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壁を壊せ!

 レテは渦巻き状の石の壁をグルッと回りながらコツンコツンと所々叩いていく。ミヤとニャンは真剣な顔つきでその様子を眺めている。ネアスはお菓子の塔の残りを見ている。

「ホントにきれいに作ってあるわね。壊すのがもったいないくらいね。でも、ここに放置していくのは難しいかな。倒れたらケガをするわ」

 レテはミヤの隣に立つ。

「作るのは楽しい。後始末は大変です。変な所を崩して頭に石がぶつかったらガーおじ様のように記憶喪失になります」

 ミヤはレテの意見に理解を示す。

「ニャンは壊すのは苦手にゃん。薬草採取をしてくるにゃん、もうちょっとだけカバンに入るにゃん。余ったらネアス様に差し上げるにゃん」

 ニャンは近くの森の中に去っていく。

「キャビをここに連れてきて壁を破壊してもらえば記憶が戻るチャンスがあるのか。キャビが記憶を失くせば、ガーおじになるハズだ」

 ネアスは石の壁に希望を見出す。

「あるいはアナストテタシアになるかもね。さらに話はややこしくなるかな、私は止めないわ、ネアス。可能性は感じるかな」

 レテはネアスに同意する。

「キャビ様を石の壁の中にシルフィー様の力で放り込むのが最善策です。崩れた石が確実にキャビ様に当たります」

 ミヤが提案する。

「小さい石だから、ちょっとしたケガで済むハズだ。レテ、試しに僕が石の壁の中に入る。その後に少しだけ石を崩してもらう。キャビがケガをしないかを確認する」

 ネアスはジャンプをする。レテは彼の肩に手を当てる。

「ネアスまで記憶を失ったら私はキャビとネアスを放置するわ。キミは志願して記憶を失くそうとしている。そこまで私は面倒を見る筋合いはないかな」

 レテは冷たく言い放つ。ミヤはうなずく。

「石の壁の中に入る必要はありません。シルフィー様にそこら辺の石を落として貰えば問題ないです。そんなに簡単に記憶は失われるモノでしょうか?」

 ミヤは疑問を口にする。

「運が悪ければ一発さ。それに記憶を失ったら、レテとまた出会える。それも素晴らしい事だ。今度は華麗にデートに誘って見せる」

 ネアスは答える。

「キミとはちゃんとデートはしていないかな。ネアスは華麗に誘ってくれるのね、期待が高まってきたわ。今日の夜はアーシャと一緒に予想しようかな、当たりだったら私の勝ち。ネアスが予想を裏切ったらキミの勝ち。ワクワクしてきたかな」

