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第二章 乙女心と鈍感過保護㉒ 杏奈の卒業パーティ

 綾乃と一緒にガラス細工の製作体験をして、一緒にアクセサリーを作った。忠弘はオレンジに色づくように星形に形成し、それをペンダントにしてもらった。


「これ以外にも何か用意してやりたいんだけどな。」

「ううん。私はこれがいい。ワンピースにもぴったりだよ。」


 今日は、去年の誕生日に忠弘が渡した水色のワンピースにペンダントを合わせて喜んでいた。綾乃は自分で作ったウサギのガラス細工を包んでもらいながら、もう一つ作ったものを大事そうにしまい込んでいた。


「二つ作ったの?」

「ふふ。ナイショ~。」


 香織にでも渡すのかと、その時は気にしていなかったが、それは何を作ったのかあとでわかることになる。


「さてと。戻ってケーキ作るぞ。」

「えっ、作るの??」

「香織さんに手伝ってもらいながらだけどな。」


 忠弘は綾乃の誕生日に自分でケーキが作りたいと思っていた。幸い、香織は料理もお菓子作りも得意だ。忠弘がケーキ作りを提案した時も、だいぶ乗り気でOKしてくれていた。


「お兄ちゃんがケーキ作りとか、似合わなそ~。」

「おい。これからはスイーツ大好き男子が流行るんだぞ。きっと。」


 家に戻って、香織から借りたピンクのエプロンをした忠弘は、顔を小麦粉で真っ白にしながら、綾乃の大好きなチーズケーキを作るのだった。



 そして、7月下旬のある日。ようやく杏奈のオフの日に呼び出すことに成功した忠弘は、こまち茶房で待ち合わせをして、先に店に集まったみんなと準備を開始した。夏休みに入っていたため、進学組中心に集まったが、就職していたメンバーも、早めに仕事を終えて来てくれた。


「和先輩。度々すみせんね。」

「気にするな。こっちは売り上げが上がるから助かるんだよ。それにこの時間からなら問題ないさ。」


 そうは言うが、観光地の店舗で貸し切りにするのはなかなか度胸がいることではあると思う。和晴の協力には感謝してもしきれなかった。忠弘は、いい先輩を持ったものだと何度も礼を伝えた。


 18時になって、杏奈が店にやってきた。外で偵察していた綾乃はダッシュで店内に戻ると、


「杏奈ちゃん来たよ!」


 と、店内に声をかけた。杏奈は夏らしく淡いピンク色のワンピースに白いレースのカーディガン、伊達メガネをかけている。変装の一つだそうだ。前に聞いたことがあった。そして、こまち茶房の扉が開いた瞬間、集まった十数名のメンバーが一斉にクラッカーを鳴らした。


「えっ! なになに!?」


 驚く杏奈であったが、店内にあった『祝! 鎌倉学院高校卒業!』のボードを見て破顔した。綾乃が店の花を使って作成したお手製のボードだ。


「杏奈ちゃん、卒業式も打ち上げも出られなかったから、みんなで企画したんだよ。」


 綾乃が杏奈の手を引いて店内へ招き入れる。忠弘たち演劇部メンバーだけでなく、今日は顧問の南塚も出席していた。忠弘が事情を話して相談したところ、快く参加してくれたのだ。


「橋本さん。お久しぶりね。」

「真美子先生も来てくださったんですか!」


 そう、今日は南塚だけではなく、看護教諭の真美子も来てくれていたのだ。杏奈も在学中は真美子によく相談事をしていた。お世話になった先生の一人なのである。


「さて、それじゃあけじめだから最初にやっちゃうか。」

「南塚先生、けじめってのはおかしいだろ。」

「まぁまぁ。さぁ橋本、こっちに来なさい。」


 南塚が立ち上がって、ボードの前に杏奈を立たせた。


「卒業式に出られなかったからな。大澤たちが君の卒業式を企画してくれた。橋本杏奈殿、この者を本校所定の全過程を修了したことを表します。鎌倉学院高等学校長代理、南塚徹。卒業証書はすでに校長先生から渡していると思うので、これは大澤たちが集めた応援メッセージを書いた色紙だ。たくさんの友人に囲まれて素晴らしいな。引き続き、鎌倉の星として頑張ってください。」


