パーフェクトモチ
レテがお風呂から出てくると、すでに男二人はテーブルにつき食事が来るのを待っている様子だ。鎧を脱いで軽装になったレテの頭の上ではモラがのんびりと脚をのばして、休んでいる。
「おフロ、気持ち良かったね。これも魔法の光紙のおかげ、いつでも温かいお湯で最高ね」
レテはモラをなでる。
「僕も三日ぶりのお風呂で気持ちよかったよ。これで盗賊には見えないはずさ」
ネアスはモラを見ている。
「ガーおじはいつぶりじゃろうな、ネアス殿と同じくらいじゃろうか。ものすごく汚れていたわけではなかったようじゃ」
ガーおじは自分の体を見つめて、ため息をつく。
「においはキツくなかったわよ。最近記憶を失くしたのかな、私はガーおじの事はしらないしね。明日、街で聞いてみようかな」
レテは椅子に座る。
「確かにそうじゃな。ワシはこの街の出身かもしれんのじゃ、明日が楽しみになってきたのじゃ。でも、今は食事じゃ」
ガーおじは久しぶりの食事をガマンしていたため、今にもガツガツ食べたそうだ。
「みんなで食べましょう、いただきます。モラもゴハンよ」
レテはモラにもクルミをあげる。彼女の頭の上でのんびりと食べ始めた。
ネアスとガーおじは余程お腹が減っていたのか料理をドンドン口に運んでいく。レテはドリンクを飲みながらのんびりと食事をする。彼女は二人の様子を楽しそうに眺めている。
「匂いだけでも、イケるものだね。おいしかったよ、レテ、ありがとう」
ネアスはお礼を言う。
「久しぶりの食事はうまいのじゃ。もっと食べたいのじゃ」
ガーおじはお腹をパンパンにしながら、レテに催促をする。
「食べ過ぎはダメよ、ガーおじ。でも、今日はたくさん動いたから特別でも良いかな」
レテは追加の注文を頼もうとマリーを呼び止める。
「もう二、三品良いかな、マリー」
レテは注文する。
「今日はみんな、お腹が空いているみたいなの。ごめんなさい、あれで最後よ」
マリーが済まなそうに答える。
「僕はお腹いっぱいだから、大丈夫です。おいしかったです。ごちそうさまです」
ネアスはマリーにお礼を言う。
「ワシも残念じゃが、ごちそうさまじゃ」
ガーおじはお腹を抑える。
「今日はめずらしいわね。そういえばお客さんも前来た時よりも多い感じがするわね。ちょっと食べたりない気がするけど良いことね」
レテたちの周りのテーブルでは、多くの客たちがお酒を飲みつつ、騒いでいる様子が見て取れる。
「そういえば、レテ様を昼間に見かけなかったわ。今日からシューティング翠岩祭りの準備が始まったんですよ」
マリーがレテに話しかける。
「シューティング翠岩祭り?聞いたことないわよ、ネアスはある?」
レテは困惑する。
「僕はもちろんないよ。ずいぶん長い名前の祭だね」
ネアスは自信を持って答える。
「今日の朝に町長が突然言い出したのよ。街に伝わる古文書に書いてあったとか説明があってね」
マリーが笑いながらレテの質問に答える。
「祭りは良いものじゃ、明日がさらに楽しみになったのじゃ」
ガーおじは笑顔になる。
「そうだといいけど、賑やかな祭りにはなりそうだけどね。いつもの翠岩祭りの方が私は好きなの。盛り上がっている人達もいるけど……」
マリーはテーブルを拭きつつ、レテの方を見る。
「そうね。私も明日になったら町長に会いに行って見ようかな。他にも聞きたいこともあるしね」
「明日の朝になったら、レテ様にも祭りの様子が分かると思うのでよろしくお願いしますね。宿代の方サービスしておきますから、頼みます」
マリーは他のお客さんに呼ばれてしまったので足早に去っていく。
「流星に関わり合いがありそうね。ゴブちゃん神官の事も古文書に書いてあると良いね、ネアス」
「手がかりになると良いけど、今の所は何もないに等しいからね。でも、お祭り楽しみだね。いろいろ出し物もあるといいな」
「流星と言えばワシじゃな。クレーターにいたのじゃからな、古文書は気になるのじゃ。明日が待ち遠しくなってきたのじゃ」
モラもクルミを食べ終わり満足して、レテの胸元に収まっていく。
「ガーおじはまだ、お腹いっぱいじゃないでしょ。さっきの岩焼きモチより美味しいものがあるのよ」
レテはカバンから四角の固そうなモチを取り出し、ガーおじに手渡す。
「固くておいしいのよ。カッチカチで少しずつかじって食べていくのよ。さっきの岩焼きモチみたいに一気に食べたら、危ないからダメよ」
ガーおじはレテのモチにかじりつく。全く歯が立たない。
「固いのじゃ、レテ殿。これは食べ物なのか、ワシをだましてはいないか!」
「僕もこんなに固いモチは見たことも聞いたこともないよ」
レテは不機嫌になり、二人に反論する。
「心外ね。一人は田舎者、もう一人は記憶喪失。その二人が知らないってだけで私が間違っているみたいね。マリーもこのモチは知っているわ」
マリーは忙しく他のお客の相手をして、走り回っている。
「パーフェクトモチ、モーチモテ博士の大発明の食べ物よ」
レテは立ち上がり、周りに見せびらかすようにパーフェクトモチを掲げる。周囲の客たちから歓声が上がる。
「本当のようじゃ。レテ殿、ワシの間違いであった。申し訳ないのじゃ」
ガーおじが素直に非を認めるとレテは満足したようで、席に座る。そして、二人に説明を始める。
「パーフェクトモチは食べ方があるのよ。モラがクルミをかじるみたいにチョコチョコって食べていくのよ」
レテが固いモチをチョコチョコときれいにかじり、二人に実演して見せる。
「レテはきれいに食べるね、尊敬するよ。ガーおじが噛み切れない固いモチを簡単に食べていって、さすがだよ」
レテは気を良くして、さらに説明を続ける。
「パーフェクトモチは名前の通りに栄養もたっぷりなのよ。カチカチだから保存も効くから、非常食にも便利なのよ。騎士団にも正式に採用するように提案しているわ」
「栄養があるのじゃな、しかし食べづらいな」
ガーおじはレテの真似をして、もう一度挑戦するがなかなかうまくいかないので諦めようとする。
「何事も慣れよ、なれ。モラにも細かく刻んで食べさせると喜ぶのよ」
レテはナイフでパーフェクトモチを刻んで、モラにデザートとして口に運んであげる。
「レテ、レテ」
モラは喜んで、齧りつき食べ始める。満足そうだ。
「栄養たっぷりすぎるから、モラには特別な日しかあげられないけどね。今日は頑張ったから、ごほうびよ」
「レテとモラは良いパートナーだね。うらやましいね」
「ネアスもパーフェクトモチ、どうぞ。練習しておくのよ。いざという時に食べられないと困るからね」
レテは上機嫌でネアスとガーおじに手渡す。ガーおじはためらう。
「パーフェクトモチは高価なのよ。たくさん貴重な薬草が入っているみたいで、なかなか手が出ない商品なのよ、ガーおじ」
「それを早く言うのじゃ。ありがたい、ありがたいのじゃ」
ガーおじは急いでパーフェクトモチをしまう。
「今日は早いけど、もう寝ましょう。明日から調査頑張ろう!」