感想の時間
レテが緑岩亭の食堂に戻るとラーナは書物を閉じて食事の前の準備を始める。デフォーも書き方を止めて食事のスペースを作る。ガーおじの待ちきれない様子がレテには分かった。
「遅れてゴメンね、お昼にしましょうか。マリー特製のサンドは今日も格別よ。味見はしっかりさせてもらったわ。手伝いをしたごほうびかな」
レテはごまかす。マリーは大きく首を縦に振る。ガーおじはやっと食事を取れることで頭がいっぱいですぐに口に運び出す。
「一人でこの量を作るのは不可能ね。レテが手伝ったとしても大変だと思うわ、美味しさだけでなくて速さも大事なのね」
ラーナは納得して特製サンドを食べる。すぐにマリーの顔を見てウィンクをする。
「私も楽しみにしていました。後でユーフたちにもおすそ分けできそうな量です。よろしいでしょうか、マリーさん」
デフォーはマリーに確認する。
「もちろんです、そのつもりで作りました!ユーフさんたちの口に合うかどうかデフォーさんの味見をよろしくお願いします!」
マリーは息を飲んでデフォーの感想を待つ。
「ワシのお墨付きなのじゃ。ユーフ殿には会った事はないがこの特製サンドをおいしくないという人はいないのじゃ。ワシに任せるのじゃ、マリー殿」
マリーはガーおじの感想を軽く聞き流す。
「デフォーは若い人と味の好みが違うかも、あんまり期待しすぎるのもダメかな。参考意見にはなるんかな、冒険者同士だし食べている物は一緒だと思うし……」
レテは自信のないアドバイスをする。マリーはデフォーの感想が遅いので気が気でない。
「どうしたの、デフォー!書くのを途中で止めたから気になっているんでしょ。私も読みかけの本は気になるわ」
ラーナは二個目の特製サンドを手に取る。
「いいえ、そうではありません。味の感想を求められた事などないので緊張しています。この年齢になって初めての体験をするとは思ってもいませんでした」
デフォーは険しい顔つきになる。ガーおじが励ます。
「デフォー殿、初めての時は誰でも失敗するものじゃ。思ったことを口にするのが一番なのじゃ。後はレテ殿がフォローしてくれるのじゃ」
ガーおじはレテに任せることにしてキノコを食べ始める。気に入ったようで次々と口に運んでいく。
「キノコも美味しそうね、ガーおじ。私もいただくこと事にするわ、味は確約されているも同然ね」
ラーナがキノコを取ろうとするとサッとガーおじがお皿に取り分ける。ラーナは彼にお礼を言ってから頬張り始める。
「私のフォローは必要ないかな。ガーおじの考えすぎよ、マリーの料理を食べた後に言うことは一つだけかな」
レテの発言でデフォーの緊張は最高潮に達する。彼の顔のシワは深く険しくなっていく。
「手順を間違った所があったみたいね。私も味見をさせてもらうわ」
マリーはデフォーの顔を見て不安になり、彼の取った場所の特製サンドを口に運ぶ。満点の味だ。
「正解は一つだけなのじゃ、ワシでも分かるのじゃ。レテ殿の言うことがワシには分かるのじゃ、ワシは成長したのじゃ」
ガーおじは自らの力の高まりに興奮する。
「美味しいわ、デフォーは何を悩んでいるのかしら。一つだけの正解か、レテの考える事は私にはまだ分からないわ」
ラーナは味わいつつもドンドン食べている。
「ラトゥールはどう思う。キミには答えが分かるかな、きっとキミには難しい問題ね」
レテはウィルくんと一緒にフラフラしている風の槍に問いかける。風の槍はレテの方に近づき静止する。
「ラトゥール様もお悩みのようです。私だけではないようなので安心しました。感想を言わせていただきます」
デフォーは風の槍を見て、マリーと目を合わせないように心がけて感想を言う。
「このパンはふわふわで大変美味しいです。しかし、私の好みは硬めのパンです。それに味はもっと塩辛い方が好きです。他の人々はこの味で良いと思いますが私はパサパサ気味で塩味が強いパンが好きです。ユーフが同じ味の好みかどうかは私には分かりかねます。これが私の限界です」
デフォーは仕事をやり切って肩から荷が降りるのを感じる。マリーはデフォーの意見を真剣に受け入れる。
「どこかで食べたような味に聞こえるのじゃ。とても奥の底の記憶がワシに告げているのじゃ、思い出す必要はないのじゃ」
ガーおじは余計な事を思い出さない。
「本当に味の好みは人それぞれね。私は好きだけどふわふわのパン。でも、硬めが好きな人も確かにいるわね」
ラーナは静かに感想を述べる。特製サンドを食べるがやはり美味しい。
「騎士団特製パンもカチカチ気味ね。携帯用でもあるから仕方がない所はあるかな、私は街で食べるならフワフワのパンを選ぶわ。疲れている時は濃い味も良いかな、ウウン、マリーの味付けが正解かな」
レテはしっかりフォローする。
「参考になりました、デフォーさん。冒険者の方や騎士の方に合う味付けがあるみたいですね。私は料理人ですが相手のお仕事までは考慮にいれていませんでした」
