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警戒態勢

 レテの言葉に応じて穏やかな風が巻き起こる。彼女は風の壁が取り払われた合図を思い、礼拝堂の方向に足を進める。レテの歩みを阻む壁は存在しなかった。

「行きましょうか、マリー救出作戦の開始ね。冒険者には用心が必要かな、私たちと考え方が違うみたいね」

 レテは三人に語りかける。

「レテ様、申し訳ありません。早急に副騎士団長がレテ様と今後の事を話し合いたいそうです。ラトゥールの末裔についての貴族の動きやゴブリンの増殖、昨日の一件についてのお話も伺いたいそうです」

 アーシャは騎士の任務に戻る。

「そろそろ貴族たちも伝わっている時間ね、ラトゥールの末裔の噂が王都に混乱を巻き起こすのか、それとも貴族を抑え込む手段になるのかしら」

 ラーナは思いにふける。

「王都の風の神殿の方もストーンマキガンにいらっしゃると聞きました。神官長は準備を始めたようです」

 ミヤもレテに神殿の様子を伝える。

「マリーの事は後回しにするしかないみたいね。副騎士団長に会いに行くわ。アーシャ、案内をお願い。ミヤは神官長とドロスに余計な事はしないように伝えてね。ネアスが起きたら、ここで会った事を教えてあげてね」 

 レテの指示にミヤは大きく首を縦に振る。

「副騎士団長はストーンマキガン一の高級宿でお待ちです。この間お助けした商人の方もお話をしたそうです。お礼の話でしょうか」

 アーシャはそう言うと裏口の方に駆け出していく。ミヤも追いかけていく。

「私はレテと一緒に宿に戻るわ。その後の事は状況次第かしら、騎士団内部の話を聞くわけにはいかないでしょ」

 ラーナは遠慮する。レテは首を傾げる。

「どうなのかな、騎士団には魔術師はいないからラーナがいてくれたら心強いかな。もちろん、私たちの味方になったら他の貴族との付き合いはしにくくなるわ。必ずね」

 レテはラーナに助言する。

「ラトゥールの末裔、精霊使い。ゴブリンの財宝。どちらを選ぶかは明白ね、それでもお父様の事があるからクロウに相談としてから決めるわ」

 ラーナはレテに感謝する。

「行きましょ、行きましょ。マリーの事も今日中に解決したいかな。ガーおじは留守番でネアスは休憩中?!私が頑張るしかないかな」

 レテはラーナの腕に触れて足を進めていく。

 レテたちが裏口にたどりつくとそこではアーシャとユーフが向き合っていた。二人は牽制し合っている。

「お待たせ、アーシャ。ユーフも良いタイミングで会えたかな、私の事は覚えてくれている。モテモテのユーフさん」

 レテはユーフに明るく挨拶する。ユーフはすぐにレテを見る。

「忘れる事は出来ません、レテ様。きれいでやさしくてかわいいレテ様を覚えられない男は王国にはいるハズがないさ」

 ユーフは軽快に答える。

「私はうつくしくてあふれる知性を持つラーナ。しっかりと覚えておきなさい、レテに勝利した者。少数の者のみが与えられる称号かしら」

 ラーナは早速自慢をする。ラーナはアーシャを見つめる。

「私もですか?私は何でしたっけ?レテ様を尊敬する騎士でモテない同盟の一員です。武術を極め、全ての者に勝つ事が目標のかわいい騎士です。モテない訳ではないので勘違いしないでください。それとレテ様の邪魔をするようだったら容赦しませんので覚悟してください。私は強いです」

 アーシャの自己紹介にユーフは圧倒される。

「あなたは何者かしら、デフォーの部下。それとも彼を利用しているのかな」

 レテは隙を見出してユーフに問う。

「俺はデフォーさんを慕う冒険者さ。風の夢を見る者の一員。ハローロに話は聞いたがデフォーさんが認めたものは俺も認める。何でも言ってくれ、力になる。俺はデフォーさんの夢を共に追うものさ」

