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冒険者の使命

 レテたちが隠れて話をしている最中にマリーの準備は着々と進み、テーブルにユーフたちへ配達する食事がきれいに並べられていく。大きなカバンも一緒に置いてある。風の槍とウィルくんは扉の近くで漂っている。

「ガーおじは裏切らないかな、私は信じるわ。ガーおじは私とネアスとずっと一緒にいる事になるはず。アーライト河の終点の空中都市にも一緒に行ったらきっと楽しいわ」

 レテはガーおじに伝える。

「空中都市は困るのじゃ。ワシは高いところが苦手なのじゃ、レテ殿はいつもワシを困らせる事を考えているのじゃ」

 ガーおじはレテの提案が良くないと感じる。

「ガーおじは記憶が戻ったらネーくんと食べ物屋さんを開くのよ、レテ。きちんと人の話を聞いておくべきよ」

 ラーナが助け舟を出す。ガーおじはうなずく。近くでカバンに料理を詰め始めていたマリーは興味を示す。

「二人で食べ物屋さんか、良い考えね。冒険者や騎士になるよりは安全だし、二人には合っているわ」

 マリーは気楽に話に加わる。レテは大きく首を横にふる。

「ダメ、ダメ、マリー!みんなマリーみたいに料理が得意で研究熱心じゃないかな。私だって時間がある時は頑張っているけど上手くいかないことの方が多いわ」

 レテはマリーを手伝い始める。

「レテ殿が愛したランチセットで売り出すから問題ないのじゃ。街のみんなはすごく興味を持つのじゃ。昨日までで良くわかったのじゃ」

 ガーおじは計画を明かす。ラーナはガーおじを見直す。

「けっこうしっかりと考えているわね、ガーおじ。それなら多少味が悪くてもララリを払ってくれる客はいるわ。苦労もしなくて済むし良い計画ね」

 ラーナは賛成する。

「そういうやり方をしている人たちもいるから私は何も言えないけど、出来れば味と香りと見た目で勝負してほしいわ。お皿が変わるだけでも料理の印象は変わるから試してみると良いわ、ガーおじさん」

