ゾク地下室
レテは今度こそ二人をビビらせようとしている。アーシャはレテの声に悲鳴をあげそうになる。ラーナの様子はレテでは判断がつかない。彼女は話を続ける。キハータはすやすやと眠っている。
「地下室はとても昔に亡霊が見つけた安住の場所。イヤな事があるといつも、誰も知らない地下室で時間を過ごした。いつの間にか亡霊はここで過ごす時間の方が長くなったわ」
レテはウィルくんに隠れてお願いをする。
「レテ様、もう止めましょう。この地下室には亡霊はいません。あるのはとてもきれいな石の壁面だけです。地面の石には紫色もあります。きれい、きれい、きれい」
アーシャの声は途切れていく。
「暗くて静かな地下室と思っていたら壁にたくさんの色の石が使われていたなんて亡霊はどう思っているのかしら。自分の自慢の場所が思っていたのと違うなんてね」
ラーナはつぶやく。
「亡霊はこの地下室が特別な場所だと知っていたわ。その秘密は亡霊が解き明かすハズだった。それなのにきれいな女の子たちがそれを暴いた。アーシャにも亡霊の気持ちは分かるハズ、大切な物を奪われた!」
レテはアーシャに狙いを定める。
「不思議です。きれいな石、ホントにきれいです。どうして地下室にしたのでしょうか、地上に作ればお客さんがたくさん来ます」
アーシャはレテを無視する。
「ストーンマキガン一の高級宿でお客は充分来ているようね。私が泊まっている間もたくさんの人が来ていたわ。騒がしいから他の宿に変えようと思っていた所。奪われる気持ちは私には分からないわ、私は奪う側ね」
ラーナは二人の問いに答える。
「アーシャの大切なモノは私かな。私は傷つき倒れる。誰も助けてくれない。アーシャはすごく遠くにいて私を助ける事が出来ない。亡霊も同じ気持ちかな」
レテは気にせずに話を続ける。
「レテ様が傷つく事はありません。シルフィーさん、ウィルくん、ラトゥール様が付き添っています。大昔の災厄にも立ち向かえる心強い仲間です!」
アーシャは明るく答える。
「アーシャの言う通りね。レテを倒そうとするのは大変、傷一つ付けるのも苦労しそうね。レテの弱点は何かしら?」
ラーナは考え始める。
「亡霊はいつも私たちの近くにいるわ。昨日もレイレイ森林、ミヤに取り憑いた亡霊がいたような気がするわ。忘れようかな」
レテは間違ってレイレイ森林の話をする。
「子供の頃に両親に悪い事をしたらレイレイ森林に連れて行って亡霊さんに説教をしてもらうって脅かさせました。亡霊さんはお暇なので話が長いと聞きましたが昨日の方はすぐにいなくなりましたね」
アーシャがレイレイ森林に興味を示す。
「王都生まれの子には有名なのね、レイレイ森林の話はグラーフの街ではあんまり聞いた事がないわ。私の街の近くには大きな山があって、そこに大きな穴があるから地底に繋がっているって話が有名かしら」
ラーナがつぶやく。
「一番高い所から一番低い所まで繋がる大穴。面白そうね、いつか私もグラーフの街に行きたくなったかな。今は亡霊の話、話!亡霊が私たちに怒りを感じているのは確かね。地下室の亡霊のお返しは何かな」
レテはあきらめずに二人に問いかける。
「地下できれいな石を集めていたので、ネックレスにして私たちにプレゼントしてくれるとうれしいです。石のネックレスは重そうですが妥協します」
アーシャは折れた。
「どうしたら亡霊になれるのかしら。私はそこが気になるわ。教えてくれるならお礼をしてあげようかしら。地下室の亡霊は何が欲しいのかしら?」
ラーナがレテの問いに答える。レテは微笑む。
「答えは簡単、お前だ!」
レテは精一杯低い声で叫ぶ。それと同時にウィルくんの光が消える。地下室は闇に包まれる。レテはすぐさまアーシャの背中を押す。
「レテ様、止めてください。私は驚きません。子供の頃に男の子たちにいっぱいイタズラをされたので慣れています。暗いと危ないので明かりを灯していただけないでしょうか?」
アーシャは苦笑いを浮かべながらレテに提案する。
「レテも懲りないわね。それも精霊使いの資質の一つかしら、私はそう何度も脅かす気力はないわ。あきらめも大事よ」
ラーナは静かに語る。
「レテとは誰だ、俺は亡霊だ。お前らにも取り憑いてやる」
レテは高い声でふざけ始める。
「亡霊、亡霊?!どういう事ですか?!私は気を失っていたのですか、レテ様?!」
キハータが話し声で目を覚ます。
「キハータさん、安心してください。レテ様はからかっているだけです。地下室には亡霊はいません。レテ様、早くウィルくんの光をお願いします」
アーシャが冷静にキハータに話しかける。
「レテ様がふざけている。これは亡霊の仕業です。皆さん、注意が必要です。レテ様は騎士の鏡であり、王国の宝です。その彼女がこのような場所で人をからかう訳がありません。風の神殿の神官様を呼ばなければ、その前に明かりを。いえ、レテ様指示を仰ぎましょう、私は気が利かない宿の主人です。余計は事をしません」
キハータは混乱する。
「レテ、副騎士団長も待っているわ。あんまり遅くなると心配で捜索隊を出すかも知れないわ。今日はこれでオシマイにしましょう」
ラーナはレテにお願いする。
「ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」
レテは最後の抵抗をする。その直後ウィルくんの光が地下室を再び照らす。
