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地下室

 レテとラーナはキハータを探しつつ地下室の様子も眺めている。レテの指示でウィルくんにちょっと遠くまで動いてもらうがキハータは見つからない。

「キハータはどこまで逃げたのかな。あんなイタズラで驚くなんて信じられないわ。子どもだって笑ってはしゃぐだけ!」

 レテはわざを大きな声で話している。

「ララリをたくさん持っているからイタズラに慣れていないんでしょ。私のお父様も驚くと思うわ。今度会う時に試してみようかしら」

 ラーナは周囲を見渡している。

「何も見えないわ。ホントにどうしようかな、ここに閉じ込められるなんてイヤ!キハータ、早く出てきなさい。今なら怒らないわ」

 レテは大声で叫ぶ。

「最終的には私の炎の魔術で天井を吹き飛ばせば良いかしら。落ちてくる岩はレテの力で何とかしてね。さて、それまでどうしようかしら」

 ラーナは目を閉じ考える。

「ワーーーーーーーーーーーーーーーー!ワーーーーーーーーーーーーー!」

 レテはもう一度キハータを脅かす。彼が出てくる気配はない。

「良い考えね。びっくりして姿を現す可能性はあるわ。でも、キハータは大声に慣れたのかもしれないわ。別の方法で脅かすべきね」

 ラーナはレテに提案する。

「難しい問題ね。どこにいるか分からないキハータをびっくりさせる。アメフフを背中に入れるのが確実だけど、それは不可能」

 レテは考え込む。ウィルくんは地下室の上をフラフラしている。

「天井にはいない、地面に寝転んで隠れているのかしら。それとも隠し部屋がある。あるいはさらに地下室がある。実はキハータの罠だったのかしら。上手にここに誘導された可能性も否定できないわ」

 ラーナは憶測を述べる。

「罠はないかな、私が来た事は副騎士団長は知っているハズ。お昼からお酒をたらふく飲んでいたらダメだけど、任務中にそれはないかな。雨の日だから安心は出来ないけどね」

 レテはイライラする。

「規律にウルサイ人なんでしょ、さっき聞いたわ。長めのお昼寝をしているかもしれないわね。夜更かしすると雨の音が心地よくなるわ」

 ラーナはあくびをする。

「基本は真面目。基本はね、どこかで羽目を外しちゃうのよ。その日が今日でない事を願うわ。キハータを驚かす方法を考えるのが先決かな」

 レテは目を閉じ意識を集中する。

「助けて!キハータさん、キャーーーーーーーー!」

 ラーナは助けを求める。反応はない。

「信じられないわ。うつくしくてあふれる知性を持つラーナを無視するなんて。きれい、きれいってアレだけ言っておいて放っておくなんて男の人は信用できないかな。ガーおじも私を守るって言っているけど口だけね」

 レテはガーおじへの不満を口にする。

「そんなものよ、レテ。私に結婚を申し込んだ人も同じ。うつくしい女性は好きだけど私には男性に嫌われる所があるようね。気にしてないけど」

 ラーナは別の方法を考え始める。

「大丈夫ですか、ラーナさん。今すぐお助けに行きますので安心してください!」

 階段の上からアーシャの声が聞こえてくる。

「持つべきものはアーシャ。いつも頼りになるわ、私の大事な後輩、部下、友人、話し相手、戦友、未来の武術の先生!」

 レテは微笑む。

「アーシャは良い子ね。変な貴族に騙されないように気をつけるように言わないと。狙われたらひとたまりもないわ」

 ラーナがつぶやく。


「私も同じ心配をしているわ。もし私の目の届かない所で怪しい貴族が近寄ってくるようだったら、ラーナがアーシャを守ってあげてね」

 レテは小さい声でお願いする。ラーナは微笑む。

「困った振りをしたり、剣の腕を磨きたいとかあの手この手で近づいてくるでしょうね。アーシャに危害が加えられる事はないと思うけど貴族にケガをさせたら騎士の身分は剥奪かしら」

 ラーナはレテに尋ねる。

「大臣がいるから大丈夫だとは思うけど、用心は大事。彼がいない時に事件が起きたら大変、大変。私も黙っていないけど、これからは分からないかな」

 レテはつぶやく。

「レテは忙しくなりそうだし、貴族の嫉妬もありそうね。仲の良いアーシャが標的にされるかもね。分かったわ、クロウにもお願いをいて注意をしてもらおうかしら。あの人は顔が広いし、活動範囲も広い。どこでも顔を出すわ」

 ラーナはうなずく。

「ラトゥールの力は王国に繁栄を生むのか、それとも混乱を引き起こすのか。キミはどちらでもなさそうだけど、決めるのは他の人たちかな」

 レテは帽子をやさしくなでる。

「全ては英雄の無責任さが原因かしら。何も言わずに去っていくなんてカッコいいと思ったんでしょうけど子孫は大変。訳の分からない争いの元になりそうね。男性の美学は難しいわ。私には永遠に分からないと思う」

 ラーナは語る。

「英雄は女の子かもしれないわ。好きな人と結婚して静かに暮らしたかったのかもしれないわ。王様の祖先もそれを望んで記録には残さなかった。幸せに子供たちと好きな人と一緒に暮らしました。めでたし、めでたし」

