中心
レテは竜巻を足元から叩きつける。四人は一斉に空に舞い上がる。空の上にも竜巻が準備されており、彼女たちをリンリン森林の方角に吹き飛ばす。
「シルちゃん、目的地はリンリン森林の中心部、久しぶりに遊びに行きましょう。モラもしっかりと掴まっていてね」
レテは頭の上のモラの心配をする。
「レテ、レテ」
モラは元気良く返事をする。
「まだまだ風が必要かな。シルちゃん、お願い!」
レテはドンドン竜巻を作る。あっという間にストーンマキガンの街は遠くなる。
「地上を見る余裕がないです。すごい速さです」
ミヤはレテに抱きつく力を強める。
「シルちゃんがいるから安心、安心。途中で落ちた事は一度もないかな。落ちても地上で受け止めてくれるからダイジョブ、ダイジョブ」
レテがミヤを安心させる。彼女はネアスの方を見る。彼とニャンは静かに抱きしめあっている。
「ネアス、お話は出来そう?無理ならリンリン森林に着いた後でお願い、どっちにするか、今決められるかな」
レテはネアスに問いかける。反応はない。
「ネアスさんは今日は調子が悪いですか?三度目のお空の旅なんですよね、シルフィーさんの風は心地よいです」
ミヤはレテを抱きしめる力を弱める。眼下にはリンリン森林が見え始める。
「そうみたいね、それじゃ早く目的地に行きましょう。シルちゃん、どでかいのをお願い?一気に畳み掛けるわ」
レテは精神を集中させる。巨大な竜巻が二つ、彼女たちの目の前に現れる。凄まじい風が全員に吹き付ける。ネアスは異変を感じる。
「きれいなお姉さん、とてもきれいなお姉さんだった」
ネアスは頑張って話を始める。
「ネアス、判断が遅いかな。シルちゃんの準備は完了、私も気持ちも抑えきれない。刺激を感じたい、非日常の世界へ!」
レテは巨大な竜巻の中に飛び込む。激しい風が彼女たちにぶつかる。ミヤは再びレテをキツく抱きしめる。
「わ、にゃ、ぎゃ?!」
ミヤは声が出せない。レテは彼女の頭を撫でてあげる。
「レテもきれいだ。きれいなお姉さん!」
ネアスも最後の抵抗を試みる。
「お姉さんは無愛想だったにゃん」
ニャンもネアスの手助けをする。
「ありがと、ネアス。シルちゃん、本気で行きましょう!」
レテは精神力を高める。二つの巨大な竜巻が合流する。ネアスたちも内部に突入する。レテがネアスの手を取る。
「ここからは四人一緒ね。リラックス、リラックス」
レテは竜巻の中心に進む。風が止み、ミヤは口を開く。
「これから何が起こるんですか、レテ様」
ミヤは周囲の風の嵐を眺める。彼女たちは静かに受けている。ネアスは何とか目を開けている。
「この世界の終わりさ。全てが風に飲まれてしまう。ガーおじの元に行こう」
ネアスはあきらめる。ニャンは彼を抱きしめている。
「竜巻の中って面白いでしょ。シルちゃんの力がなかったら吹き飛ばされてオシマイ、オシマイ。ネアスは風の好きなのかな」
レテは嬉しそうにネアスに語りかける。風がレテたちの背後に動いていく。音がゴウゴウと鳴る。
「見学終了。みんな、手を取り合って行きましょう!」
レテはミヤの手を握る。ミヤはニャンの手を取る。ネアスもニャンの手を握り輪を作る。風が四人を猛烈な勢いで吹き飛ばす。
「最高、刺激満点。シルちゃん、ありがと!」
レテたちはリンリン森林の中心部に一直線で向かっていく。
木々がレテたちの前に見えてくると柔らかな風が四人を包み込む。風で森がざわつくがすぐに収まる。レテは手を離して自分だけ木の上に乗る。
「みんなをゆっくり地上に下ろしてね、シルちゃん。私とモラは周囲の様子を確認してから向かうわ。ゆっくり、ゆっくりね」
レテはぴょんぴょんと木の上を登っていく。
「レテ様、お気をつけてください。お二人の事は任せてください」
ミヤは二人の手を握る。彼らは疲れ切っている。
「任せたわ、ミヤ。後でね!」
レテは木の上からミヤに声をかける。彼女は木をドンドン登っていく。地上がすぐに見えなくなる。リンリン森林の風を彼女は感じる。
「良い風、シルちゃんの風も良いけどね。この森の風も好きかな。ネアスにも聞いてみようかな」
レテは木の天辺を目指す。鳥たちが彼女の近くで羽ばたいている。リンリンの声が彼女に聞こえる。
「リンリン♪リンリン♪」
