会談
高級宿の部屋の中で待っていた副騎士団長は戸惑い、声が出せない。キハータは焦り、商人らしい人物とクロウは推移を見守っている。ラーナは静かにドリンクをすすっている。ウィルくんは部屋の明かりに溶け込む。
「副騎士団長、裏切ったのね。知っていたけどヒドイかな。予想通りだし、安易な展開。ツマラナイかな。裏切りモノは誰!」
レテはクロウを見つめる。
「レテ様、私は裏切るつもりなど考えた事もありません。王国唯一の精霊使いのレテ様とはずっとお話をしてみたいと思っていたのです。騎士団にも嘆願書を出していたのですが断られました。裏切りモノは別でしょう」
クロウはすぐに答える。
「私がクロウを監視しておくわ。彼が裏切ったとしても害はないかしら。お父様がクロウと私のどっちを選ぶかは明白ね。彼には力になってもらっているけど娘を捨てる事は出来ないハズよ。何にも私は悪い事をしていないしね」
ラーナはレテに話を合わせる。
「キハータ、それとも商人さん?確か荷馬車を運んであげた恩を忘れちゃったのかな。顔はあんまり覚えていないけど、正解で良いよね」
レテは商人に話しかける。
「レテ様、その節はお世話になりました。今回は副騎士団長様に無理を言って同席させて頂きました。この中に裏切りモノがいるのですか。ラトゥール様のお力は人々に平穏を与えてはくれなかったようです」
商人は深く考えこもうとするがすぐに顔をあげる。
「申し訳ありません。私はカンランと申します。王国で商人をさせていただいております。騎士団のお手伝いをしていきたいと望んでおります」
カンランは考え込む。アーシャは剣を取りに階段の下まで降りていったようだ。
「私はシャルスタン王国の騎士、レテ。きれいでやさしくてかわいい精霊使いでもあるわ。よろしくね、カンランさん」
レテはカンランに挨拶する。カンランは顔をあげてお辞儀をして、すぐに考えに耽る。
「そうなると裏切りモノは私か副騎士団長のようです。私は気が利かない高級宿の主人にしてくすぐりに強い、気をすぐに失う、しかも裏切りモノである。人生とは何があるかわからないものです」
キハータは答える。レテはうなずく。
「やっぱり副騎士団長が裏切るモノのようね、潔白を証明出来るかな。あるいは今なら見逃してあげても良いわ、私たちの付き合い、付き合い」
レテは副騎士団長を見つめる。彼は事態が飲み込めないが何とか口を開く。
「俺も裏切りモノではない。レテの勘違いだ。俺はレテに仕事を押し付けようと一日中考えていたのは確かだ。貴族と王族、ゴブリンの相手をするのは面倒すぎる。俺はどれを選ぶかずっと考えていた。仮病を使う事も考えたがバレると思って、真面目に仕事をした」
副騎士団長は弁明する。レテは大きくうなずく。
「騎士も大変な仕事のようだな。冒険者も貴族の機嫌を取るので忙しいがそれも目的を果たすため。ラーナのお父様とお母様は特別な方だ。ホントだぞ、ウソじゃないからな」
クロウは口を滑らせそうになる。
「お父様に告げ口するほど子どもじゃないわ。そのくらいはお父様もご存知のハズかしら。私は安全に王都に到着できれば何も文句はないわ。その後の事は知らない」
ラーナが冷たく答える。
「副騎士団長はどれを選んだの?私はゴブちゃん一択かな、貴族は最初の排除。王族の人は私でもどうして良いか分からないわ」
レテは椅子に座り副騎士団長に問いかける。ラーナが奥からドリンクを手渡しに来る。
「ありがと、ラーナ。ずっと地下室にいたから暖かいドリンクはありがたいわ。仲間と思っていた副騎士団長は気遣いが足りないかな」
レテはドリンクを飲み、ホッとする。
