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隠す気のない話

 緑岩亭の食堂には雨の音のみが響いている。風の槍もウィルくんも静かに勝者の姿を待ちわびているようだ。レテはマリーにやさしく声をかける。

「マリーの特製サンドは私の目標でもあり、いつかは倒さないといけない相手かな。そのためにはこの勝負に勝って勢いをつけさせてもらうわ。明日は敵でも今日は味方よ!」

 レテは最後のひと押しをするがラーナが口を挟む。

「友情と仕事は別にするべき。それが友達付き合いを長く続けるための条件ね。仕事の話ばかりしているといつかは喧嘩別れになるわ」

 ラーナは経験談で攻める。

「私の冗談が引き起こした問題です。最後まで見届けるのが私の役目です。すべての責任は私が引き受けますのでマリーさんは気になさらずに選択してください」

 デフォーは申し訳なさそうな顔になる。

「ワシの選択は正しかったのだろうか?後でネアス殿に聞いてみるのじゃ、ワシ一人ではとても分かる問題ではないのじゃ」

 ガーおじはあきらめてマリー特製サンドを口にする。

「パサパサに賛成!レテに気を使ったんじゃなくてパサパサでもおいしい食べ物はあるわ。すごくパサパサが好きなひとがいたって構わないわ」

 マリーは大声で告げる。レテはマリーに抱きつく。

「賛成三でレテの勝ちね。マリーの言う事に一理あるわ、私も負けを認める。先入観を捨てきれなかったのが私の敗北の原因ね」

 ラーナは納得して特製サンドを頬張る。

「心地よい敗北です。マリーさんに感謝いたします。私の冗談は笑えないのは一生治らないでしょう」

 デフォーは清々しい気持ちで特製ドリンクを飲む。

「デフォー、負けは負けかな。負けに気持ちの良さを感じてはイケないわ、その感情はいつか危険な事を招き寄せる結果になるかもしれないわ」

 レテはデフォーに追い打ちをかける。彼の顔つきが変わる。

「レテ様の助言は私には痛みを引き起こします。私は勝者でなければいけない時に負けてしまった男です。私の仲間にレテ様がいらっしゃったら結果は変わったのでしょうか」

 デフォーは深い悲しみを思い出す。

「デフォー殿、考えすぎなのじゃ。レテ殿は幸運の女神様なのじゃ、結果は成功したに決まっているのじゃ。今のレテ殿にはラトゥール殿もついているのじゃ、成功以外の結果はないのじゃ」

 ガーおじは自信満々で答える。

「幸運の女神様にラトゥールの末裔。冒険者になる必要もない気がするけど、何を求めて旅をするのかしら。その御一行様たちは!」

 ラーナも考え込む。

「私だって失敗はするわ。ここぞという時に失敗をしなければ良いかな。パサパサは私にとっては勝つべき試合ね。他にも大事な事はたくさんあるけど譲れない事の一つかな」

 レテも特製サンドを美味しくいただく。

「フワフワのパンもおいしいでしょ、レテ。今度からフワフワとパサパサのパンを二種類用意するのも良いわね。検討してみるわ」

 マリーはデフォー以外が笑顔で昼食を取っているのを満足して眺めている。

「レテ殿、言い過ぎたのじゃ。デフォー殿に謝るかプレゼントをするかをした方が良いのじゃ。ユーフ殿にも世話になっているのじゃ、嫌われたら大変なのじゃ」

 ガーおじはレテに小声でつぶやく。レテもデフォーの雰囲気に気がつく。

「私らしくなかったかな、勝利は人を惑わすわ。私も例外ではなかったみたいね。どこがダメだったと思う、ガーおじ?」

 レテも小声でガーおじに尋ねる。彼は首をひねる。

「気持ち良さを感じてはイケないのが良くなかったような気がするのじゃ。気持ち良いことをダメと言われたら悲しいのじゃ」

 ガーおじは何とか答えを絞り出す。

「負けてばっかりだと気持ちが滅入るわ。気持ちよくはないハズ、デフォーは何かを隠しているのかな」

 レテは考え込んでいるデフォーを見つめる。

「話していないことはたくさんあると思うのじゃ。しかし、デフォー殿の話をずっと聞いていたらワシの記憶がデフォー殿の思い出で埋まってしまうじゃ、ここは隠し事はない事にするのじゃ」

 ガーおじはレテに提案する。

「私もデフォーにそこまで興味はないかな。でも、ネアスが安全なのはデフォーの仲間のユーフたちのおかげだしね。年寄りの話に付き合ったほうが良いのかな。また、初恋の話なら良いかな」

