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PURE STAR ~星に願いを、君に笑顔を~ 【長編完結】(年の差7歳の恋愛とアオハルな物語)  作者: 水野忠


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第三章 未来に向けて⑱ 走れ忠弘!

 そして時は冒頭に戻り、家屋の倒壊に巻き込まれた忠弘。一緒に巻き込まれた奈津美と名乗った少女。奈津美に綾乃の姿が重なり、絶対に助けると誓った忠弘は、崩れてのしかかってきた家財や家屋をたった一人で支え続けた。志穂たちが気が付き、懸命に瓦礫の除去を進めたため、どうにかこうにか奈津美を助け出すことができたのだった。奈津美の全身が外に出たのを確認すると、これまで張りつめていた何かが途切れ、急速に身体の力が抜けていった。


(もう、限界だな・・・。)


 忠弘の脳裏に綾乃の笑顔が思い出される。誰かを助けるために一生懸命になれる自分のことを尊敬し好きだと言ってくれた綾乃。彼女を守れなかった分、一人でも多くの人を助けたいと選んだ消防士の道。火災現場に突入するのは怖いと思ったこともあった。その都度、綾乃のお守りと笑顔が守ってくれると思えば頑張れた。悲しい記憶だったが、綾乃のことを思い出すたびに勇気をもらえた。なに、もう怖くはないし痛くもない。たとえここで死んでも、向こうでは綾乃が待ってくれている。むしろ、綾乃に会えるのが楽しみなくらいだ。


「小隊長! 大澤さん、返事をしてください!」


 志穂の声が聞こえたがもう大きな声が出せない。今まで支えていた腕は限界を迎え、とうとうその場に崩れ落ちた。支えがなくなった家財が一緒に崩れ落ちてくる。押しつぶされ、身動きが取れなくなる。苦しい。押されているからだろう、圧迫されて息ができなくなってきている。それでも、感覚のなくなった腕を何とか動かし、胸元に掛けたお守りを掴んだ。


「あ、綾乃。おれ、頑張ったよな? 綾乃が胸張れるくらい、誰かを助けること、できたかな。」


 家財だけではない重みがのし掛かり、やがて呼吸ができないために意識が遠くなっていった。ああ、もう終わりの時間だ。まもなく終わる。忠弘は意識がある最後の瞬間に、お守りを握り締めて天に祈った。


(か、神様。綾乃に、どうかそちらでは綾乃に会わせてください。お願いします。また綾乃に・・・。)


 次第に目の前がまぶしく真っ白になっていき、やがて忠弘の思考は完全に停止した。





 ・・・はずだった。まぶしく白かった光は消え、急に喧騒の中に放り込まれた。目の前の視界が戻ってくると、忠弘は人混みの中に立っていた。周囲を見渡すと、どうやらここは鶴岡八幡宮入り口にある大鳥居のようだ。消防士になってからしばらくここへは来ていなかったが、とても懐かしい匂いがした。気が付くと折れたはずの左足に痛みはなく、いつも通りに動かせている。腕の感覚も戻っていた。しかし、消防服を着た状態なので、周囲を行きかう人が何事かと忠弘を見ていた。いったい何が起きたのだろうか。


(おれは夢でも見ているのか? それとも、これが死後の世界なのか。)


 再び周囲をうかがうと、交差点を挟んだ反対側にある土産屋の店員が、店先の商品をしまいはじめた。あの店は確か17時閉店のはずだ。


「まさか、そんなこと。いや・・・。」


 にわかに忠弘は走り出した。確証はない。だが、瓦礫の中で果てたはずの自分がなぜ無傷で鶴岡八幡宮にいるのか、そんなの説明なんてできるはずがない。ただ一つ考えたのは、まだ17時前だと言うことだ。そんなことはあり得るはずがない。だが、ここで考えて動かずに後悔はしたくない。もう、後悔はしたくないと思った。


 小町通りを鎌倉駅に向かって走り続ける。この時間は観光客は減るが、会社帰りの地域住民が、人通りがあり安全と言う理由で歩くことが多い。


「すみません。通してください。すみません!」


 狭い通りのため、そこまで混雑していなくても全力でまっすぐ走るには無理があった。このままでは時間がかかってしまう。思うように進めないのであればと、一か八か途中の路地を曲がり住宅街に入った。ここは自転車が通るのも躊躇する昔ながらの細い地元道だ。ここを抜ければ福原生花店のすぐ近くに出ることができる。


 ただし、ここは街灯も少なくすでに暗い。昔の舗装だから地面はガタガタだ。何度か足を取られ転びそうになるが、狭い通路だ、壁をつかんで押してなんとか体勢を整えながら走り続けた。そして、誰ともすれ違うことなく小町通りに戻ることができた。ここはもう通りの入り口で、赤い鳥居が目の前に見えた。


 生花店の前で、香織が外置きの供花用の商品が入ったバケツを片付けていた。その姿がとても懐かしく思える。その時、確証のなかった忠弘の中で根拠は無いが何か確信できた。間違いない。


「どこだ。どこにいる?」


 駅前のロータリーにでて、駅前を見回す。人混みをかき分け、あの横断歩道を目指した。信号が青になり、母親の手を繋いでいた男の子がその手を放し、横断歩道に駆けだした。


(思い出せ! あの時、どんな服を着ていた?)


 その時、少し前をブラウン基調のワンピースを着た女性が走り出した。見覚えがある。いや、忘れようはずもないその後姿。


「いた!」


 彼女はあの日、やはりあの男の子が危険だと誰よりも早く察知し助けに走ったのだ。その二人に、あの時、縁石に乗り上げていた車が迫るのが見えた。忠弘は走りながら消防服の上着を脱ぎ捨てた。幾分か身体が軽くなり、足に力が込められる。


(助ける。絶対に!)


 これまでのいくつもの厳しい訓練の時よりも早く地面を蹴り、綾乃との距離を詰めていった。綾乃は横断歩道に飛び出すと、その脚力を使って飛び込んだ。眼前に車が迫る。綾乃が目を閉じた瞬間だった。


「綾乃ーっ!」


 綾乃が大きな衝撃に驚き目を開けると、忠弘が自分と男の子ごと抱えて宙を舞っていた。忠弘は途中で身を翻して背中からアスファルトの上に着地した。子供とは言え二人分の重みと衝撃に背中に激痛が走ったが、二人を抱えたまま決して怪我をさせなかった。



続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

\(^o^)/


不思議な何かによって過去に戻った忠弘、

車から逃げようと飛んだ三人はどうなったのか?


次回もどうぞお楽しみに。



水野忠

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