モテない教え
レテはお菓子の塔の様子を確かめる。ネアスに動きは見られない。ミヤも彼に様子を気づかれないように伺っている。ニャンは薬草採取を続けている。
「キミに飽きる日、どんな風になるのかな。ネアスは得意でしょ、私に教えてくれるかな。たまにはハンディが欲しいわ。ミヤも聞きたいでしょ」
レテはミヤに援護を求める。
「倦怠期ですか。言葉は知っていますが実際にどうなるかは想像できません。モテない時期の長かったネアス様には難しいと思います」
ミヤは遠慮せずに答える。
「女の子に素っ気ない態度を取られる事には慣れているさ。僕はレテとミヤよりも経験豊富だ。これは確実さ」
ネアスは気を取り直して答える。レテはうなずく。
「その通りかな、子どもの頃から男の子は一緒に遊んでくれたし、女の子とも遊んだりお話をしていたわ。誘いを断られる経験は少ないかな」
レテが答える。
「そうですね、男の子も遊びに誘ってくれるので一緒に遊びます。素っ気ない子もいますが誘わなければ問題ないです」
ミヤもレテに同意する。
「遊び相手に用事があって、たまたま近所の女の子を遊びに誘ったら無視された事がある。今考えたら、僕と一緒に遊ぶより一人の方がマシだったのさ。相性の問題だ、彼女も子どもだったし何も悪くはない。しかし、倦怠期に近いハズだ」
ネアスは空を見上げる。
「急に誘われたらゴメンねって言うかな。無視はイケない事、きっと彼女は後悔しているわ。きれいでやさしくてかわいい私がネアスの横を歩いていたら、悔しくて泣くわ。道で急に叫ばれたらどうしよう、ミヤ」
レテは不安になる。
「他人のお菓子は良く見えます。レテ様のお菓子はとっても素晴らしいモノに感じるハズです。体当たりに注意してください」
ミヤは二人にアドバイスをする。
「ラーナさんも隣にいたらどうなるんだろう。気になるけど故郷の彼女はそこまで悪い人じゃないさ。きっと僕の幸運を喜んでくれる」
ネアスは答える。レテは微笑む。
「モテない秘訣の一番目。私の前で昔の彼女とラーナの自慢をする。一般的にどう言うかはキミが考える事。盟主の道が開けてきたかな」
レテは笑顔で答える。
「ネアス様、どの女性の前でもラーナ様の話は危険です。その意味はネアス様自身で考える事が大事だと思います。私の口から説明は出来ません」
ミヤはレテのマネをする。
「ラーナさんの話が出来ないと不便な気がする。魔法の話題の時につい名前が出てくるし、ラーナさんに相談した方が良い問題が出てくるかもしれない」
ネアスは反論する。
「モテない秘訣の二番目。何とか理由をつけてラーナの名前を口に出そうと頑張る。会話にはなっているから女の子とお話する事には成功しても、これじゃダメかな。故郷の話も出来なくなるのかな、ネアス!」
レテは熱くなる。
「レテ様、盟主の道が途絶えます。冷静さは必須です。心を落ち着けてください」
ミヤがレテに伝える。レテは大きくうなずく。
「ありがと、ミヤ。ラーナは私の友人で頼りになる魔術師。これからもっと仲良くなれるわ、ネアスとも良い関係を築いていくハズ!ラーナはラトゥールに興味があるだけ!ネアスはラトゥールの力が使える!」
レテの心はざわつく。
「レテ、魔術師さんは僕と話は合わないよ。ガーおじみたいに魔術の本を読めるなら可能性はある。僕も風の神殿の図書室で読もうとしたけと目次さえ全部読めなかった」
ネアスは答える。
「何でキミは魔術の本を読もうとしたの?急に魔術師になりたくなったのかな。夕方に目覚めたら僕は魔術の本を読む。理由は魔術に興味が出てきた。今までどうして読もうとしなかったんだろう。この気持ちは誰にも抑えられない、明日は目次を読破しよう。次の日が一章の初め。キミは何かに近づこうとしている」
レテは爆発寸前だ。
「レテ様、考えすぎです。魔術師さんはひとまずラトゥール様の研究で忙しいハズです。休憩時間のふとした瞬間に考える事は故郷の事とレテ様やアーシャ様です」
ミヤがレテを落ち着かせようとする。
「モーチモテ博士とクロウの事も頭に浮かぶかな。ネアスは魔術の本は禁止、禁止。余計な事で頭を使うと疲れが取れないわ。ホント、ホント」
レテはちょっと落ち着く。
「ラトゥールの力は魔力を使うみたいだ。レテ、どうしたら良いんだろうか。僕には何も思い浮かばない」
