秘密作り
レテはネアスのカバンから特製たまごサンドを取り出す。ミヤとニャンもレテの近くに腰掛ける。さわやかな草の匂いが四人を包み込む。
「少し早いけどお昼にしましょう、途中でお腹が減るハズだから街に帰ったら軽い食事を取って解散かな。目的地は後一つ、楽しみにしていてね」
レテは特製たまごサンドを手渡してあげる。
「ありがとうございます、レテ様。頂きます、良い香りです」
ミヤは特製たまごサンドを大きく口を開けて食べる。
「オイシイです、短時間でこんなに美味しく作れるんですね。風の神殿特製パンの硬さがクセになりそうです。たまごもとってもオイシイです」
ミヤはドンドン口に運んでいく。
「オイシイにゃん、ネアス様は幸せ者にゃん。早く呪いが解ける事を祈るにゃん。オイシイにゃん」
ニャンも美味しそうに頬張る。レテはネアスを見つめる。
「オイシイハズだ。味はしないけどレテの手料理さ。大事に食べる事にする。正解が分からない、レテ」
ネアスはレテに助けを求める。彼女は特製たまごサンドを口にする。
「オイシイ、たまごが最高かな。風の神殿の屋上に住んでいる鳥さんたちは特別な種類なのかな。私の目にはいつものカザトリに見えたわ、オイシイ!」
レテは満足げだ。
「そうだ、レテ。どうして僕が屋上の扉を開けなきゃイケなかったかを教えてほしい。すっかり忘れていた」
ネアスは思い出す。レテは首を振る。
「食事の時間、後にしましょう。次の場所で教えてあげるわ。せっかちな男の子はダメ、余裕が大事、大事」
レテはごまかす。
「屋上のカザリトリさんいはいつも新鮮なたまごを頂いています。取ってくるのは神官長の役目です。私はたまにしか行かないので詳しくないです」
ミヤは特製たまごサンドを口に含みながら答える。
「ニャンもたまごは専門外にゃん。王国でたまごは商売にならないにゃん。どこの家の屋上でもあるにゃん」
ニャンは一つ目を食べ終える。レテは二つ目を手渡す。
「私はいつでも作って食べる事が出来るから二人ともいっぱい食べてね。ネアスは味覚がないから呪いが解けたら、たくさん作ってあげようかな」
レテはミヤにも二つ目を手渡す。彼女は喜んで受け取る。
「ガーおじはどうしてオイシクないって言ったんだろう。ミヤの話だとこの前とは味が違うみたいだ。気になってきた、別の事を考えよう」
ネアスはカバンから日記を取り出す。
「この間の特製たまごサンドは大人の味かな、ガーおじには手の届かない味だったかもね。急いで作った割には独特で良い味だったかな」
レテは四十七号の味を思い出そうとするが上手くいかない。
「レテ様、どうしたんですか?今後について不安な事があるんですか、私で良ければ相談に乗ります」
ミヤはそう言いながらもネアスの日記が気になるようだ。
「ごちそうさまにゃん。ニャンは薬草を集めて来るにゃん、今日は良い日にゃん。レテ様とネアス様のおかげにゃん」
ニャンは近くで薬草採取を始める。カバンはパンパンになりそうだ。
「キャビの事だ。キャビもレテの特製たまごサンドがキライに違いない。レテは不安なのさ、同じ舌を持つ男だ」
ネアスは確信する。日記は横に置く。レテは日記を奪い取る、
「それはないかな、日記には何が書いてあるのかな。恥ずかしい事は書いちゃダメ、別の日記帳を用意するのよ」
レテはページをめくる。
「構わないけど、レテの期待に沿えるような事は書いていない。日記は個人的なモノさ、誰かに読んでもらうようには書いていない」
ネアスはカバンから小さい風の槍を取り出し、握りしめる。
「私も気になります、レテ様。失礼致します、個人的なって良い響きです」
ミヤは日記帳をのぞきこむ。レテは見やすいようにずらしてあげる。
「ラトゥールの末裔について。僕の考え。僕は鳥ではない、人だ。鳥の血が流れている人。僕は男だからたまごは産めない。小さくなった風の槍。焼き鳥の串にしたら便利かも。ラトゥール焼き鳥、マズイ。後で風の槍で指を刺してみよう」
日記は続く。
「ネアス、疲れているみたいね。今日は一緒にゆっくりしようね、元気になったらちゃんとした考えが浮かんでくるわ。面白い内容だけど、他の人には見せないでね。しっかりと厳重に保管する、約束、約束」
レテは日記の続きを確かめる。
「レテ様の言う通りです。最後まで行きましょう、秘密です」
ミヤは小さい声でつぶやく。
「ネアス焼き鳥、焼き鳥ネアス。ラトゥールセイバー、ラトゥールの末裔の風の槍の力を示してやる。焼き鳥スラッシュ。たまごの力、呪いのたまご、ガーおじ」
日記帳は終わる。
「ガーおじの事も書こうとしたんだけど飽きたんだ。前回よりは成長している。問題はない、僕の力は増している」