「遊び足りないけどラーナの言う通りかな。これ以上遅れたらホントに心配をかける事になっちゃうわ。地下室の事はキハータしか知らないようだしね。コワイ話をするのは難しいわ。ネアスと練習しようかな」
レテは周囲を見渡す。キハータが倒れているのが目に飛び込んできた。
「また、キハータさんはびっくりしたようですね。せっかく起きたのにレテ様の責任です。私は知りません」
アーシャは笑顔を浮かべながらキハータの様子を確認する。
「こんなに簡単に気を失うものかしら。実は起きているんじゃない、しっかりと見てみたほうが良いわ」
ラーナはその場を動かない。
「声で驚いてもツマラナイわ、あくまでも話のコワさが大事。声はアクセント、隠し味かな。私の話はコワくないのかな」
レテは悩みこむ。
「コワイ話は難しいです。私には出来ないのでレテ様を尊敬します。訓練すれば問題ないハズです。レイレイ森林に遊びに行けば良い話が思い浮かぶを思います」
アーシャの言葉にレテはビクッとする。アーシャはキハータの脇をくすぐるが反応はない。
「魔術師にもコワイ話はあるわ。ある森の中で魔術師協会を追放されて一人っきりで研究をしていた孤独な男がいたって話。ありそうな出来事、魔術師協会はある規律を破った人はすぐさま追放処分にするわ」
ラーナが語り始める。
「何でも事故で解決出来る魔術師協会にも禁止事項は存在するのね。騎士は何かな、絶対遵守の事項ってあったかな」
レテはアーシャに問いかける。
「借ララリは大丈夫ですし、勝手に人を殴る人は騎士にならないハズです。女の子に悪い事はもちろんしてイケませんがそれは他の人も同じです」
アーシャはキハータをくすぐり続ける。
「彼は自分の研究をあきらめる事が出来なかった。時が経って彼の研究を続けている事を魔術師協会が把握した。協会は騎士と協力して彼の研究を止める事を決定したわ。共同作戦ね。協会の本気度が分かるわ」
ラーナは話を続ける。
「騎士の方では聞いた事がない話ね。連携を取るのが難しいかな、魔術師は戦いに慣れていないわ。ホントに事故が起きそうね」
レテは答える。アーシャはうなずく。
「魔術師と騎士たちが森の彼の住処の小屋に慎重に突入したわ。小屋の中には何もなかった。書物も魔術の道具も薬草も食べ物も服も何もない小屋だった」
ラーナは話を止めない。レテとアーシャは息を飲む。
「不審に思った一人の騎士が床を調べ始めた。そこにはここと同じように不自然な色の木の板があったわ。騎士は慎重にその木の板を取り外した。そこには階段があった。ホントにここと同じようにね」
ラーナは話を止める。
「考える事は皆さん同じようですね。隠し事は地下でしたくなるのでしょうか。でも、どうして違う色にするのでしょうか。すぐにバレてしまいます」
アーシャが疑問を口にする。彼女はキハータをくすぐるのを止めた
「自分も分からなくならないように、それとも罠かな。今の私たちと同じように邪魔な魔術師を地下に閉じ込めて研究を続けるための策略」
レテはアーシャの代わりにキハータをくすぐり始める。反応はない。
「騎士たちは小屋の上に残り、魔術師が地下に降りる事にしたわ。彼らが階段を降り始めると異様な匂いが立ち込めているのが分かったわ。魔術師は用心して地下に下っていった。地下には骨がそこら中に転がっていたわ」
ラーナが二人を見つめる。
「コワイというか恐ろしい話です。このあたりで終わりにしましょう。地上に戻ったから話の続きを聞きたいです」
アーシャはラーナに懇願する。
「骨ね、魔術師の禁止事項は何となく分かったわ。キハータ、早く起きなさい。ラーナの恐ろしい話の結末が待っているわ。あなたが最後の望みかな」
レテはキハータをもっとくすぐる。アーシャも協力するが反応はない。
「魔術師と騎士たちは人の気配がない事を確認すると警戒しつつ骨を集めだしたわ。風の神殿で祈りを捧げてもらうために丁重に袋に詰めていった」
ラーナはキハータを見る。
「一人の魔術師が奥にある骨を袋に詰めようとした。その時、地下への扉が閉まる音が聞こえた。ざわつき出す仲間たちに指導者の魔術には落ち着くように声を掛けたわ。すぐに扉の開く音が聞こえてきた」
ラーナは二人を見つめる。
「私たちの状況は似ている気がします。ここは魔術師の研究部屋なのでしょうか。この不思議な石は魔術の準備に見えてきました」
アーシャは激しくキハータをくすぐる。彼の体が少し動く。それを見てレテもさらにくすぐる。
「その考えはなかったわ、アーシャ。この地下室は巨大な魔術を引き起こすための研究室。興味がそそられるけど」
ラーナは話を続ける。
「指導者の魔術師は自らの手で奥の骨を袋に詰めようとしたわ。彼が骨に手を触れようとするとまた扉がしまった。上ではもう一度開ける。何度かそれを繰り返した後に彼はその骨をその場に残す事に決めたわ」
ラーナは悲しげに語る。
「賢明な決断ね。何の骨かも分からないし、そこまで危険を犯すことはないかな。騎士は活躍しないのね、残念」
レテは油断せずにくすぐり続ける。
「他の骨を騎士の協力もあって袋に詰め終わると彼らは地下室を立ち去る事にしたわ。最後に丹念に壁や地面を調べる事にした。一人の魔術師が奥の壁を布きれで拭くと文字が浮かび上がってきたわ」
ラーナは話を止める。
「コワくないです、コワくないです。騎士様が解決します、私たちが恐れを抱く事はありません。風の加護がありますように」
アーシャは祈りを唱える。
「結末よね、これで終わり。さあ、キハータが起きそうかな。声を出しなさい、もう起きているのは分かっているのよ?!」