私の妻が可愛すぎた件 ~テオドールSide~
戦とは言え被害を最小限に抑えるという事に苦慮し、リンデンバーグとの終戦までに2年もかかってしまう。
しかし無事に制圧する事が出来たので、ロザリア姫を解放するべくリンデンバーグに申し入れると、直ぐに了承の返事が届く。
おそらくリンデンバーグは彼女を追い出す事が出来て喜んでいるのだろうな……沸々と怒りがこみ上げてきた。
それと同時にようやく解放してあげられるという安堵の気持ちと、また会えるという喜びが混ざり合う。
私と再会したらあなたはどう思い、どのような反応をするのだろうか。
国境を守る兵からの早馬で、姫が我が国に入り、こちらへ向かっているという知らせが入る。
落ち着かない気持ちを抱えて時間を持て余していた私は、思わず城を飛び出してきてしまった。
彼女を乗せた馬車を見つけると走りだし……体が勝手に動いてしまう。
馬車にたどり着いて扉を開き、手を差し出すと、恐る恐る小さな手が乗せられ……思っていた以上に物凄く小さい。
握ったら折れてしまいそうな手だったけれど、ぐいっと引き寄せ腕に抱き上げた。
ロザリア姫はあの時より少し大きくなり、女性らしい体つきになってはいたが、やはり小柄でとても軽い。
私に抱き上げられて美しい髪を風に靡かせ、大きな目を見開いてこちらを見ている。
瞳の色は薄い紫色で、太陽の光を浴びて宝石のように輝いていた。
小さな唇は果物のように瑞々しく赤みをおびていて、化粧など何もしていなくとも天使のように美しい。
混乱し、怯えている姫に優しく微笑んで見せる。
「ようこそ、ベルンシュタット辺境伯領へ。 お待ちしておりました、ロザリア姫」
すると、姫はホッとした表情をしてぎこちなく笑った。
……早く城に連れて行かなければ。
このような表情をあまり自分以外に見せてはいけない。そして姫は衝撃的な事を言った。
「……あ、あの……ベルンシュタット辺境伯様。 お初にお目にかかります、ロザリアです。 あの……私、自分で歩けますわ」
お初にお目に……まさか、覚えていない?!
なかなかにショックな言葉に項垂れてしまいそうになったが、なんとか笑顔を崩さずに気を取り直して、城に案内する事にした。
私の方が遥かに年上なのだから、彼女の前では大人の余裕のある男性でありたい。
まだ寒い中で姫を歩かせるのは忍びないから、このまま抱いたまま連れて行こう。
顔も近いから声も聞き取りやすい。
うん、それがいい。
私が笑顔でそう言うと、真っ赤な顔をしながら小さな声で「承知いたしました」と呟いた。
……これは心臓に良くない、私の心臓がもたない。
城に着くと兵達とミルワースが待っていた。
姫はミルワースにも丁寧に挨拶をしてくれていたが、ひとまず二人で話せる場所に行きたかったから先を急ぐ。
「突然このような出迎えで申し訳ない。 あなたが来るのをずっと待っていたものだから……」
「私を?」
「2年前、デボンの森で出会った時の事は覚えているかい?」
出来る限り優しく怖がらせないように聞いてみると、何度も頷き、覚えていると言ってくれたのでホッと胸を撫でおろした。
さっきは動揺していただけだったらしい……良かった。
そしてもっと親しくなりたいと思った私は姫に「テオドールと呼んでほしい」とお願いしたけれど、さすがに年の差を気にしたロザリアに断られてしまう。
でもテオドール様って呼ばれるだけでも嬉しいものだな。
今はそれでもいい。
私はなぜ彼女を妻にと希望したのか、二年前の時の事を思い出して一つ一つ丁寧に私の気持ちを伝えていく。
そして彼女は予想通りの言葉を返してきたのだ。
「エリーナは私にとって唯一の心許せる人だったから、エリーナがいなくなるなら自分の命など惜しくはなくて……私たちを見逃してくれて本当に感謝しています。 ありがとうございます」
やはりな。
私が彼女に出会った時に感じた違和感……自分の命には微塵も執着していない姿が自分と重なってしまった。
