力の使い方
レテはネアスの手をギュッと握りしめる。彼女の手は灰色の部分まで到達する。レテは気にしないで力を込める。ネアスはガマンする。
「私はラトゥールの風の力で片方の腕を折るわ。食事は取れるから健康的。買い物も出来る。足はダメかな、お昼寝し放題になるわ。私より楽な生活はしちゃダメね」
レテはネアスをからかう。
「指の骨を折って、三回に一回ララリを吹き飛ばすのはどうでしょうか。これならツライ生活が待っています。反省するハズです」
ミヤもネアスをからかう。彼は焦る。
「折るのはマズイ。騎士に捕まるし、後味が悪い。後で報復が待っている、それは避けないとダメだ」
ネアスは青ざめる。
「ニャンはどっちも本気でやるにゃん。折ってララリも吹き飛ばすにゃん」
ニャンは鈴を握る。
「お腹が減り過ぎたら復讐は出来ない。考えられているかな、協力者が食事を提供した瞬間にネアスの計画は破綻するわ。その対策が必要かな」
レテはネアスの手を離さない。
「お腹の中に風を吹き込めば食事が出来ません。完璧です!」
ミヤはレテに自信を持って伝える。
「お腹いっぱいの風。想像が出来ない。シルフィーさん、少しだけ僕のお腹に風を吹き込んでください。やさしくしてください、お願いです」
ネアスはシルフィーのお願いをして口を大きく開ける。
「ネアス、ダメ。シルちゃん、ホントにちょっとだけ。ほんの少しよ。丁寧な仕事を期待するわ」
レテは追加でお願いをする。シルフィーの風がネアスの口の中に流れ込む。ネアスは思いっきり吸い込む。
「それではお腹に入らないです、ネアス様。息を吸い込んだら意味がありません。じっとしていれば良いんです。ネアス様、お願いします」
ミヤは大きく口を開ける。
「ニャンもお願いにゃん。気になるにゃん」
ニャンも大きく口を開ける。
「私も!一人だけが経験しないのは私の主義に反するかな。ネアス、お願い」
レテを大きく口を開ける。
「シルフィーさん、お願いします。同じ感じです」
ネアスはシルフィーにお願いする。三人の口の中に柔らかな風が吹き込む。レテたちは息を吸い込まないように注意する。
「お腹に入ったのかな、全然分からない!強くするのはコワイし、もっと簡単な方法を考えましょう」
レテは口を閉じる。
「何かを感じたような、何も感じなかった気もします。安全です」
ミヤは息を大きく吸い込む。
「精霊さんの力は難しいにゃん。ネアス様が上達したら教えてほしいにゃん、一緒にララリを飛ばすにゃん」
ニャンはネアスに希望を伝える。
「ララリを空に飛ばして遊ぶのか、大人の遊びだ。疲れが取れたら練習しよう、どこまでララリは飛んでいくんだろうか」
ネアスはレテの手を離してカバンに手を入れようとするが彼女は彼の手を握ったままだ。
「その勝負はダメ、ララリは大事。もったいないことはしちゃダメ。色々と買いたいモノもあるし、蓄ララリ、蓄ララリ」
レテはネアスの手を引き森に向かう。
「出発ですね。次はどこに向かうんでしたっけ、レテ様。忘れてしまいました」
ミヤはレテたちについていく。
「行ってからの楽しみのハズにゃん。ニャンは覚えているにゃん」
ニャンは最後尾に付く。
「僕も大事な事を忘れている気がする。レテが何かを教えてくれるハズだったけど思い出せないって事はどうでも良い事かもしれない」
ネアスはレテと一緒に森に入る。
「全部話したと思うわ。私のかわいさの秘訣とミヤのカバンの中身については元々話すつもりはなかったかな」
レテはミヤを見つめる。
「すっかり忘れていました。次の場所でお渡しします。ネアス様、ニャンさん、期待していてください」
ミヤはそっとカバンに触れる。
「ニャンも用意しているモノがあるにゃん。これは良いモノにゃん」
ニャンは笑みを浮かべる。
「僕は何も準備していなかった。イヤ、あれがあるけど必要ない」
ネアスはへこむ。
「気にしない、気にしない。それぞれ得意な事は違うわ。それより耳を澄ませてみて、何の音か当ててみてね。簡単、簡単」
レテは立ち止まる。他の三人は音を立てないように注意する。水が流れる音が聞こえてくる。誰も答えを言わない。