レテは上機嫌で木を昇る。地上から騒ぎらしい声は聞こえてこない。
「到着!モラは初めて、それとも一人で来たことがある?」
レテはモラに問いかける。木の頂上からはリンリン森林全体が見渡せる。ポツンと小さなクレーターがあるのが彼女の目に付く。モラはレテの頭の上で同じように景色を眺めている。
「あそこでネアスと出会ったのね。ガーおじはもういない。それにガーおじとはストーンマキガンのお店で会ったしね。ララリの貸し借りはなし。私たち二人の思い出の場所。誰も損はしていないかな」
レテは納得する。モラはキャキャッとジャンプする。
「モラも賛成かな。モラのお家はどこにあるの?私と出会ってからは帰っていないと思うけど、意外と近くにあるのかな。隠れて帰っているの、モラ?」
レテはモラと出会った方角を見る。その先には魔力の泉が見える。モラは反対の方を見ている。
「あっち?あそこは危ない所。ダールガーナ山脈!冒険者だってよっぽどの事がないと近づかないし、まだ雪が残っているから危ないわ」
モラが見つめる方をレテは見る。大きな山脈が視界を遮っている。彼女は何となく冷たい風を感じる。
「ゴブちゃんはいないみたいね。大きな集団はなし、モラはこれからどうする、森で遊んでくる。それとも一緒にお話と薬草探しをしようか?」
レテはモラに問いかける。
「レテ、レテ」
モラは彼女の頭から飛び出し風に乗る。ゆるやかにモラは空を漂う。
「シルちゃん、モラと遊んであげてね。モラもちょっとキツめの風の方が楽しいかな。今度は一緒に遊ぼうね」
レテはモラに風を吹き付ける。モラはドンドン遠くに飛ばされていく。
「いってらっしゃい、モラ。私はみんなと合流ね。きれいなお姉さんの話が楽しみ、楽しみ」
レテは木の頂上から飛び降りる。彼女は勢い良く地面に向かって落下していく。ドンドン速さが増していく。所々で木の枝がレテの行路を遮ろうとするが彼女は軽やかに避けていく。
「配置は把握済み。予想も的中。私の直感は今日も冴えているかな」
レテは地面に落ちていく。彼女の視界にネアスとミヤの姿が目に入る。二人はドリンクの準備をしているようだ。ニャンは離れた所で様子を探っている。
「ギリギリまで引き付ける!」
レテは体を丸めて速度をあげようとする。彼女は精神を集中させてシルフィーに呼びかける。
「シルちゃん、今日はいつもより遅めに風を起こしてね。地面に衝突する直前。焦っちゃダメ、余裕も必要ないかな」
レテは目を閉じる。森の匂いと風を彼女は感じる。
「レテ、危ない!」
ネアスの注意を促す声が聞こえる。彼女は無視する。
「レテ様、気づいていますよね!」
ミヤの不安げな声がかすかに聞こえる。彼女は意識を集中する。レテは自分の下に風が巻き起こるのを察知する。
「早いかな、シルちゃんも心配症ね。私はダイジョブ、ダイジョブ」
レテは風の力で一度バウンドする。彼女は体勢を立て直して地面に着地する。
「きれいなお姉さんの到着!」
レテの体を風が包み込む。彼女は爽やかな朝の風を全身で満喫する。
「すごいにゃん、初めて見たにゃん。ニャンはマネしないにゃん」
ニャンは拍手でレテを迎える。彼の手には早速薬草が抱えられている。
「レテ様、きれいな着地です。私もいつか出来るでしょうか。シルフィーさんとレテ様は怖いもの知らずです」
ミヤは感激する。
「ここは良い場所だ。レテの秘密の隠れ家のような気がする。僕が足を踏み入れても良い場所じゃない。神秘的な所だ」
ネアスはレテを見つめている。
「ありがと、ネアス。この場所を案内するのはみんなが初めてかな、ミヤに感謝しなくちゃね。私もここに来るには久しぶり、時間がある時にゆっくりと訪れたい所かな」
レテは周囲を見渡す。大きな木々が軒を連ねている。木の枝には水滴が付いている。
「街よりひんやりしていて気持ちが良いです。レテ様、ここがリンリン森林の中心部ですか?ここでは不思議な事が起こりそうです。何だか雰囲気が違います」
ミヤはコップにドリンクを注ぐ。
「薬草はたくさん取れたにゃん。一日中ここで採取をしたら、しばらくはマッスルニャンダドリンクの材料はバッチリにゃん」
ニャンはうれしそうにレテたちの元に歩いてくる。
「ネアスは初心者卒業失敗。今回は私がイジワルしたから中級者に昇格でも良いかな」




