成長期
「旦那様!」
「テオドール様……!お、お仕事は……」
「今日は早めにあがれたから、君と食事しようと思って帰ってきたんだ。 厨房にいるって聞いて来てみたら、皆で楽しそうにしているから声をかけようか迷ったんだけど……私も仲間に入れてほしいな」
まさかこんなに早く帰ってくるなんて……!
夜にお出ししようと思っていたけど、今出してしまおうかしら。
「まぁまぁ、なんてグッドタイミング! では奥様、焼き立てを食べていただいたら、いかがです?」
「ロザリア様、それがいいと思います!」
グリンゴールもエリーナも顔を輝かせて勧めてくる。
二人とも私と同じ事を考えていたのね。
「じゃあ、そうしようかしら」
「うんうん、旦那様! たった今、奥様がお作りになったパンを焼いているところなんです~~食事はそれにいたしましょう!」
「ロザリアがパンを作ったの? それは楽しみだな」
テオドール様がとても嬉しそうに笑ってくださるから、パンを作って良かった。
こういう仕草1つ1つに救われてホッとする。
テオドール様は私がする事を嫌がらないから、自分がここにいる事を赦されている感じがして、安心感でいっぱいになる。
「上手に出来ているかは分かりませんが、食べていただけると嬉しいです」
私の感謝の気持ちが少しでも伝わってほしい。
そう思って笑っていると、テオドール様が私を抱き上げて「パンが焼けたら私たちの部屋に運んでくれ」と言って、厨房を後にする事になった。
「テ、テオドール様?」
「どうしてパンを焼こうと思ったの?」
「テオドール様に日頃の感謝の気持ちを表したくて……パンがお好きだと言ってらっしゃったから、沢山作ったら喜ぶかなと。 ダメ、でしたか?」
「………………」
テオドール様が片手で顔を覆っている。
ダメだったのかしら……なんだか困らせてしまっているみたい。
「ご、ごめんなさ……」
私が謝ろうとした瞬間、人差し指を私の唇に当てて言葉を遮った。
「謝らないで、嬉しいんだから。 とても嬉しくて言葉が出てこないくらい」
ああ、このお顔は喜んでいらっしゃるお顔だわ。
良かった……このお顔が見たくて頑張ったから、グリンゴールに感謝しなくては。
テオドール様は体は大きいけれど普段はとても穏やかで、私はクマさんのようだと思っていて……笑っているお顔がとても可愛い。
男性に可愛いだなんて失礼よね。
しかも私みたいに年齢が遥かに下の女性に。
でも可愛いと思ってしまう。そして時々お顔を抱きしめたくなる衝動に駆られるの……我慢するのが大変。
そんなやり取りをして夫婦の部屋に到着すると、膝に乗せられたままソファへと腰を下ろした。
もうずっとこれが定位置になっていて、食事の時以外はこんな感じでいる事が多い。
旦那様は重くないのかしら……私はこのお城に来てから、かなり体重が増量したと思う。
そして何より成長期なのか、胸がどんどん大きくなっていて、それにも困っていた。
着ている服はキツくなってきているし、胸のサイズが合わなくて苦しい時も。
これだけ増量しているのだから、絶対にテオドール様は重いはず。
私は意を決して聞いてみた。
「テオドール様、いつも膝に乗せてくださいますが、重くはありませんか?」
「ん? 全然? 重いと思ったことはないな」
「私、ここに来てからとても重くなっています。 自分でも分かりますし、重くないなんて事は……」
「軽いよ。 すっごく。 まだまだ沢山食べないと、成長期なんだから」
私が成長期なのを分かっていらっしゃるのね……テオドール様の観察力に関心してしまう。
「よく分かったって顔をしているね 。分かるよ、君の事なら誰よりも……それに目線も変わってきたしね。 膝に乗せた時の目線が違うから、随分伸びたんだなって思っていたんだ。 私は体格がいいし力もあるので、重さなんかは気にする必要はないよ」
「グリンゴールのお料理が美味しすぎて……彼にはお礼を言いました。 いつもとても美味しい料理を毎回出してくれるから。 今日パンを作ってみて、料理って凄く大変なんだなって感じたんです」
「うん」
「でも出来た時の喜びが大きくて……またテオドール様の為に作ってもいいですか?」
「………………」
テオドール様がまた手で顔を覆われてしまった……これは嬉しい時の表現だったかしら。
「……ごめん、嬉しくて」
やっぱり。
良かった……謝らなくて。ふにゃりと笑ってそう言ってくれるので、ホッとして笑い返す。
そこへグリンゴールが焼き立てのパンを運んでくれた。
――コンコン――
「旦那様、奥様、焼き上がりました~~とっても香ばしい焼き上がりです!」
「わあ……美味しそう! 成功したのね、グリンゴール!」
「はい! 奥様はパン作りの才能がおありですね~。 最初からこんなに上手に出来るなんて、素晴らしいです!」
私とグリンゴールは喜びのあまり二人で手を取ってはしゃいでいると、テオドール様に腕を引かれて、また膝に乗せられる形になってしまう。
「ロザリアは、教えればきっと何でも出来るようになるよ。 私が教えてもいい」
「旦那様、大人げないです」
グリンゴールに大人げないと言われたテオドール様は、顔を赤くしてパンを頬張り始めた。
そして顔を輝かせて美味しいと褒めながら、沢山食べてくださったのだった。
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