精霊の剣
レテはゴブジンセイバーに手を触れる。何も感じない。ミヤもゴブジンセイバーに手を当てる。特に何も起こらない。ニャンが薬草の採取から戻ってくる。
「精霊の剣は物語の話よ。お姉さん神官さんは困ったんじゃないかな。しかも最後の部分に関わる大事なキーワードよ」
レテがネアスに尋ねる。
「子供の頃の話さ。お姉さん神官さんは僕の両手を握って目を閉じるように言った。僕が目を閉じるとお姉さん神官さんは祈りを込めてくれた。風が精霊の剣を運んでくれますように」
ネアスは答える。
「私もやってみたいです。巡礼の旅も良いかも知れません。覚えておきます、風が精霊の剣を運んでくれますように」
ミヤは祈りを込める。
「精霊伝説とは違う入手方法ね。風が精霊の剣を運んでくれますように」
レテも祈りを唱える
「ニャンも仲間にゃん。風が精霊の剣を運んでくれますように」
ニャンも祈る。
「ありがとう、みんな。ゴブジンセイバーは土に埋まっていた。風が運んでくれなかった。僕の予想はハズレかもしれない」
ネアスはレテの剣に手を当てる。
「精霊の剣は存在しないわ。どっちでも良いかな、そろそろ出発しましょう。ネアスの話は歩きながら聞きましょうか」
レテは周囲の様子を確かめると先頭に立ち、道らしい場所の前に立つ。
「不思議な場所だね。誰もいないハズなのに通り道がある。昔誰かがここを訪れていたのかもしれない。レテみたいな女の子だ」
ネアスは周囲の木々を眺める。
「薬草もたくさん生えているにゃん。一人では来られないのが問題にゃん。それでも助かったにゃん。ありがとうにゃん」
ニャンは木々にお礼を述べる。
「リンリン森林はステキな場所です。ここに住んだ方がいるんでしょうね。不便そうですけど楽しそうでもあります」
ミヤはレテの後ろについていく。
「ネアス、また、来ようね。その時はよろしくね!」
レテは森の中に消えていく。三人は彼女についていく。
「ちょっとだけ足場が悪い場所が続くから気を付けてね」
レテは三人に注意を促す。彼女が森の小道を進んでいくとリンリンの音が再び戻ってくる。鳥たちの声も鳴り響く。
「レテがいなかったら迷って大変な目に合いそうな所だ。良い経験になる」
ネアスは周囲を見渡す。森の木々が深くなり日の光を遮る。
「ニャン族の村の近くの森よりもたくさん木があるにゃん」
ニャンは軽快にレテについていく。
「門外不出のニャン族の村。誰も知らない場所にあるんですよね。これも掟なんですか、ニャンさん?」
ミヤは恐る恐る足を進める。
「僕はニャン族の村は王都の近くにあると思っている。魔術で場所を隠してあるのさ。いつか僕が発見して見せる」
ネアスは木で体勢を整えながらレテについていく。
「ネアスは冒険者なのね。私はオイシイお菓子を売ってくれるなら、場所には興味はないかな。作り方の方が知りたいかな」
レテは三人の様子を確かめながら、ゆっくりと歩く。
「誰も破った事がない掟にゃん。ニャン族の村には、何でもないニャン。これもダメにゃん。ダメもダメにゃん」
ニャンは困る。レテが話を変えてあげる。
「ゴブジンセイバーは精霊の剣。ということはドレね。ニャンも精霊伝説を読んだ事があるの?確認、確認」
レテはニャンに問いかける。ネアスとミヤはレテについていくのに精一杯だ。
「もちろんにゃん、ネアス様が貸してくれたにゃん。土の村では他にする事がないにゃん。話題もすぐに尽きるにゃん。精霊伝説の話をするのが一番にゃん」
ニャンが元気良く答える。
「ネアスは私にドレをするつもりだったのかな。私はアレはイヤよ。ネアスがドレをされるのが良いわ」
レテはゴブジンセイバーに手を当てる。反応はない。カバンはカタカタしている。
「この剣はドレが終わった後さ。そうじゃないとタダの剣だ。精霊の剣となるにはドレが必須さ。はあ、なかなかの道だ」
ネアスは出口の見えない事に疲れる。
「ドレした後にドレがなくなります。ドレは必要です。レテ様が正しいです」
ミヤは森の道に慣れてくる。
「コワイ剣にゃん。支配者を倒すにはどうしてもドレが必要にゃんか。他の方法はなかったにゃんか?」
ニャンがレテに問いかける。
「答えにくい質問ね。精霊伝説を読むのが一番かな。期待はしちゃダメ、作者さんの才能は限られている。全ての答えは出せないわ」
レテはニャンに教えてあげる。ニャンはうなずく。
「ニャンも面白いお話を書く才能があれば良かったにゃん。ララリをたくさん稼げるにゃん、うらやましいにゃん」
ニャンが答える。
