記憶がない
二人を包んでいた光の風が礼拝堂に吹き付けていく。レテはネアスを抱きしめるのを止めて髪飾りに手を当てる。翼の形の感触が心地よい。
「ネアス、マッキャンビーさんってどの人かな。私は記憶を失ったみたいなの、教えてくれるとうれしいな」
レテが尋ねる。ネアスは正気に戻る。
「マッキャンビー、僕も知らない人だ。ここにいるのはミヤさん、神官長、マリーさん、ガーおじ?そうか、神官長がマッキャンビーさんだ」
レテは神官長を指差す。ガーおじは光に目がくらんで床に手を付いている。
「神官長は神官長かな、ガーおじって人がマッキャンビーさんだと思うわ。私の直感が告げている。確実かな」
レテは床に手を付いている男性を指差す。ネアスはうなずく。
「ガーおじがマッキャンビーさんか。ピンと来ないけど、マッキャンビーさんも記憶喪失だからレテと気が合うと思う、イヤ、合わないと思う」
ネアスはすぐに訂正する。
「ミヤ、帽子を受け止めてくれてありがと。お話は違う感じかな。でも、楽しかったわ」
レテはミヤに報告する。
「マッキャンビーさんの様子を見てきます。きれいな髪飾りです、ステキです」
ミヤは二人に微笑みかけると急いでマッキャンビーの肩に手を当てる。
「マッキャンビーさんもモテない同盟卒業かもしれない。あんなにかわいい子に介抱してもらえるなんてモテるに入るさ」
ネアスは二人を見つめる。レテは大きく首を振る。
「ネアス、ダメ。ミヤにはステキな出会いが待っているわ、マッキャンビー、長いかな!キャビはおじさん、危ない事を言っちゃダメ」
レテがネアスに注意する。
「僕は何でもない。キャビの記憶がないのは不便そうだ。キャビは記憶喪失でモテない、レテの特製たまごサンドは好みじゃないみたいだから注意した方が良い。キャビは根に持っているみたいだ。他は何もないと思う」
ネアスはレテに伝える。レテはうなずく。
「ネアスはキャビと仲が良さそうね。どんな話をいていたの、もしかしたら記憶が戻るかもしれないから教えて欲しいかな」
レテが本題に移る。
「そうだね、どうやってララリと稼ごうかの話を良くしているね。高く売れる薬草の場所とか貴族の護衛の仕事はどこで見つけられるのかとか話している事が多かったと思う。僕もキャビもララリが必要なのさ」
ネアスが素直に答える。
「そっか、好きな女の子の話しとか飲み屋でナンパとか踊り子さんを見に行こうとかの話はしていないの、男同士でしょ?」
レテが尋ねる。
「踊り子さんは一度見てみたいと思っているけど、難しい。キャビはお酒を飲みたくないみたいだね。僕も飲み屋の話は得意じゃない。用心棒の仕事はララリになるって聞いた事がある。キャビにも教えよう」
ネアスは神官長たちが近づいてくるのを見る。
「ララリは大事、大事。キャビはどうしてララリが必要なのかな。ていうか、どうやって彼は生活しているの?」
レテはネアスをからかう。ネアスは少し間を置いて答える。
「レテはきれいでやさしくてかわいいからキャビの記憶が戻るまで協力する事にしたのさ。食事代とかはレテが出しているからキャビは頑張っているのさ」
ネアスはストーンシールドの事を隠す。レテは微笑む。
「きれいでやさしくてかわいい私なら当然ね。ネアスの呪いとキャビの記憶は私に任せて!キャビとはどこで出会ったのかな」
レテは一応尋ねる。
「キャビとは街で出会ったのさ。キャビがなけなしのララリでストーンシールドを買っている所にレテと僕が遭遇したのさ。レテが高すぎるって言ってくれたおかげでキャビはストーンシールドを三個も買えたのさ。どこでキャビはララリを手に入れたのかは僕も知らない」
ネアスはウソをつく。レテは感心する。
「私とネアスはリンリン森林で出会った。魔力の泉でゴブジンセイバーゲット。緑岩亭でマリーの料理を食べた。次の日にキャビに会ったのね。記憶の整理が出来たわ。ありがと、ネアス」
レテはネアスに付き合ってあげる。
「その通りさ」
ネアスはホッとする。
「男の子っておもしろいね、短い!」
レテは微笑む。彼女はマリーに手をふる。マリーは手を振り、早足でレテの元に駆けつける。
「ごめんね、レテ。心配をかけたみたいね。私は元気!おめでとう、レテ。お祝いの準備をすぐ始めるわ。ニャンは先に宿に戻っているわ」
マリーはレテに抱きつく。レテは彼女の耳元でささやく。
「お祝いはまた今度、ネアスも早いと思ったみたい。のんびり、のんびり」
レテはマリーをやさしく抱きしめる。マリーはレテの胸に触れる。
「心臓はドキドキしているわ。良い事があったのね、おめでとう。私は当分先ね、道のりは険しいわ」
マリーがレテの耳元でつぶやく。ネアスはキャビの様子を見に行く。
「私も進んでいるかは不明かな。ネアスは不思議な人、たまに何を考えているか分からない時があるわ。ホントに伝わっているのかな」