 レテとガーおじがコソコソと話をしているとラーナが気になったようで話に加わってくる。

「この距離で話が聞こえないようにするのは無理よ、レテ。別の場所で相談するのが正解かしら。バレても良い話ならどっちでも良いけどね」

 ラーナも一応小声で話す。デフォーは考えにふけっているようでレテたちの話は聞いていないように見える。

「デフォーさんの事はレテたちに任せるわ。私はユーフさんに届ける料理の準備と片付けをしてくるわ。頑張ってね、レテ」

 マリーはいつものように手際よく片付けを始める。レテはマリーの動く姿をじっと見つめる。

「マリーは片付けも上手ね。私はあそこまで計算をしてきれいに動き回ることは出来ないかな。汚れている皿をみると少しイラッとしちゃうわ」

 レテは余計な事を考えてしまう。

「ワシもレテ殿と出会うことがなかったら皿洗いの仕事をしていたのかもしれないのじゃ。ララリがなくてお店の手伝いをしていた冒険者を昨日見かけたのじゃ」

 ガーおじは自らの幸運を誇る。

「冒険者で成功を収める事は貴族に生まれる事より困難だ。クロウ談」

 ラーナは雑に語る。

「クロウはおしゃべりが好きなのかな。それともラーナがクロウの話を聞くのが好きなの?冒険者の話は楽しいのかな。騎士の話はカチカチね」

 レテは感想を述べる。

「他の男よりはマシかな。クロウは旅人の翼を持つ冒険者だから色々と経験を積んでいるみたいね。それを見せないのがカッコいいって思っているから面倒かしら」

 ラーナは複雑な心境のようだ。

「冒険者とは難しい職業じゃ。ワシはレテ殿とネアス殿の手伝いを終えて記憶が戻った後は

何をしてララリと稼いでいくか。この機会に考えておくのじゃ」

 ガーおじはすっかりデフォーの事を忘れてしまう。マリーはテーブルをきれいにしてお皿洗いに向かう。

「ガーおじは伝説の戦士になる予定でしょ。専門の武器を教える道場を開けば良いわ、それとも全ての武器を扱える伝説の戦士なのかな」

 レテは真剣にガーおじに提案する。

「記憶が戻った瞬間に伝説の戦士に生まれ変わるなんて信じられないわ。ガーおじには悪いけど徐々に記憶が戻ってそれなりの戦士になると思うわ」

 ラーナは冷静に意見を述べる。

「それも良いのじゃ、大きな夢はワシには似合わない気がしてきたのじゃ。ワシはネアス殿に頼んで一緒の食べ物屋を開くのじゃ。マリー殿のような素晴らしい料理ではなく一般的な味でのお店じゃ」

 ガーおじは考えていた夢を語る。レテは大きな声を出すのをガマンする。デフォーは長い間考え込んでいる。

「料理をしている時に急に伝説の戦士の記憶が目覚めたらどうするの、ガーおじ。使命を果たすためにせっかく開いたお店を止めないといけなくなるわ」

 レテはガーおじの夢に反対する。

「伝説の戦士の記憶があると思って戦いの旅に出る方が危険よ。武器の扱いの少しだけうまい戦士だったら身の危険を守れないわ」

 ラーナは静かに現実を語る。ガーおじは小さくうなずく。

「二人の意見も当然かな、見落としている事があるのが最大の問題点ね。二人は大事なことを忘れているわ。誰のお陰でガーおじがこの場所にいるのかな」

 レテは簡単な問題を出す。ガーおじはすぐに答える。

「レテ殿とネアス殿のおかげじゃ。ワシは本当に感謝しているのじゃ、ワシは幸せ者なのじゃ。食事も食べ放題なのじゃ」

 ガーおじは笑顔で答える。

「そうなんだ、レテとネーくんでガーおじを助けたのね。今度詳しく知りたいな、ネーくんはどんな活躍をしたのか気になるわ」

 ラーナはネアスに興味がある。

「きれいでやさしくてかわいい私が一緒にいる事を忘れちゃダメかな。ネアスは勇者!ガーおじは伝説の戦士!私は二人を助ける女の子かな」

 レテは理想を語る。ラーナは大きく首を横に振る。

「現実は厳しいわ、レテ。ネーくんは秘密を抱えた青年、彼はレテにも伝えていない重大な秘密を持っているわ。ガーおじはレテを信頼していないように見える時があるかしら。記憶が戻ったら裏切る可能性もあるわ、今の所の私の感想ってとこね」

 ラーナは総合的に判断を下した。ガーおじは大ショックを受ける。

「ワシは絶対にレテ殿とネアス殿を裏切らないのじゃ。レテ殿のイジワルがヒドイ時も多いがそれはガマンなのじゃ」

 ガーおじはラーナに決意を述べる。ラーナは素っ気なくうなずく。

「ネアスの秘密、ガーおじの陰謀?!これが私の重大問題かな、他の事は誰かに任せればダイジョブ、ダイジョブ」

 レテは考えがまとまりスッキリする。

「ラトゥールの事を調べないの?レテも風の槍とラトゥールの関係性には興味があるでしょ。全く違う精霊の可能性もわずかながらあるかしら」

 ラーナはレテに問いかける。

「ラトゥールの事を調べていたらネアスとガーおじの事を放置しないといけないわ。そうなるといつまで経っても二人は頼りない男の子とイジワルオジのままかな」

 レテは問いに答える。

「ワシはレテ殿にイジワルはしていないのじゃ。特製たまごサンドの事は忘れて欲しいのじゃ。もうイヤなのじゃ、ワシはまったりゆるふわシブおじなのじゃ」

 ガーおじは動揺して混乱した。ラーナが驚いた様子でガーおじを見ている。

「レテはこうやってガーおじの事にイジワルをしているのね。すっかりガーおじは役に立たない感じなったわ」

 ラーナは納得する。

「いじわるでゴメンね、ガーおじ。たまごサンドの事は忘れた、約束するわ。他のことで私に対して思っている事があったら何でも言ってね」

 レテはやさしくガーおじに話しかける。ガーおじは落ち着きを取り戻して話を始める。

「レテ殿は先程もワシに水をたくさんかけたのじゃ。ワシもレテ殿に反撃しようとしたら上手くいかなかったのじゃ。後は今日のお昼もずいぶんと待たされていたのじゃ。最後にワシは裏切らないのじゃ、レテ殿は思い違いをしているのじゃ」

 ガーおじはレテに不満をぶつける。レテは意見を聞いて考え込む。

「ガーおじもイジワルね、私もイジワルだから三人は似たもの同士かしら。私は誰かにイジワルしようかしら?」

 ラーナは笑みを浮かべる。ガーおじはドキッとする。

「ウ~ン、私はガーおじが裏るって言ったかな。ちゃんと覚えていないわ。思い出すのも面倒だし、どうしようかな 


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