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PURE STAR ~星に願いを、君に笑顔を~ 【長編完結】(年の差7歳の恋愛とアオハルな物語)  作者: 水野忠


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第二章 乙女心と鈍感過保護⑨ 予選大会開幕

 あっという間に3ヶ月が過ぎ7月上旬、いよいよ夏の甲子園出場を賭け、神奈川県大会がスタートした。野球部監督の黒岩剛俊(くろいわたけとし)は、この3ヶ月間、忠弘の存在を外部に隠し続けた。何度も練習試合を行ってきたが野手として出場させて、一度もマウンドには立たせなかったのだ。県下でも強豪校の部類に入る鎌倉学院は当然ながら他校からの偵察が入る。黒岩は忠弘が甲子園へのカギとなると判断し、秘密兵器とすることを決めたのだ。


 また、グラウンドのブルペンは雨が降っても練習できるように屋根と壁が付いているため、外からは見えにくくなっていた。そのおかげで遠巻きに見られても忠弘の存在はわかりにくかったはずだ。


「大澤、お前をマウンドに行かせるのはここぞという時だ。それまではしっかり野手をやってくれよ。」

「はい。」


 黒岩も鎌倉学院高校の出身らしい。大学に進み野球を続け、ドラフト会議にもかかるだろうといわれたほどの名捕手だったが、練習超過で膝の靱帯に怪我を負ったため、泣く泣くプロへの道を諦めたのだ。その後、高校教職員の資格を取り、今年で40歳になる。まだまだ若い監督だった。


 シード権を得ていた鎌倉学院だが、二回戦からのスタートとしても、甲子園へ行くには七試合を勝ち抜かなければいけない。147校ある野球部の中で、甲子園に行けるのは1校だけなのだ。



鎌倉学院高等学校野球部 レギュラーメンバー

 1番 遊撃手 荒川悟志 三年

 2番 二塁手 堤井章浩 一年

 3番 一塁手 北大介  二年

 4番 三塁手 青井信和 三年

 5番 捕手  熊田薫  二年

 6番 右翼手 相原一八 三年 (水田雄仁)

 7番 中堅手 大澤忠弘 三年

 8番 左翼手 宇治直樹 三年

 9番 投手  水田雄仁 三年 (相原一八)



 二回戦の今日は日曜日。綾乃は和元と一緒に保土ヶ谷にある球場へ向かっていたが、現在、試合開始の時間はとうに過ぎている。途中で事故渋滞に巻き込まれてだいぶ時間を取ってしまったのだ。間の悪いことに抜け道に使った狭い道路で軽自動車が横転事故を起こし、渋滞回避のために後進して戻ろうとした後方の車両がこれまた側溝に脱輪してしまったのだ。前後を塞がれて立ち往生し、ようやく事故エリアを抜けたのは事故発生から2時間近くたってからだった。


 13時試合開始だったがすでに14時半、もう試合は中盤から終盤に入るころの時間だ。駐車場に車を止めて、急いでスタンドに出てみると、ちょうど忠弘が打席に入っていたところだった。


「お兄ちゃんだ!」


 座席に座ろうとした瞬間、快音とともに白球は高く舞い上がり、左中間を抜けていった。二塁から大きな身体を揺らしながら熊田が懸命に走り、三塁を回ってホームへ滑り込んだ。いや、正確には滑る必要などなかったのだが、必死に走った熊田は頭からスライディングした。


 ベンチから出てきた部員たちが熊田を助け起こし、そのまま整列して両校が挨拶した。


「あれ? まだ五回だよ。」

「ああ、コールド勝ちしたんだね。」


 バックスクリーンのスコアボードには10対0と記録が表示されていた。県大会は五回以降10点差、七回以降7点差でコールドゲームが成立する。綾乃は初めてそのルールを知るのだった。


「じゃあ、もう今日はおしまい?」

「そうだね。でも最後の忠弘のバッティング見れてよかったね。」


 和元の言う通りなのだが、今日の応援の為におめかししてきた綾乃としてはちょっと物足りなかったようだ。唇を尖がらせて、


「試合開始から見ておきたかったなぁ。」


 と言うのだった。



神奈川県大会 二回戦

川﨑工学 000 00  0

鎌倉学院 430 21× 10 (5回コールド)



 試合が終わると、後片付けをして野球部員たちは学校が用意したバスに乗り込んでいった。綾乃たちは忠弘を一目見ようと駐車場に移動した。


「お兄ちゃん!」


 綾乃はバスに乗り込もうとしている忠弘に声をかけた。少し距離があったが、忠弘は綾乃の存在に気が付き、手を振って応えてからバスに乗り込んだ。バスを見送った後、綾乃は新聞社が配布していたトーナメント表を取り出した。三回戦も四回戦も平日の為に見に来ることができない。となると、次に綾乃が見れそうなのは来週の日曜日の五回戦だ。


