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第三章 未来に向けて⑨ 忠弘の返事

 そして、一瞬間をおいて冷静になってくると、その反応がえらく腹立たしく思えてしまった。綾乃は全力の抗議をしながら忠弘に詰め寄る。


「ちょっと。勇気を出して告白したのにため息で返すってどういうこと??」

「ごめんごめん。そうじゃなくて。」


 笑顔で自分の頭をかきながら、もう一度、今度は照れくさそうに大きく息を吐くと、


「参ったな。前にも言ったけど、妹のように思っていたんだ。無表情で言葉も話せない小さな女の子。何とか笑顔にしてあげたいって思った。今では明るくて元気な女の子になってくれて、おれはすごく嬉しかったんだ。それに、綾乃がおれに好意を持ってくれていたのはずいぶん前から知っていたけど、近しい面倒見のいいお兄ちゃんだから好きなんだって。そう思い込もうとしていた。」


 そこまで言って、何か吹っ切れたような。そんな爽やかな笑顔を見せた。今度は綾乃がドキッとしてしまう。今まで見てきたどんな忠弘よりも素敵に思えたのだ。


「綾乃が襲われそうになった事件があって、あの時、綾乃を失うかもしれないと思った時にすごく怖かったんだ。綾乃がいない世界が考えられないのはおれも同じだよ。観念したよ。おれは、綾乃が一人の女性として好きになっていたんだ。」

「お兄ちゃん。ホントに?」

「この期に及んで嘘なんかつくかよ。負けました。おれの負けです。あー、もうこの際、ロリコンとでも何とでも言ってくれ。だってしょうがないだろ。おれは綾乃が好きだ。もう誤魔化せないよ。」


 忠弘の返事に、綾乃は一気に視界がぼやけてきた。忠弘のことが好きで、でも杏奈がいたからずっとその気持ちを押し殺して我慢してきた。杏奈も好きだったから二人の幸せを願った。しかし、杏奈と忠弘は別れ、つらそうにしている忠弘を見て、今度は自分がそばにいる番だと思った。ずっとずっと大好きだった忠弘を幸せにしたいと思った。その想いが、今、届いた。


「お兄ちゃん。もう、我慢しなくてもいいよね?」


 綾乃が隣に腰かけ、再び身体を預けてくる。忠弘はその肩にそっと手を回して抱き寄せた。


「ただし、約束だ。」

「なぁに?」

「少なくとも綾乃が高校を卒業するまで、おれたちはこれ以上おマセなことはしないこと。」

「え~!」


 綾乃が全力のブーイングを見せ、唇を尖がらせた。もう気持ちを打ち明けたから思う。そんな姿も果てしなくかわいく思えた。


「え~、じゃない。これ以上はダメなの。」

「なんでよ。」

「綾乃はおれを淫行大学生として逮捕させたいのか。」

「真剣交際ならいいんでしょ?」

「ダ~メ! それくらいけじめつけとかないと、みんなが納得してくれないよ。」


 こうなった以上は、正直に和元たちには打ち明けようと思った。しかし、そうは言っても綾乃はまだ中学一年生、忠弘は大学二年生、まだまだ年齢差が問題になる時期だ。少なくとも綾乃が成人するまでは、これ以上を望むことはできないと考えていた。


「じゃあ。お兄ちゃんが手を出してくれるようにいっぱい色仕掛けするからね。」

「せんでいい、せんでいい。」

「でも、これ以上ってことは、キスはいいんでしょ?」

「・・・まぁ、な。」


 そう言って、忠弘は困ったように微笑むと、そっと綾乃にキスをした。キスをすることで綾乃の心はどんどん満たされていく。心に白い光が広がって、自分は生きていてもいいんだと思える。それが何よりも幸せだった。



 その日は綾乃を送って帰宅すると、時間はすでに22時になっていた。忠弘は携帯を取り出し、久し振りに杏奈にメッセージを送った。


『元気にしてるか? 少し報告があるんだけど。』


 しばらくして既読マークが付いた。どうやら杏奈も起きてはいるらしい。返信されるまでのたった2分間が、なんだかすごく長い時間に思えた。


『久しぶりだね。忙しいけど元気だよ。何かあったの?』


 何度かメッセージを打ち込んでは消し、どう伝えようか悩んだが、長々話しても仕方ないのでストレートにメッセージを送った。


『杏奈の言うとおりだったよ。負けた。綾乃と付き合うことにしたよ。』

『Σ( ̄□ ̄|||)』


 顔文字が返信された後、しばらくしてから追加でメッセージが入った。


『あんた、もう綾乃ちゃんに手を出しちゃったわけ!?』

『手を出したというか、少しだけというか、はい。』

『やっちゃったかぁ!』


 そこまでやり取りして、杏奈が盛大に進んだ勘違いをしていることを察し、


『違う違う。そこまでやってない。それは成人するまではナシ!!』


 慌てて返信した。いくつか笑顔のスタンプと、冷めた表情で疑いの目線を向けるスタンプが押された。そして、間髪入れずに杏奈からの着信が入った。


「も、もしもし?」

『久し振り、ロリコンさん。』

「もう何とでも言え。」

『ふふ、さてと。どうしてそうなったのか、あんたのコイバナ聞かせてもらいましょうか。』


 明日は午後からの仕事らしく、今夜は夜更かしをしていたらしい。忠弘は杏奈と別れた後のことを包み隠さずすべて話した。杏奈と別れてふさぎ込んだこと、綾乃が必死に元気づけてくれたこと、綾乃が暴漢に襲われそうになったこと、そして、今夜のこと。


『そっかぁ。ようやく自分の気持ちに気が付きやがったのね。』

「なんだか、すまない。」

『なんで謝るのよ。こうなるって予見してたでしょ? ある意味、自分の先見の明が素敵すぎてうれしくなるわ。』

「とりあえず、杏奈には伝えておかなきゃって思ってさ。」

『うん。よかったと思う、忠弘は綾乃ちゃんをかわいそうだと思うんじゃなくて、どうやったら笑顔で幸せになるか考えてたでしょ。それを見てきたから、綾乃ちゃんの中で忠弘以外に誰かが入り込むなんて想像つかなかったもん。』


 杏奈の見通しはさすがだ。綾乃が言っていたことをそのまま思っていたようで、やっぱり敵わない人だと思わせてくれた。


『忠弘。』

「ん?」

『絶対大事にしなさいよ。綾乃ちゃん泣かせたらちょん切るからね。』

「はは。肝に銘じておきます。」


 電話を切ってベッドに横になる。杏奈はある意味で誰よりも大人だ。自分と綾乃の幸せを願って自分は身を引いた。きっと、忠弘の知らない葛藤があったに違いない。綾乃と付き合うことを決めた以上、杏奈の気持ちを裏切らないようにしなければいけないと心に誓った。



続く。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


ようやく想いが通じ合った二人、

年齢差を跳ねのけて交際がスタートしました。


しかし、物語はここから進んでいきます。

次回もどうぞお楽しみに。

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