ネアスはレテを見つめる。レテは微笑む。
「良い感じ、良い感じ。自由で良いかな、今度はもっと成長した日記を読めるのね。楽しみ、楽しみ」
レテは笑顔でネアスに日記帳を返す。彼女は代わりに小さい風の槍をうばう。
「ネアス様はこれからです。レテ様のアドバイスに従えば立派な騎士になれます。二人の風の力で全てをふっ飛ばします」
ミヤは微笑む。
「僕らは聖騎士だ。三人の聖騎士が世界を救う事も出来た。ガーおじは聖騎士ではなかった。キャビが代わりに選ばれた。日記には書けなかった」
ネアスはなんとなくミヤに伝える。
「聖騎士は三人以外もいるからネアスは自分で見つけてね。直接聖騎士ですかって聞いたらダメかな。ツマラナイのはイヤ、ふんわりと探してね」
レテがネアスに注意する。
「私も聖騎士探しに参戦します。レテ様、ネアス様、キャビ様、シグード様は有力な候補です。それに冒険者にもいらっしゃるんでしょうか?」
ミヤはレテに問いかける。
「シグード様に会う機会はないから聖騎士全員が集う事はないのか。レテが団長でシグード様は副団長になるのか。恐ろしい、レテは王族の上に立つ人なのか!」
ネアスは驚愕する。
「ネアス、シグード様の聖騎士と私の聖騎士は違うかな。ミヤも私とネアス、いなくなったガーおじの共通点を探し出すのが一番、一番。シグード様の事は忘れてね」
レテはミヤにお願いする。
「三人は一緒です。一緒と言う事は歩幅が同じなのでしょうか。歩く速さが同じ人たちの集まり。レテ様の聖騎士団です」
ミヤは予想する。
「レテの速さに僕たちはついていけない。どうしてレテは僕と一緒にいるんだろう。イライラしない?早く目的地に着きたいハズだ」
ネアスは疑問を口にする。レテは微笑む。
「私は急いでどこに向かうの、ネアス?」
レテはネアスに問いかける。ミヤは二人を見守っている。
「目的地に一番乗りをして、お昼寝をするのさ。疲れたら眠るのが一番だ。疲労は判断力を鈍らせる。お昼の後は眠くなる」
ネアスは横になり、空を眺める。上空では鳥たちが羽ばたいている。
「みんなで一緒にお昼寝した方が楽しいかな。起きた時に誰かがそばにいてくれるにはステキな事、ネアスもそう思うでしょ」
レテもミヤの手を取って横になる。彼女はネアスと同じ景色を眺める。
「僕は寝起きが悪いから迷惑を掛けそうだ。ぼんやりして、フラフラするんだ。起きた時の事はあんまり覚えていないから、ありがたみが少ない」
ネアスは目を閉じる。リンリンの音が聞こえる。
「誰かが起こしてあげないとダメかな。寝起きに大事な事件が起きたら大変、大変。しっかかりと記憶してくれる誰かが必要ね」
レテも目を閉じる。風の吹く音が心地よい。
「ミヤはどんな人を好きになるのかな。すごく気になるわ、かっこよくてやさしくて強い人、それともおもしろくてやさしくて頭の良い人かな」
レテはミヤに問いかける。
「私はレテ様とネアス様を見て勉強します。お二人はお似合いです。私は応援します」
ミヤは答える。彼女は二人の顔をのぞきこむ。
「レテもお昼寝が好きみたいで安心した。昨日もずっと街中を動き回っていたみたいだから寝る事がもったいないと思っていると感じていた。僕はお昼寝が好きだ、今日みたいな良い風の吹いている日は良く故郷の森で空を眺めて眠っていた」
ネアスはレテに伝える。
「昨日私は働きすぎ、ネアスはお昼寝のしすぎだったかな。色んな所に出かけるのも好きだけど、こんなふうに静かな時間を過ごすのも、好きよ、ネアス」
レテはネアスに伝える。ミヤは顔が赤くなり、目を閉じる。
「そうだね、僕もレテと勝負をするのが楽しい。次はどんな勝負をしようか、僕が勝てそうなモノにするかレテにも難しいモノにするか。ワクワクする、対戦相手はなかなか見つからないから今は楽しい」
ネアスが答える。
「私も考えておくわ。キミがけしかける方が多いから私の反撃の開始かな。ここからは一敗もしないから覚悟して、ネアス」
レテは目を開ける。空は同じ景色が広がっている。彼女は彼を見つめる。
「起きた時に誰かいる事、想像できない。いつも僕は一人で目を覚ましていた。寝過ごす事も多かった。特に問題はなかった」
ネアスは目を閉じている。
「早起きも楽しいですよ、ネアスさん。鳥さんたちは元気ですし、風がひんやりしています。今日の朝はどうでしたか?」
ミヤはネアスに問いかける。
「今日は早起きというよりもあんまり寝なかったって感じだ。昨日は眠りすぎた、精霊伝説を夜に読むと興奮する」
ネアスは答える。
「想像するより経験するのが早いかな。目を開けてみて、ネアス!」