「どうしたの、みんな。答えは早いもの勝ち、賞品は私のかわいさの秘密。気になるでしょ、夜も眠れないハズ」
レテはネアスの手を握りしめる。彼は耐える。
「二人が間違った後に答える。レテのかわいさは僕にはマネできない。剣術の上達するコツだったら最初に答えていたかもしれない。それで間違っていた」
ネアスは警戒している。
「引っ掛け問題の可能性は高いです。この一番大きい音は無視するべきです。個人戦でよろしいですよね、レテ様」
ミヤも慌てない。
「ニャンは正解が分かったにゃん。答えは言わないにゃん、簡単にゃん」
ニャンは優越感を持つ。
「誰も答えを言わないみたいね。牽制はダメ、勝負は一気に決める。私も一緒に答えを言うわ。ヒントは今、私がしたい事に関係があるわ。合図はシルちゃんにお願いしようかな」
レテは精神を集中させる。ネアスはレテの変化を感じる。
「不思議な感覚だ。レテが遠くに行った気がする。今まで近くにいたのかも分からない。元々遠くだったような気もしてきた」
ネアスはつぶやく。
「魔力を使う時は精神を研ぎ澄ました方が強い力を発揮出来るそうです。私も本格的に魔力を使う神官の秘技の訓練はしていないので知識だけです」
ミヤが答える。
「分かるんだ、ネアス。私も魔術師の先生にサポートしてもらって魔力の使い方を教えてもらったわ。遠くに行く、そうかもね」
レテは精神をさらに高めてみる。
「レテがどこかに行ったみたいだ。おもしろい、レテの手の感覚がある。キミはどこに行ったの。僕には探せない」
ネアスは目を閉じる。
「二人の手が光っているにゃん。すごいにゃん、ラトゥールの末裔の力にゃん。何が起こるにゃん。お願いをするにゃん!ニャンはレテ様とネアス様とずっと仲良しにゃん。困った時は助けてもらうにゃん」
ニャンは祈る。
「もう叶っている願いを言っても仕方がないかな。私はニャンがいないと気軽にニャン族特製お菓子を買えないから、ずっと仲良し。ネアスはどこにいるのかな」
レテは精神を研ぎ澄ます。彼女は小さい力を感知する。レテは気づかれないようにその力に近づこうとする。小さい力は同じ場所に留まっている。彼女は一気に距離を詰める。
「ヒェ、ヒャ、ヒョ?!」
ネアスは悲鳴をあげる。
「大丈夫ですか、ネアス様。どうされたんですか!何も起きていません、落ち着いてください。私のお願いもニャンさんと同じです。ずっとレテ様とネアス様と仲良しです」
ミヤもお願いする。
「ミヤはダイジョブ、ダイジョブ。私のイタズラ仲間でネアスの師匠。彼を私の対戦相手兼相棒に鍛えるのはミヤの役目。ガンバロ、ガンバロ」
レテはシルフィーに願いを込める。リンリン森林に心地よい風が流れる。リンリンの声が鳴り響く。
「レテがどこにいるのか全く分からない。近くにいたハズ。隣にいたと思っていたんだけど、どういう事だ」
ネアスは目を開ける。隣ではレテが笑っていた。
「ここにいるわ、そばにいる。おもしろいね、遠くにいる気がする。でも、私は近くにいた。それでも私はキミに近づこうとする」
レテはネアスの手をやさしく握る。
「ラトゥール、お願い。力を貸してくれるかな。気分が良いわ、ネアスの魔力は使っちゃダメ。私の分で充分、充分」
レテがラトゥールに呼びかける。風に光が交じる。
「合図はどこにゃん、今にゃんか!答えはいつ言うにゃん」
ニャンは焦る。
「別の音も大きく聞こえています。答えは変わってないんですよね、レテ様!」
ミヤは森の様子を大きく目を開けて眺めている。
「やはり、引っ掛け。そんな状況じゃない。レテは近くにいるのを感じない。謎が大きい、僕の力が足りない」
ネアスはレテの手を強く握りしめる。
「ネアスは新米精霊使い。私は先輩、先輩。そう簡単には抜かされないかな。キミの最初の試練は私を見つける事。決まったわ、毎日ビシビシ訓練するから期待していてね。寝坊は禁止、禁止」
レテは近くに流れる川に光の風を吹きつける。大きな水しぶきの音が聞こえる。
「水、川、湖、レテ!」
一斉に全員が答える。レテは精神を緩める。光の風は弱まっていく。
「間違い探しの時間かな。見当外れの答えが混じっていたわ。一人は確定、後は誰なのかな。楽しみ、楽しみ」