「おじさん。来週の五回戦見に行きたい。」

「おいおい。勝ち上がるとは限らないぞ。」

「大丈夫。お兄ちゃんたちなら余裕で突破してくるはず。」


 何と言っても目指すのは甲子園なのだ。やれやれと言いながら、和元は来週の観戦を約束してくれた。そして、綾乃の期待通り、また、黒岩の目論見通り、鎌倉学院高校野球部は投手・大澤忠弘の存在を隠したまま順当に勝ち進むのだった。



神奈川県大会 三回戦

鎌倉学院 021 320 3  11

関東湘南 000 102 0   3  (7回コールド)



神奈川県大会 四回戦

相模第四 001 00 1

鎌倉学院 534 7× 19  (5回コールド)



 五回戦は甲子園経験もある屈指の強豪校・相模大東海高校だ。昨年の夏の大会ではベスト4まで勝ち残っている。土曜日は軽めの練習だけにしてゆっくり休むようにとの監督指示で、夕方前には忠弘は家に帰ってきていた。


 今日の綾乃は、明日に備えて忠弘の家に泊まりに来ている。和元が連れていくはずだったが、大口の配達依頼が入ってきたために仕事になってしまったのだ。一人でも行くという綾乃をなだめ、忠弘の兄・幸政が休みの為、翔や志穂も連れて球場へ行ってくれるのだ。試合開始は10時からの為、移動しやすいように今夜は泊まることになった。


「絶好調だね、お兄ちゃん。」


 この三試合で、忠弘は3本の本塁打を打ち、打率も5割を超えている。黒岩作戦はまだどこにもバレていないため、どの強豪校も忠弘は野手で復帰したと思い込んでいるようだ。


「ここまでは、な。明日からの四試合は全部気が抜けないよ。強豪ばっかりだ。」


 夕食後、リビングでお菓子を食べていた綾乃が風呂上がりの忠弘に声をかけた。せっかく早めに帰ったのに、さっきまで庭で素振りとシャドーピッチングをしていたのだ。野球部に復帰してからは、生花店のアルバイトもお休みしていたため、綾乃と会う機会も少なかった。ようやく見に行った先週の試合はコールドゲームで、その後の試合も試合結果をネットで見ただけだった。明日はいよいよ試合開始から観戦ができるとあって、綾乃はすごく楽しみにしている。


 忠弘に会えなかった3ヶ月、綾乃もただ過ごしてきたわけではない。翔を捕まえては野球のルールを聞いて覚え、和元と一緒にプロ野球中継を見ながら復習した。綾乃はけっこう凝り性である。『これをやりたい。』『これを覚えたい。』そう思ったらまっしぐらなのだ。ついでに言うと、相手チームの情報集めにも余念がない。相模大東海の戦力分析まで行っている。


「相模大東海はここまでの三試合はすべて完封勝ち。主戦の西村さんは最速158キロを投げる本格派で、切れのあるスライダーと混ぜ合わせて三振の山を築いてる。三試合はコールドだけどいずれも完投、奪った三振は28。」


 綾乃はノートを取り出しながら報告してきた。相模大東海の西村幸次郎(にしむらこうじろう)と言えば、神奈川県下でも屈指の右の本格派だった。


「よく調べてるな。」

「当たり前でしょ。お兄ちゃんの最初で最後の高校野球なんだから。」


 春の大会はベスト8まで西村一人で投げているらしい。


「まぁ、明日は綾乃が見に来てくれるからな。ベストを尽くしますよ。」

「ダメ、勝って。」

「はいはい。それより、本当に誕生日よかったのか?」

「今は私の誕生日よりもお兄ちゃんたちが甲子園行くことの方が大事。私のプレゼントはそれが一番うれしいから。」


 明日、7月12日は綾乃の11歳の誕生日だ。みんなでお祝いしようと話していたのだが、綾乃は誕生日を祝うことを断ってきた。表向きには忠弘が予選に集中できるようにしてほしいということだったが、どうも誕生日というものがあまりうれしくないようだ。珍しく頑なに断ってきたために、忠弘たちもそれ以上無理に祝うこともできず、綾乃の好きな食事をそろえるということで話がまとまっていた。


 忠弘は綾乃の頭をポンと叩くと、明日に備えて休むと部屋に戻っていった。翌日、志穂たちと合流した綾乃は、先週に引き続き保土ヶ谷球場へ出向き、三塁側ベンチ近くのスタンド席に腰を下ろした。今日は朝からカンカン照りの快晴である。


「はい。飲み物用意してきてるからしっかり水分補給してね。」


 幸政が小型のクーラーボックスを開いた。中には一杯の氷と飲み物が入っていて、いつでも冷えた飲み物が飲めるようにしてあった。10時の試合開始まではあと少しだ。これから日差しは西に移動していくので、内野席を覆うように設置された屋根が影を増やしてくれるはずだ。ただし、グラウンドはそうはいかない。今日の最高気温は34℃と予想され、気温は上がっていく一方のはずだ。綾乃は手を組んで忠弘の無事と勝利を祈った。



続く。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


いよいよ県予選が始まりました。

忠弘は怪我を乗り越えて強豪に立ち向かいます。


どうぞお楽しみに!


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