お姉さんの続き
レテたちは森の木々に遮られてミヤたちの姿が見えなくなる。光の風が奥に続いている。ネアスは笑みを浮かべてしまう。彼女はそれに気づく。
「ネアス、あそこを抜けたらすぐ、すぐ!」
レテは一度立ち止まる。ネアスは急に止まれず転びそうになるがレテが引っぱる。
「レテの森を走る速さでは近いと思う。でも、僕やミヤにとってはかなり距離があるハズだ。レテが僕に休憩させてくれているのが何よりの証拠だ」
ネアスはレテの手を握りしめる。
「良い推理かな、ネアス。私はキミたちをだまして遠くまで歩かせる。疲れ切った所で大事なモノをうばう。私は実はレテではない」
レテはネアスをからかう。
「僕はだまされない。キミはレテさ、手を握れば簡単に分かる。僕はレテの手の感触を覚えている。女の子と手を握るには初めてだったし、それ以外は秘密だ」
ネアスは強く握られないか警戒する。
「そうなんだ?私も貴族の男を任務で手を引いてあげた事があるけど、こっやってリラックスするのは初めてかな。手の感触の違い、私は意識してなかったわ。貴族、貴族、初めて?!」
レテは貴族に怒りを感じてネアスの手を強く握る。ネアスはガマンする。彼女はすぐに手の力を緩める
「何でもない、イヤ、その?」
ネアスは急に意識してしまう。
「どうしたの、ネアス。モテない気持ちが蘇ってきたのかな。慣れるまで待っていてあげるからダイジョブ、ダイジョブ」
レテはネアスを安心させようとする。彼は真っ赤になる。
「僕の秘密。さっきの話の続きだ、レテは正解を導き出すのに時間がかかるハズだ。もう一つの勝負だ。レテの手の秘密だ」
ネアスは照れ隠しに勝負を持ちかける。レテは笑顔で応じる。
「面白そうね、手に触れただけで私だって分かる。しかも短期間でネアスは学んだ、回数だって少ないかな。ネアスは数えていたでしょ?」
レテは期待してネアスに問いかける。
「僕も数えていない。違う、どこから手を握るって言うか僕には出来ない。少し手が触れ合う事も回数になるかもしれないとなると数が増える。数えないとイケない」
ネアスは軌道修正する。
「そんな場面あったかな、ギュって握っていたと思うわ。ネアスがそう言うなら、そっと触れ合った瞬間も数えてね」
レテは一度手を離して、そっと手の甲を彼の手に当てる。彼女は改めてネアスの手を握り直す。彼はもっと赤くなる。
「そうさ、そうだね、こんな感じだ。ふとした瞬間にレテの手を感じていたのさ。僕はモテないから細かい事を重要視するのさ」
ネアスは本当にあったかどうか思い出そうとする。記憶の糸は途切れている。
「ネアスはちゃんとしているのね。私は雑だったかな、これからは一つ一つを大事にしていこっと。シルちゃん、面白いね」
レテがシルフィーに呼びかけると強風が巻き起こる。木々がざわめく。
「シルフィーさんが怒っている。僕は悪い事をしたんだ、何だ?」
ネアスは混乱する。
「シルちゃんは怒らないわ。興奮しているのかな、理由は私にも分からないわ。怒りに目覚めたシルちゃん、この程度では済まないと思うわ」
レテは強風を気持ちよく受け止める。
「あんなに大きい竜巻を二人で作れるんだ。当たり前か」
ネアスは納得する。
「レテ様、ネアス様。良い景色です。早く来てください、今日はピクニックです!」
ミヤは二人がなかなか来ないのでヤキモキする。
「今日の夜までに手を握った回数を数えていてね、私はネアスの秘密の手の感触についての回答を出すわ。ちゃんと思い出さないとダメよ、手を抜いたら絶対ダメ!」
レテはネアスにキビシク伝えて彼の手を引いて森の木々の隙間を進んでいく。すぐに光が彼女たちの目に飛び込む。遠くに王都が見える。
「ここから見る王都が一番きれいかな。アーライト河と王城、貴族の邸宅も遠くから見ればきれい、きれい」
レテはミヤたちが王都を眺めている所に向かう。
「風の神殿もあります。王都の皆さんもラトゥール様のお話でもちきりでしょうね。人の姿までは見えません」
ミヤはじっと王都を見つめている。
「この場所まで王都の人たちと案内したら商売になりそうにゃん。こんな良い景色は初めてにゃん。ララリを払っても来る価値はあるにゃん」
ニャンは周囲を眺めている。
「人の足でここまで来るのは大変だ。ニャンの考えは素晴らしいけど冒険者を雇うララリをケチらないとイケない」
ネアスは座ろうとする。レテも一緒に腰掛ける。
