第二章 乙女心と鈍感過保護⑭ 予選決勝スタート
翌々日に行われた準決勝は、北や忠弘の連続適時打のほか、信和も本塁打を放つなど打線がつながり、投手陣も水田が五回まで投げ、八回までを相原が、最終回を忠弘が締めて快勝し、いよいよ鎌倉学院は決勝戦へ進んだ。
神奈川県大会 準決勝
松陰学院 001 100 000 2
鎌倉学院 020 102 00× 5
明日はいよいよ決勝戦だ。忠弘は試合が終わると学校に戻ってみんなで軽く練習をし、今日の反省点を共有してから自宅へ帰った。今日は帰宅すると、綾乃だけではなく和元や香織も激励に来ていた。リビングのテーブルにはごちそうが並び、室内だけ見ればもう甲子園に出たような雰囲気になっていた。
「おかえり!!」
「おいおい。まだ決勝戦が残ってるぞ。」
苦笑いをしていると、
「そうにしたって決勝戦まで行くってのはすごいことだよ。」
忠弘の父・直也(おおさわなおや)が嬉しそうに顔を赤くしていた。いや、顔が赤いのは和元と一緒にすでに酒が入っているからだった。帰ってくるまでにどれだけ飲んでいるのだろうか。
「とにかくしっかり食べて、明日も頑張って。今日は綾乃ちゃんも手伝ってくれたのよ。」
母・芙美(おおさわふみ)がそう言って盛り付けたからあげの皿を持ってきた。いったい何キロ揚げたのだろうか。お刺身などを盛り付ける大皿に山盛りにされたからあげは、まさに肉の山といったところだ。
「からあげは私が味付けして揚げるところまでやりましたぁ。」
綾乃が得意そうに教えてくれた。忠弘は綾乃の頭をなでながら、小学生があげ物を作ったことを褒めてあげることにした。
「油物やったの? すごいね、ありがとう!」
「からあげはお兄ちゃん大好きだもんね。」
いったい優勝したらどんなお祝いになるんだろう。なんてことを考えながら、このごちそうが悪い『フラグ』にならないように祈りつつ、しっかり食べて早めに休むのだった。さすがに疲れているのだろう。ベットに入るとすぐに眠りに落ちていった。
「お兄ちゃん。寝ちゃった?」
しばらくして、綾乃が部屋を訪ねると、忠弘はすでに寝息を立ててぐっすりと眠っていた。本当に深い眠りなのだろう、綾乃が傍らに腰を下ろしても全く気が付かずに眠っている。その寝顔を見ながら、綾乃は自分が言い出したとしても、本当にここまで勝ち進んできた忠弘をすごいと思っていた。
ふと、暗がりの中、机の上に充電している携帯電話があり、その横に綾乃が手渡したお守りが置かれているのに気が付いた。試合中はずっと身に着けてくれているのだ。
「ふふ。お兄ちゃん、無防備すぎだよ。」
大好きな忠弘が無防備に寝ている姿を見て、綾乃の中の母性愛みたいな感情が沸きあがってきた。
「明日も勝てますように。頑張って、お兄ちゃん。」
綾乃はそう言って、そっと忠弘の頬にキスをした。と、そうしておいて急に恥ずかしくなり、
「おやすみ!」
小声でそう言うと、起こさないようにそっと部屋を出ていくのだった。
翌日のみなとみらい球場。決勝戦は信和たちが散々辛酸を舐めさせられてきたエース・松原大輔(まつばらだいすけ)を有する神奈川県最強の強豪・横浜学園高校だ。鎌倉学院は過去何度かベスト4までは進んだことがあったが、決勝まで上がってこられたのは今回が初となる。当然、勝てば甲子園初出場になる。
松原はおそらくプロに行くであろう天才だ。この大会もいまだに無失点。春の大会も五試合に登板して失点はわずかに1点だけだった。その1点は、どうにかこうにかもぎ取った鎌倉学院の1点だ。試合前にベンチ前で円陣を組むと、信和が全員の顔を見渡して話し始めた。
「もう、四の五言ってもしょうがない。松原は強敵だ。何度も負けてきた。今日もそうなるかもしれない。でも、俺たちがやるのはいつも同じだ。松原を打つために、横浜学園に勝つために今までやってきたんだ。俺たちは決して弱くない。ぶっ倒れるまで食らいついていこう!」
「「おう!」」
みんなの返事にうなずいた信和は、
「よし。じゃあ、忠弘。今日はお前が音頭を取ってくれ。」
そう言って、円陣の締めを忠弘に振ってきた。前もって何も言われていなかったが、なんとなく信和なら大事な試合の前には振ってくるような気がしていた。
「みんな。多分、今年全国で一番のピッチャーは松原だ。でも、松原もおれたちも同じ人間、同じ高校生のはずだ。必ず勝機はある。気持ちで負けずに食らいついていこう!」
「「おう!」」
「全力一杯、行くぞ!!」
「「おう!!」」
主審に促され、両校が整列して試合が開始された。先行は横浜学園、後攻は鎌倉学院。今日の先発は鎌倉学院のエース・相原一八だ。相原の名前は、野球好きの父親がプロ野球でエースになれるようにと、エースナンバー『18』からつけた名前だ。松原ほどではないにしても、幼少期から野球一筋に練習を繰り返してきた男だ。
その鎌倉学院野球部員が信頼を置く相原の初球だった。快音を響かせて打球はセンター方向へ上がった。忠弘は白球を追いかけバックスクリーン方向に走った。そして、一瞬でボールの位置を把握すると、フェンスに飛び掛かるようにして駆け上がって捕球を試みた。しかし、無情にもあとわずかに届かず、そのままスタンドに吸い込まれていった。
「くそっ!」
転がりながら悪態を付いたが、もうどうにもならない。起き上がるころには相手打者がホームインしたところだった。
「一八! ドンマイ、次に集中していけ!」
大きな声でマウンドに声をかけながら守備位置に戻ると、次の打者に備えた。しかし、ツーストライクと追い込んだところで、再び金属バットの音が響き、球場内が歓声と悲鳴に包まれた。今度は忠弘が動くまでもなかった。高校生がここまで飛ばせるか、と思うほどの打球は、左翼スタンド上段に吸い込まれていった。
続く。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
\(^o^)/
運命の決勝戦が始まりました。
強敵・横浜学院相手にどう戦っていくのか、
忠弘たち鎌倉学院ナインをどうぞ応援してください。
また、引き続き読んでやるぞ!
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次回もどうぞお楽しみに!




