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魔力の風

 レテはネアスから手を離してミヤとニャンの様子を確かめる。二人ともリンリン森林に吹き付けている光の風に魅入られているようだ。ネアスは座り込む。

「正解は川、水もおまけで正解かな。リンリン森林を流れるきれいな川、名前は揉めに揉めたからきれいな川のまま」

 レテはニャンを見つめる。

「勘違いにゃん。レイレイ森林の近くには湖がたくさんあるにゃん。リンリン森林は川にゃん。逆に覚えていたにゃん」

 ニャンは負けを認める。

「僕はレテの事をいつも考えているんじゃない。レテ、ミヤ、違う。それは疑いの目だ、僕は川って言おうとしたんだ」

 ネアスは手でカタカタふるえる液体を見ている。

「そんな事おもっていません、ネアス様。疲れていますね、リラックスした方が良いかもしれません。レテ様はネアス様には刺激が強すぎるようです」

 ミヤはレテに伝える。

「モテない気持ち、ネアスの心の奥の方まで根を這っているのね。ガーおじなら気持ちを理解できたと思うけどキャビはどうかな、ミヤ」

 レテはネアスの手を取り、立ち上がるのを助ける。彼女は目的に向かって進んでいく。

「ガーおじ様では今のネアス様の状況を妬むハズです。モテない気持ちは同じですが環境が違いすぎます。ガーおじ様はとてもステキな方でした」

 ミヤはフォローしつつ、レテの後に続く。

「ニャンも初めての行商の時はビビって声も出せなかったにゃん。何度も経験すれば問題ないにゃん。たくさん商品が売れるかは別にゃん」

 ニャンはネアスの様子を確認する。彼はボーっとしている。

「ネアスはたまにこうなるのよね、不思議、不思議。歩いているけど反応が薄い。彼はどこにいるのかな」

 レテは足場の良い所を選んでリンリン森林を進む。水の音が近くで聞こえる。

「ガーおじ様の所でしょうか。レテ様の事を相談しているハズです。何を悩んでいるんでしょうか、ネアス様は?」

 ミヤは疑問を抱く。

「きれいでやさしくてかわいい私の事で悩んでいる。確かに考える事はないかな、聞こえているのかな、ネアス。後で聞いてみよっと」

 レテはネアスを見る。ボーっとしている。

「故郷の村で雲を眺めていた時もこんな表情だったにゃん。何を考えていたか聞いたら、困っていたにゃん。何も思いつかないって言っていたにゃん」

 ニャンが答える。

「ネアス様、お菓子です。神官長のお菓子はちょっとだけ高いです。甘くてオイシイです。とっておきのお菓子です」

 ミヤはカバンからお菓子を取り出しネアスの顔に近づける。反応はない。

「大丈夫かな、手は暖かいから体に異変はないとは思うけどね。歩いているし、手を離したら転ぶのかな」

 レテはネアスの手を離す。彼は座り込む。レテは立ちあがらせる。

「こういう仕組みか。不測の事態が起きた時はその場でじっとしていてくれそうかな。便利で安全、安心」

 レテは彼の手を取り、川に向かう。

「疲れているにゃん、ネアス様の土の村のお祭りの準備の後も座り込んでいたにゃん。ニャンの行商のお手伝いもしてくれたから大変だったにゃん。ありがたかったにゃん」

 ニャンはネアスのフォローをする。

「ニャンさんとネアス様は仲良しですね。見えてきました、あの川ですね。ここからアーライト川、魔力の泉に繋がっているんですね」

 ミヤは木々の隙間からきれいな川を眺める。透明な澄み切った水が流れている。彼女は足を早める。

「ミヤ、足元に気をつけてね。雨の日の後はいつもより水の量が多いかな。ネアスも気を付けてね、あそこでおやつの時間にしましょう」

 レテはのんびりとミヤの後をついていく。

「体に良さそうな水にゃん、魔力の泉に流れているって事は貴重な水にゃんなのか。どんな力があるか楽しみにゃん」

 ニャンがレテに問いかける。

「残念だけど魔力を回復する効果はないようね。同じ事を思った人が王都にもいて、魔力の泉の水と比較したらしいわ。ずいぶんと真面目な人が昔にはいたみたい。それできれいな水はすごくきれいって分かった。魔力の泉の水より透明で透き通っているわ」

 レテは答える。

「私も聞いた事があります。王国の謎の一つ。魔力の泉の源。リンリン森林説は最初に却下。風が泉に魔力を運んでいる話が好きです。遠くから泉にのみ流れる風、魔力の風の伝説。今は力が弱いらしいですが時期がくれば強い風が吹く。誰も信じていません」

 ミヤが川の水を見つめながら話す。

「かつて空中都市は魔力の風で満たされていた。時が経ち、人も変わった。風に含まれる魔力は人々の心を繋ぎ止める事が出来なかった。魔力の風は全てを人に捧げて消えてしまった。魔力の泉には最後の風が残っている」

 レテは伝説を語る。

「最後の風が空に流れ、また魔力の泉に戻ってくる。同じ魔力、同じ風、増える事はない。魔力の風は消えてしまった。いつか魔力の風が戻る、強き風を思い出せ。もともと風に魔力を運ぶ力はないそうです。ドロスさんも他の大人の方も皆さん、そう言います」