 マリーは控えめに提案する。レテは大きくうなずく。

「何事も工夫、工夫。ラトゥールもそう思うでしょ、大いなる工夫をお願い!今は何も思い浮かばないけどラトゥールも一緒に考えてくれるかな」

 レテは扉のラトゥールにお願いする。風の槍は彼女に近づきお皿を光で包む。ウィルくんも後から付いてくる。

「素晴らしいお皿です。ユーフも喜ぶでしょう、光り輝くお皿で食事を取る機会など今までありませんでした」

 黙っていたデフォーが大きな声を上げる。

「味は変わるのかしら、少しだけ食べさせてもらうわ」

 ラーナはカバンに詰める前の特製サンドを少しちぎって食べる。彼女は首を横にふる。

「光ではおいしくならないのじゃ、それはワシでも分かる事なのじゃ。ラトゥール印のディナーセットは難しそうなのじゃ」

 ガーおじは残念がる。

「このお皿も持っていったほうが良いみたいね。かさばるけど仕方ないわ、みんなの喜ぶ顔のため。どう入れようか」

 マリーはお皿をカバンに詰めようと試みる。

「これは失敗かな、無理をしてカバンに詰める必要はないわ。ラトゥール、ありがと。光を消してくれるかな。それともしばらくこのままの方が良いかな」

 レテは風の槍に問いかける。お皿に変化はない。

「レテ様の言うとおりでした。ユーフたちは喜ぶかもしれませんがお皿は邪魔になります。これはこのままにしておきましょう」

 デフォーはお皿をじっくりと見ている。

「貴重品は貴重品ね!ラトゥールの力が宿ったお皿、使い道は分からないけど危ない代物じゃないかしら」

 ラーナもお皿を観察している。

「ワシがもらうことにするのじゃ、このお皿で色々と盛り付け方を練習するのじゃ。将来のための準備なのじゃ」

 ガーおじはラーナの貴重品という言葉に反応する。

「ガーおじに賛成かな。ここに置きっぱなしだとマリーにまた迷惑をかける事になるわ、貴族は変な物が好きで困るかな」

 レテはカバンからお皿代を払おうとするがマリーが彼女の手を止める。

「ガーおじさんにプレゼントするわ。私も自分の宿を持つのが夢だからガーおじさんの気持ちが分かるわ。一緒に頑張りましょう」

 マリーはガーおじに笑顔でお皿を手渡す。

「ガーおじ、ちゃんと練習するのよ。もらっておいて放置はダメかな、伝説の戦士になってもその盛り付けの練習は続ける約束をしなさい!」

 レテはガーおじに強く求める。

「私も後でじっくりと見てみたいです。よろしいでしょうか、ガーおじ殿」

 デフォーはお皿に興味深々だ。

「任せるのじゃ、ラーナ殿も時間が合ったら見てみるのが良いのじゃ。魔術の研究の役に立つハズじゃ」

 ガーおじはレテと約束はしない。

「精霊の力がこもったお皿か。私はどちらかと言うと精霊そのものの力に興味があるから今回はパスするわ。クロウに話しても良いかしら」

 ラーナは先程の風の槍の様子を思いだし始める。ガーおじは残念そうにうなずく。

「そう言えば先程の話ですが私も聞かせて頂きました。私の話には興味はないようですので手短に済ませます」

 デフォーにも聞こえていた。

「聞いていたなら一度話に入ってくれば良かったのに、大した話じゃなかったからこっちも構わないけど……」

 レテはデフォーの話を待ち受ける。マリーはお届けの準備が整ったようだ。

「ユーフさんたちの昼食の配達に出かけます。レテにお留守番をお願いしても良い、それとも用事が午後も用事があるなら店の人を呼ぶわ」

 マリーは大きなカバンを何個も抱える。しっくりきたようで一度テーブルに下ろす。

「私もネアスの様子を見てみたいから一緒に行くわ。荷物は半分個にしましょう、雨で道が濡れているから危ないかな」

 レテもデフォーの話を聞かずに外に出る準備を始める。

「ネーくんは起きているかしら。まだ眠っているようだったらレテが起こしてあげないといけないわね。そこまで手間はかけさせない子よね」

 ラーナも立ち上がり一番小さいカバンを持つ。

「ワシに留守番を任せるのじゃ、ウィルくんとラトゥールが残ってくれれば百人力じゃ。ワシは誰にも負けないのじゃ」

 ガーおじが頭上を見るとウィルくんと風の槍は扉に向かっている所だった。ウィルくんは一時停止する。

「私の話は気にならないのでしょうか。これからのあなた達の運命に関わる話です。ユーフたちも気にしないはずです」

 デフォーは皆が座るのを待つ。ガーおじは一人で留守番が不安になりデフォーの言葉は耳に入っていない。

「ガーおじに任せるわ。二人は友達でしょ、大事な話は男友達にするものかな私たちは気を使ってこの場を離れさせてもらうわ」

 レテはコートを羽織る。

「宿の女将に運命は関係ありませんね。おいしい料理と居心地の良い空間を提供するのに専念します。石版についてもユーフさんに相談します」

 マリーも色々と考えていたようだ。

「魔術師は自分の考えを貫くのみ。他の人の意見は聞かない!たどり着く場所は冒険者とは違うわ。残念だけど私は今日レテを一緒に行動をするのみね」

 ラーナはガーおじにメモを手渡す。ガーおじは驚くが大事に胸のポケットにしまう。

「ネアス殿の事を頼むのじゃ、ワシがしっかりみっちりがっちりとデフォー殿の運命の話を記憶するのじゃ。ワシは記憶喪失だからたくさんの事を覚える事が出来るのじゃ」

 ガーおじは俄然元気になる。

「ではそのままで構いませんので話を聞いてください。私たちギンドラの冒険者には使命があります。それはギンドラの街で冒険者ギルドを立ち上げた人物が掲げた使命です。我々はその使命に逆らうことは出来ません」