「イヤ、レテの登場の仕方が悪かった。イヤ、言い訳はダメだ。俺は副騎士団長だ。レテが最も信頼するべきモノ。それが裏切りモノとはな。俺の日頃の行いが悪かったのか、それともレテの機嫌が良くないのか」
副騎士団長は余計な一言を付け加える。レテは彼を睨みつける。
「ラトゥールの末裔にして騎士を率いる立場。その心労は計り知れないでしょう。私で力になれる事があるようでしたら何でも言いつけでください、レテ様」
クロウはレテに取り入ろうとする。
「ありがと、クロウ。手始めに風の夢を見る者について何か知っているかな。後はゴブちゃん神官について。岩の涙。このくらいかな」
レテはクロウに問いかける。
「クロウはどれを知っているのかしら。凄腕の冒険者、旅人の翼を持つもの。彼はまだまだ成し遂げる事がある」
ラーナがクロウを焚き付ける。クロウはニヤつく。
「はじめに風の夢を見る者についてお答えします。私の知っている話で関連のある事は伝承が一つあります。流星の降る夜、一人の青年が夢を見る」
クロウが続けようとする。
「流星が降る夜、一人の青年が夢を見る。彼は風に憧れ静かに眠る。彼の願いに従え、冒険者の願いはそこにある」
レテが言葉にする。
「流石です、レテ様。ギンドラの街の冒険者ギルドに伝わる伝承です。ヘンクツな老人が信じているそうです。私がギルドを訪れた時に相談されました。若い有望な冒険者を惑わす事は許す事は出来ない。彼はギルドから追放されるそうです。悲しい話です」
クロウの答えにレテは顔色を変えない。
「揉め事はどこでもあるのね。騎士団は平和なのかな、私は幸せかもしれない。どう思う、副騎士団長?」
レテは副騎士団長に問いかける。
「騎士団はレテのお陰で安定している。貴族に変に気を使う必要もない、ゴブリン退治に忙しい日々が続いているがシルフィーの力で戦力不足は補われている。今の所は問題が起きそうな気配はない。俺も裏切るつもりはない」
副騎士団長がしっかりアピールする。
「私が聞いていても良い話なのでしょうか。商人としては興味深い話ですが内密にする自信は私にはありません。必要となれば情報を武器として使うつもりです」
カンランが席を立つ。キハータもそれに従おうとする。
「構わないかな。あんまり秘密にしすぎると貴族が疑うわ。疑心暗鬼になって無茶な行動をされたら王族の方と王国全体に迷惑がかかるかな」
レテはカンランにも話を聞いてもらう事にした。
「ありがたいことです。私も王国のために働きたいと長年思っていたのです。商人の才能しかないため、どうしようかと思い悩んでいましたが少しでもお力になりたいと思っています。ララリはたくさん持っております」
カンランは席に座る。キハータも続く。
「商人が王国のため、ララリをさらに増やしたいのかしら。ララリがあれば大抵の事は出来るわ。魔術は別だけどね」
ラーナがつぶやく。
「失礼だぞ、ラーナ。カンランさんはギンドラの街で最も成功した商人と言われている方だ。冒険者の支援も積極的に行っている立派な方だ」
クロウは満面の笑みでカンランを見る。
「次はストーンマキガン、最後は王都で成功かな。大きい夢は良い事ね、私の夢は秘密かな。誰に教えてあげようかな」
レテはカンランを見つめる。カンランは下を向く。
「私は小さい頃から騎士に憧れていました。しかし、武器の扱いが苦手なので親に反対をされて商人になりました。今思えば武器の技術だけが騎士の仕事ではない事をしるべきでした。ですが商人になり、レテ様とお話を出来るとは感激しています。騎士に無理になったら出来なかった事です」
カンランは恥ずかしそうに話す。
