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全てを終わらせる ~テオドールSide~



 ロザリーが連れ去られた時に陛下とした会話は、私にとっては衝撃的だった。



 「リンデンバーグですか?!」


 「そうだ…………少し場所を変えよう。ここだと目立ってしまうし、話も長くなる。舞踏会に水を差すわけにもいくまい」


 「………………承知致しました。」



 私と陛下は二階席から王族専用の出入り口を出て、すぐ近くの客間で話す事になった。向い合せにソファに腰をかけ、陛下は重い口を開き始める。



 「…………あれは何年前だったか……今から18年ほど前か。ベラトリクスという王女がいたのは覚えているな?」


 「はい……突然攫われて行方不明になってしまった、我が国の王女殿下ですね?」


 「そうだ、ベラトリクスが攫われて行ったのはリンデンバーグだった。もっともそれが分かったのは私が36歳の時…………今から9年ほど前だ。それまではどこにいるのか、生きているのかさえも分からなかった……その時に知ったのだ、ベラには娘がいる事を」


 「まさかその娘というのが…………」


 「そうだ、ロザリア嬢だ。二人はリンデンバーグの王城にほぼ幽閉状態だった……通りで見つからなかったわけだ。私は何とか二人に危害が加わらないように話し合いで取り戻そうとしたが……リンデンバーグはベラを渡す代わりにロザリアを置いていけと言い出した。私もベラもそれは了承出来ず……結局話し合いは長引き、しびれを切らしたリンデンバーグが戦を仕掛けてきたのだ。その時にはもうベラは病を患っていて、治る見込みもなく……ロザリアだけでも取り戻したかった私は極力戦いではなく、政治的に解決出来ないか模索した」



 陛下の仰る話に頭がついてこない…………ロザリアがボルアネアの王女、ベラトリクス様の娘………………ではあの時――



 「……デボンの森で、私がロザリアを連れて来ていれば――」


 「それは連れて来なくて正解だったのだ」


 「なぜです?」


 「……もしそなたが彼女を連れ去っていれば、リンデンバーグと本格的な大きな戦争になっていた事だろう」



 私は陛下の仰る意味が分からず黙ったまま、陛下の言葉を待った。



 「……例えどんな外道だとしてもあの子にとっては、リンデンバーグの国王は父親なのだ。母親の母国と父親の国が、自分のせいで戦争などと……そんなものを背負わせてはいけないと私は判断した。その為に多くの民の血が流れたとして…………あの子が自分の身が助かって喜ぶとは到底思えん……」


 「…………………………っ」



 私は目を伏せ、考えた…………そうだ、彼女はそういう人間だ。私は陛下の思慮深さに敬服した。



 「……陛下が争いを避けていたのは、全てロザリアの為だったのですね…………」


 「それもあるが、ベラからの遺言でもある。我が国の密偵がリンデンバーグに潜入し、ベラの元に行くともう息も絶え絶えの状態だった。最後の力を振り絞って、これ以上戦いで不幸な人間を増やさないでほしいと……言伝があった。私はそれを守りたかった。彼女を守ってあげられなかったからな…………リンデンバーグと我が国との戦で、ベラは体だけでなく、心も疲弊してしまったのだと理解した時にはもう遅かったのだ……」


 「陛下…………ロザリアと私の結婚を許可したのは、なぜですか?」


 「そなたほど相応しい者はいないと思ったからだ。ベルンシュタットにいればロザリアは守られるであろうと思ったし、そなたは誠実な男だからな」


 「ありがたいお言葉…………」


 「それでもリンデンバーグが大人しくしているとも思えず……あの国王は欲深い男だからな。そこでレナルドを置いたのだ。そなたに秘密にしていたのはすまなかったが、様々な警戒はしておいた方が良いと思ってな…………」

 


 陛下がレナルドの正体を秘密にしていたおかげで、私は常に多方面に警戒を解くことはなかった……結果的に陛下の思惑通りになったのだ。



 「……陛下には感謝しかありません。私はロザリアを取り戻しに行こうと思います。あの国はすでに他国からも国交を絶たれ、ほとんどの民も他国に移り住んでしまい、国として機能しているとは思えませんし、我がベルンシュタット軍で十分かと思います。陛下には今度こそリンデンバーグを滅ぼす許可を頂きたく……」



 私がそこまで言うと、じっと考えていた陛下は顔を上げた。


 

 「………………もうそろそろ良いであろう……ベラも許してくれると思う。ロザリアを取り戻し、リンデンバーグを消滅させよ」


 「はっ!」



 

 あれほど攻め滅ぼす事を頑なに反対していた陛下が、いよいよ許可を出してくださった。全てを終わらせるという固い決意、覚悟を感じる。



 

 

 私はすぐに舞踏会を後にし、ベルンシュタット城に戻ってリンデンバーグを攻め滅ぼす準備に入った。作戦会議を行う為に兵達を軍事の間に集める。



 リンデンバーグ城は前方に城下町があり、裏側は森と城壁になっている。森側の国境は森が深い為手薄で、裏から少数精鋭で城内に潜入する事にした。確か裏側にはあの通路が…………使えそうなら使ってみよう。




 そして前方には兵をふんだんに投入し、挟み撃ちにする事で逃げ場をなくす。

 


 おそらく我が国に敗戦した事で、城内にはあまり兵は残っていないだろう。


 裏側から私が潜入しただけで制圧出来そうな気もするが…………ロザリーに何事か起こるのだけは避けたい。慎重を期するに越したことはないからな――



 ロザリアを奪還し、リンデンバーグの王族を捕らえる事がこの作戦の本懐だと兵達に告げる。皆気合を入れたいい表情だ。私もすぐにリンデンバーグの裏側の森に向かった。



 妻を無事に取り戻す…………もう彼女がリンデンバーグに振り回される事のないように――――


 

 そしてベラトリクス様の魂が我が国に戻れるように……全てを終わらせるのだ。



 

こちらの作品に興味を持って読んでくださり、ありがとうございます^^


もう少し続きますので、最後までお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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