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コップの水

 レテはネアスの踊りを止めるために彼を抱きしめる。ネアスは彼女の真剣な顔つきに事の重大さに気づく。彼の顔は青ざめた。しとしと、しとしと、水の滴る音は止む気配はない。

「亡霊さん、ごめんなさい。あなたは悪い亡霊じゃないハズ。そうよね。朽ち果てない小屋の亡霊さんのハズはないわ。絶対!」

 レテはネアスをギュッと抱きしめる。ネアスは痛いのをガマンする。

「亡霊にゃんなのかにゃんのにゃんかにゃん。初めてにゃん?!」

 ニャンは混乱する。しとしと、しとしと、部屋中を音が包み込む。

「亡霊の皆様、お戻りください。神官見習いのミヤの願いを聞き届けてください、あなたの願いは何でしょうか?私に叶えられる願いでしょうか?」

 ミヤは恐れずに祈りを込める。レテはミヤの方が頼りになると思い彼女を抱きしめに行く。

「ミヤ、頑張ってね。私は応援するわ。亡霊退治は神官のお仕事、協力できる事は何でも行ってね」

 レテはミヤを抱きしめる。ミヤはレテを押しのけて手を繋ぐだけに留める。

「僕のせいです。みんなには何もしないでください。ちなみに僕はゴブリンの呪いにかかっているので気を付けてください」

 ネアスは亡霊を牽制する。しとしと、しとしと、音は鳴り止まない。

「後は任せるにゃん。ニャンは神官長を呼びにいくにゃん。援軍は必要にゃん、大事な事にゃん」

 ニャンは扉に突撃する。残念ながら扉は開かない。

「水が欲しいんですか、今用意しますね。少しだけ待っていてください、きれいなお水があります。姿を現してくれませんか」

 ミヤは貯蔵庫から水を取り出す。彼女はコップに水を注ぎテーブルに丁寧に置く。レテはミヤの腕をやさしく握っている。

「旅の途中で飲水がなくなったのかな。あるいはアーライト河で、何でもないわ。変な想像はしない方が良いかな」

 レテはミヤのおかげで冷静さを取り戻す。

「僕がダメな踊りをしたから怒っているのか。違う、ミヤ、分からない?」

 ネアスは混乱した。

「にゃんにゃにゃにゃん、コワイにゃん」

 ニャンは扉の前で縮こまる。

「正式な踊りは亡霊を鎮めて、レイレイ森林で静かに暮らしてもらう効果があります。変な踊りは何が起こるか分かりません。暴れたり、怒ったり、呑んだくれたりする事が稀にですがあるみたいです。私も初めてです」

 ミヤが冷静に答える。しとしと、しとしと、音がコップに近づいていく。

「悪い亡霊ではないみたいね。ビックリして損したわ。おはよう、亡霊さん。水はオイシイかな。たくさん飲んだら帰ってくれるとうれしいかな」

 レテはコップに語りかける。コップの水はドンドン減っていく。

「亡霊になってからも水が必要だなんて!このドリンクもどうぞ、たくさんあるから全部あげる。その代わり、レテのお願いを聞いて欲しいな」

 ネアスはカバンからニャン族三点セットの一つの小ドリンクをテーブルに並べる。

「亡霊さんは帰ってくれるでしょうか。これで無理だとドロスさんをお呼びするしかありません。神官長は最近調子が悪いみたいです」

 ミヤがニャンの方を見る。扉は開きそうにない。ニャンは縮こまりながらも必死に扉をあけようとしている。

「私の願い、そうね、どうしようかな。さっきの帰ってもらうのは止めにしよっと。せっかくニャン族のお菓子を上げるんだから、もっと良いお願いをしようかな」

 レテは願い事を考える。ニャン族のドリンクのフタが開く。

「亡霊さんには静かに帰ってもらうのが一番です。複雑な事情で亡霊になる方が大半です。のんびり屋さんもたまにいるようです。気づいていない人がいます」

 ミヤがレテに助言する。

「気づいていないのは言いにくいね。このまま幸せに何も知らずに生きていくのが一番さ。そう、誰にも気づかれずにね。静かにそっと安らかに」

 ネアスはドリンクが減っていくのを眺めている。

「亡霊さんは喉が渇いていたんでしょ。これ以上の事を望むなんて図々しくないかな。私のオヤツを全部、しかもネアスが勝手に上げたのよ。ニャンが代替品をくれるとかは関係ないかな」

