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奇襲

 レテは光の風を神殿の方向に伸ばしていく。ウィルくんがその風に乗っていく。彼女の周りではキンパラキノコのお皿がクルクル回っている。レテは光の風の上に飛び乗る。

「よし、完璧、完璧。キンパラキノコを落とさないように気をつけて風の神殿に向かいましょう。みんなの力を合わせれば出来る、出来る」

 レテは精神力を高める。

「雨は止んだようですね、レテ様。マッキャンビーさんによろしくと伝えてください。朝一に風の神殿に向かいます。風の加護がありますように」

 アーシャは気持ち良い夜風を受ける。

「雨の中、キンパラキノコをいかに守って運ぶか頭の片隅でずっと考えていたけど必要なかったわね。ツマラナイかな」

 レテは不満を口にするが夜風は気持ち良いようだ。シルフィーの風がレテを包み込む。

「レテ、忘れ物。帽子を忘れているわ。高価な品物だから大事に扱うのが良いかしら。使ってこその帽子だけど、男性陣は乱暴に扱うから注意した方が良いわ」

 ラーナが帽子の入った袋を手渡す。ラーナもシルフィーの風を感じる。

「ありがと、ラーナ。私とアーシャはドジ仲間かな、ネアスもそうね。三人でドジ同盟を作れそうね。いつもは忘れ物をしないんだけど……」

 レテは袋を受け取るとキンパラキノコのそばでクルクル回らせる。

「いつものように吹き飛んでいくのですか?夜は視界が悪いので止めた方が良いです。フワフラで行くのをオススメします」

 アーシャは昨日の夜を思い出す。

「ネアスの趣味かな。私はスリルを求め続けるわ。ギリギリの速さ、快感がたまらない時がある。今日はちょっとだけ抑えめで行こっと」

 レテはシルフィーにお願いする。光の風の上に暴風が吹く。彼女はその上に飛び乗ろうとする。

「いってらっしゃい、レテ。ほんとに帽子を落とさないように気をつけてね。自分の分も含めてね」

 ラーナはレテの様子を眺めている。

 レテは帽子を手で抑えて光の風の上に飛び込む。暴風が彼女を風の神殿に向かって運んでいく。二人の女性は手を振り、彼女が目に見えなくなるまで見送った。夜の街に光の風がアーチを作る。

「到着!ネアスが起きていると良いかな、私が起こしてあげないとイケナイなんて贅沢すぎるわ。ちゃんと起きてないとダメ」

 レテは独り言を言う。ウィルくんが風の神殿の入り口と照らしている。キンパラキノコと帽子は安全に運べたようだ。

「身だしなみは問題なし。帽子の位置もダイジョブ、ダイジョブ。誰も外にはいないのかな。ラトゥール、どう思う」

 レテはラトゥールに問いかける。光の風はレテが通り過ぎた後から徐々に消え去っていく。ストーンマキガンの街は再び光の魔法紙の光に照らされる。

「シルちゃん、警戒を怠ったらダメ。何が来ても対応する。さあ、行きましょう!」

 レテはシルフィーの風に包まれたまま神殿の扉の前に立つ。彼女はすぐに扉を開けて中に入ろうとするが鍵がかかっているようで開かない。レテはイライラして扉を蹴飛ばす。

「開けなさい、ドロス。私、私!」

 レテは思いっきり扉を蹴っ飛ばすが開かない。彼女は扉を吹き飛ばそうと考えるが他の考えが頭に浮かぶ。

「ラトゥール、さっき風の神殿でした事をもう一度お願い!きれいでやさしくてかわいい私も待たせるなんてありえないかな」

 レテはラトゥールにお願いする。彼女の手から光の風の紐が現れる。レテは慎重に紐を鍵穴に侵入させる。

「良い感じ、ラトゥール。やさしく、やさしく、壊しちゃダメ。石職人ギルドに頼み事をするのはイヤ。キミと私なら出来る、出来る」

 レテは光の風の紐を動かす。何かに当たったように感じる。彼女は静かにそれを動かす。カチッと音がする。レテは扉を開ける。

「ただいま、みんな。私がいなくて寂しかったかな。ダイジョブ、ダイジョブ。今夜は一緒にいてあげるわ」

 レテが神殿の中に入ると剣が彼女の目に入る。レテはすぐさま後ろの方へ飛び退く。剣は彼女を追いかけてくる。レテは光の風の紐を目の前に放つ。剣の持ち主は怯んだようで攻撃を止める。

「貴族の刺客かな、私を狙うなんて身の程知らずかな。ラトゥールの力を見せる良い機会ね。あなたは最初の犠牲者!」

 レテは光の風の紐を剣の持ち主にまとわりつかせる。紐は脇や足をくすぐりだす。彼は笑い声をあげる。

「ひゃ、ひゃ、ひゃ。俺の負けだ」

 ユーフは剣を放り出す。レテはくすぐるのを止めない。

「ユーフが刺客?味方だと思っていた人が敵で、怪しい人が味方。良くある話ね。悲しい事だけど仕方がないわ。ラトゥールの力を試させてもらおうかな」

 レテは光の風の紐で剣を掴み、上空にあげる。彼女はさらにくすぐる速さを上げる。ユーフは地面に倒れ込み、転げだす。

「レテ様でしたか、賊が来たと思いました。扉を叩く大きな音が聞こえたのでユーフさんに様子を見に行ってもらったのです」 

 神官長が神殿の外に出てくる。

「神官長が裏切り者だったのね。私は王家、王国の秩序を乱す存在になる可能性がある。あなたがその道を選ぶ事を私は否定できない」

 レテは光の風の紐を神官長にも伸ばしていく。彼は恐れおののく。

「くすぐりはイケません。私は苦手なんです。子どもの頃からくすぐられる事だけはガマン出来ません。一度友人に怪我を負わせそうになった事もあります。レテ様、私は誰の味方でもありません。風に祈りを込めるのみです」