「精霊伝説の作者さんはお話を書く才能はあったかな。面白いかは別問題ね。リンリン森林の話をしてあげようか。私もお話をする才能はあるかな」
レテは三人を見る。
「聞きたいです。暗くて代わり映えしない風景です。レテ様のお話の方が好きです」
ミヤが答える。
「一応道になってはいる。それに誰かが歩いている感じがする。他にも人がいそうだ」
ネアスはレテに伝える。
「私がたまに遊びに来る時に付けた道の後かな。ほとんど変化はないからダイジョブ、ダイジョブ。逆に草が増えているかな」
レテが笑みを浮かべる。
「リンリン森林には不思議はないハズにゃん。レイレイ森林は謎だらけにゃん。ニャン族もうかつには近づかないにゃん」
ニャンが声を潜める。
「ピクニックで遊びに来られるくらいです。のどかな所がリンリン森林の良い所です。リンリンの声も楽しいです」
ミヤは楽しそうに歩き始める。
「人は僕たちだけなのか。ラトゥール、僕もみんなのように軽快に歩きたい。力を貸してくれるかい。レテを驚かせよう!」
ネアスはラトゥールに呼びかける。光の風が彼を包み込む。
「ラトゥールの末裔、精霊使い。どちらかは確実。私がシルちゃんにまともにお願いできるようになるのに数年かかったかな。何が起こるの?驚かない準備は万端!」
レテは心を落ち着ける。
「どうするのでしょうか。予告をしたらダメな気がします。ラトゥール様なら出来るのですか。私も驚きません」
ミヤも木を引き締める。
「ニャンは何度も驚くにゃん。心配する必要はないにゃん」
ニャンはネアスを安心させようとする。
「何も考えてなかった。ラトゥールが上手くやってくれると思っていた」
ネアスは光の風を纏って困る。とりあえず歩いていく。何も起こらない。
「すごい、すごい、ネアス。ラトゥール、お願い?私も同じようにしてくれるかな」
レテはネアスをほめてあげる。彼女も光の風を纏う。髪飾りも光輝く。レテは手を前に出す。光の風がそよそよ吹いていく。
「あっちが目的地ですか、レテ様。違ったら困ります、引掛けはイケません」
ミヤは躊躇する。
「レテ様がウソをつく訳がないにゃん。ニャンはどこまでもついていくにゃん。出発にゃん、目的地は近そうにゃん」
ニャンは光の風に導かれていく。
「ニャン、ゴメンね。何となく手を出しただけ、こっちが正解。ネアスも手を前に伸ばしてみたら?どうなるのかな、気になる、気になる」
ニャンはがっかりする。ミヤは光の風の方に向かう。ネアスは手を別の方向に伸ばす。光の風は彼から離れない。
「僕には上手く出来ないみたいだ。それにすごく疲れる、ラトゥール!済まないけど力は使えない。レテと一緒が一番さ、僕では頼りにならない」
ネアスは座り込む。レテが心配して横に腰掛ける。
「ダイジョブ、ネアス。無理はダメね、ゆっくりで良いから進んでいきましょう。ニャンの言う通りで目的地はすぐそこ!一緒にガンバロ、ガンバロ」
レテは彼の手を取り無理やり立たせる。ミヤとニャンもレテたちを待っている。
「すぐ近く?レテの近くは遠そうだけど、今日はピクニックだ。いつもより元気良く行こう。自分のペースが大事さ」
ネアスはレテの手を離そうとする。彼女はゆるさない。
「ネアス、マイナス十二かな。女の子の手を握りしめないなんて信じられない。しかも、きれいでやさしくてかわいい私から逃れようなんてイミフメイかな」
彼女は小声でつぶやく。レテは彼の手をギュッと握りしめる。ネアスは痛みをガマンする
「ネアスさんは大丈夫ですか?私たちは先に行きますか?アレはしちゃダメですよ、レテ様、ネアス様。隠れてはダメです」
ミヤは光の風に導かれていく。ニャンも後をついていく。
「僕たちも出発だ。ミヤ、目的地はすぐ近くだ。ホントさ」
ネアスは勝負を仕掛ける。レテはうなずく。
「近くは確実。ネアスは無駄な敗北をする事になるかな。すぐに着くに決まっているわ。何でキミは疑っているのかな」
レテは彼の手を引き、歩を進める。
「ミヤが判定する。彼女は僕たちより年下さ。レテより距離が長く感じるハズだ。レテは自分の足の速さを知らないのさ」
ネアスは勝利を確信する。
「それはそうだけど、すぐ近くよ。遠くに行くならシルちゃんに運んでもらうし、モラも置いてきぼりに出来ないわ。キミの負け、負け」
レテはミヤたちに追いつこうと足を早める。
「僕はついていくのに必死だ。良い感じのペースだ。勝利の鼓動?!」
ネアスはドキドキする。レテは速度を緩める。
「ピクニックの日!のんびり行こうか、楽しいね、ネアス!」