ネアスはレテに尋ねる。
「そういうことね、分かったわ。魔術師の訓練を試してみましょう。ニャン、薬草採取はオシマイ、オシマイ。こっちに来てくれる?」
レテは森に向かって声をかける。
「分かったにゃん、すぐに行くにゃん」
ニャンの元気な返事が聞こえる。
「神官の訓練と魔術師の訓練に違いはあるんですか、レテ様。私もお役に立ちたいです、何でも言ってください」
ミヤはレテを見つめる。
「最初の訓練は一緒。精神統一、これが基礎であり最大の力。対象を見定める、それが魔力の使い方の秘訣」
レテは答える。
「難しい言葉だ。どうすれば精神は一つにまとまるのだろう。僕に精神がなかったらどうしよう、ふにゃふにゃのこころでは魔力は扱えないみたいだ。才はコワイ」
ネアスはとてもビビる。
「魔法の石を使う時と同じ、同じ。火を考える、それだけ!でも、もっと大きな火を起こしたかったら、それじゃ足りないみたいね。魔術の先生の受け売り、私は火の魔術は使えないわ」
レテがネアスを安心させようとする。
「神官は王国に流れる風を考えます。街や森に吹く風を考えると心が落ち着いてきます。私は修行中ですが、その時に魔力を感じる事が出来ます。難しい事は事実です」
ミヤが答える。
「田舎では聞けない話だ。都会の女の子はすごいな、僕の知らない世界が広がっている。王都の女の子に興味が出てきた」
ネアスがつぶやく。
「ネアス様、今日はどうされたんですか。頭の中が女の子の事で一杯みたいです。何があったんですか」
ミヤはレテの様子を見つつ問い詰める。レテはうなずき彼の回答を待つ。
「僕が故郷で女の子に触れたのは数回だけだ。それも子どもの頃の話だ。でも、ストーンマキガンに来てから飛躍的に数が増えた。数えるのを途中で止めたのさ、きりがない。数字を覚えているだけで一日が過ぎ去ってしまう」
ネアスは素直に答える。レテは彼の手をギュッと握る。ミヤも一緒に握る。
「ミヤも灰色の手ね。神官長に怒られちゃうかな。早く亡霊さんのお願いを聞いてあげないとね。まずは魔術の訓練から開始!」
レテは精神を集中させる。ミヤも目を閉じる。ネアスは二人と交互に見る。
「到着にゃん、レテ様に感謝にゃん。たくさんの薬草にゃん」
ニャンはうれしそうに駆け寄ってくる。
「ニャンは周囲の警戒をお願い。何もないと思うけど、一応かな。大声で声をかけてくれれば一瞬でシルちゃんの力で吹っ飛ばすわ」
レテはニャンに伝える。
「分かったにゃん、ニャンは飛ばさないでほしいにゃん。自分で隠れられるにゃん」
ニャンは周囲の音に耳を傾ける。リンリンの音が鳴り響いている。
「何も感じない、イヤ、二人の手の感触はある。レテは力が強いけど手は柔らかい、不思議だ。僕の解き明かす謎の一つだ」
ネアスはつぶやく。レテはネアスの手を握りしめる。彼はガマンする。
「そんなに強くないわ。キミの顔色は一切変わらない、もっと鍛えないとイケないかな。剣術の訓練をサボりすぎね」
レテは手の力を弱める。
「レテ様はすごいです。大きな魔力を感じます。神官長やドロスさんよりもずっと大きな力です。王都の神官長もこれだけの魔力はないです。精霊使いの条件でしょうか?」
ミヤがネアスに問いかける。
「魔術の先生も同じような事を言っていたわ。魔術師になりなさい、そしてモーチモテ博士を倒す。そのためなら何でもしてあげるってね。貴族はみんな負けず嫌い、勝ち負けが全ての世界」
レテが答える。
「僕にも大きな魔力が眠っているのか。覚醒ネアス、キミは才がある。私も驚くほどの力、信じられない。レテは今から口にする言葉さ」
ネアスは自信を持つ。
「ウ~ン、ビックリするくらい少ない魔力ね。私もキミの魔力を隅々まで感じる事が出来たかはアヤシイけどね。お昼寝ネアス」
レテは微笑む。
「魔力は精霊使いの条件ではないんですね。安心しました。私もいつか精霊使いに挑戦してみたいです」
ミヤは目を閉じたまま答える。
「違う、今、キミの力を感じた。すさまじい魔力、どうして最初に気づかなかったの?レテのやり口は知っている」
ネアスは折れない。
「言い方、ネアス。ホントよ、ウソ!キミに秘められた力を感じる。灰色の手から私に流れ込んでくる!」




