にゃんにゃん
レテは鈴を拾うと扉をノックする。返事はない。彼女は鈴を鳴らしてみる。にゃんと小さい声が部屋から聞こえてくるが扉は開かない。彼女はさらに鈴を鳴らす。にゃ〜ん、にゃ〜んと聞こえるが途中で声が止まる。
「ごめんね、ニャン。遊んじゃった。外は無事よ、扉を開けてくれるかな。刺客は全員ボコボコにして神殿のてっぺんに吊るしているわ。雨が止んだのが残念、残念!」
レテは明るく話す。扉がバタンと開き、ミヤがレテに抱きついてくる。
「コワかったです。貴族の刺客が襲撃に来るなんて信じられませんでした。でも、扉はすごい音で叩かれるし、ユーフさんの悲鳴も聞こえました。レテ様が来てくれなかったどうなっていたんでしょうか?」
レテはミヤをギュッと抱きしめる。部屋の中にはドロスとニャンの姿が見える。辛いドリンクを持っているようだ。
「そっちは大丈夫みたいね。刺客に脅されたりはしていないかな。窓から静かに侵入して部屋の隅に隠れていたりはない、ミヤ?」
レテは一応ミヤに確認する。ミヤは首を横にふる。
「誰も来ていません。ヒマだったのでニャンさんに旅のお話を聞かせてもらっていました。そしたら、すごい音が聞こえて!外を見てみたいです。ボコボコ?!」
ミヤはレテを抱きしめながら外の方に押し出そうとする。レテは彼女の頭を撫でてあげる。
「私も休憩したいかな。部屋に入れてくれる、ミヤ。座ってお話しようか。この鈴はニャンの持ち物でしょ?」
レテは鈴を鳴らす。
「にゃ~ん、にゃ~ん、レテ様!ニャンは鈴にすごく弱いにゃん。この事は秘密にして欲しいにゃん。どうぞにゃん!」
ニャンは手招きする。レテはミヤを抱っこして部屋に入っていく。
「恥ずかしいです、レテ様。私は子どもじゃありません。自分で歩けます!少しだけコワかっただけです。今度は私も刺客をやっつけます」
ミヤはレテにおろしてもらおうとする。レテは扉を閉じて、ミヤを隣に立たせてあげる。
「レテ様。刺客が本当に風の神殿に来たのですか。この街も物騒になりました。人々は何を恐れ、不満に思っているのでしょうね。私の事を疎ましく思う人物はたくさんいますが恐れは起こさないハズです」
ドロスは真剣な面持ちでレテに問いかける。レテはうなずく。
「爽やかな容貌、神官の秘技と呪いの知識に秀でる神官長が信頼している部下。ドロスは恵まれているかな。少しくらいはヒドイ目にあっても当然だって思う人がたくさんいても仕方がないわ。見るだけで人々の憎しみを増幅させる男!」
レテは問いに答える。
「レテ様の言う通りです。ドロスさんはイタズラにも引っかかりません。たまに無性にイライラする事があります。ドロスさんと見かけた人たちが同じ感情を抱いているかもしれないです。背後には注意したほうが良いです」
ミヤも答える。ドロスの顔が青ざめる。レテは部屋を見渡す。部屋の中にはポーションの瓶がたくさん棚に置いてある。
「すごい量のポーションにゃん。レテ様もこんなにたくさんの瓶を見たことはないにゃんか?ニャンは初めてにゃん。商売の役に立ちそうにゃん!」
ニャンがレテの視線に気づき、声をかける。レテは微笑む。
「めずらしいポーションをたくさん売っている行商人!評判になりそうね、私もニャンの宣伝をしてあげようかな。でも、みんなニャンなんでしょ?」
レテがニャンに確認する。ニャンは首を振る。
「ニャンはニャンだけにゃん。他のニャン族のニャンは掟を守らず自由に名前を名乗っているにゃん。ニャンはニャンだけだからレテ様は安心して宣伝出来るにゃん」
ニャンはレテを見つめる。
「ニャン族の掟は厳しかったと書物に書いてありました。一日最低百回はにゃんにゃんと言わないとイケナイ。ニャン族同士で名前を間違ってはイケナイ。我々にはニャンの違いが分かりません。書物には十個のニャンの違いについてページが割かれていました」
ドロスはしみじみと答える。
「ドロスさんは何でも知っているんですね。すごいです!尊敬しますが嫉妬心も芽生えます。私もニャン族の書物を読みたいです」
ミヤの発言にドロスの顔色はさらに悪くなる。
「マッスルニャンダドリンクは最高って騎士団のみんなに伝えておくわ。騎士はララリを全然持ってないから期待はしないでね。私は特別、特別!」
レテはカバンから金ララリを取り出す。ニャンは驚く。
「金ララリ?貴族の方以外で金ララリを持ち運んでいる人を見るのは初めてにゃん。レテ様は頼りになるにゃん、ネアス様も安心にゃん」
ニャンは金ララリをじっと見ている。レテは金ララリをニャンに渡そうとする。ニャンは手を後ろに回す。
「レテ様、何だにゃん?!金ララリは銀ララリがいっぱい必要にゃん。にゃんの売上ではいつまで経っても金ララリには届かないにゃん」
ニャンはドロスを見る。
「金ララリには夢が詰まっています。たくさんの女性とお知り合いになれたり、高価な食事も出来ます。しかし、私が求めるモノは金ララリではありません。ネアス様の呪いと解き、書物に名を残す事です」
