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灰色の手

 レテはネアスの灰色の液体が付いた手を見つめる。液体はカタカタふるえている。レテは本当にネアスに悪い事をしてしまったと感じる。彼は森の奥を見ている。

「ネアス、怒っても良いのよ。レテのせいだ、責任を取って欲しい!カバンの中の金ララリで解決しよう。僕にはララリが必要だってね」

 レテはネアスに交渉を持ちかける。

「レテ、キミは気づいていないけどリンリン草が取り憑いていたんだ。レテのせいでもリンリン草が悪い訳でもない。これは僕の問題だ」

 ネアスはレテを見つめる。

「レテ様、もうこの話は止めましょう。面倒です。後はお二人の問題です。灰色の手をどうするかを考えましょう」

 ミヤはしびれをきらす。ニャンもうなずく。

「ネアス様の考えは一日経たないと変わらないにゃん。明日になれば別の事を考え出すから心配ないにゃん。ニャンは知っているにゃん」

 ニャンはレテを説得する。レテはうなずく。

「何となくだけどそんな感じはするかな。明日までは不幸の草の話はしない方が良いみたいね。次の目的地に向かいましょう。あっち、あっち!」

 レテは来た道の反対の方向を指差す。

「僕はレテのように切り替えが早くない。リンリン草はすごい力を秘めている。ゴブジンセイバーも同じハズだ」

 ネアスは答える。

「切り替えは出来てないわ、ネアス。ガマンしているだけ、ホントはネアスに手を口の中に入れて舐めてほしい。何が起こるのか気になって仕方がない。でも、そんなお願いは出来ない。ヒトとしてイケない事?!」

 レテは本音を口にする。

「レテ様、過激です。それはイケません。その通りですが気になってきました。何も起きないです。大丈夫です。液体はニャン族特製小ドリンクです。変なモノは混じっていません」 ミヤの好奇心が刺激される。

「混ぜたら色は灰色になるにゃん。どうして手から流れ落ちないにゃん、不思議にゃん。舐めたら舌に引っ付くにゃん。コワイにゃん」

 ニャンはレテの指差す方法に進もうとする。

「ネアスは味覚がないからダイジョブ、ダイジョブって感じはダメ。これは不幸な出来事、ウウン、幸運な出来事のハズはないかな」

 レテは混乱する。

「レテも決めかねているのか。灰色の手、白にも黒にも属さない存在。僕は誰の側にも立たない。それを暗示しているのか?」

 ネアスは手を見つめる。

「ネアス、考え過ぎ!ニャン族特製小ドリンクよ。商売がうまくなるのかな、銅ララリをたくさん稼げるようになるわ」

 レテは笑みを浮かべる。

「材料費を考えるとレテ様の予想は正しいかもにゃん。銀ララリを稼ぐドリンクではないにゃん。高価なドリンクをあげれば良かったにゃん」

 ニャンは立ち止まる。

「銅ララリを稼ぐ灰色の手。ネアス様はララリになりそうなモノはお持ちではありませんか。混ぜれば効果が上がると思います」

 ミヤは適当な事を言う。

「この手でカバンに触れたくはない。中にはマリーさん特製ドリンクは、魔力の泉で汲むための空の水筒。後はない」

 ネアスは秘密を明かさない。

「風の神殿特製ポーション!使うべき時が来たかな、亡霊さんは水が好き、ドリンクも好き。すなわちポーションも大好き」

 レテはカバンからポーションを取り出す。

「もったいないです、レテ様すぐさま魔力が回復する風の神殿特製ポーションです。もしもの時のために取っておくべきです」

 ミヤは反対する。

「初めて見たにゃん。噂のポーション。とっても貴重な薬草が入っているにゃん。作り方も難しいって聞いたにゃん」

 ニャンはポーションを観察する。

「レテが魔力を使い過ぎた時に使うべきだ。僕は黒でも白でもない存在。風の神殿特製ポーションは似合わない」

 ネアスは気に入ったようだ。

「私はきれいでやさしくてかわいい!私のやさしさを奪う事は黒でも白でもない存在でも出来ないかな。私は決めた。賛成一」

 レテはネアスに付き合う。

「ニャンは反対にゃん。その使い方ならニャンが売ってララリにするにゃん。二人で買い物すれば良いにゃん。楽しいにゃん」

 ニャンはマトモな意見を述べる。

「盗賊だと勘違いされます、ニャンさん。他の騎士様に捕まってしまいます、レテ様が近くにいなかったら大変です。反対二です」

 ミヤは意見を変えない。

「僕はレテに逆らえないじゃなくて、無理して反対しないでもなくて、混ざっても事態は変わらないと思うからレテがどうしてもって言うなら賛成だ」

 ネアスはすぐに折れた。

「二人とも貴重な意見をありがと、風の神殿特製ポーションはネアスが疲れた時に使おうかなって思っていたの。でも、使い過ぎはダメみたいだし、あんまり今日は回復していないかな。私が飲んでも良いけど……」

