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カタカタ

 レテはネアスに話しかけた後にカバンをモゾモゾする。カタカタと動いているニャン族特製ドリンクを取り出し、フタを開ける。彼女はミヤにそっとふれる。ミヤはレテたちから距離を取る。

「目が覚めた瞬間にきれいでやさしくてかわいい私が目の前にいる。私が絶対に体験できない事!うらやましいかな、ネアス」

 レテはネアスを油断させようと頑張る。

「ドキドキします。ネアス様、期待してください」

 ミヤはレテに協力する。ニャンは黙々と薬草を集めている。

「レテはいつでもきれいでやさしくてかわいいから関係がない気もするけど、よし!お昼寝をするから待っていて、レテ」

 ネアスは本気で眠ろうとする。

「今日は練習、練習。機会はまたあるわ、その時のために完璧な準備をして起きましょう。ネアス、起きなさい。まだ、起きちゃダメ!寝起きが悪いネアスくん」

 レテは瓶を振ってみる。カタカタは止まらない。

「誰かそばにいるの、レテ。この合図で目を開けてください、起き上がりますか、レテ様」

 ミヤはレテに確認する。

「目は開けない方が良いかな。起き上がっちゃダメ!さあ、ネアス」

 レテは合図する。

「誰かそばにいるの、レテ!うわ、冷たい」

 ネアスの言葉でレテはニャン族特製ドリンクの中身をネアスの顔に落とす。サラサラとした液体が彼の顔にかかる。

「ネアス、ゴメンね。間違ってこぼしちゃった。ビックリしたかな」

 レテはわざとらしくネアスの心配をする。

「亡霊さんの瓶です。大丈夫ですか、ネアス様!」

 ミヤはネアスに止めを刺す。彼は急いで顔を手で抑える。彼の手にサラサラの液体が付く。カタカタ震えだす。

「レテ、ミヤ、なぜ!亡霊だ!危険だ!イタズラでは済まない!」

 ネアスは起き上がり目を開けて、手を見つめる。灰色に染まってカタカタ動いている。

「ここまで何も起きてないかなダイジョブかなって思っちゃった。刺激は大事、大事。お昼寝と同じくらい大事かな。ダイジョブ、ダイジョブ。私がそばにいるわ」

 レテはネアスと距離を置く。

「レテ様は幸運の女神様です。ネアス様は何も心配する事はありません。これはイタズラですがネアス様を輝かしい未来に導くハズです」

 ミヤはレテの後ろを回る。ニャンは騒動を無視して薬草を集め続ける。

「違う、リンリン草の呪いだ。レテの責任じゃない、僕が悪い考えを持ったからリンリン草が怒ったんだ。ヤメロ、ユルサナイ、同胞を摘み取るな。僕に対する警告だ?」

 ネアスは液体を振り払おうとするが手にくっついている。

「ソウダ、ワタシ、リンリン、ナカマヲマモル」

 レテは悪ノリする。

「ウソにゃん。リンリン草はしゃべれない。ニャンが取った量なら問題ないにゃん、間違いないにゃん」

 ニャンは薬草を集める手を止める。

「ニャンさんは大丈夫です。神官見習いの私を信じてください」

 ミヤはややこしくならないようにニャンに伝える。ニャンはレテとネアスを見つめる。

「オマエ、ワルイ、ケンショウ」

 レテは演技を続ける。

「マズイな、頼りになるレテがリンリン草に乗っ取られた。ラトゥール、力を貸してくれ。レテに偉大なるラトゥールの加護を!」

 ネアスは焦り、救いを求める。弱々しい光の風が彼を包み込む。

「刺激が強すぎたようです。リンリン草さん、お願いします」

 ミヤは小声でつぶやく。

「ネアス、ゴメンね。私は大丈夫、ネアスにも偉大なラトゥールの加護を!」

 レテは強い光の風で包まれる。彼女は液体がついていない顔に触れる。ネアスの光の風が少し強くなる。

「ラトゥール、ありがとう。すぐ帰ってください、魔力が尽きたようだ」

 ネアスは再び横になる。手には灰色の液体が付いたままだ。

「ネアス様、ごめんなさい。全部ウソです。リンリン草の亡霊はいません。イタズラが過ぎました。私の悪いクセです」

 ミヤはネアスに謝る。

「そうだと思ったにゃん、びっくりしたにゃん。女の子は難しいにゃん」

 ニャンは集めた薬草をカバンに詰め始める。

「ミヤは私に付き合っただけ、関係ないわ。私の責任、責任。どうしてもガマン出来なくなる時があるの、怒ったかな、ネアス」

 レテはネアスに問いかける。

「レテはリンリン草の亡霊に取り憑かれていた。僕は目撃した。僕はたくさんのリンリン草を集める計画を練った。悪いのは僕だ。僕がレテを危険にさらしてしまった」

 ネアスは手を見つめる。カタカタが止まらない。

