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決意

 レテはラーナとクロウ、キハータを見つめる。彼女が精神を集中させると光の風が部屋全体に行き渡る。レテが手でクルリを回すと光の風は彼女の手から離れる。彼女は自由になった手でナイフを手に取る。

「大事なキンパラキノコ?丁重に扱わないとイケないかな。今度も私の元に来てくれるとうれしいな。ラトゥールはお預けね」

 レテは大きなキンパラキノコで口の中をいっぱいにする。彼女は満面の笑みを浮かべた。

「良い味のようですね。カンラン様もお喜びになるでしょう。料理人もレテ様が満足してくださって安心していると思います」

 キハータは答える。

「副騎士団長は遅いわね。成功したならアーシャが戻ってくるハズなのに彼女も来ない。何かあったのかしら。私が様子を見に行くわ。二人はゆっくりとキンパラキノコを味わっていると良いわ」

 ラーナはアーシャの事が気になるようで足早に部屋を飛び出していく。レテは手を振って見送る。

「宿の中なら問題ないだろう。私はここに残ります。キンパラキノコの配分はまだ決まっていません。私が責任を持って最後まで見届けましょう」

 クロウはラーナが去っていく様子をチラッと見ると視線を光の風に戻す。

「私は決めた。副騎士団長のキンパラキノコはキハータにあげる事にした。借りね、借り。キハータには大きな借りを作る事にした。キハータにもこの意味は理解できるでしょ?」

 レテはキハータを見つめる。

「ありがたい事です。しかし、借りですか。気の利かない高級宿の店主に出来る事は限られています。魅力的な提案ですが他の宿泊客を裏切る行為は出来ません」

 キハータが答える。クロウは推移を見守る。

「私は英雄の子孫、それとも新たにラトゥールの力を手にした者。キンパラキノコを食べてみて私は確信した。ネアスに出会う前の私はキンパラキノコを食べる事が出来るなんて考えもしなかった。ララリの問題もあるし、貴族が独占している事も関係しているわ」

 レテが決意を語る。

「レテ様の仰る通りです。金ララリだけではキンパラキノコを手に入れる事は不可能です。偽物を掴まされるのが関の山です。貴重品は真っ先に貴族の手に渡ります。その貴族から王族へ」

 クロウがすぐに口を挟む。

「私は貴族でも王族でもない。精霊使いで騎士団長。きれいでかわいくてやさしい事はキンパラキノコに関しては無関係かな。これからは違う、私はキンパラキノコを食べた事がある精霊使いの騎士団長。良い響きね、そう思わない?」

 レテは興奮する。

「歴代の騎士団長の中でもキンパラキノコを食べた者はいないでしょう。貴族出身の騎士団長はいないハズです。これはレテ様の方が詳しいでしょう」

 クロウが答える。レテは小さくうなずく

「キンパラ騎士団長、キンパラ店主、キンパラ冒険者。レテ様の言う通りです。良い響きです。キンパラキノコは素晴らしい」

 キハータは微笑む。

「キンパラ騎士団長?今、私はキンパラ騎士団長に出世したのね。信じられない!唯一無二の称号を得たかな。キンパラ団長って呼んでね、みんな!」

 レテは二人に告げる。クロウは躊躇う。

「レテ様、キンパラキノコは貴重品ですがラトゥール様に劣ります。あなたはラトゥールの力を得た者、その事実は変わりません」

 クロウは冷静に答える。レテは激しくクロウを睨みつける。クロウは目を逸らす。

「ラトゥールは過去に英雄に力を貸して災厄を退けた。私は二番目の女、もしかしたら数えきれない程の女に手を出してきたかもしれないわ。このきれいな光でね」

 レテは部屋の中の光の風を眺める。彼女の帽子の回転が止まる。

「キンパラ団長の仰る事も良く分かります。この宿には貴族の方も出入りします。王都では目につくためにここに来る方も多いのです。その御蔭で繁盛はしているのですが女性の涙もセットで付いていきます」

 キハータが答える。レテがにっこりする。

「ラトゥールの末裔、英雄の子孫はそれなりにいるわ。でも、キンパラ団長は私だけ!ネアスとガーおじにキンパラキノコをごちそうできるのも私の特権かな。ガーおじは王様の可能性があるけど……」

 レテはキンパラキノコに視線を戻す。

「キンパラ団長の仰せのままに。しかし、歴史上活躍をした人物は去っていった英雄のみです。他の子孫はボンクラだったのでしょう。レテ様、いいえ、キンパラ団長は違います」

 クロウは方針転換する。レテは彼に微笑む。

「ネアスとガーおじの前ではキンパラ団長って言わないでね。二人は私を偉い騎士だと思っているわ。動きにくくなるから黙っていてね。私に対してこの件に関して脅しをかけてきたらユルサナイ、ユルサナイ」

 レテは二人を脅す。キハータは黙ってうなずく。

「私は人に疑われる体質なのでしょうか?それともラーナが余計な事を話しましたか。しかし、私は裏切った事も約束を破った事も他人を陥れた事もありません。成功はしています。冒険者としては破格の待遇を常に受けています」

 クロウは語る。レテはうなずく。

「悪役は最後の最後に姿を現す者かな。それまでは一番信頼出来る人を装う。あるいは最後に悪に落ちる。力に取り込まれる、自信がありすぎるのかな。そうなると私も裏切り者ね。最後にネアスとガーおじを落とし穴に落とそうかな。とびきりのヤツ!」

