クシャクシャ
ストーンマキガンは王都の隣に位置しており、周囲を石壁で覆われている街である。街の正面の門ではゴブリンに備えて、のんびりと騎士たちが警備をしている。
「一番はわたしね。当然かな」
「二番じゃ、ネアス殿油断なされたな。最後まで勝負はわからんのじゃ」
「三番か、今日は疲れたな、早く宿で休みたいな」
三人と一匹は街に到着する。騎士たちが急いで、駆けつけてくる。
「旅の方ですね。すっかり暗くなるまで、大変だったでしょう。ゴブリンを見かけませんでしたか?最近、多くて困っているのです」
騎士たちは世間話を始めようとして、三人の様子をうかがう。
「二人とも、ご苦労さま。遅くまで警備大変ね。交代まで頑張ってね」
レテは衛兵たちに声をかける。
「レテ様でしたか。こちらに向かわれているとはお聞きしていましたが、いつもどおりに空からお越しになるかと」
騎士は夜空を眺める。
「夜は視界が狭くなるから難しいのよね。それに旅人二人も一緒だからね。空からってわけにもいかないわ」
「レテにも助けてもらいました。本当に良かった」
ネアスは騎士を見ている。
「レテ殿は命の恩人じゃ。しかし、腹が減ったのじゃ。何も食べてないのじゃ」
ガーおじは大げさにお腹をおさえる。
「レテ様に助けていただけるとは、二人とも幸運をお持ちのようですね。旅のお方。風の加護がありますように、皆様どうぞ」
騎士は三人が街に入ると手を掲げて祈りを込める。
「貴方にも風の加護がありますように」
レテが騎士に祈りを込める。
「風の加護がありますように」
ネアスとガーおじも真似して、祈りを込める。
「君は新人かな。退屈な任務だけど頑張ってね、必要な事なのよね」
レテはもう一人の騎士に声をかけてあげる。
「今年の春から騎士になりました。ありがとうございます、レテ様。風の加護がありますように」
暗くなり街の中の人通りは少なくなっていた。家々にはぼんやりと灯りが点っている。
「魔法の光紙のおかげで夜も明るくて良いね。僕の田舎よりたくさんの街灯があるね、すごいや」
「王都はもっと明るいわよ。ネアスはびっくりするわね。楽しみにしていてね。案内してあげるわ」
彼女たちは良さそうな宿を探しながら会話を始める。
「魔法の光ガミとは何じゃ、ワシにも分かるように説明してほしいのじゃ」
ガーおじも街の明るさに感動したようだ。
「魔法の光紙は王都の天才モーチモテ博士が発明した、魔力のこもった紙の事よ」
レテはカバンから灰色の紙を一枚取り出す。
「すごいね、貴重品だよね。田舎では家から持ち出すと親に説教される」
ネアスは答える。レテが魔法の光紙をクシャクシャすると光が灯る。その後、光紙をピッと伸ばすと暗くなる。
「面白そうじゃな、貸してほしいのじゃ」
ガーおじがクシャクシャすると光が出る。伸ばすと暗くなる。気に入ったようで何度も繰り返す。
「面白いよね。よく考えるわよね、モーチモテ博士はすごいよね。私も一回しか会った事はないのよ」
レテが自慢げに話す。
「すごい、すごいよ。僕も一度だけでも良いからモーチモテ博士に会ったみたいなあ」
ネアスは感動する。
「あ、ガーおじ危ないかな。気をつけて!」
レテはガーおじを注意する。
ガーおじは楽しくなったのかさらにクシャクシャ、クシャクシャと始める。その時、魔法の光紙が燃えだす。
「アツ!、アツ!」
ガーおじが急いで魔法の光紙を道に放り投げる。
「もう、ガーおじ危ないでしょ。勝手なことをしちゃダメよ」
レテが魔法の光紙を踏みつけると、火は収まり、一瞬光りを放ち元の状態に戻る。
「たくさんクシャクシャすると火が出るのよね。ここも魔法の光紙のすごいところよね、さすが、博士」
レテは魔法の光紙を伸ばして、カバンにしまう。
「いっぱいクシャクシャすると使えなくなるから、今日はここまでよ。ガーおじ、ガマン、ガマン」
レテは周囲を見渡す。不審な人物はいない。
「簡単な魔法しか使えない僕らにはかなり便利だよ。日常生活には困らないけど、便利な方が良いよね」
ネアスは空を見る。
「面白いけど難しいものじゃな。レテ殿におまかせするのじゃ」
ガーおじは大通りにある大きな宿に目をつけたようだ。中からは賑やかな声がきこえてくる。
「あそこも良いけど、今日はゆったりした所にしようかなと思っているのよ。構わないかな、二人とも」
「僕はレテに任せるよ。疲れた、疲れた」
「ワシも任せるのじゃ。夕飯の時間じゃ」
「レテ、レテ」
モラもレテの胸元から飛び出す。
「モラも疲れたよね。宿に言ったらくるみ食べようね。実は決めていたのよね。緑岩亭に出発、もうすぐよ」
大通りから路地に入っていくと小さく緑岩亭の看板が暗がりから三人の目に入ってくる。石作りの建物でモザイク状に緑色が入っているのが、夜でも確認できる。
「遠かったのじゃ、予想しておいたから大丈夫なのじゃ」
ガーおじは息を切らしている。
「すぐだったわよ、ガーおじの勘違いよ。体力落ちたって言っていたし、ガーおじの間違いよ」
レテはまだまだ元気そうだ。
「良さそうな宿だね。レテのセンスはさすがだね、料理もおいしそう。ガーおじ、早く入ろうよ」
ネアスは宿の前に書いてあるメニューを近くで確かめている。岩焼き野菜塩焼きそば、たっぷり岩焼き肉、アツアツ岩焼きその日の気分のスープ、岩焼きモチ。
「どれもおいしいわよ。全部頼みましょう、ガンガン食べましょう。今日はたくさん動いたからおいしく食べられそうね」
レテは笑みを浮かべる
「ガーおじが一番腹ペコだ。たくさん食べるのじゃ」
ガーおじは食べ物が好きなようだ。
「良い匂いがするね。匂いだけでもおいしそうだよ。僕の事は気にしないで二人でたくさん食べてね。ずっと気を使われても、困るからね」
ネアスは宿からもれてくる香りを味わいながら、二人にお願いをする。
「ネアスがそういうなら、気にしないで食べさせてもらうわね。明日からゴブちゃんの呪いを解く方法、一緒に探そうね」
レテがネアスに微笑みかける。
「ネアス殿、気遣い感謝じゃ。ワシも呪いを解くまでネアス殿に協力するつもりじゃから、安心するのじゃ」
ガーおじは胸を張る。三人が宿に入ると岩緑亭のおかみの元気な声が鳴りひびく。
「いらっしゃい、レテ様。宿を気に入ってくれたのね。料理の準備をしている間、お風呂に入って来たら?」
若いおかみはレテを宿の奥に促していく。
「二人もお風呂はいるでしょ。マリー、お願いね」
レテは二人をおかみに任せ、素早くお風呂に向かっていく。
「おっフロ、おっフロ。モラもおフロよ。楽しみね」