第三章 未来に向けて① 恋人岬
第三章登場人物
大澤忠弘・・・主人公、大学で教職課程を先行する。
石山綾乃・・・もう一人の主人公。中学生になってますます美少女に。
橋本杏奈・・・忠弘の元恋人で幼馴染。人気女優
青井信和・・・忠弘の幼馴染、大学でも野球で活躍
福原和元・・・忠弘の叔父、福原生花店の店長。
福原香織・・・和元の妻。
朝霧翔 ・・・綾乃の友人、野球少年。
佐倉志穂・・・綾乃の友人、野球好き。
堤井章浩・・・野球部一年生。打撃の天才。
大澤直也・・・忠弘の父。
大澤芙美・・・忠弘の母。
大澤幸政・・・忠弘の兄。
松木秀雄・・・鎌倉学院大学野球部監督
狩野和晴・・・喫茶店『こまち茶房』の店長。
高倉健太・・・消防指令
石山春樹・・・亡くなった綾乃の父親。
石山博美・・・亡くなった綾乃の母親。
鎌倉南中学に進学し、綾乃はテニス部に所属しながら勉学にも励み、常に上位の成績をキープしていた。元々小学校のころから成績は良かった綾乃である。勉強は苦にならないようで、毎日の習慣として予習復習が身についている。
今日も帰宅すると、制服を着替えてまずは机に向かった。綾乃も人間であるし年頃の女の子だ。時には勉強なんて投げ出したくなる時もあったが、机の隅に設置された写真楯を見て自らを鼓舞する。それは、忠弘と旅行に行った時に伊豆の恋人岬で撮影した写真だった。
卒業式後、綾乃は忠弘や和元たちと伊豆へ旅行に行った。さすがに信和や志穂たちは来られなかったが、二泊三日の伊豆旅行中、綾乃は相変わらず忠弘にベッタリ甘えん坊だった。その時、しっかり勉強も部活も頑張ると約束したのだ。
西伊豆の恋人岬の鐘の前で撮影したツーショットの写真、この一枚を取りたいがために、香織にねだって忠弘には内緒で連れて行ってもらったのだ。
「あのな。ここは恋人同士が来るところで、綾乃とおれは・・・。」
「はいはい。もういいから諦めていこうよ!」
到着した瞬間、案内看板を見て色々察した忠弘がごね始めたので、綾乃は有無を言わさず腕を引っ張った。行き先を濁らせていたので嫌な予感はしていたのだが、まさか恋人の聖地に連れてこられるとは思わなかった。
「お兄ちゃんの言うことなんでも聞くから写真撮ろうよ~。」
そういって頬を膨らませる綾乃に、
「わかったわかった。じゃあ、あんまりおれにベッタリしすぎずに、もう中学生になったんだから部活も勉強も頑張るって約束してくれるか?」
そう言って条件を出したのだ。ますますベタ甘になっていく綾乃が、自分に現を抜かして大きな失敗をしないか心配だった。
「青春を謳歌するのはもちろん大切だけど、人生は長いんだ。あとで困らないように勉強はしっかりやっとけ。」
「お爺ちゃんみたいなこと言ってるよ。まったく。」
そう言って相変わらずふてくされていたが、渋々了承した綾乃だった。二人で列に並び、鐘を鳴らす順番を待った。周りはどちらかと言うと学生よりも社会人らしい人が多く、忠弘と綾乃が並んでいるのは珍しい組み合わせと言えた。
「写真、撮りますよ。」
前の人の順番になったので、忠弘はそう言って声をかけた。
「ありがとうございます。」
彼女さんはまだ若そうに見えたが、彼氏さんは30歳半ばくらいだろうか、けっこう年齢差があるように感じた。ただ、それは自分が気にすることでもないし、年齢より上に見られるだけかもしれないから、努めて顔には出さずに写真を撮った。
「ありがとうございました。よかったら、お二人の写真も撮りますよ。」
「本当ですか? ありがとうございます! お兄ちゃん、早く!」
彼氏さんの申し出に、ご機嫌の綾乃は忠弘の手を引っ張った。
「はいはい。」
忠弘は綾乃に連れられ鐘の前に立つ二人、
「お兄ちゃん。鐘を三回鳴らしたら、私の名前を叫ぶんだよ。」
「おい、マジで言ってんのか。恥ずかしいだろ。」
「ダーメ。部活と勉強頑張るって約束したんだから、お兄ちゃんも約束果たしてね。」
楽しそうに言う綾乃に、今日行く度目かのため息を吐いた後、二人はそろって鐘を三回鳴らした。
「お兄ちゃん。」
「綾乃ーっ!!」
半分やけくそになって叫んだが、綾乃はいつもの声で『お兄ちゃん』と言っただけで叫んではいなかった。そもそも考えてみるとさっきの二人も叫んでなかった気がする。
「あれ? さっきのお二人はそんなに声出してなかったぞ?」
鐘の前で撮影をされながら、綾乃がくすくす笑っていた。どういうことか首を捻っていると、撮影してくれた彼氏さんが笑いを堪えた様な表情で携帯電話を返しながら、