「リンリン森林の案内人ね。騎士を辞めたら、みんなをここに連れ来てララリを稼ぐのも良いかな。ニャンにはアイディア料をあげるわ、当分先の話かな」
レテもニャンの思いつきを気に入ったみたいだ。
「シルフィーさんの風の散歩付きですか?たくさんララリが稼げそうです。大きなお家も建てられます」
ミヤは王城を見つめる。
「最初は貴族を案内する。金ララリを要求しようかな、それだけの価値はあるわ。稼ぎ切ったら銀ララリ数枚に値下げして、みんなを案内してあげようかな。安売りはダメ」
レテは構想を練る。
「レテ様は商売上手にゃん。貴族様のララリの使い方はニャン族も不思議に思っているにゃん。金ララリを出しそうにゃん。アイディア料が気になって眠れそうにないにゃん」
ニャンは商店が立ち並ぶ地域をじっと見つめる。
「貴族から巻き上げた金ララリからニャンさんに渡すのが良い。どのくらいが適切なんだろう、レテは毎日ここに貴族を運ぶ。ニャンさんは王都で貴族に説明をする、それとも一緒に来て案内をした方が良いかもしれない」
ネアスも加わる。
「言い方、ネアス!楽しませてあげるだけでも充分なのに、しかもきれいでやさしくてかわいい私が案内人なのよ。心からの感謝を込めて金ララリを貴族たちは私に渡すの、涙を受かべて喜ばなかったら追加料金かな」
レテは興奮してくる。
「金ララリを使い放題です。私も皆さんのお手伝いをします。ぜひ、声をかけてください。黙って始めたら恨みます。神官の秘技を使います」
ミヤもやる気だ。
「金ララリがたくさんあったら何に使おうかな。貴族に狙われないように気を付けないとな。いつの間にかにララリは貴族の所に戻るらしい、ニャンも知っている」
ネアスはニャンに確認する。
「儲けたララリは何故か失くなるにゃん。ニャン族の警告にゃん、ララリは注意しないと元の持ち主の所に勝手に帰ろうとするにゃん。ララリを引き止めるモノを発見しないとイケないにゃん」
ニャンが真剣に答える。
「貴族が盗賊ギルドと繋がっているって噂も一時期流行ったかな。ララリを溜め込みすぎると盗賊が押し入る。どこから情報が入ってきたのか、ララリを払った貴族様。でも、騎士団の本部がある王都で盗みは起きないかな。スリくらいはあるけど……」
レテは騎士団本部を見る。古くて地味な建物だ。
「王都は安全です。盗賊はいません、コワイ人が少ないのが王都の良い所です」
ミヤが答える。レテはうなずく。
「変な人は多いけど、危ない人は少ないかな。王様もやさしい人だから雰囲気が良いのかな。ララリは稼ぎにくいかな、貴族の相手は大変、大変」
レテは貴族の邸宅の方を見つめる。
「短期間に一気に稼ぐ必要があるな。疲れ果てる前にララリを手に入れる。後は自由に冒険だ。どこに向かおうか、王都もきれいだな」
ネアスは王都を眺める。
「ニャンは王都でお店を持つのが夢にゃん。行商人も好きにゃんが今時は一つの場所で商売をするのも認められているにゃん」
ニャンが夢を語る。
「世界中を旅するのがニャン族の使命だと思っていました。遠くの村までニャン族の皆さんは足を伸ばして商売をする、街には長く滞在しない」
ミヤがニャンを見る。
「遅い時間でも洞窟の前でもゴブちゃんの近くにもニャン族はいる。ララリは時と場所で変わってくる。面倒な所だと高く着くのよね、どうしてニャン族は騎士のいる場所が分かるのかな」
レテが疑問を口にする。
「秘密にゃん、ニャン族も苦労をしてララリを稼いでいるにゃん。レテ様相手でも教えられないにゃん。とっても大変にゃん」
ニャンが答える。
「僕の予想ではニャン族はジャンプ力が高いから屋根の上で話を聞いているさ。騎士団本部の屋根の上にはニャン族の住処がある。たまごと一緒にいるのさ」
ネアスは自信満々だ。
「ネアス様は色々と考えているんですね。私には思いつきません。ニャン族は道で見かける事が多いです。後はお店の前です」
ミヤが頭をひねらす。
「騎士団本部の上にも鳥の巣はあるわ。でもニャン族のお家はないかな、たまに屋根の掃除をするけど見かけた事はないわ。あんな開けた場所で隠れ家は無理かな」
レテは冷静に答える。
「みんなには分からないにゃん。安心にゃん」
ニャンはホッとする。
「僕の秘密を教えるからニャンさんの秘密も教えてほしい。秘密はこれから作るから、その時は情報を交換しよう。ニャン族の秘密にふさわしいモノを手に入れて見せる」
ネアスは目標を立てる。
「新しいネアスの秘密!誰も知らないのね、気になるけど今は存在していない。私も秘密を作ろうかな」