それは彼女が生きてきた環境が全てを物語っている。
今まで大切にしてくれたのは、一緒にいた女性だけだったのだろう。
その姿がとても痛々しくて、そんな環境で育ったにも関わらず優しさを失わず、大切な人の為に戦える人柄が私の心に酷く響いた。
「私の妻になるからには、自分の命も大切に思ってほしい。 私はロザリアが死んだらとても悲しいよ」
まだ出会ったばかりの私の言葉に、涙を浮かべながら笑顔を見せるロザリア。
堪らない気持ちに一瞬だけ抱き締めてしまいそうになるが、グッと堪えた。
彼女を困らせたいわけではない、少しずつ、少しずつ距離を縮めていかなくては。
「私はあなたをこの世界の全てから守ると誓うよ。 私の妻になってくれるね?」
「…………はい……」
消えてしまいそうな声で呟き、涙を流す彼女を慰めるために、気の済むまで背中を摩り続けた。
やがて涙が止まると、春の木漏れ日のような笑顔をこちらに向け、「よろしくお願いいたします」と妻になる事を承諾してくれたのだった。
~・~・~・~
翌日、教会にて結婚誓約式を行い、私たちは晴れて夫婦となる。
彼女は15歳なので、唇に触れるのはまだ早い。
私は固い覚悟で頬にキスをした。
彼女が18歳になり、社交界デビューするまでは”そういう事”はしない。
私にとってロザリアはとても神聖で汚してはいけない聖域だった。
彼女を取り巻く全ての憂いを払ってあげたいし、甘やかしてあげたい、喜ばせてあげたいと思わせてくれる人だ。
それなのに彼女は、私の喜ぶ事ばかりしようとする。
誕生日プレゼントに彼女の誕生石であるガーネットをあしらった首飾りを贈ると「一生大切にします」と頬を染めて伝えてくれて……あれは非常に心臓に悪い。
可愛すぎて私の心臓がもたない。
ある日は私の為にパンを焼いてくれて「テオドール様に日頃の感謝の気持ちを表したくて……パンがお好きなのを知って、沢山作ってあげたら喜ぶかなって。ダメ、でしたか?」
なんて聞いてくる。
ダメなわけがない。
私を殺しにきているのかなと思う時が度々あり、可愛すぎて生きるのが辛い。
そしてロザリアは近頃成長期なのを気にしていて、自身が重くないかとよく聞いてくる。
日ごろから鍛えている肉体には全く影響はないし、むしろベルンシュタットの城に来てから全体的に成長してふっくらしてきた感じが実に抱き心地がいい。
女性らしい体に成長してきているので、若干目のやり場に困る時もあるけれど……重さなどは全く気にしないでほしい。
そんな彼女が庭園を訪れ、庭仕事の手伝いを始めたという話をしてくれた時の事――――
レナルドという庭師がいて、庭仕事の手ほどきをしてもらったと言う。
手ほどき?その言葉に思わず反応してしまった。
それよりも私は、そのレナルドという男の存在が少し怪しいと感じていた。
庭師はもう少し老齢だったはずだ……後で調べてみるとレナルドという庭師と契約をしていた事は確かだった。
でも何か怪しい…………私の勘がそう言っていた。
そしてその男はどういうつもりか、少し声がうわずったロザリアに「奥様はお可愛らしいお方ですね」と言い放った。
妻が褒められるのは嬉しいものだが、主がいる前で庭師が妻を可愛らしいだなどと。
ロザリアの可愛さは私だけが知っていればいいのだ。
スコーンを美味しそうに頬張る姿には、あまりに可愛らしくて表情筋が緩むのを抑えられずにだらしない顔になっていたに違いない。
そんなに好きならスコーンの美味しい店に一緒に行ってもいいな……彼女と二人なら楽しいだろう。
ロザリアに提案すると、美味しいスコーン屋さんに行けると思ったのか顔を輝かせて喜んでいる。
天使――――
私は彼女が妻となってくれた幸せをしみじみと噛み締めていたのだった。
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