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ゾクゾクゾク地下室

 レテの悲鳴が地下室に鳴り響く。レテはアーシャの腕にしがみつこうとするが焦って掴み損ねる。アーシャはレテが突然体勢を変えたのに驚いて地面にしゃがみ込む。ラーナもレテの様子に驚く。

「コワイ、コワイ!ウィルくん、ラトゥール、お願い。思いっきり光で照らして、全部明るみに出して、お願い?!」

 レテは必死にお願いする。彼女の願いに応じてウィルくんは凄まじい光を放つ。地下室全体が光で覆われる。壁や天井や地面の石がウィルくんの光で鮮やかに輝く。赤、青、緑、様々な色が地下室にあふれる。

「グオーー?!何ですか、この光は?!私はどこにいるですか、確か地下室に足を踏み入れた所までは覚えています」

 キハータが鮮やかな光で目を覚ます。

「レテ様、落ち着いてください。レイレイ森林は遠くにあります。ここは地下室なので朽ち果てない小屋は大きすぎます。いいえ、この地下室は朽ち果てない小屋より広いかもしれません。でも、遠いから大丈夫です」

 アーシャはしゃがみこんだままだ。

「もっと別の所の話だと思っていたら王都での話だったのかしら。それともストーンマキガンなの?」

 ラーナが驚く。

「ウソ、この街でその事件が起こったの。こんな街は早く出て行って王都に帰らなきゃ?!朽ち果てないだけでも不気味なのに?!魔術、亡霊、結婚?!」

 レテは慌てふためく。ウィルくんの光はさらに強まる。たくさんの色が地下室を包む。

「この地下室は朽ち果てない小屋と関連があるのですか。確かに不思議な部屋だとは思っていました。しかし、眩しいです。目を開けている事が出来ません。閉じてもよろしいでしょうか」

 キハータがレテに尋ねる。返事はない。

「朽ち果てない地下室ですか。魔術の力がこもっているのでしょうか、何かの儀式のための石なのでしょうか。ホントにきれいですが眩しいです」

 アーシャはキョロキョロ眺めている。

「魔術では出来ない事ね。モーテモチ博士だけが光の魔術、いいえ、魔法に成功したわ。魔法の光紙。誰にも真似出来ない魔法、ウィルくんは簡単にこなしているわ」

 ラーナはウィルくんを観察している。ウィルくんは動いていない。

「アーシャ、地下室を出ましょう。ウウン、ストーンマキガンの街から脱出。ネアスとガーおじも連れて騎士の駐屯地に向かう、決定、決定」

 レテは決断した。アーシャは座り込んだままだ。

「私はびっくりして体の力が抜けてしまいました。もうちょっとだけ時間をください。すぐに準備を始めます。ラーナさんをどうしますか?」

 アーシャはラーナに尋ねる。

「どうしようかしら、私もついていっても良いの?クロウはきっと追いかけてくるから問題はないハズね」

 ラーナはレテを見る。

「さっきの話は禁止。コワイ話は構わないけど、朽ち果てない小屋の話は一切私の前でしない事を約束してね。ガーおじにも教えちゃダメ。ガーおじはダメ!」

 レテは答える。ラーナは大きくうなずく。

「私はどうしたらいいでしょうか。レテ様に従えばよろしいですか。この宿を捨てるのは惜しいですが仕方がありません。気の利かない男に宿の主人は向きません」

 キハータもレテに付いてこようとする。

「キハータはここに残る。何で一緒に来るの!気が利かない男に向く事って何かな。気が利かない、気が利かない。思いつかない!」

  レテは混乱する。

「この街で朽ち果てない小屋の事件が起きたのでしたらキハータさんを置いていくのはかわいそうです。呪われた街です。コワイ事件がたくさん起きます、絶対!」

 アーシャは足を擦る。

「最後に一つだけ質問、どうして朽ち果てない小屋にこだわるの?あの後に小屋で事件が起きたとは聞いたことがないわ」

 ラーナがダメ元でレテに尋ねる。

「王都の子どもは大人に夜になっても寝ないと朽ち果てない小屋に連れていくって脅されるの!レイレイ森林の奥!騎士団が毎年夏に訪れる場所!」

 レテは答える。

「朽ち果てない小屋と蘇った女の話が繋がっているなんてびっくりです。友達に今度お話します。ラーナさんのように話せたら良いですが……」

 アーシャは背中から外れていた槍を手に取る。

「私も舞台がシャルスタン王国の話だとは思ってもいなかったわ。どこか遠くの国の私に関係のない話だと思っていたわ」

 ラーナは感心する。

「気が利かない男も質問です。レテ様は朽ち果てない小屋を恐れているようですが理由はなんでしょうか。子どもの頃に驚かされただけではないように思います」

 キハータがレテに質問をする。レテは彼を睨みつける。

「気が利かない男は黙っていなさい。朽ち果てない小屋の話は聞いた事はあるでしょ、王都でよく聞く方?!ラーナの話じゃない?」

 レテは質問に答えてあげる。

「朽ち果てない小屋には騎士の亡霊が住み着いている。その騎士は身代わりになる者を探して夜な夜な王都の街を練り歩いていた。聖騎士様が彼を退治して小屋の中に閉じ込めた。彼は朽ち果てない小屋と共に身代わりを今でも待ち受けている。ずっと騎士を待ち続けている。いつの日か朽ち果てる事を望み!」

