンセイバーを鞘に収める。

「今の出来事はなかった。ミヤは頭の良い子だから分かるよね。もしも口を滑らしたらネアスがどうしても私にゴブジンセイバーの前で名乗って欲しいってお願いされた。すごくしつこくネ。私はとっても困ったけど彼のお願いを聞いてあげた。ミヤも説得したけどネアスは譲らなかった。二人で変なのって思ったけど口にはしなかった。私はきれいでやさしくてかわいいから何でもしちゃう所があるのがイケナイ所ね」

 レテはミヤに説明する。ミヤは大きくうなずく。

「どの辺からでしょうか、レテ様」

 ミヤは確認する。

「ゴブジンセイバースラッシュって言い出した時かな。ネアスは地上にいたわ。目印の目印はゴブジンセイバーにしましょう。ウィルくんは散歩でもしていてね。これで安全、安全」

 レテは前に進む。

「賛成です。賛成二で可決です。ニャン様はどうにでもなります」

 ミヤも後に続く。

「ファレド、すぐに向かうわ。あなたの事を信頼しているわ。色々とあったけどこれからは仲良くしましょう。石職人ギルドとは完全に手を切ったのよね」

 レテは先程の事を忘れようと試みる。

「始末はまだ付けていないが石職人は辞めた。ヤツラに関わるのも数日の事だ。レテ様には関係の無いことです」

 ファレドは答える。彼女は剣をレテの方に向かって投げる。レテは森の中からそれを確認する。

「こっちもどうぞ、私は精霊使いだから意味はないけど。お返し、お返し」

 レテはゴブジンセイバーを投げて光の向こうに飛び出す。そこではファレドが絶対防壁の近くで立っている姿が見えた。彼女は壁を撫でている。

「ニャン族の方はこちらだ。私が話しかけても応じない。何を恐れているかが分からない。私はそこまでコワイか?」

 ファレドはレテに問いかける。彼女は黒いコートを身につけ、顔だけをフードから出している。ニャンはお菓子の塔の横で縮こまっている。

「どう見えても変です。危ない集団のリーダーだと思ってしまいます。私もレテ様がいなかったら隠れます。ミヤです、よろしくお願いします」

 ミヤが挨拶をするとニャンは素早くレテの背後に動く。

「ニャンにゃん。ファレド様にゃんか、大棟梁にゃん。ニャンには関係のないヒトにゃん」

 ニャンは怖がっている。

「黒が好きなんだ。カッコいいよね、騎士が黒い鎧をまとったら悪役かな。見た目も時には大事かな。いかつく見えるわ」

 レテはゴブジンセイバーを拾って腰に身につける。

「夜に活動する事が多いから黒だ。明るい色だと目立って仕方がない。夜にだけ取れる薬草も存在する」

 ファレドはニャンのカバンから薬草が溢れているのを見て取り、自分のカバンから何かを取り出す。

「ヨナキ草にゃん。ホントに夜に泣いている時じゃないと取っちゃいけないにゃんか。昼に見つけるとコワイ事が起きるって話にゃん」

 ニャンはレテの後ろから尋ねる。

「聞いた事のない薬草です。ドロスさんなら知っていると思います。私は勉強不足です」

 ミヤはレテの隣で興味深そうにファレドの手のヨナキ草を見つめる。

「私も知らないわ。今度王立図書館に遊びに行こうかな。たまには勉強するのも楽しそうね。おもしろい本が入ったかな」

 レテも興味があるようだ。

「魔術に使う薬草だ。持ち込む場所を選べば高値で取引されている。必要とするヒトが少ないのが難点だ」

 ファレドはヨナキ草をレテに渡そうとする。レテは受け取る。

「ラーナは喜びそうね。私は薬草の専門家でもないから見ても分からないかな。ニャンはどうかな」

 レテは背後のニャンにヨナキ草を手渡そうとする。

「見るだけで充分にゃん。実際に見るのは初めてにゃん。ニャン族の先輩には話を聞いた事があるにゃん」

 ニャンが答える。

「ニャン族はどこにでも現れる。ヨナキ草も採取場所も知っているのは驚きだ。一握りの冒険者だけの秘密だと思っていた」

 ファレドはニャンを鋭い眼光で見つめる。

「ニャンさんが怖がっています。ファレド様はご自身の姿を鏡で確認した方がよろしいと思います。高値は素晴らしい事です」

 ミヤはレテの手のヨナキ草を観察する。

「すまない、ミヤさん。脅しをかけた方が都合の良い事が多かったからクセになっているのは自覚している。舐められない事も良い事だ」

 ファレドは視線を絶対防壁に移す。

「元石職人からの意見が欲しいわ。これはミヤとニャンが九割、私が一割って感じで作った石の壁。カチカチだけど簡単にくっつく石、不思議な事が起きました」

 レテはファレドに説明する。

「ニャンが集めた石にゃん。ニャンは石の目利きになれそうにゃん。石職人さんに石を売ってララリを稼ぐにゃん」

 ニャンがレテの背後から自信満々で伝える。ファレドは手でコツンと叩く。満足げな表情だ。

「ストーンマキガンに住んでいると自然と石の壁作りを覚える事が出来るみたいです。他の神官見習いの子たちにも教える予定です」

 ミヤは笑顔で答える。

「この石の壁を作った。石職人は誰も信じないだろうな。ハンマーで殴っても壊れそうにない。それも女の子とニャン族が作った。笑われてオシマイだ。リンリン森林まで見学に来るもの好きもいないだろう」