 ミヤは続きを語る。

「おもしろい話にゃん。ニャン族には伝わっていないにゃん。初めて聞いたにゃん」

 ニャンが驚く。

「誰も信じていない話。ニャン族にはわざわざ話さないかな、空中都市の伝説自体が冒険者の調査ではアヤシイらしいわ。ラーナやクロウはもっと詳しい話を知っていそうね。今度来てみようかな」

 レテはミヤの近くに到着する。

「ニャン族の伝説もまた聞きたいです。お菓子好きのゴブリンの話は面白かったです。今度は魔法使いのゴブリンの話をお願いします」

 ミヤはニャンにお願いする。

「そんな話はニャン族には伝わっていないにゃん、ホントにゃん。ネアス様も知っているにゃん。きれいな水を汲むにゃん。きっと役に立つにゃん」

 ニャンは川辺に向かう。レテたちも気を付けながら後に続く。

「伝説の戦士になったニャン族の話が聞きたいかな。ネアス、そろそろ起きなさい。夢はオシマイ。きれいでやさしくてかわいい私の起こしてあげる、朝よ、ネアス」

 レテはネアスにささやく。ネアスは反応しない。

「ネアス様は手強いです。レテ様には困難が待ち受けているようです。すぐに起きると思いました。私はもっと勉強しないとイケないです」

 ミヤはネアスを眺める。

「ここが良いにゃん、休憩にゃん。ニャンも薬草集めで疲れたにゃん、ネアス様も一緒に休憩するにゃん」

 ニャンが川辺で腰掛ける。川の流れは比較的穏やかだ。木々が辺りを覆っている。

「そこなら流される心配はなさそうね。水の中だとシルちゃんの力は使いにくいかな、なんとでもなるから構わないけど……」

 レテは考えを巡らせながらニャンの元に向かう。

「小さいお菓子の日です。私も将来神官長になったらお菓子の日を作ります。今の三倍のペースで開催します。風の神殿に参拝する方を増やしてララリを手に入れます」

 ミヤは夢を語りつつニャンの近くに向かう。

「気をつけるにゃん。ちょっとだけ足場が悪いにゃん。お菓子が濡れたら大変にゃん、ゆっくりにゃん」

 ニャンはミヤの近くで警戒する。彼女は安全に辿り着く。

「ネアス、このままだと転んじゃうかな。川に流されたら悲しいわ、起きてくれない。目は覚めているのよね。何も思いつかない、どういう事かな」

 レテはネアスの手を取って慎重に歩みを進める。体勢を崩しそうになるが踏みとどまる。ネアスはレテの指示通りに動いている。

「準備を始めます、お二人はゆっくりとこちらに来てください。ステキな場所です。きれいな川に森の匂いも心地よいです」

 ミヤは敷物を広げる。ニャンは手伝っている。

「のんびり、のんびり。イタズラは今日はオシマイ、充分かな。満足したわ、ネアス。聞こえていないんでしょ」

 レテはネアスの目を見る。どこを見ているか見当が付かない。

「魔力の使い過ぎ、あるいはさっきのショックかな。私は近くに感じたけど精霊使い初心者のネアスには早かったのかな。でも、ネアスを待っているのも面倒だし、どうしようかな、シルちゃん、ラトゥール、ウィルくん」

 レテは精神を緩めて呼びかける。精霊たちの反応はない。

「こっちの方が安全かな、ネアス、もう少しでおやつの時間。ガンバロ、ガンバロ」

 レテは遠回りをしてミヤたちの元に向かう事にする。

「まだまだ準備中です。ゆっくりです、レテ様」

 ミヤはお菓子を並べる。気に入らなかったのか配置を変える。ニャンも手伝う。

「帰ったら副騎士団長に話を聞いて、王都に出発。しばらくは騎士団本部で仕事をしようかな。外に出たら騒ぎになりそうね、ラトゥール」

 レテはネアスに語りかける。ラトゥールの名に反応しない。

「ネアス様、もうちょっとにゃん。頑張るにゃん。歩くのは良い事にゃん。空の雲もきれいにゃん」

 ニャンは小さい雲を指差す。レテもその方向を見る。

「雲が流れている。空中都市もあのくらいの高さを飛んでいたのかな。あそこからずっと地上を眺めている。気軽にリンリン森林に遊びに来られなくなるかな、ずっと貴族や王族、街のみんなと一緒だと息が詰まりそうね。地上が一番かな」

 レテがつぶやく。ネアスは前を見つめている。雲はレテの視界から過ぎ去っていく。新しい雲が現れる。

「でも、ずっと空を眺めているのも楽しいかもしれないわ。ここより近くで雲を見る事が出来るし、風も強く吹いているから楽しそうね。みんなは街にいるしかないけど私は地上に真っ逆さまに落ちるだけ。いつでもリンリン森林には来られる、帰り道は大変そうかな」

 レテはネアスに話しかける。

「レテ様、準備が出来ました。早く来てください、おやつの時間です。早いもの勝ちです、勝負の時間です」

 ミヤが二人に声をかける。

「また勝負にゃんか、大変にゃんが勝つにゃん。ニャン族代表にゃん、負け越しはダメにゃん。勝ちを先行させるにゃん」

 ニャンは首の鈴を握りしめる。

「急ぎましょう、ネアス。どちらかは絶対に勝つ、二人一緒に負けるのは許されないかな」


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