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PURE STAR ~星に願いを、君に笑顔を~ 【長編完結】(年の差7歳の恋愛とアオハルな物語)  作者: 水野忠


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第二章 乙女心と鈍感過保護⑬ ベールを脱ぐ

 七回からは水田をマウンドに上げ、七回と八回を無失点に切り抜けた。あの後、鎌倉学院も何度かチャンスを作ったが、けっきょく取れたのは2点だけだった。


 そして迎えた最終回。ここで水田がつかまった。一死後に連続四球で一二塁、そのあとはセカンドへの強襲安打となった。並の二塁手だったら外野に抜けていったであろう。下手をすれば二人生還してサヨナラ負けになったところだ。堤井の守備範囲の広さと技術のおかげで九死に一生を得たというところだが、一死満塁。四球はおろか、内野ゴロでも同点になる。安打が一本出れば逆転サヨナラ負けもあり得る状態だ。


「タイム!」


 ベンチを出た黒岩が球審に話しかけた。先発した相原はすでに交代してベンチに入っている。もう、マウンドに立てるのは忠弘しかいなかった。


「忠弘!」


 黒岩に呼ばれたために、忠弘はマウンドに集まった内野陣に駆け寄った。水田とポジションチェンジのようだ。いよいよ、忠弘がマウンドに立つことになった。


「いいか、俺と大介はゴロが来たらまずはバックホームだ。堤井と荒川はバックホームを念頭に置きながら、あわよくばゲッツー取っていこう。」


 信和が指示を出していく。


「1点だけならまだ同点だ。気負わずに行こう。」


 内野陣が守備位置に戻っていく。


「忠弘、打たせていいからラクに行こうぜ!」

「ああ。」


 マウンドの感触を確かめながら、投球練習をしていった。困難な場面での登板になると予想はしていたものの、まさか試合を決めるような重大な局面でマウンドに上がることになるとは思わなかった。


 投球練習が終わると、熊田がマウンドにボールを持って駆け寄ってきた。


「練習はしてきたから、何でも要求してくれ。」

「わかりました。絶対止めますから、フォークでもなんでも投げてください。」

「わかった。」


 熊田が戻ってキャッチャーマスクをかぶった。忠弘はマウンドに立ち、最初のボールのサインを受けた。内角低めの直球。忠弘は守備陣やスタンド応援団の緊張を感じながら初球を放った。


「しまった!」


 緊張でリリースがズレたのがわかった。ボールは真ん中よりに入ってしまい。打者はそれを見逃さなかった。快音とともに白球は舞い上がり、左翼スタンドへ向けて一直線に飛んで行った。スタンドから歓声と悲鳴が上がり球場を包んだ。


 だが、野球の神様はまだ忠弘たちを見捨てていなかったようだ。わずかにそれてポールの左側を通過していった。どんなにいい当たりだろうと、ファールになってしまえばストライクカウントが一つ増えるだけだ。


 忠弘はポケットに入れてあるロジンバックを取り出して手に付けた。なおロジンとは滑り止めの粉のことだ。野球だけではなくゴルフやテニス、それにボウリングなどでも使用される。


 忠弘は熊田から新しい球を受け取ると、縫い目を確認してセットポジションに構えた。今の一球で却って緊張がほぐれた。打たれるときは打たれるのだ。だったら、気を楽にして全力で投げてやろう。


 二球目は熊田の要求通り内角低めに決まった。今度は相手ベンチが声を上げた。思っていたよりもずっと速い球に、思わず声が出てしまったようだ。それもそのはずで、忠弘たちは知る由もなかったが、この二球目は158キロを計測していたのだ。


 一度、プレートを外し、呼吸を整えて再びセットポジションに構えを取った。そして、左足を胸元まで上げて勝負の三球目。


「ストライク! アウト!!」


 遊び球はなしで投げた内角高めの直球。思わず打者はのけぞったが、ボールはストライクゾーンぎりぎりに入っていた。三塁側スタンドから歓声が上がる。二死満塁。ピンチであることには変わらない。バッターボックスには、先ほど忠弘を小馬鹿にしてきた相手キャッチャーが立った。よく見ると、中学時代に神奈川県大会で当たったやつだったかもしれない。それもあって小馬鹿にしてきたのかもしれなかった。


 忠弘は熊田にサインを出した。一瞬、熊田が躊躇したが、それでもうなずいてくれた。忠弘はセットポジションを取ると、初球をど真ん中に投げた。熊田が少しもミットを動かさずにボールは吸い込まれていった。あまりにいい球だったため、悔しそうな表情を浮かべる打者にかまわず、二球目も同じくど真ん中に放った。バットにかすったがバックネットに飛んで行った。スイングが追い付いていない。忠弘は再びサインを出して短く息を吐いた。そして、胸元に仕込んだ綾乃のお守りを触ると、大きく振りかぶった。


 ランナーがいるときはセットポジションで投げるのが通例だが、忠弘はあえてワインドアップで全身の力を指先に込めて投げた。と、ほとんど同時にボールはミットに収まった。ど真ん中直球、振らせることもなかった。


「よしっ!」


 スタンドから歓声が上がった。相手打者は悔しさのあまりバッターボックスから動けなかったが、仲間に促されて整列に加わった。


「2対1、鎌倉学院高校!」


 主審のコールで整列した両校選手が互いに礼を交わした。ベンチに戻ると、黒岩監督が嬉しそうに何度も何度も忠弘の背中を叩いた。


「ナイスピッチだ忠弘!」


 いよいよ鎌倉学院の秘密のベールが明かされたが、ベスト4に残ったほかの三校が忠弘の情報を集め始めたのは言うまでもない。しかし、高校野球を再開したのはほんの3ヶ月前、どの学校も有力な情報はつかめるはずもなく、中学までの忠弘の実績がわかっただけだった。


神奈川県大会 準々決勝

鎌倉学院 010 100 000 2

日大鎌倉 000 010 000 1



続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


いよいよマウンドへ上がった忠弘、

黒岩監督の作戦がついに明かされました。


さぁ、甲子園へ向けて!

次回もどうぞお楽しみに。

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