マリーはお礼を言って試作品を作ろうと調理場に戻ろうとする。
「今のは冗談です。とても美味しかったですよ、マリーさん」
デフォーは笑顔で返答する。マリーは立ち止まりどうして良いか分からなくなる。
「デフォーの笑えない冗談ね。何が冗談なのか分からないかな、美味しいの?それとも感想が冗談だったのかな?」
レテはデフォーに問い詰める。デフォーの頭上で風の槍は狙いをすますようにクルクル回りだす。
「真面目に話を聞いて損をしたわ。冒険者はどうしてこんな事をするのかしら?ネーくんもそのうちにヒドイ事を言うようになるからレテがしっかりしないとダメだからね」
ラーナはレテにアドバイスをする。レテは大きくうなずく。
「デフォー殿はすごいのじゃ、レテ殿とラーナ殿を敵に回す事はワシにはとても出来ないのじゃ。冒険者とは余程のもの好きなのじゃ」
ガーおじは感心しつつもこの場を離れたい気持ちが強くなる。ウィルくんはガーおじの頭上でフラフラしている。
「申し訳ありません、言葉が足りませんでした。パサパサした食感が好きという所が冗談です。パサパサは悪い意味なのでほめ言葉には使わないと思っていたので簡単に伝わると思っていました。他の感想はウソではありません」
デフォーが深々と頭を下げる。マリーは小さくうなずく。
「そうですよね、硬めで塩味が濃い方が好きなんですね。それなら納得できます。男性の方はそっちの味付けが好みの人が多い印象です」
マリーはホッとする。
「パサパサは悪い意味だけに使わないわ。デフォーは間違っているわ、私はパサパサのパンが好き。騎士団のみんなや街の人がどんなに反対しても私は譲るつもりはないかな」
レテは決意を述べる。
「私はデフォー派かしら。パサパサは良い意味では使わないわ。硬めのパンを食べたい時はあるけどパサパサのパンを食べたい気分になる時はないわ」
ラーナはレテの意見に反対する。
「パサパサに賛成一、反対二?!マリーに最後に聞くとしてガーおじはどっちかな。私の意見に反対したら後でどうなるか分かっているよね、ガーおじ!」
レテは露骨にガーおじを脅す。
「レテ、卑怯よ!ガーおじにも自分の意見はあるわ。素直な意見を聞いて今後の参考にするべきよ。脅かして賛成させても意味はないわ」
ラーナはレテを諭す。ガーおじが口を開こうとするがレテが先に反論する。
「ガーおじをどうしようと私の自由かな。ラトゥールはどう思う、ラーナの意見に賛成かな。それとも私の意見に反対する決断をキミは下すのかな」
レテは風の槍に対しても脅しをかける。風の槍はさらに速くデフォーの頭上で回り始める。
「私は最後で良いのね、レテ。任せて!」
マリーは決断を下した。
「反対二に私は入っているのですか。パサパサのパンですね、どうしましょうか。冗談とは言ったものの、もう一度考えても良いですか、レテ様」
デフォーはレテに問いかける。
「却下!意見を変えるようなら最初から冗談にパサパサを使うべきではなかったわ。デフォーの心は既に分かっているかな」
レテはガーおじをにらみつける。
「レテ、その考え方ならガーおじに脅しをかけるのもイケない気がするわ。正々堂々と勝負をしましょう」
ラーナはレテに勝負を挑む。レテは首を横にふる。
「ガーおじはまだ何も話していないわ。それに勝負は勝つためにあるかな、卑怯な手段は許されているわ。もちろんルールの範囲内でね、ガーおじと私の付き合いなら問題はない程度の事よ」
レテは都合の良い事を言う。ラーナはさらに反論しようとするとガーおじが口を開く。
「ワシはいつでもレテ殿とネアス殿の味方じゃ。ワシの意見は二人の同意が必要なのじゃ。ネアス殿はパサパサに賛成するはずじゃ。つまりワシも賛成じゃ」
ガーおじはラーナのためにレテを裏切る事が出来なかった。
「見損なったわ、ガーおじ。自分の意見を曲げるなんて信じられないわ。レテにいくら借りがあるからってそこまでする必要はないわ」
ラーナはガーおじをにらみつける。ガーおじは怒った顔のラーナも美しいと思う。
「最後はマリーでシメね。賛成二、反対二の同点?!ガーおじは私の味方に引き入れたわ、勝ち負けは決まったも同然!」
レテは何故か勝利を確信している。マリーは立ち上がり、みんなに話しかける。
「今日は私のパンについて面白い話をしてくれて本当にありがとう。美味しいって言ってもらえるのもとてもうれしいけど、こんなに料理にみんなが興味を持ってくれていたことがとてもうれしいわ」
マリーはみんなの顔を見る。
「マリー殿の特製サンドがおいしいから心が燃えたぎるのじゃ。普通のサンドイッチではここまで考え込む事はないのじゃ。良い刺激になったのじゃ、パサパサでもマリー殿の特製サンドはおいしいはずじゃ」
ガーおじは自分の意見を述べる。ラーナはガーおじを見直す。
「たまには良いことを言うわね、ガーおじ。でも、今は大事な勝負の時!決着はいつでもついてしまうかな。勝者は一人!」