 アーシャは語る。

「イヤーーーーーーーーーーーーー!久しぶりに聞いたけどくだらない話。さっさと自分で朽ち果てなさい。朽ち果てろ!」

 レテはキハータを睨む。ウィルくんの光がさらに増す。地下室の石の輝きが増す。コンコン、コンコンと音が地下室に響く。

「何の音!魔術師の亡霊が現れたのかしら。返答をしてはいけない。暗闇に包まれたら平静になる。コワイ事は何もないから心配しない事!」

 ラーナが他の3人に伝える。コンコン、コンコン、コンコン、音は止まらない。

「返事をしない。平静を保つ。気の利かないキハータ。私は出来る、出来る。私は気の利かないキハータ」

 キハータは自分を落ち着かせる言葉を唱える。

「くすぐりにも強いキハータさんです。追加してください。あんなに耐えられる方は初めてです。ここまで人をくすぐったのも初めてでした」

 アーシャは立ち上がり辺りを見渡すが鮮やかな光で阻まれる。

「すぐに気を失うキハータも追加ね。きれいでやさしくてかわいい私の声で驚くなんて信じられないかな。助けなくちゃって思うのが当たり前の感情。キハータは人としての心がないのね。高級宿の店主は心が冷たいかな」

 レテはうっぷんを晴らそうとする。

「キハータの罠だったのかしら。きれいな私たちを地下室に閉じ込めてヒドイ事をしようとしていた。それがレテのコワイ話で邪魔された。あなたは何者なのキハータ!」

 ラーナもついでに質問する。

「私は気が利かない、くすぐりに強い、すぐに気を失う、人の心を失った高級宿の主人。何と言う事でしょうか?!私はどうすれば良いのでしょうか!この地下室は恐ろしい場所です。立ち入る事を禁止します」

 キハータは激しく動揺する。

「地下は人の心を変える。人は地上で生きるべき、帰りましょう。副騎士団長にストーンマキガンの事を任せて王都に帰るのが一番。ウィルくん、ラトゥール、シルちゃん、お家に帰りましょう」

 レテは祈りを込める。ウィルくんの光は弱まり地下室には音が残る。コンコン、コンコン、コンコン。音は鳴り続ける。キハータは地上に続く隠し扉の方にフラフラと向かう。アーシャは彼の後に続き、ラーナはレテに近寄っていく。

「誰にでも苦手なモノがあるのね。私のキライなモノは秘密。でもレテにはバレるかもしれないわ。その時は助けてね、レテ」

 ラーナはレテに静かに話しかける。

「何で朽ち果てない小屋の話がこんなに私はキライなのかな。そこまで怖がる事もないし、聞き慣れた話。魔術師の話に関係なく、今でもキライ。ネアスとガーおじにはホントに黙っていてね。もちろん、他の人にもだけど……」

 レテはそっとラーナの手に触れる。

「不思議な地下室。鮮やかな石、コンコンの音。謎だらけ、ウィルくんの光、ラトゥールの力が関係しているのは確実かしら」

 ラーナはレテの手を引き、壁の青い石の近くに向かう。アーシャはキハータを手伝って壁を叩いている。

「きれいな石。持って帰りたいけど壁が壊れたら大変かな。一つならダイジョブ、ダイジョブとはいかないそうね。音は奥から聞こえてくるのかな」

 レテは青い石に耳をくっつける。コンコンの音が耳に大きく伝わる。ラーナも隣で緑の石に耳を近づける。

「ホントね。奥に大きな岩でも使っているのかしら。それが動いて他の石を中から叩いているかもね。光に反応する石。面白い石もあるものね」

 ラーナは半信半疑で答える。

「モーチモテ博士に相談するのが一番かな。光に関してはラーナも詳しくはないでしょ、二人で勉強に行きましょう。他の人に興味はないかな」

 レテは精神を集中させる。

「王都に向かう目的の一つはモーチモテ博士に会う事!この話をきっかけに博士と親しくなれるかしら。楽しみになってきたわ」

 ラーナは微笑む。

「きっと上手くいくわ。変な人だけど悪い人ではないかな、一度だけの感想。シルちゃん、お願い。奥の様子を感じたいかな」

 レテはシルフィーにお願いする。レテの周りに静かな風が吹く。風は石の隙間を流れていく。レテは意識を集中する。風が奥に流れていくのを微かに感じる。レテはラーナの手に触れる。彼女も風に包まれる。

「風はどこにでも行ける。私も風みたいにどこまでも遠くに行きたい。静かに激しく、やさしく。シルちゃん、私たちもあなたと同じようになれないかな?」


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