「レテ、誤った方が良いぞ。ちなみに私の夢は副騎士団長を勤め上げて、きれいな女性と結婚する事です。たまに後輩の騎士の相談には乗るが夢です」
副騎士団長はフォローする。
「気の利かない高級宿の主人の夢は決まっています。皆さんの予想している通りです。気の利いた高級宿の主人を目指しています。皆さんに何を提供できるのか私には分かりません」
キハータも夢を語る。
「ゴメンね、キハータ。軽食をお願いできるかな、お話をしながら食べる事が出来るサンドイッチが良いかな。冷たい飲み物も欲しいかな、後は暖かいタオルで手を拭きたいかま。お願いできる?」
レテが注文すると彼は笑顔で部屋を飛び出していく。
「人が集まると暑くなってくるわ。私の夢も秘密ね。そう簡単には教えないわ。それにしてもアーシャは遅いわね」
ラーナは地下に続く階段を見る。人の気配はない。
「アーシャなら心配はないだろう。地下で槍の訓練でもしているんだろうな。体を動かしておきたくなったに違いない。この部屋が安全だ」
副騎士団長が答える。レテがうなずく。
「私も冒険者として武器の扱いに慣れていますが達人とは言えません。若い冒険者には剣術に優れた者がいるようで私は簡単に負けるでしょう。しかし、一人の優れた剣術では大きな冒険は成功しません」
クロウもカンランに答える。
「旅人の翼。功績を重ねた冒険者のみに与えられる名誉の証。一人で出来る事には限界があるのかな。ラトゥールはどう思う、キミは一人の英雄と一緒に災厄に立ち向かったんでしょ。一人と精霊だけでね」
レテが帽子にやさしくさわる。帽子がクルクル回り始める。クロウは前のめりでレテの帽子を見る。
「クロウ、行儀が悪いわ。冒険者はいつも冷静、丁寧、慎重。クロウ談」
ラーナが素っ気なく注意する。クロウは耳を貸さない。
「面白い帽子をもらったな、レテ。俺も今度飲み屋で披露したいもんだ。どこで手に入れたんだ。回る帽子、聞いた事のない商品だ」
副騎士団長がカンランと見る。
「私も存じ上げません。レテ様が風の槍を携えている事は聞いていましたが姿が見えないようです。私の聞き間違いだったのでしょうか」
カンランはレテを見る。
「騎士団名物特製パンと回る帽子、秘密の風の槍。この三つを王都で広めたら騎士になりたい人も増えるかな。最近みんなは冒険者に憧れているの、それとも商人が流行っているのかな」
レテが二人に問いかける。
「昔から冒険者はすぐに辞める者が多いです。皆、夢を持ってギルドの扉を開きますが現実は厳しい。ララリと入念な調査、それに運も必要です。危険も多い、騎士の方が人気があるでしょう」
クロウは帽子から目を離さないで答える。
「商人の数は増えています。ララリを稼ぐのに適しています。私の若い頃には考えられなかった事です。それが騎士の数を減らす事になっているとは残念です」
カンランは悲しむ。
「魔術師も増えているかしら。モーテモチ博士のお陰で魔法使いを名乗る人も増えているわ。私は魔術師!モーチモテ博士も魔術師に戻せば良いのに……」
ラーナはグチをつぶやく。
「ララリは大事、アクセサリーを買うにも作ってもらうためにも必要、必要。ラトゥールはララリが好きかな。金ララリはきれいかな」
レテがラトゥールに語りかける。帽子がクルクル回るのを止める。
「紐でも付けているのか、レテ。後で仕掛けを教えて欲しいな。金ララリは無理だから夜の警備一日交代でどうだ?」
副騎士団長が交渉する。レテはうなずく。
「私の予測では紐で動いてはいません。これは風の力、ラトゥールが帽子を動かしている。そうでしょう、レテ様」
クロウはしびれを切らしてレテに尋ねる。ラーナは微笑む。
「風か紐、どちらかな。賭けの時間ね。金ララリはどちらを選ぶのかな?」