 南塚はそう言って、忠弘たちが集めた三枚の色紙を手渡した。そこには、杏奈への感謝の言葉や、激励の言葉がたくさん書かれていた。友人たちからの物が二枚と、先生たちからの物が一枚だ。


「ありがとうございます。」


 杏奈はそれを受け取ると、大事そうに抱えた。


「みんな、本当にありがとう。私、ホントはみんなと一緒に卒業式やりたかった。だから。。。」


 涙声になる杏奈を涼代たちが肩に手を回し、一緒になって泣いていた。芸能界がどういうところかは想像するしかないが、高校生のうちから大人たちに囲まれての芸能生活は、杏奈にとっては緊張の連続であっただろう。それは、彼女の涙が物語っているような気がしていた。


「杏奈、よかったな。」

「うん。ありがとう、企画してくれて。」

「いや。この卒業パーティを立案してくれたのは綾乃なんだ。」

「え?」


 杏奈は驚いて綾乃を見た。綾乃はにこにこと笑顔で歩み寄り、


「杏奈ちゃん。卒業おめでとう! これ、私からのプレゼント。」


 差し出された小さな紙袋。杏奈が中を開けてみると、そこにはピンク色に透き通ったガラス細工のペンダントが入っていた。


「あんまりうまくできなかったかもだけど、私が作ったんだ。杏奈ちゃんが女優でもっと活躍できるようにお守り。」


 そう、先週の綾乃の誕生日に、忠弘にお願いして出向いたトンボ玉制作の工房で作った物だ。自分の分の他に作ったのがこれだったのだ。


「綾乃ちゃんが作ってくれたの? ありがとう! 大事にするね!!」


 杏奈は感激して綾乃を抱きしめた。さっそくペンダントを胸元に下げ、


「似合うかな?」


 そう言ってほほ笑んだ。


「うん。杏奈ちゃんにぴったりの色だよ。」


 いろいろ悩んだ挙句、杏奈には優しい色がいいとこの色を選んだのだ。色白の杏奈の肌にもよく似合っている。


「よかったな杏奈。」

「うん!」


 杏奈は綾乃の髪を撫で、それからも二人で楽しくおしゃべりをしていた。


「杏奈ちゃん。すっかり人気者になっちゃったね。でも、今日会ってみて、やっぱり杏奈ちゃんは杏奈ちゃんだって思ってうれしかった。」

「ふふ。綾乃ちゃんはしばらく見ないうちにまた背が伸びたね。どんどんきれいになって、きっと、女優やアイドルになったら私よりずっと人気出ると思うよ。」

「えー。じゃあ、杏奈ちゃんと姉妹の役でドラマやりたい。で、お兄ちゃんは犯人役だね。」


 と、突然話を振られて、忠弘は飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになってしまった。


「おい。なんでおれが犯人役なんだよ。」

「連続殺人犯が美人姉妹を二股にかけて、最後は二人に追い詰められて自供するって役。」

「なんでそんなに具体的なんだよ。しかも連続殺人犯って、とんでもクソやろーじゃないか!」


 抗議も含め苦笑いする忠弘だったが、綾乃は嬉しそうに物語を語ってくれた。けっきょくその日は遅くまで楽しみ、22時を回ったところで南塚たちに促され解散となった。



続く。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

\(^o^)/


綾乃企画の杏奈の卒業式。

いい仲間に囲まれて、杏奈は幸せですね。


さて次回は、

久し振りに再会した杏奈と忠弘の関係に進展があります。


どんな展開が待ち受けているのでしょうか。


どうぞお楽しみに!

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