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高級宿にようこそ

 レテたちがアメフフに別れを告げて高級宿の道を進んでいくとフードを被った騎士が彼女たちの目に入る。彼はレテたちにすぐに気づきフードから顔を出す。見慣れた顔だ。

「待たせたかな、セオ。ゴメンね、色んな事があって遅れちゃったわ。雨の中待ってくれてありがと、今度お礼をしようかな」

 レテはセオに近づく。

「レテ様、私は問題ありません。雨の日だろうと暑い日だろうと寒い日だろうと門の前に立ち、街の安全を確保する事に誇りを持っています。今日はレテ様の案内をします」

 セオは緊張した面持ちで答える。アーシャは黙っている。

「秘密の会合の首謀者ね。レテじゃなくても話は聞きたいわ、楽しみね」

 ラーナはレテを見る。

「セオ、今から話す。後で話す。私はどっちでも良いかな」

 レテはセオに提案する。セオは戸惑う。

「とりあえず宿に案内してください。その後で必要なら時間を取りましょう。副騎士団長もお待ちでしょうから……」

 アーシャが助け舟を出すとセオは宿の裏口に案内を始める。

「アーシャもやさしいわね。もうちょっとビビってもらっても良かったかしら。その方が何でも簡単に話してくれるわ」

 ラーナは笑みを浮かべる。レテはうなずく。

「セオは同僚だし、そこまでは出来ないかな。ラーナは騎士じゃないから好きにしてもらって構わないわ。魔術師の流儀で自由に何でも聞くのが良いかな」

 レテはラーナにお願いする。ラーナがうなずく。

「私はどうしたらいいですか?!強気ですか、弱気ですか。いつも通りで良いでしょうか?難しい事は出来ません」

 アーシャは急いで確認する。

「アーシャは今日調子が悪いみたいだし、ドジばかりする子でいこうかな。変な所で転んだり飲み物をこぼしてラーナを援護する。完璧かな」

 レテは足早にセオの後をついていく。

「レテの提案は素晴らしいわ。相手を惑わすのも立派な作戦かしら、今日のアーシャなら問題ないわ。援護を楽しみにしているわ」

 ラーナは興奮してくる。

「ドジですか?私は冷静で何事もテキパキこなす騎士を目指しています。ドジはイヤです。うっかりもダメです」

 アーシャは反論する。セオは裏口で待っている。

「完璧な騎士でも良いかな。私がドジの役割をするわ、アーシャは完璧な騎士でラーナを援護してね。副騎士団長の思い通りに事を運ばせるつもりはないわ。アーシャは私の味方でしょ、違うのかな」

 レテはアーシャに圧力をかける。

「ラトゥールの末裔の力に戸惑いドジするレテ!問題はないわ、新しい事は人を不安にすることの方が多いわ。パーフェクトなアーシャの援護を期待しようかしら」

 ラーナは先にセオの元に向かう。

「完璧ですか?いつも失敗ばかりの私がラーナさんの援護をするんですか?しかもレテ様はドジなので役に立たない?」

 アーシャは驚く。

「記憶喪失も良いかな。魔力を使いすぎて副騎士団長の名前も忘れちゃったかな。アーシャの事も名前しか知らない。あなたはホントに私の部下なのかな」

 レテは余計な事を言う。

「レテ様は記憶を失くした。私が支えないとイケません、どうしたら良いのでしょうか?シルフィーさんの事は覚えているのですか?」

 アーシャはレテに質問する。

「シルちゃんの事も忘れないとね。アーシャが名前を出したら思い出しそうね、雨が強くなってきたわね、急ぎましょ」

 レテはアーシャの手を取り裏口に向かう。

 レテたちが高級宿の裏口に到着するとラーナはすでに中に入りコートを従業員に渡していた。セオは二人が宿に入るのを待っている。

「レテ様、大変申し訳ありませんでした。昨日の夜に有志たちに話をして今後一切あの事で集まらない事を伝えました。私は門番として任務を全うします」

 セオは生真面目にレテに伝える。レテはフードを下ろす。彼女の髪飾りが光輝いている。セオは眩しさで目がくらむ。

「こっちこそゴメンね、セオ。もう気にしていないかな、噂は街中に広まったみたいだし王都も同じね。キミたちの好きなように集まって楽しくお酒を飲むのが良いかな。私は精霊使い。今の所はそれしか分かっていないわ」

 レテはセオに告げる。セオは髪飾りに魅入られる。

「偉大なるラトゥールの加護を!」

 セオは大声でとっさに叫ぶ。レテはセオをにらみつける。

「それはやめなさい、セオ。きれいでやさしくてかわいい私でも怒る時はあるわ。キミはラトゥールに何をそんなに望んでいるのかな」

 レテがセオを問い詰めようとするとラーナがコートを脱いだ姿で現れる。

「仕方ないわ、レテ。ラトゥールの名は特別、どう見てもその髪飾りは異常ね。何が起きているのかしら。全然光が収まらないわね」

 ラーナはセオをかばう。レテはうなずく。

「この子は何を考えているのかな。シルちゃんはもっと分かりやすかった気がするわ。どうしたら静かになるのかな」

 レテはそっと髪飾りに触れる。熱はない。

「セオさんはレテ様の事を信じているんですね。騎士の中でどのくらいの人たちが有志でいるんですか?」

 アーシャはコートの水を払いつつセオに質問する。

「十人程です。レテ様、大変申し訳ありません。興奮しています、私は歴史的瞬間に騎士団に所属しています。私はその瞬間を目撃しました。素晴らしい」

 セオはレテのコートを受け取ろうとするがレテは無言で先に進む。

「気持ちは理解できるけど自分を抑える事が出来ないのはどうかと思うわ。レテは騎士の訓練をもっと厳しくするべきね」

 ラーナは従業員にレテのコートを受け取るように促す。レテは従業員にコートを手渡す。

「私たちが知らないハズです。その人数だと秘密の組織って感じですね。用心しているとバレない人数です」

 アーシャは納得してセオにコートを手渡す。

「ラトゥールは分からない事が多すぎるかな。期待をしすぎると後悔するかもしれないわ。目立つわね、どうしようかな」

 レテは光が気になる。奥から宿の主人と見られる恰幅の良い人物が近づいてくる。

「お待ちしておりました、レテ様。私の宿はストーンマキガン一の安全と安心、素晴らしい料理でおもてなし致しております。ぜひご贔屓にしてください。ララリは頂きません、レテ様のお力添えになる事が私たちの喜びです」