 レテが微笑む。ネアスの顔は赤くなる。

「私も参加したかったです。アーシャさんに彼氏が出来た時は必ず仲間に入れてください。お願いします、レテ様」

 ミヤはレテを見つめる。レテは大きくうなずく。

「記憶を失った時の話だ。今の僕では華麗にレテをデートに誘う事は出来ない。なぜならレテは僕のデートの誘いに答えていないからだ!」

 ネアスは宣言する。レテは笑みを浮かべる。

「デートはいらないってキミは言ったわ。ネアス、頑張って私の予想以上の誘い文句を考える事ね。それまでは私が誘ってあげるから安心してね」

 レテは微笑む。ネアスの顔がさらに赤くなる。

「石の壁の壊し方を考えよう。上から外していくのが安全さ、時間がかかるのは仕方がない。僕にはお似合いさ」

 ネアスは背伸びして石を掴む。ハズれない。

「私とニャン様が作った絶対防壁です。ヒトの力で壊せるハズがありません」

 ミヤはうれしい。

「イミフメイかな。拾って、集めて、並べる。絶対防壁になる訳がないわ。風が吹けば倒れる壁のハズ?!」

 レテも背伸びして石を掴む。ハズれない。風も壁に当たり続けている。

「崩れない石の壁。ラトゥールの力だろうか。僕もとても疲れているし、魔力も消耗している。勝手に遊ばれたみたいだ。構わないけど……」

 ネアスは座り込む。レテは無理やり彼を立たせる。

「休みならコッチ、ミヤがせっかく敷物を持ってきてくれたのよ。服も汚れちゃうかな」

 レテはネアスをお菓子の塔の目の前に座らせる。

「お菓子の塔です。残りモノですがネアス様も食べてください。遠慮はしないでください。タイミングはネアス様にお任せます」

 ミヤはお菓子の塔に近づく。

「僕も聞いていた。早い物勝ちさ、タイミングは僕が決める事が出来る。圧倒的に優位な立場だ。久々の勝利の時だ」

 ネアスはお菓子の塔のケーキの前で手を止める。

「ニャンを待ってあげたらネアス。故郷のお友達でしょ。ニャンにも勝負の機会を与えるべきかな。勝利は難しいけどね」

 レテは自信があるようだ。

「お二人での勝負も楽しそうです。私は見学します、合図をしてください、ネアス様。見逃したくないです」

 ミヤはネアスに伝える。

「ニャンさんもお菓子の塔の最後の勝負はどうですか?薬草採取で忙しいですか?」

 ネアスは森に向かって大声で叫ぶ。リンリンの音が大きく鳴り響く。

「ニャンは参加しないにゃん。リンリンを見つけるにゃん、音がすごいにゃん」

 ニャンは興奮した声で答える。

「近くにいそうね、リンリン。音は聞こえるけれど実際に見つけるのは大変なリンリン。ちっちゃいから森の葉っぱと区別が付かないのよね」

 レテはリンリンの音に耳を傾ける。

「雨の後だから元気ですね。昨日は木の間に隠れていたんでしょうか、もっと良い所があるんでしょうかね」

 ミヤは二人に問いかける。

「リンリンは静かに雲を眺めていると近くに寄ってくる。でも、音の方に目を向けるとどこかに行ってしまう。レテのようだ。デートに行こう!」

 ネアスは勝負に出る。

「ネアス、適当過ぎかな。私はどこにもいかないわ、いなくなるのはどちらかと言うとキミのほうかな。目を向けた後の話を聞かせてくれない、ネアス」

 レテはネアスにお願いする。

「えっと、また雲を見ているとリンリンの声が近くで聞こえてくる。今度は目を向かないで静かに手を肩に伸ばしてみる。羽の感触が手に伝わるから目を向けるとそこにはいない」

 ネアスは話を続ける。

「じっとしているんですね。私は苦手です。リンリンは大人しい人が好きだったんですか。初めて聞きました」

 ミヤは驚く。

「私も聞いた事がないかな。リンリンを捕まえやすいカゴは王都で売っているわ。偽物だけどね、効果はなし」

 レテがネアスを見つめる。

「僕も他の人にこれを話した事はない。リンリンが実際に僕の肩についていたかは誰にも分からない。僕も音だけで判断しているから見た事はない。捕まえる気もないし、高く売れるの、レテ?」

 ネアスはレテに尋ねる。

「王都でリンリンを売ろうとしたら騎士に捕まる所では済まないかな。ネアスの土の村でもリンリンの取引はしていないでしょ?」

 レテはネアスに問いかける。

「風の神殿のコワイ人たちは容赦しません。リンリン祭りでリンリンを誘い出す事が出来なかったら王様からお仕置きされます」

 ミヤが答える。

「当たり前さ。リンリンは大事だ、ララリには変えられない。僕の村でも一緒さ、だから他の人には話さない。変な疑いをかけられたら大変だ」

 ネアスは焦る。

「続き、続き。ネアス!」

 レテはネアスを促す。

「雲を眺めながらウトウトしてくるとリンリンの音がとても近くで聞こえてくるんだ。きっと耳の近くに止まっていると思う。その音色に耳を傾けながらお昼寝するのが一番だ。時たまにしか起きない出来事さ」

 ネアスは話を終える。

「レテ様、危険です。ラトゥールの末裔、今のお話。油断は出来ないようです」

 ミヤはレテに警告する。

「ミヤの言う通りかな。キミは不思議な人、リンリンはキミの事がとっても好きなのよ、きっとね。私はそう思うわ」

 レテはミヤに微笑む。

「誰も興味がない話さ。レテとミヤは特別だ、僕の幸運の女神様と勝利の女神様さ。リンリンは王国のどこにでもきれいな音を響かせている。耳元で聞く必要はないさ」

 ネアスは答える。

「お昼寝は得意じゃないけど練習しようかな。私もリンリンの音を耳元で聞いてみたいかな。ネアスの一勝、油断したわ」

 レテはネアスに微笑みかける。

「モテない同盟での訓練の結果でしょうか。アーシャさんにお聞きしました。私もモテない同盟に所属するべきでしょうか、レテ様」

 ミヤはレテに問いかける。

「僕の勝ちか。何に勝ったか分からないのが問題だけど、それは関係ないさ。勝ちは勝ちだ。リンリン、ありがとう」

 ネアスは森に声をかける。リンリンの音は続いている。

「盟主は不在、ネアスは資格はく奪。モテない同盟はこれからどうなるのかな、私が盟主になるのも良いわ。モテない秘訣を教えてあげる、ガーおじに学んだ事」

 レテはつぶやく。

「わざわざモテない意味がありません。モテてこそのモテない時期です。常にモテないのはイヤです」

 ミヤが答える。

「僕は一時的な資格はく奪だ。モテるための勉強はしてきた。倦怠期が来る、その時が勝負の分かれ目だ。僕はレテに飽きる事は確定のようだ」

 ネアスはレテをじっと見つめるがすぐに目を逸らす。彼の顔が赤くなる。

「私がネアスに飽きるのが先か、キミが私に飽きるのが先かの勝負ね。確かに大事な試合になりそうね。ポイントはいつもの三倍かな」


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