草占い
美しい女性は急いで三人を泉の裏に案内する。男性陣二人は大急ぎで追いかけていく。レテは遅れて、その後を追っていく。
「レテ、レテ」
モラが大空から帰ってくる。満足気な様子だ。
「ゴブちゃんたちは近くにはいないみたいね。ありがとう、モラ」
モラは危険があればレテに知らせてくれる。元気な子だ。
「まだ時間はあるし、のんびりいこうかな。一人でできることなんて限りがあるし、余裕、余裕」
レテも気分を入れ替えて、大急ぎで三人のもとに向かっていく。
「こちらに女神様の名剣が埋まっています。どうぞこれを」
美しい女性はそばに置いてあったスコップを三人に示し、掘るように促す。
「よし、掘っていこう。頑張るぞ」
「ワシも手伝うぞ、競争じゃ。ネアス殿」
二人はスコップを手に取ると先を急ぐように穴を掘っていく。
「報酬は名剣だけなの、女神様のお宝とかはないのかな。ララリに出来きそうだとうれしいかな」
レテは穴掘りには参加せずに、女性に話しかける。
「説明した通り私の家では十二万ララリはとても用意できません。お金になるようなモノなど何もありません。今は家族の健康を大事に生きております」
美しい女性が真っ当な受け答えをする。
「まっ、健康第一よね。のんびり、のんびり。なんか、疑っちゃってごめんね。女神様なんて、おとぎ話の世界よね」
レテはうなずく。
「いえ、信じていただけなくても当然ですわ。私も今でも、信じられないくらいですから、仕方ないです」
美しい女性の声が小さくなる。
「だよね。あの二人はおかしいのよ。何でもすぐに信じすぎるのよ。あんなんじゃ、騙されてひどい目に合うわ。私が一緒にいないとダメかも」
レテは二人を見る。
「そうですわね。私の両親も昔、だまされてひどい目にあって、こんなザマです」
美しい女性は答える。
「本当に怖い世の中よねえ。ゴブちゃんも多くなってきているし……」
二人の会話が途切れる。穴を掘る音が大きく聞こえてくる。
カン、カン、カンと金属にぶつかる音が鳴る。
「ついにね。勇者の剣か。楽しみ、いきましょ」
ネアスとガーおじは金属製の箱を穴から地面へと取り出していた。比較的、浅い所に埋まっており、サイズも剣にピッタリのように見えた。
「大きさ、重さから推測するにこれで間違いないのじゃ。早速、開けるのじゃ」
ガーおじが箱に手をかけようとすると、レテが大声を上げる。
「ガーおじ、ストップ。焦りすぎよ。一番良いところじゃない。みんなが集まってから、そうでしょ」
レテはビックリする。
「確かにそうだね。女神様の剣か。大きな冒険が始まりそうだね、ドキドキしてきたよ!」
ネアスの声も興奮で大きくなる。
「誰でもよろしいのではないのですかね。中身は分かっています」
美しい女性は答える。
「二人の言う通りじゃ。焦りは禁物、これからが本番じゃ。誰が開けるのが良いか、レテ殿が一番活躍しておるのは一目瞭然じゃ。どうぞじゃ」
ガーおじが道を譲る。
「みんな、開けたいでしょう。こんな事めったに無いことよ。ネアスはどう思う」
レテはネアスを見る。
「僕は剣の扱いは得意じゃないから、任せるよ」
ネアスはおずおずと答える。
「レテ様、意見が一致したようですね。どうぞ、女神様の導きです」
美しい女性が箱の土ぼこりをハンカチで拭き取り、きれいにしている。
「私も最近剣は使うことないから、どうしようかな」
レテは考え込む。どうしようかと考えていると、名案が思い浮かんだようだ。
「草占いで決めましょう」
レテはそう言うと、近くの草むらから目を閉じて何本かの草を取ってくる。
「草占いか。子供の頃、近所の女の子たちとやったことがあるな。一番本数が近い人の勝ちだよね」
ネアスは故郷の事を思い出してしまう。
「そういう遊びがあるのじゃな。おもしろい。勝たせてもらうのじゃ」
ガーおじはやる気まんまんで、レテの握りこぶしを観察する。
「草占い、なつかしいですね。時間はあまりないですが」
美しい女性はまた焦りだしてくる。
「気にしない、気にしない。遅くなったらシルちゃんでみんな一緒に吹っ飛んでいけば良いのよ。シルちゃんはやさしいから心配ないわ。そうでしょ、ネアス」
レテはネアスを見つめる。
「もしもの時は。いや、危ないかな。それより草占いに集中だ。だいたい十本前後だよね、女の子の手の大きさだと」
ネアスは本気で勝ちにいこうとしている。
「良いね、ネアス。本気で行こうよ。遊びこそ本気で勝ちに行くのが楽しい、どのくらい掴めたかな」
レテも手の感覚に集中する。
「世界の命運を握る剣かもしれないのじゃ。それを開ける権利は遊びでは済まされんのじゃ」
ガーおじの眉間にシワがよる。
「剣一つで世界を救えるのかな。夢はあるけど、相手はゴブちゃんしかいないしね。平和が一番とは言うけれど、考えすぎかな」
レテは考える。
「私は草七枚ね、決めた。二人はどうする」
レテがネアスとガーおじを交互に見ていく。
「僕は十一枚で行くよ。当たるかな。当たらないかな。ここが楽しいところだよね」
ネアスはワクワクしながら結果を待っている。
「ワシはちょうど十枚じゃ。キリが良いのが良いのじゃ」
ガーおじは気合を入れて返事をする。
「決まりましたね。レテ様、よろしくお願いします」
美しい女性はソワソワしている。
「シルちゃんお願いね。結果発表の時間、箱を開けるのは誰かな?」
レテはシルフィーの力を借りる。手の中の草をヒラリと箱の上に落とす。リンリン森林に吹いている風に飛ばされそうになる。
吹き飛ぶ前に風の力が草を包み込み、数えやすいように一つ一つ分けていく。シルフィーの気遣いのようだ。
「九枚、十枚、十一枚だね。ネアス、おめでと。幸運は貴方のものよ」
レテは笑みを浮かべる。
「ネアス殿、さすがじゃ。ワシも惜しかった。さあ、勇者の剣の姿を見せてくだされ」
二人はネアスに祝福の拍手をする。三人は箱の前に集まる。
「二人ともありがとう、さあ。開けてみよう。僕が主役なんてシンジラレナイ」
ネアスは箱に手をかけ、残りの二人はかたずを飲んで見守っている。
「深き眠りから目覚める剣、ネアスは幸運に恵まれていると良いわね」