 宿の主人は従業員に指示をして、その場に留まる。レテは彼を見る。

「かわいい帽子はないかな。この光を隠せて、しかも私に似合う帽子を用意してもらえるかな。ずっとこのままのようだと必要になるわ」

 レテは髪飾りを外すつもりはないようだ。宿の主人は急いで従業員を呼び止め、さらなる指示を与える。

「すぐに準備致します。私は気が利かないのが欠点です。宿の主人としては致命的ですが、それを宿の大きさと従業員の多さで補っています。何でも言ってください、言われないと何もしない男です」

 宿の主人は豪快に笑う。

「ララリは全てに打ち勝つのかしら。気が利くマリーと気が利かない宿の主人。そういう事だったのね。どうりで豪華さに比べて、他の事が行き届いていないと思ったわ」

 ラーナは感想を述べる。

「大きくて豪華です。騎士団が利用できる宿ではない事は確かです。初めて中に入りましたが色んな調度品があって貴族のお屋敷みたいです」

 アーシャは奥の部屋を観察する。

「噂では聞いていたけどホントだったのね。しかも主人がそれを自覚していたとは思ってもいなかったかな。人それぞれ向き不向きはあるけど、良いのかな」

 レテは高い天井を見る。大鳥の姿が描かれている。宿の主人が気づく。

「今日の朝に絵描きに描いてもらいました。レテ様を裏口から案内するように副騎士団長に指示を受けました。おもてなしをどうしたら良いか伺ったら大鳥の絵でも書いたら喜ぶだろうと教えられました。感謝しています」

 宿の主人は自信満々で語る。

「従業員の入り口でしょ。変だとは思ったけど朝からレテを出迎える準備をしていたのね。気は利かないけど人の意見は採用するのね」

 ラーナは感心する。

「ラトゥール様でしょうか。すばらしい姿です。偉大なるラトゥールの加護を」

 セオは静かに祈りを唱える。レテはセオをにらむ。

「王都の風の神殿に描かれている大鳥とは違う感じですがきれいです。何だかレテ様に似ているような気がします」

 アーシャがつぶやく。

「おお、私もそう思っていたんです。即席の絵ですが私は満足しています。ちょうど絵描きが宿に泊まっていたのでお願いをしたんです。おっと、帽子の準備が出来たようです」

 宿の主人は従業員が持ってきた帽子をテーブルに並べるように指示をする。

「私は帽子の事は分かりませんので失礼します。副騎士団長にレテ様の到着を知らせに行きます。ゆっくりと選んでください」

 宿の主人は従業員に声を掛けて、その場を足早に立ち去ろうとする。

「えっと、ありがと、高級宿のご主人さん」

 レテは思わぬ歓迎に驚きながらもお礼を言う。

「キハータです。何でもご用命ください、言われないと分からない気の利かない主人ですがよろしくお願いします」

 キハータはお辞儀をして去っていく。

「何を頼みましょうか、騎士団特製パンの改良を頼みたいです。おいしいパンを毎日食べたいです。名案です」

 アーシャはレテに提案する。レテは小さく首を振る。

「騎士団の本部の改装なんてどうかしら。敵の侵入を徹底的に防ぐ作りにするのはどう、レテ。この建物を作るほどのララリがあれば充分かしら」

 ラーナの提案にレテは大きく首を振る。

「借りは作りたくないかな。二人の提案が実現したらうれしいけど貴族が後ろに控えているかもね。ララリをたくさん稼ぐには貴族の協力は不可欠かな」

 レテはやんわりと不採用を伝える。

「貴族の警備は一生やりたくありません。全て副騎士団長が引き受けます、今後もそれは変わりません。そうですよね、レテ様」

 アーシャはレテに尋ねる。レテはうなずく。

「貴族が嫌われ者なのはどこでも一緒ね。自業自得とは言え、真面目な貴族が可哀想かしら。私は魔術にしか興味がないから嫌われ者の貴族に近いわね」

 ラーナはつぶやく。

「王都の貴族を甘く見ないことね、ラーナ。貴族同士で鍛え上げられたイヤミと傲慢さにラーナもイヤになるハズ。私たちはきれいだから話しかけられるけど普通の騎士は無視、無視、無のヤツラ!」

 レテはラーナに注意する。

「私たちのような女性は貴族ではいないようです。物珍しさで貴族たちは声を掛けてきます。ひまなのでしょうか?」

 アーシャはラーナに尋ねる。

「時間はあるわ。魔術の勉強と研究には不可欠かしら。お父様とお母様も古文書の研究と各地の旅行に時間とララリを使っているわ。その縁でクロウとも知り合ったみたいね」

 ラーナが答える。アーシャは感心する。

「ラーナのご両親の話も気になるけど、帽子も決めないとイケないわ。副騎士団長との約束は止めて高級宿でゆっくりしようかな」


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