 ファレドは笑みを浮かべる。

「私もその場にいなかったら、そう思うかな。目撃者は私だけ、ネアスは半分寝ていたわ。証人は一人、ちょっとだけ制作者でもある」

 レテはうなずく。

「もう一度集めてくるにゃん。待っているにゃん」

 ニャンはカバンを置いて、きれいな川に向かう。

「証拠が必要なんですな。風の神殿で実際に作るのが一番ですが、確かに再現出来るかはアヤシイです。失敗したら恥ずかしいです」

 ミヤは絶対防壁を眺める。

「レテ様が精霊の力、ラトゥール様のお力を使ったのも隠している。私はそう思っています。精霊の力はすさまじい」

 ファレドは石の壁に手を当てる。

「ファレドがそう思うのは理解できるけど私は精霊の力を使っていないかな。ネアスは勝手気ままに精霊を自由にさせているみたいだけど私はしっかり手綱は握っているわ。石職人ギルドの時はちょっと違うけど……」

 レテが答える。ニャンがきれいな川から石を持ってくる。

「見てください。天才石職人神官の力です」

 ミヤは絶対防壁に石を押し付ける。石はくっつく。彼女はその石にさらに石をくっつけて突起を作ろうとする。

「信じられない、ただ貼り付けているだけじゃないか。これでは石職人はいらない。簡単に家も壁も作れてしまう」

 ファレドは笑い声をあげる。ニャンはレテの背後に素早く隠れる。

「ニャンもくっつけてみたら、私もトゲトゲを作ろうかな」

 レテは石を壁にくっつける。ニャンも続く。ファレドもニャンが集めた石を壁に貼り付ける。くっつく。

「皆さんも天才石職人です。少し残念ですが仕方ありません。トゲトゲ三つで完成です。絶対防壁は目印に生まれ変わりました」

 ミヤは最後の石をくっつける。

「完成、完成。でも何も解決していないわ。ファレドでも分からない難問。私が考えるだけ無駄かな」

 レテはあきらめようとする。彼女はヨナキ草をファレドに返す。

「少し壊してみるのが一番だ。トゲトゲの部分を頂きます。よろしいですか、ミヤさん、ニャンさん」

 ファレドは腰からハンマーを抜く。

「ニャンはララリを稼ぎたいにゃん。石職人の方に信用してもらう材料になるなら構わないにゃん。新しく作れば良いにゃん」

 ニャンはミヤを見つめる。

「壊れたトゲトゲもアクセントになります。半分は残してください。それとも壊れた後を残した方が想像力を刺激するでしょうか、レテ様」

 ミヤはレテに相談する。

「根元から折って貰いましょう。何か大切なモノがついていたって思うかな。デコボコでお願いね、ファレド」

 レテはファレドに伝える。ファレドはすぐさまにハンマーを絶対防壁のトゲに打ち付ける。彼女は何度か同じ動作を繰り返す。リンリン森林には大きい音が鳴り響く。トゲトゲは無傷だ

「壊れない、何故だ。何の変哲も無い石だ。簡単に砕けるハズだ」

 ファレドは近くの石をハンマーで打つ。石は壊れる。

「ゴブジンセイバーなら切れるかな。壊しちゃったらネアスは怒るわ。辞めておこうかな、どうしようかな。切れ味が気になる、気になる」

 レテは腰に手を当てる。

「ネアス様は怒らないと思うにゃん。でも、今夜は眠れない夜を過ごすハズにゃん。ゴブジンセイバーとの思い出に浸るハズにゃん」

 ニャンが答えるとレテは腰から手を離す。

「大切なお人形さんの腕を間違って引きちぎった時は眠れなかったです。亡霊になって出てこないか心配でした」

 ミヤはトゲトゲに触れる。

「レイレイ森林ならまだしも、リンリン森林でも不思議な出来事が起きる。流星の影響でしょうか、レテ様」

 ファレドはレテに問いかける。

「すっかり忘れていたわ。私には亡霊さんが取り憑いていたわ、灰色の手。生前は凄腕の石職人さんだったのかな。これで満足したハズ。ありがとう、亡霊さん。あなたの素晴らしい石の壁は私たちが目に焼き付けたわ。元大棟梁も満足している」

 レテは灰色の手をじっと見つめる。色は変わらない。

「レテ様の予想はハズレみたいです。私の手も灰色のままです」

 ミヤは手の土を払って確認する。

「ホントにしつこい亡霊、これは強硬手段を決行する時が来たかな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