ドロスは笑みを浮かべる。
「金ララリがあれば風の神殿の朝食も豪華になります。毎日オイシクないパンと味の濃いだけのドリンクに飽きました。ドロスさんの書物も大事ですけど日々の食事も大切です」
ミヤが答える。レテがうなずく。
「騎士団は薄い味のドリンクだから神官の方がマシかな。人数の違いかな、マッスルニャンダドリンクはオイシイわ。安売りはダメよ、ニャン」
レテはミヤに鈴を手渡す。ミヤは早速鈴を鳴らす。
「にゃ~ん、にゃ~ん?!イタズラはダメにゃん、ミヤ様。改良型マッスルニャンダドリンクを開発中にゃん。にゃ~ん、にゃ~ん?!」
ニャンはミヤの鈴に反応し続ける。
「こちらのポーションを参考に新型のドリンクを作ろうと三人で相談したんです。刺客など神官長の妄想だと思っていたのですが私は間違っていました。経験は尊重すべきでした。反省しています」
ドロスは小さい窓を見る。外は暗闇に包まれている。
「そうです、刺客は強かったんですか。レテ様は傷ついていないと言う事はレテ様が強すぎたんですね。刺客がぶら下がっている所はここから見えますか?」
ミヤは鈴を鳴らす手を止める。レテが代わりに鳴らし始める。
「ミヤ、刺客は来ていないわ。予定では貴族の刺客をやっつけて王都に直接乗り込んで貴族を一掃、王様はびっくりするけど理解してくれるかな。それで黒幕の大臣を倒して、めでたし、めでたしのハズ!」
レテはミヤに真実を伝える。ミヤは肩を落とす。
「そうですよね、レテ様が相手をボコボコにする訳ないです。きれいでやさしくてかわいいレテ様はどうやっつけるんでしょうか?」
ミヤは安堵する。
「やさしく、手で触れる。そっと?」
ドロスは興奮する。レテが睨みつける。
「変な想像は禁止!女性に興味がない神官でしょ、ラーナ一筋じゃないのかな?!」
レテの鈴を振るのが速くなる。
「にゃ~ん、にゃ~ん。レテ様。にゃ~ん、にゃ~ん。ダメにゃん!」
ニャンが力尽きそうになる。レテは鈴を鳴らすのを止める。
「ニャン族の方が鈴に弱いって聞いた事もないです。首にかわいい鈴を付けているのをみかけた事があります。私も欲しいなって思っていました」
ミヤはレテの帽子を見つめる。
「ニャン族の鈴は魔除けです。行商人を生業とするニャン族はゴブリン避けと亡霊よけに鈴を身につけていると聞きました。直接聞いたので確かです。道で危険を感じたら鈴を鳴らす決まりだそうです。他のニャン族の仲間に知らせる手段でもあるそうです」
ドロスがニャンの代わりに答える。
「そうにゃん。でも、ニャンは鈴の音を聞くとにゃ~んって言いたくなるにゃん。ニャン族の中でもめずらしい体質にゃん。何の役にも立たないにゃん」
ニャンはしょんぼりする。
「かわいいです。にゃ~ん、にゃ~ん!」
ミヤがニャンの真似をする。
「にゃ~ん、にゃ~ん。かわいいね、ミヤ。とっても役に立っているかな。にゃ~ん、にゃん!かわいい、かわいい!」
レテはミヤの真似をする。ミヤは微笑む。
「想像力が掻き立てられます。今日は眠れるのでしょうか、徹夜でニャン族の書物を読むのも楽しそうです」
ドロスが笑みを浮かべる。レテは彼を睨む。
「変な想像は絶対ダメ!ラーナの顔を思い浮かべなさい!」
レテはドロスに指示する。彼はうなずく。
「ミヤ様、鈴を返して欲しいにゃん。首が寂しいにゃん、ニャンもレテ様みたいにかわいいにゃ~んを練習するにゃん。ニャン族として負けられないにゃん」
ミヤは返したくないようだがレテが彼女の手に触れるとミヤはニャンに鈴を渡す。ニャンは器用に紐で結んで首にくくりつける。
「お土産の時間ね。気づいていると思うけどキンパラキノコのおすそ分け、ドロスにも分けてあげるわ。感謝しなさい」
レテは背後からキンパラキノコのお皿を風で運ぶ。ドロスの顔つきが変わる
「キンパラキノコ、本物のキンパラキノコですか?偽物のキンパラキノコがギンドラの街にはたくさん売っています。レテ様を疑う訳ではありませんが……」
ドロスは慎重にお皿の中のキンパラキノコを観察する。大きくうなずく。
「どうなんですか、ドロスさん。本物ですか?私も名前だけは聞いた事があります」
ミヤが恐る恐るお皿を見る。
「食べてみるのが一番、一番。この風味と香りだったら偽物でも構わないかな。ララリを払ったのは私じゃないしね。高級宿の店主のキハータじゃなくて、商人のカンランね」
レテがミヤの口にキンパラキノコを運んであげる。ミヤは笑顔になる。
「オイシイです。初めて食べる味です。とっても良い香りです」
ミヤはニャンにキンパラキノコのお皿を差し出す。
「ニャンも食べてよいにゃんか?ニャンはお返しを出来ないにゃん、ララリもないにゃん」
ニャンは躊躇する。
「ニャンに聞きたい話があったから丁度いいかな。キンパラキノコのお礼はお話!」