レテはネアスが離れたのを確認してからマリーとちょっと離れる。
「ラトゥールの末裔。人とは違うわ。ううん、そういう意味じゃないわ、レテ。感じ方とかの事。レテに物怖じしないなんて信じられないわ」
マリーはレテの髪飾りに気づく。
「すぐに気づかれるみたい。帽子を被っていた方が良いかな、カッコいいのにもったいないわ。見せびらかしたいかな」
レテはそっと髪飾りに触れる。
「不思議な事ばかり起こるわ。昨日までは蝶、今日は鳥!明日は魚に変わると良いわ。アーライト河の新鮮な魚が食べたくなったわ」
マリーは笑みを浮かべる。
「王都に帰る日も近いかな。明日は晴れそうだし、たくさんの人がこの街を訪れるかな。マリーのお店に迷惑がかかるとイケないから、明日はどこでお昼を食べよっと」
レテがマリーに伝える。
「貴族の襲撃は神官長の勘違いだったけど私も信じたわ。やっぱりラトゥール様の影響力はすごいわ。知らず知らずに考え方が変わっている」
マリーが髪飾りを見つめる。
「そうよね、この前までは貴族の襲撃なんて考えもしなかった。変な任務とナンパをしているイヤなヤツラ。ラーナは違うけどね、彼らが敵に回るかもしれない。私だけが感じているわけじゃない」
レテはマリーの手を握りしめる。マリーはさらに強い力で握り返す。レテは今度弱く握ろうと誓う。
「マリーは私の事は忘れてね。貴族は何をするか分からないわ。バカなの、あの人たちは!後先を考えないで行動をする。私じゃ先は読めないかな。他人の振りが一番、一番」
レテはマリーに元気良く伝える。マリーは大きく首を振る。
「私たちは友達!貴族が私に危害を加えるようだったらユーフさんやラーナさんを頼るわ。もちろんレテも頼りにしている。それでもダメならみんなで別の所に行きましょう、ほとぼりが冷めるまでゆっくりしましょう」
マリーは力を緩める。
「大臣はどうかな、ウ~ン、シグード王子が一番中立的に対応してくれるのかな。ラトゥールのせいで大混乱ね。誰がまともな人か分からないわ」
レテはネアスを見つめる。
「ネアスさんは味方、マッキャンビーさんは謎。私は味方、風の神殿の皆さんは中立、騎士団の皆さんはレテの味方なの?」
マリーもネアスを見る。
「副騎士団長とアーシャは確実かな。他のみんなは王族の指示には逆らえないわ。私が英雄の子孫かも知れないって話が伝わったらどうなるか検討も付かないわ。騎士団は辞めないとイケないかな」
レテは微笑む。
「災厄が来るかもしれない。街の方では噂が流れているらしいわ。ユーフさんに聞いた。ラトゥールと災厄はセット。流星は不吉の象徴、世界は変わる」
マリーがレテに伝える。
「ユーフと話が出来たのね、良かった。図書室にこもったって話を聞いた時はビックリしたけどマリーならダイジョブと思っていたかな」
レテが声をひそめる。マリーの顔が赤くなる。
「緊張しちゃった。すごく好きってわけじゃなくて気になるなって感じだったの。間近で会ったら急にドキドキしたわ。レテは彼と一緒にいる時は緊張しないの?」
マリーも声を小さくする。
「いつもはダイジョブだけど急に意識する時はあるかな。その時はドキドキするわ。さっきは特別だけど、ふとした瞬間ね。恋の先輩の意見」
レテは微笑む。マリーはうなずく。
「ユーフさんは私の事を何か言っていた、レテ。恋の先輩!」
マリーも微笑む。
「彼は冒険の事しか興味がないみたいね。マリーは大変、大変。私は風の神殿のきれいなお姉さんに感謝かな。ネアスの思い出みたい!」
レテは答える。マリーはうなずく。
「そうかもね、子どもの頃に出会った人の影響って大きいかもしれないわ。私も両親の宿のお手伝いで騎士や冒険者さんのお話をたくさん聞いたわ。騎士の話は面白くなかったわ」
マリーがすまなそうに伝える。
「当然、当然。いつも任務、任務。地味なお仕事かな、真面目な人が多いのが良い所。冒険者は自由な人が多いかな。マリーは記憶喪失になった事はある?」
レテが唐突に質問する。
「ないわ、レテはあるの?記憶が抜け落ちているなんて不安じゃないの」
マリーは真剣に心配する。
「キャビの記憶はなくてもダイジョブ、ダイジョブ。どうやって記憶を戻そうかな。ネアスは信じちゃったみたい。ふざけて記憶喪失の真似をしちゃった。必要だったんだけど……」
レテは舌を出す。
「私が頭を叩いてあげようか。ショックで治るって話よ。行くわよ、レテ」
マリーは大きく腕を振り上げる。レテはビビる。
「眠ったら治るかな、今日は疲れて記憶が混濁している事にするわ。マリー、ありがと。考えがまとまったかな」
レテは急いでマリーに伝える。
「冗談よ、レテ。思いっきり叩いた振りをしないとみんな信じてくれないわ。すぐに記憶を戻したい時は合図をお願い!」
マリーは微笑む。
「合図はマッキャンビーのバカ。言わないからダイジョブ、ダイジョブ」