 神官長は祈りを込める。光の風の紐はジワジワと彼に近づいていく。

「ひゃ、ひゃ、ひゃ。コッチも限界だ。レテ様、話を……?!」

 ユーフは力尽きそうになるが踏みとどまる。

「敵味方が錯綜する事態ね。私は何を信じれば良いのかな。貴族はすでに動いている、王様たちは私を警戒しているのかな」

 レテの体を光の風の紐が包み込む。神官長はひざまずく。

「レテ様、明日の私のおやつのフルーツを差し上げますのでくすぐるのは止めてください。私を疑うのは当然の事です。しかし、私はレテ様だけのために行動するわけにはいきません。風の神殿の存続を優先します。王族の方に尋ねられたら全てを答えるつもりです」

 神官長が真摯に答える。

「風の夢を見る者はレテ、レテ、味方だ。ひゃ、ひゃ、ひゃ」

 ユーフは倒れ込む。レテは彼をくすぐるのを止めるが紐はそのままにしておく。

「王様たちにウソをつくのはまずいかな。神官長の意見には賛成。でも、どうして私に襲いかかったの、ユーフ。それに神官長も止めなかったのは変な話かな」

 レテは二人を置いて神殿の中に進んでいく。彼女が中を見渡すと誰の姿も見えない。レテはさらに精神力を高める。

「異変?シルちゃん!」

 レテはシルフィーにお願いをする。暴風が彼女の目の前で発生する。彼女は暴風をいくつかに分けて神殿の中に放り出す。風が神殿を走っていく。

「レテ様、早まらないでください。何も起きていません。他の者たちは部屋に退避しています。ルキンさんから情報がありました。昨日の石職人ギルドの件で恨みを持った男たちが風の神殿の襲撃を企てている。レテ様ではなく、ネアス様とガーおじ様に狙いをつけているそうです」

 神官長が事情を伝える。レテの表情が険しくなる。

「やるなら徹底的に!手加減したのがイケなかったみたいね。シルちゃん、ありがと。さあ、次の場所に向かいましょう」

 レテはすぐさま神殿の外に出ようとする。扉の前にはユーフが立っている。くすぐりから復活したようだ。

「そいつらの場所を仲間が探している。騎士には騎士、冒険者には冒険者のやり方がある。今回は俺たちの方法が最適だ。レテ様はゆっくりと休憩すれば良いさ、ただのゴロツキ共だ。神官長はビビり過ぎなのさ」

 ユーフは扉の前を動かない。彼の脇には光の風の紐がくっついている。

「精霊使いのやり方もあるかな。石職人ギルドをブッ壊す。帰る場所を失くした後にうろついている所に止めの一撃。一人、二人のゴロツキが消えた所で誰も気にしないかな」

 レテは光の風の紐を動かそうとする。ユーフは体を引き締めて耐えようとする。コツン、石を叩く音がレテの耳に聞こえる

「レテ様、待ってください!ルキンです。噂好きのルキンですが今回の情報は確かです。石職人ギルドは彼らの追放を決めました。ギルドの重役が直接王都に向かい事情を説明する事に決まりました。これでレテ様に迷惑はかからないハズと思っていたんですが……」

 ルキンが騒ぎを聞きつけいち早く部屋から飛び出してくる。

「おお、ルキンさん!お呼びしようと思っていた所です。私は皆に知らせに行きます。先程の扉を乱暴に叩く音はレテ様の来訪の合図。今後は気をつけます。フルーツもすぐにお持ちします」

 神官長はレテの返事を待たずに走り去る。

「ゴロツキ共に逃げられたそうだ。外部に仲間がいて、話を聞きつけたんだろう。その話を聞いた神官長が慌てふためいたのさ。狙いはネアスとガーおじさんだ。風の神殿は警戒態勢に入る。これより誰も外から人を入れさせない」

 ユーフが迷惑そうに話す。ルキンがうなずく。

「そっか、ホントに二人が狙われている訳じゃないのね。有り得そうだけど、可能性は低いかな。用心は必要ね」

 レテは安堵する。光の風の紐はレテの手の中に戻る。ユーフは剣を取りに外に行く。

「シルちゃん、お願い。ユーフに剣を返してあげて!大事な剣をごめんね、借りは返すわ」

 レテもユーフの後をついていく。ルキンも続く。

「気にするな、俺の腕が未熟なだけさ。レテ様の真の実力を知る事が出来たのが一番の報酬さ。きれいでやさしくてかわいい、か!」

 ユーフは空に飛び上がり剣を受け取る。彼は剣先を確認した後に鞘に収める。

「石職人ギルドでは一日中話し合いがありました。その決定は絶対です。私たち石職人は一度決めた事を曲げる事はありません。身内の始末は身内で致します。彼らに逃げ場はありません。ギルドの重役よりレテ様に伝言です」

 ルキンは緊張した面持ちで伝える。ユーフがうなずく。

「ギルドの火種はギルドで始末をつける。鉄則だ。騎士団、ましてや王国でもそれに手出しは出来ない。そうだろ、レテ様」

 ユーフがレテに問いかける。レテは夜空を見上げる。空には雲が残っている。

「騎士団は何も出来ないかな。私たちはドコに向かおうとしているのかな、ラトゥール」


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