 レテは笑顔で語る。

「気の利かない宿の主人には難しい話です。私が裏切ったとしても今日聞いた話を誰かに話すくらいです。何をお聞きしたのでしょうか」

 キハータは思い出そうとする。

「俺はラーナを裏切る。ラーナの魔術に対する熱意、才能が俺の目的。俺は魔術師の才能を取り込み、世界に復讐をする。レテ様、いいえ、キンパラ団長の推理は正しい。素晴らしい考えです。ですが証拠がない。どうしますか?」

 クロウが悪ノリする。その時、アーシャが部屋に飛び込んだ。彼女の槍がきらめく。

「ラーナさんの言った通りです。キンパラ団長は誰か分かりません。クロウ、覚悟してください。レテ様には指一本触れさせません」

 アーシャの槍に光の風が吸い込まれていく。彼女の槍は光輝く。

「ラトゥール、ダメ!クロウは今の所は裏切り者じゃないわ。最後にヒドイ事をするかも。ううん、大丈夫だと思う、きっと?」

 レテは焦る。扉の外からラーナの声が聞こえる。

「キンパラ団長!どこから侵入したのかしら、アーシャ退きなさい。私が魔術で事故を起こすわ。私がクロウを最後の最後まで見張っているから問題ないわ。始末は身内がするのが鉄則かしら」

 ラーナが部屋に入ろうとするがアーシャがブロックする。彼女は槍の様子には気づいていない。

「タイミングが悪い、俺は裏切らない。裏切り者のセリフだ。俺は裏切る。どうだ。俺はお前たち全員を裏切る、全てはウソだ。俺の名はクロウではない。入れ替わった男だ。クロウは裏切る。俺は裏切らない」

 クロウは混乱する。

「私には分かりません。キンパラ団長にお任せします、推理をお願いします。私はキンパラキノコを頂いて気持ちを落ち着けます。借りです、借りです」

 キハータはキンパラキノコにかぶりつく。笑みがこぼれる。

「キンパラ団長、誰ですか。この部屋にはいません。姿を隠しているのですか、レテ様。敵はクロウ、キンパラ団長の対処はレテ様にお任せします」

 アーシャが槍をクロウに向ける。光の風がクロウに向かって吹いていく。クロウは光の風を受けてニヤつく。

「クロウ、笑うのは止めなさい。私も信用できなくなるかな。アーシャ、ラーナ、落ち着きましょう。ここは安全、安全。クロウは裏切らないのかな、ラーナ?」

 レテは疑心暗鬼だ。

「キンパラ団長、私は感情に忠実でありたいのです。光の風は美しい。ラトゥールの力、いいえ、どんな力でも構いません。素晴らしい、素晴らしい!」

 クロウは光の風に体を拘束される。笑みは消えない。

「クロウは興奮しているだけね。裏切るつもりはないのかしら、残念ね。キンパラ団長とアーシャの槍が気になるわ。魔術の力が目覚めたのかしら?」

 ラーナは冷静さを取り戻し、アーシャの手元に注目する。

「ややこしい話は苦手です。レテ様の指示に従います。クロウ討伐の命令を下してください。彼は今打ち取るべきです」

 アーシャは決意を固める。

「命じる訳ないでしょ、アーシャ。槍はそのままで良いから二人とも部屋の中にはいってくれるかな。他の宿泊客に迷惑がかかるわ、キハータ、対処をお願い?」

 レテはキハータにお願いする。キハータは急いで口の中にキンパラキノコを入れて、ラーナと部屋の中に押し込むと扉をバタンと閉じる。

「私は無実です。旅人の翼を授かり、多くの冒険を成し遂げた者。貴方を裏切る理由はありません。ララリと女性、どちらにも困っていません」

 クロウが弁明すると三人の女性は一斉に彼を睨みつける。

「人の欲望は無限に広がる。さらにラリリと美しい女性を求める。あるいは一番近くにいるけれど、どうしても彼女の心を手にする事が出来ない。彼の欲望は刺激される。俺はどちらにも困っていない!」

 ラーナが攻める。クロウは気にしていない。

「クロウはあえて私たちを混乱させようとしているのかな。私は間違っていたのかな、アーシャの直感を信頼する方が賢明な判断なの?打ち取るのは反対かな」

 レテはアーシャを見つめる。クロウは顔色を変えない。

「レテ様の判断に従います。私は混乱しています。正常な決断が出来ません。クロウさんはイヤミな人のようです」

 アーシャが本音を口にする。

「よく言われます。女性は褒めてくれる方が多いのですがアーシャさんの好みではないようです。残念ですが仕方がありません。王都の知り合いの女性になぐさめてもらう事にします。しかし、この風は素晴らしい」

 クロウは感嘆する。

「王都にも女性がいるのね。グラーフの街にも親しくしている人がいたわ。この街にはいないのかしら、クロウ?」

 ラーナが問いかける。クロウの顔色が変わる。

「ストーンマキガンにはクロウが会いたくない女性がいるみたいね。私も町ごとに男性の友達を持ってみたら分かるかな」

 レテはつぶやく。

「レテ様、ダメです。騎士団長がふしだらです。レテ様は一人の方に思いを注ぐべきです。私は応援しています。きっと上手く行きます、絶対です!」

 アーシャは焦ってレテを説得する。

「行先に男性の影ね。憧れるけどめんどうかしら。名前を間違えそうだし、ララリも無駄にかかるわ。私はあんまりたくさんの人とお付き合いするのは苦手」

 ラーナはクロウを見つめる。

「キミたちは真面目すぎる。肩の力を抜いて生きるべきだ。好みの男性には積極的に声をかけるべきだ。別れの技術は機会があったら教えましょう」

 クロウが彼女たちに提案する。レテはうなずく。

「おもしろそうな話ね。きれいにお別れをする事が出来るなら誰かとお付き合いしてみようかな。気になる、気になる」


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