 レテは希望を語る。ラーナは微笑む。

「それなら許せるかしら、頑張って災厄を追い払った後は自分の幸せを追い求める。家族も賛成なら最高ね。後始末はレテがしてくれる。きれいでやさしくかわいい子孫!」

 ラーナは同意する。

「お待たせしました、ラーナさん。コワイ事は去ったようですね。報告です。入り口は閉じられています。コンコンと私も試してみましたが違う音の石を見つける事は出来ませんでした。難しいです」

 アーシャは二人の様子を確認して安堵する。

「ありがと、アーシャ。最終手段、炎の力で入り口を作り出す。私たちにピッタリのやり方かな。誰も私を止める事は出来ないわ」

 レテは最後に大声で言い放つ。キハータの声は聞こえてこない。

「何も反応がないわ。もしかしたら気を失っているのかしら、驚き過ぎて意識がなくなったのかもね。心配になってきたわ」

 ラーナがレテを見る。

「ラーナさんの予想が当たりかもしれません。騎士の任務でもゴブリンに驚いて気を失う人を見た事があります。手当が必要です」

 アーシャは賛成する。

「あのくらいで気を失うのかな、反応がないのは確かに変ね。仕方がないわ、ラトゥール!人助けの時間かな。ウィルくんと協力して地下室を照らしてくれない、お願い!」

 レテは帽子を外す。彼女の髪飾りは輝きを増す。レテは精神を集中させる。ウィルくんがレテの頭上に来る。

「日の光とも魔法の光紙でもない。私の炎の魔術の輝きとも違う、不思議な光ね。ウィルくんの光と一番似ているのかしら」

 ラーナは輝きを増すウィルオーウィスプに魅入られる。

「眩しくありません。本当に不思議です。暖かくも冷たくもない、初めて見る光です。ラトゥール様は特別なようです」

 アーシャも光を見つめる。

「キハータ、ラトゥールの導きよ。こんな幸運は滅多にないかな、ネアスに出会った私は幸運の女神様だから当たり前になるのかな」

 レテはさらに精神を集中させる。ウィルオーウィスプの光が地下室全体を照らし、彼女たちにも周りの様子が見て取れるようになる。赤、青、黃、緑と様々な石が壁に使われているようだ。

「不思議な地下室ね。どうして暗い部屋に色とりどりの石を使っているのかしら、地下には光は入らないわ。せっかくの色付き石が無駄になるわ」

 ラーナはウィルオーウィスプの光を見つつも地下室の様子も気になる。

「きれいです。見とれてしまいますがキハータさんを探さないとイケません。いましたね、明るくなれば簡単です」

 アーシャは近くで倒れているキハータに気づく。すぐに彼の元に行き、様子を確認する。アーシャはキハータの顔に触れる。

「温かいです。息もしています、ぶつけている所も見た感じではありません。目が覚めるまで待ちましょうか、レテ様」

 アーシャがレテに尋ねる。

「そうね、下手に動かして何かあったら私の責任になるわ。ちょっと驚かしたくらいで変な事になったらコワイ、コワイ」

 レテもキハータの方に向かう。

「後で神官長にお願いをすれば問題ないわ。気が弱い人なのかしら、そうは見えなかったけど。世の中は難しいわ、大声は出すものじゃないわ」

 ラーナはその場を動かない。

「誰が叫んだとかは分かりません。地下室の亡霊がキハータさんを脅かした事にしましょう。レテ様は余計な事に関わるべきではありません。地下室の亡霊を私たちで退治しました。ウィルくんが大活躍です」

 アーシャがそっと舌を出す。レテは驚く。

「良いのかな、私が二人を巻き込んでしまったわ。追加でウソにまで付き合ってもらうのはダメな気がするわ。どうしようかな」

 レテもキハータの顔に触れる。彼は穏やかな表情で眠っているようだ。

「キハータは貴族とも繋がりはあるハズね。警戒はした方が良いかしら、私も楽しかったから不満はないわ。どんな亡霊を退治したことにするの?」

 ラーナはアーシャに尋ねる。彼女は笑っている。

「光が苦手な亡霊さんです。亡霊の中でも特に光がキライでウィルくんの光を見ただけで逃げ出したくなる子です。日中は絶対に出歩きません」

 アーシャが答える。

「顔色が悪くて運動不足かな。そのせいで亡霊になったのね。この地下室で一人で静かに暮らしていた所に私たちが侵入した。驚いた亡霊は仕返しに驚かせようとした」

 レテが続ける。

「私たちは悪者ね。構わないわ。亡霊はキハータを気絶させる事に成功はしたけどきれいな三人の女の子には全く通用しなかった。焦った亡霊はこの地下室にずっと暮らすために私たちに牙をむく」

 ラーナは地面を足で叩いて音を立てる。

「私はちょうど良いタイミングでウィルくんとラトゥールの力を借りた。光が苦手な亡霊は逃げ場を失う。亡霊は焦ってくる、光はキライ、キライ!」

 レテは感情を込める。アーシャの顔がひきつる。

「亡霊はどこに逃げたんですか。ウィルくんの光は地下室全体を照らしています。逃げ場はありません、どこにいるのでしょうか」

 アーシャがキョロキョロ辺りを見渡す。暗い場所は見当たらない。

「カバンの中かしら、それともキハータの下に静かに隠れているのかしら。この地下室から亡霊は離れたくない。どうにかしてここにとどまろうとしているハズ。良い隠れ場所はないかしら」

 ラーナは色とりどりの石を眺め始める。

「逃げられない、この地下室は亡霊のモノ。ジャマするヤツラはユルサナイ!」


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