「違うわ、ネアス。その話を知っていたから私はネアスをだまそうとしたのよ。リンリン草が不幸の草は別問題かな」

 レテは間違いを訂正する。

「ユルサナイ、リンリン、私も出来ます」

 ミヤがレテを援護する。

「違う、迫力がない。僕はリンリン草の力を感じた。彼らは怒っていた。そうだろ、リンリン草さん?」

 ネアスが呼びかけると風が吹く。ニャンの薬草がネアスに飛んでくる。リンリン草も混じっている。

「偶然、偶然。たまたまかな、リンリン森林で風が吹いていない方がめずらしいわ。リンリン草もたくさん生えているかな」

 レテは近くのリンリン草を抜き取る。

「ユルサナイ、リンリン、レテサマ」

 ミヤは遊ぶ。

「今度はミヤがリンリン草に取り憑かれたのか?僕はラトゥールの力は使えない、どうする、レテ」

 ネアスは起きあがる。レテは隣に座る。

「落ち着くにゃん、ネアスサマ、ユルサナイ、リンリンニャン」

 ニャンも遊ぶ。

「みんな、リンリン草に取り憑かれたみたいね。ネアスもやってみたら?楽しいかな、ユルサナイ、リンリン」

 レテはネアスに微笑みかける。

「ユルサナイ、リンリン。レテは気づいていないけど、今のレテはいつものレテだ。さっきのレテとは違う。取り憑かれていたんだから当たり前だ」

 ネアスの疑惑は消えない。レテは彼の手を取ろうとするが止めて、髪飾りに触れる。

「まっ、元に戻ったしリンリン草もたくさん取る計画もなし。めでたし、めでたしかな。少し休んでから最後の目的地に向かいましょう」

 レテは王都を見つめる。

「計画は遂行する。中止はない、リンリン草を集めて検証はする。これは僕の役目だ、誰かが犠牲にならないとイケない。すでに呪いにかかっている僕が適任だ。レテに迷惑はかけない。一人の時に実行する」

 ネアスはレテに決意を述べる。レテはうなずく。

「レテ様、ダメです。ネアス様は本気です。私はネアス様を見くびっていました」

 ミヤが本音を伝える。

「ネアス一人で不幸の力を発揮するほどのリンリン草を集めるのは不可能かな。ニャンが今日集めた薬草の二十倍は必要ね。私が聞いた話だと商人は人を雇って大量に集めたらしいわ。一人では無理、無理」

 レテは無慈悲に告げる。

「安心したにゃん。マッスルニャンダドリンクはそこまで売れないにゃん。作るのも大変にゃん。もっと稼げる商品を見つけるにゃん」

 ニャンのカバンはギューギューだ。

「シルフィーさんの力を借りれば何とかなる。この計画は必ず実行する。シルフィーさんは分かってくれるわ」

 ネアスはシルフィーに語りかける。穏やかな風がネアスたちを包み込む。ネアスはさらに疲れる。

「ネアスさん、真っ青です。精霊さんの力を使うのは止めてください。シルフィーさんは賛成ですね。賛成二、反対二です」

 ミヤはレテを見る。

「無理し過ぎ、ネアス。キミは精霊使い初心者、何年も訓練が必要かな。今日はこれでオシマイ、先輩のアドバイス。ニャンも反対でしょ」

 レテはニャンをにらみつける。

「反対にゃん、不幸はイヤにゃん。幸運が一番にゃん」

 ニャンは急いで答えた。

「賛成二、反対三。シルちゃんも理解してね、ネアスは休憩の時間。良い景色、ゆっくりしていきましょう。何も急ぐ必要はないかな」

 レテは危うくネアスの手を取ろうとしてしまう。彼女は自分の髪に触れる。

「私は薬草取りを手伝います。にゃんさん、任せてください」

 ミヤが立ち上がる。

「手を洗いたいな。どこかに川は流れていないかな、レテ。森にはきれいな水が流れているハズだ。灰色の液体もリンリン森林が気に入ると思う」

 ネアスは立ち上がる。レテは手を貸さない。

「水が好きな亡霊さん、こっちに戻ってきてくれないかな。ステキな瓶があなたを待っているわ。さびしそうね」

 レテはニャン族特製ドリンクの空瓶をネアスの手に近づける。変化はない。

「かわいい小さい瓶です。やさしくしてあげてください、水が大好きな亡霊さん。こっちに戻って来てください」

 ミヤも語りかける。カタカタしている。

「ニャン族特製ドリンクの瓶にゃん。作り方は教えられないにゃん。ニャンもこっちに戻った方が良いと思うにゃん。お願いにゃん」

 ニャンも呼びかける。ネアスの手は灰色のままだ。

「ガンコね、ストーンマキガン特製クッキーみたい。女の子には人気は出ないかな。私はあのクッキーはけっこう好きだけど……」


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