「好きな人の名前をただ言えばいいだけみたいですよ。」
と、無理に笑顔で教えてくれた。
「あ~や~の~!」
「ごめんって。渾身の綾乃ちゃんコールいただきました。」
後で知ったのだが、伊豆の恋人岬では、愛の鐘『ラブコールベル』を三回鳴らしながら、好きな人の名前を宣言すると愛が実ると言われているとのこと。大声で叫ばなくてもいいということだ。恋人たちの聖地、パワースポットとして人気が高い。
「だいたい、綾乃とおれはそう言うんじゃないだろ?」
「あはは。知らなーい。」
しらばっくれる綾乃を横目に、もう一度深々とため息を吐く忠弘であった。香織と和元も鐘を鳴らし、撮影も終わったので、遊歩道を降って入り口のステラハウスまで戻ることにした。別れ際、彼女さんが綾乃に何か耳打ちをすると、綾乃は嬉しそうに、
「ありがとうございます!!」
と言って、小走りで忠弘に駆け寄り、いつものポジションで腕を組むのだった。
「彼女さんなんて?」
「へへ、ナイショだよ~。」
そう言う綾乃の顔は真っ赤になっていた。
『私たちも10歳年が離れているのよ。だから、頑張ってね。』
そう言ってくれたのは内緒にしておきたかった。ステラハウスまで来ると、中で受け取るものがあると綾乃に腕を引っ張られた。
「今度はなんなんだよ。」
カウンターで係員の女性から一枚の紙を手渡された。
「それでは、こちらにご記名をお願いいたします。」
「な、なぬ?」
それは愛の鐘の写真の隣に、『恋人宣言証明書』と書かれた用紙だった。ここでの名物記念品だそうで、この証明書を発行した二人がめでたく結婚に至ると、祝電や記念品の贈呈など、後々まで特典があるらしい。
「あの、綾乃さん。これはさすがに・・・。」
「だって、もしもだよ。もしも、いつかそのうち、ひょっとしてお兄ちゃんと私が結婚出来たら、色々特典が受け取れるんだよ。お得じゃん!」
まるでバーゲンセールでも歌うかのように愛を押してくる綾乃に忠弘は頭を抱えてしまったが、どうしてもとねだるので根負けして記名してしまった。
「ふふ、ありがとうお兄ちゃん。宝物にするね。大好き!」
「ははは。」
もうどうにでもしてくれ。と、諦観に至った忠弘はもう笑うしかなかったのだ。その後、『愛情絵馬』と言われる絵馬に書き込みをし、二人で飾り付けた。結婚したら、赤い絵馬を報告として掲げるのだそうだ。
「香織さん達もなんか言ってやってくださいよ。」
絵馬を掲げた後、忠弘は香織たちに泣きついたが、
「だって、忠弘くんは残念ながらフリーになっちゃったんでしょ? じゃあ、仕方ないわね。犯罪にならないように節度は守ってちょうだいね。」
そう言って笑うのであった。
「忠弘。娘は嫁にはやらんって、一回は言いたいからよろしくな。」
「和元叔父さんまで、もう。」
観光して下田にある旅館に泊まり、夕食ビュッフェで散々飲み食いした四人は、温泉につかってずいぶんと羽を伸ばした。
「忠弘。明日は運転してみるか?」
「ええっ?」
「そうだね。お兄ちゃん、せっかく免許取ったのに全然乗せてくれないんだもん。」
そう、杏奈との一件の後、忠弘は教習所に通って運転免許を取ったのだ。それも、和元や直也の勧めで『準中型自動車免許』を取得した。なんでも、和元たちが若い時と違って、今の普通自動車免許は本当に普通車しか乗れないらしく、これから就職活動を控える忠弘なら、少しでも多くの車両に乗れる準中型免許がいいと勧めてくれたのだ。
「教習所はマニュアルだったかもしれないけど、うちの車はオートマだから大丈夫だよ。」
「じゃあ、ちょっとだけ運転してみます。その代わり、助手席は叔父さんか香織さんがお願いしますね。」
「えーっ、私じゃダメなの?」
「綾乃じゃ助手にならないだろ。」
そう言ってなだめながら、今から緊張する忠弘だった。免許は取ったが、幸政と何度か練習しただけで、誰かを乗せて走るのは初めてだったからだ。それも、デビューがいきなり知らない道なので、今からかなり緊張してしまった。
続く。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
\(^o^)/
物語で出てきた伊豆の恋人岬の情報です。
http://koibito.toi-onsen.com/
お近くに行かれた時はぜひ寄ってみてくださいね。
さて、いよいよ第三章に入りました。
もう少し、綾乃と忠弘の『きゃっきゃっうふふ』のあと、
物語がまた進んでいきます。
どうぞ引き続きお付き合いください!