 レテは考えるふりをする。三人は黙って見守る。

「どうしてもネアスの灰色の手を治してあげたい。その方法があるなら何でもしたい、可能性はある。私はそう思うかな」

 レテはネアスを見つめる。

「今の僕は不幸な状態だ。自業自得だ。それは事実だからレテの気持ちは受け取れない。良くない結果が起こりそうだ。反対三!」

 ネアスはレテの意見を聞いて心を変える。

「私もそう思います。レテ様の気持ちは本物です。それでも急ぐのはダメです。ドロスさんに相談しましょう。今の所は害がなさそうです」

 ミヤはカタカタふるえている灰色の手を見つめる。

「決まったにゃん、出発進行にゃん。ニャンは薬草をたくさん採取できたから満足にゃん。ララリの稼ぎ時にゃん」

 ニャンはパンパンのカバンを叩く。

「ふ~ん、私の直感は風の神殿特製ポーションを使うべきだって告げているわ。幸運の女神様のアドバイスを聞かなくても良いのかな、ネアス。お願いって言えないの、ネアス!」

 レテは直感を感じていない。

「レテの直感、幸運の女神、灰色の手、不幸の草、お願い。分からない」

 ネアスは混乱した。

「やるんですか、レテ様。私はちょっと離れます。賛成二です。ニャンさんも賛成で三。レテ様、お願いします」

 ミヤはあきらめる。レテは微笑む。

「風の神殿特製ポーション。ステキな効果しかないかな、ネアス。暴れちゃダメ、動かずにじっとしているのよ。一、二、三!」

 レテは合図をする。ネアスはじっと待つ。レテはなかなかポーションを灰色の手にそそがない。

「レテ、合図は四、五、六なのか?」

 ネアスは尋ねる。

「七、八、九、しっかり頑張るのよ、ポーション!」

 レテはネアスの灰色の手に風の神殿特製ポーションを注ぐ。ネアスの手に液体がまとわりつく。灰色の外側を透明な液体が覆う。彼は指を動かす。

「失敗だ。風の神殿特製ポーションは無駄になった。ごめん、レテ」

 ネアスは指を動かし続ける。液体は一緒に動く。

「ちょっと放置しましょう、失敗か成功かを判断するのは早いかな。透明だから安全そうね。灰色はイマイチかな」

 レテはネアスの手に触る。ひんやりする。彼女はすぐに手を離す。彼女の手は汚れていない。

「少し成功しました。その手なら扉を開けても問題ないです。風の神殿特製ポーションは効果がありました」

 ミヤは驚く。

「黒でも白でもない透明な存在にゃん。ネアス様にピッタリかは分からないにゃん。どうにゃん?」

 ニャンはネアスに問いかける。

「透明はレテが似合っている気がする。僕は黒に近づく時もある。石職人さんたちをラトゥールの力でやっつけようって昨日起きた後に考えてしまった。マリーさんの事で忘れてしまったけど……」

 ネアスは灰色の手を見つめる。

「ネアスもそう思っていたんだ。私は騎士だからガマンしないとイケないけどネアスは冒険者。気にせずにやっちゃっても良いよ。何事も経験、経験!必要な時のための予行演習も大事かな」

 レテはネアスの手を軽く握る。灰色の部分まで到達していない事を確認する。

「何もお咎めなしはヒドイです。誰かがやっつけても問題ないです。神官長には秘密です。建物は別です」

 ミヤは賛成する。

「ニャンの聞いた話だとストーンマキガンの街に犯人はいないらしいにゃん。ギンドラの街に逃げたみたいにゃん。あそこは隠れる所がたくさんあるにゃん。冒険者も依頼で忙しいから素性までは詳しく確認しないにゃん」

 ニャンは三人に伝える。

「ラトゥール、キミはどんな力でヤツラを倒すんだ。僕は風の力でララリを飛ばして買い物が出来なくする事を考えた。カバンから銅ララリを出すとどこからともなく風が吹く。毎回だ。ヤツラは買い物が出来ないから飢えてしまう。やり過ぎだな」

 ネアスは昨日考えていた事をレテに伝える。彼女はびっくりするが大きくうなずく。

「確かにかわいそうね、もう少し穏やかな方法を考えましょう、ネアス」


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