 ユーフは瞬時に落ち着きを取り戻す。

「私はきれいでやさしくてかわいい女の子。才能あふれる精霊使いにして騎士。ラトゥールの末裔と噂されているかな。特技はサンドイッチ作りでドリンク作りも追加で加わる予定ね。ネアスとガーおじのお手伝いをしている心やさしい女の子。アーシャの良き先輩でありラーナの友人かな」

 レテも負けじと自己紹介をする。ユーフは怯む。ラーナも参戦する。

「そうね、説明が足りなかったかしら。私は魔術師、王都にはさらなる魔術の向上と魔術師協会の様子を見るために来たわ。レテとアーシャとは友人かしら、冒険者にはクロウと旅をしてきたから理解はあるつもり。出身はグラーフの街。グラーフでは私を知らない人はいないわ」

 ラーナは思いついた事を話す。ユーフは動揺する。

「挨拶はこのくらいで良いだろう、これから外に出かけるのか?忙しい事だ。この神殿の警備は俺たちに任せれば問題ないさ」

 ユーフは道を開ける。レテは動かない。

「ユーフに彼女はいるの?あるいは好きな人とか憧れの女性。言い寄られている女の子でも良いかな。ユーフはモテそうよね!」

 レテは直球の質問をする。ラーナは驚きを顔に出さないようにする。

「今回の仕事に関係ある質問ではないようだな。答えるつもりはない、外は今の所は安全だ。さっきの騒ぎで家に帰った人々も多い」

 ユーフは外を見る。

「良かったです。今度はどんな方法で神殿から脱出しようかと考えていた所です。レテ様の力に頼ってばかりもいられません」

 アーシャが答える。ユーフはうなずく。

「ウルサイヤツラはどこに行ったの?簡単にあきらめる様子には私には見えなかったわ。どんな方法を使ったのか気になるわ」

 ラーナがユーフに問いかける。

「私はユーフの彼女が気になるわ。私と付き合ってくれないかな、あなたは仕事が出来そうだし気が合いそう、ピンと来たわ」

 レテはどうしてもユーフの女性関係を知りたい。

「魔法の光紙でごまかした後に街の入り口まで仲間が引き付けていった。ラトゥールの加護って叫べば簡単さ。後は適当な方向から同じように唱えれば勝手に散り散りになっていくのさ。後の事は騎士様にお任せするだな」

 ユーフはレテの質問を無視する。

「セオさんが上手くやっている事を期待します。副騎士団長も協力してくれたでしょうか、無理そうです」

 アーシャは心配そうに話す。

「加護ね、ラトゥールはどんな願いを叶えてくれるのかしら。あの人たちの願い事は私には分からないわ。貴族はララリに困っていないわ」

 ラーナは納得する。

「女の子には興味はないのかな。ネアスはきれいな女の人が好きみたいよ、ユーフは冒険者の先輩でしょ。好みは一緒で良いかな」

 レテはわが道を行く。

「ネアスはまだ目覚めていない。魔力の使いすぎって話だが俺は魔法にはうといから、イマイチ分からない」

 ユーフはラーナに意見を求める。

「ラトゥールの力を使った、あるいは借りた。それともレテがラトゥールの力を手に入れるのに力を貸した。そうではなくて他の事情で魔力を使った。精霊の専門家を目指そうかしら、私なら出来るハズ」