 デフォーは大事な話を始める。レテは準備を止めない。

「何度も同じような冗談に引っかからないわ。どこに笑える所があるのかな、ラーナは分かった?」

 レテはラーナに問いかける。ラーナは首を振る。

「冒険者の使命って所ね。冒険者は自由を大事にする人たちの集まりよ。使命に縛られたら騎士と同じじゃない。クロウなら笑うかしら、どう思うのかは話し手次第ね」

 ラーナは確信して答える。レテはうなずく。

「宿に来る冒険者の方も好きなように振る舞っていますね。良い意味です」

 マリーは先程試したとおりにカバンを背負っていく。

「皆様の仰るとおりです。私が他の冒険者の重鎮たちに使命の件を持ち出した時に反対されました。あのような迷信を信じているのはお前だけだと言われました。私は何も言えませんでした」

 デフォーは淡々と語る。

「冒険者も大変なのじゃ、人の話を聞くことが一番大事なのじゃ。ワシはレテ殿の話はちゃんと聞いているのじゃ」

 ガーおじは胸を張る。

「ラーナ、今の笑う所はドコ?私には検討もつかないわ、少し悔しいわね」

 レテも半分のカバンを背負い始める。マリーが手伝う。

「迷信を信じないって所に決まっているわ。伝説と迷信は同じように曖昧な事かしら、デフォーの冗談は難しいわ」

 ラーナは扉に向かう。ウィルくんは先に外に出る。

「流星が降る夜、一人の青年が夢を見る。彼は風に憧れ静かに眠る。彼の願いに従え、冒険者の願いはそこにある」

 デフォーは昔から好きな言葉を語る。レテは準備を止める。

「きれいな話かな、夢と願い。冒険者の好きそうな言葉ね。その話は使命に関係があるのかな。どこにもやるべきことは話されていないわ」

 レテはデフォーに語りかける。マリーは準備を止めずにレテにカバンを持たせる。

「私も流星はもちろん見たわ。すぐにシューティング翠岩祭りの話題で持ち切りになったから、あの光景はすっかり忘れていたわ」

 マリーは夜空を思い出す。

「ワシは流星を見た覚えはないのじゃ。その夜の後に記憶を失くしたようで間違いないようじゃ。少し記憶に近づいた気がするのじゃ」

 ガーおじは流星の事を思い出そうとするが頭が痛くなるので止めた。

「クロウにも聞いた事がない話ね。彼の言いふらしそうな話なのに不思議ね。あれでも歴史にも詳しいのよ」

 ラーナが扉の外を見ながら話に加わる。

「ギンドラのギルドだけの言い伝えです。これはシャルスタン王国の冒険者の使命です。彼の願いを叶える事が我々の使命です。何の意味もなく言葉は伝わりません」

 デフォーはレテを見つめる。

「残っている言葉はそれだけなのかな、たしかに他の人たちが反対するのもうなずけるわ。彼を探して、願いを聞いて、その願いに従う。コワイ願いだったら大変、大変」

 レテはデフォーの話が終わったと感じ扉に向かう。マリーもついていく。

「デフォーさんの話には興味がありますが今は昼食を届けることと石版をどうやって取り戻すかを考えることが優先のような気がします」

 マリーは申し訳無さそうな顔で意見を言う。デフォーが大きくうなずく。

「もちろんですともマリーさん、ユーフたちもお腹を減らしているでしょう。私の話を聞いて頂きありがとうございます。続きの話はガーおじ殿に話しておきます。石版の事はユーフに相談すれば手がかりを掴んでくれるはずです。彼は優秀な男です」

 デフォーは話を終え、見送りの準備をする。

「流星の記憶、大神殿の守り人、岩の涙。それにデフォーから今聞いた夢見る青年、全ては繋がっているのかな。それとも私が無理に関連付けようとしているのかな」

 レテは雨空を見ながらつぶやく。

「夢を見ない人はいないわ。範囲が広すぎて特定することは不可能かしら。流星の記憶も意味不明ね」

 ラーナは答える。

「石版を取り戻す事が出来れば手がかりが掴めると思うわ。必ずレテとネアスの大事な石版は私が取り戻してみせるわ」

 マリーは気合を入れる。

「取られた物は取り返さなきゃだけど、あの石版にその価値はあるのかな。ネアスにも聞いてからでも良いでしょ。のんびり行きましょう!」


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