 レテはネアスをからかう。

「大人シグードリンクを飲んでくれているから成功さ。他に方法はなかったと思う。レテには借りを作ってばかりだな。そろそろ挽回のチャンスが回ってくるハズだ」

 ネアスはからかいに負けない。

「亡霊さん、ドリンクを全部飲んだら満足ですか。何かご要望があればお伝え下さい。私に出来る範囲であれば対応します。部屋の外にはベテランの神官もいるので安心してください。ドロスさんは亡霊に関しては頼りになります」

 ミヤは丁重にドリンクに向かって伝える。

「丁寧な対応が大事なんだ。私ならシルちゃんにお願いして壁を壊して脱出するけど、この時間にそんな事をしたら大騒ぎかな。タイミングが大切、もうちょっとだけ待っていてあげるわ」

 レテはカバンから卵を取り出しテーブルに置く。倒れない。

「すごい、レテ。一発で卵立てに成功するなんて信じられない。僕も挑戦しても良い!一発勝負、レテに勝てそうにないけど……」

 ネアスは卵に触ろうとする。レテはやさしく彼の手に触れる。

「ダメ、ネアス。面白そうな勝負だけど亡霊さんがいるのよ。また今度にやりましょう、その時までに練習しておきなさい。名勝負を期待しているわ」

 レテは魔法の光紙を取り出す。

「レテ様は亡霊さんのご要望が分かったんですか。卵、亡霊さんは卵で転んでヒドイ目にあったのでしょうか。どのように無念を晴らすのですか?床に叩きつけるのですか?」

 ミヤは驚く。

「卵で滑って頭をぶつけたのか。打ちどころが相当悪かったんだろうね。それとも床に硬いモノでも置いてあったのか。僕も注意しないとイケない」

 ネアスは床を見渡す。安全だ。

「亡霊さんもそこまでマヌケじゃないかな。そうよね、それじゃ喉が渇いている事と関係がなくなるわ。砂漠で卵に滑って転んでヒドイ目に合うなんてありえないかな」

 レテは答える。彼女は魔法の光紙をクシャクシャ、クシャクシャすると岩のテーブルに放つ。炎が立ち上る。

「お料理の時間ですね。出来る女性は色んな事を同時にこなす。どこかで聞いた事があります。神殿にお祈りに来ていた方からお聞きした気がします」

 ミヤが憧れの目でレテを見つめる。ニャン族のドリンクもカタカタと動く。

「特製たまごサンド作りと見せかけて他の料理を作る。岩焼きそばにたまごを入れるアレンジだ。マリーさんのお店で見かけたのがオイシそうだった」

 ネアスは予想する。

「ネアス、良い調子ね。私も昔は相手が予想外の行動をする事を警戒していたかな。成長の証、証。でも、直球勝負でも来る事も多いわ。それは経験を積んで直感を鍛えるしかないかな。勝負はいつも一度きり、正解は特製たまごサンド作り!」

 レテはたまごをネアスに渡す。彼女は岩のテーブルに手を近づける。

「良い感じ、ネアス!早く卵を割って、急ぐのよ。早急に!遅い、遅い!」

 レテはネアスを焦らせる。彼は手渡された卵を岩のテーブルで割る。ジューと音がなる。

「私も手伝います!」

 ミヤがネアスを手伝おうとする。レテはミヤの手を力強く抑える。ミヤは卵を手に取れない。

「ネアスが割った卵をどうしても私は食べたいの、ごめんね、ミヤ。これは譲れないかな。ミヤもすぐに私の気持ちを理解できるわ」

 レテは手の力を緩める。ミヤは黙って手を下ろす。

「レテの手料理を食べたいって思う人はたくさんいると思う。僕の割った卵を食べたいなんて言われたのは初めてだ。僕の実力を見ろ!」

 ネアスは元気良く卵を割っていく。黄身も割れてしまう。ネアスの手が止まる。

「ダイジョブ、ダイジョブ。キミの割った卵が食べたい、その気持ちはホント。最後の一個もお願い?!」

 レテは素早く卵を手渡す。ネアスは割る。黄身も割れる。

「二人だけの特製たまごサンド。亡霊さん、私も卵で頭をぶつけたいです」

 ミヤがすねる。

「ミヤ、リンリン森林に着いたら教えてあげるわ。ミヤにはパンの準備をしてもらおうかな。皆でピクニックの準備開始!」


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