 ラーナはレテの肩の鳥を見つめる。ユーフも鳥を眺め始める。

「ネアスさんの事が貴族にバレないと良いです。面倒な事になってネアスさんがヒドイ目に合うのは確実です。副騎士団長とも相談しないといけません」

 アーシャはネアスを心配する。

「私の鳥さんの事が気になるみたいね。デフォーも知りたいと思うわ、どうしようかな。私はユーフの彼女の事が聞きたいわ。きれいな人、かわいい人、冒険者同士とかかな」

 レテはアーシャをじっと見る。アーシャは仕方なく援護する。

「友達の話では冒険者同士でお付き合いをする人も多いようです。不規則な仕事なので理解が必要なようです。急な依頼で一週間帰れなくなる事もあるそうです」

 アーシャがレテの話に加わる。レテはアーシャに微笑む。

「ラトゥールは大鳥。風の槍が消えて小さい鳥とモモンガが姿を現した。何となく予想はつくさ。デフォーさんは自分で考える事が好きな人だ」

 ユーフは必要な事に答える。

「予想は外れる。可能性は不正確、事実は捻じ曲げる事が出来る。確かな情報がない場合の冒険は失敗する。クロウ談」

 ラーナはつぶやく

「ラトゥールは私を認めた。確かな証拠を手に入れたわ。それは今カバンの中にしまってあるわ。小さな鳥さんを見て満足するのはどうなのかな。デフォーの夢に繋がる品かもしれないわ。どんな夢を彼は見ているのかな」

 レテは礼拝堂の方を見つめる。

「大変でした、本当に大変な事を乗り越えて手に入れた品です。簡単に教える事は出来ません、レテ様に同意します」

 アーシャはおでこを抑える。痛みはない。

「あれがあったわね。レテの勝ちね、確実にラトゥールと関連のある品。ラトゥールは風の王国であるシャルスタンを守護する存在。デフォーの夢に関係があるかしら」

 ラーナもレテの援護に回る。

「カバンに入る物、風の神殿で見つけた、俺と別れた後で手に入れた。面白い話だ、良いだろう、交渉に乗る。俺の彼女を知りたいのか、レテ様?」

 ユーフが興味を示す。レテはラーナに微笑む。

「風の槍が鳥さんに姿を変えたのか、それともカバンの中身を見せて欲しいのかな。どっちも知りたいでしょ?ユーフは彼女がいるかどうかだけを答える。不公平かな」

 レテはアーシャを見る。

「彼女の名前ですか。今はいないとしたら過去の彼女の名前を聞くもの良いです。それとも全員の名前を聞きましょうか。モテる冒険者の彼女の数を聞ける機会は今を逃したらありません」

 アーシャは年頃なので興味津々だ。ユーフは考え込んでいる。

「好みの女性も聞いてみたいかしら、どんな人に目が向くのか。胸、足、顔、ララリ、家柄、どれも魅力的ね」

 ラーナも提案する。レテはうなずく。

「俺が知りたい事は二つ。そちらも二つに絞るのが条件だ。あれこれ詮索されるのは得意じゃない。デフォーさんとの出会いがなければ一人で行動をしていただろうな。ネアスとの出会いもなくレテ様と知り合う事もなかったとは面白い話しさ」

 ユーフは決断した。

「好みの女性、今の彼女、彼女の数も気になるかな。二つだけ、一つは捨てないといけない。選択の時ね、運命を変える質問かな」

 レテは真剣に悩みだす。光輝く鳥がレテの肩を離れて頭の周りを飛び回る。

「今の彼女に賛成一、後の二つが悩み所かしら。好みの女性は信用できないかもしれないわ、結局は都合の良い女性と付き合うハズね」

 ラーナが意見を述べる。

「私も今の彼女に賛成一です。他に聞きたい事はないのでユーフさんに教える事も一つにするのも良いかも知れません」

 アーシャも意見を言う。ラーナはアーシャの言葉にうなずく。

「俺は小瓶の中身を知りたい。それは譲れない、風の槍に関してはあきらめることにするさ。もともと謎が多すぎるのさ」

 ユーフは必要な事を言ったので裏口から外の様子を確かめている。

「一つ、二つ、三つ。私に与えられた選択肢は四つ。最後の一つはユーフに何も教えないで去っていく、どうしようかな」


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