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第十八話 優しい魔法使いってなんですかい?

 夕日落っこちて、もう夜だ。結構暗いけど、そんなには暗くない。

 まあ、最低でも蘭を見逃してしまわないくらいには、この新月の夜もそこそこ明かりがあった。

 オレは結構夜目が利く。これでよく夜な夜な猫の会合に参加しににゃあにゃあ行っていたのだが、一度寝落ちしてお母に後で雷落とされたことがあるから、最近は行ってない。

 猫語とか、後ちょっとで分かりそうな気がしてたんだが、残念だ。まあ、あいつら難しい面して大体ちゅーるとか食べ物の話しかしてない感じだったけど。

 実際味見させて貰ったけどあいつらが食うもんってあんまり美味しいと思えないんだがな、オレは。


「蘭、でも田んぼばっかの方に向かってて、よくコケないな」


 オレは、蛙の鳴き声が相当うるさくなってきた周囲を無視して、畔をずんずん走っていく魔法少女に驚きだ。

 三咲とかかなりの鳥目だったのに、やっぱり魔法少女は光を見逃さないもんなのかな。


 そういえば、三咲なんて前にパジャマパーティーした時なんて電気消したら怖がって重ちゃんどこー、ってやってたこともあった。

 まあ、大体そういうときあいつはオレのおっぱいを先に見つけてふにふにしてからびっくりするのが、何時もの流れだったりするのだが。

 よく分からないが、三咲は目はそうでもなくても、おっぱいハンター的な直感は優れているのだろう、多分。


「やり難いな……」


 だが、おそらくスケベニンゲンな三咲と同じではなくともそんな感じの何らかの勘を用いて蘭はオレから上手いこと距離を取ってる。

 もしオレと同じくらい夜目が利いたとしても、走力で勝るオレ以上に凸凹土の上で安定した走りが出来てるのはおかしい。

 魔法ってそういやどこまで出来るのかも、普通の格好しているときも使えるのかとか全く聞いてなかったが、そのせいでどうも面倒だ。


「こうなったらウサギさんでいくか」


 面倒になったオレは走るよりジャンプだと、ぴょんぴょんする。

 足場がちょい悪くたって崩れる前に跳べばいいんだから、これなら簡単だな。

 段々追いついてきたが、するとむしろ、オレって本気出したらどんだけ飛び跳ねられるのかちょっと気になってきた。

 ええと助走はいまつけているみたいなものだから、次差し出す足に全力を込めて。


「うあ」


 踏み切りは、きっと中々だったと思う。だが、ちょっと足場が悪すぎた。土ってちょっと脆すぎるな。

 オレは一歩で農家のおっさんたちが機械で作ったのだろう畔をぶっ壊した。きっとそこらは田んぼの境どこか分かんなったかもしれない。

 そして、それとは逆さに勢いを得たオレはひらひら空に舞い上がる。

 大砲の弾とかそんな勢いを持ってドカンと発射されたオレは、気づけば眼下に追いかけていたはずの蘭を見つける。


「わあ……かさねちゃん……くまさんだ」

「まてー……あいた」


 その上でくるりくるりとしてから、オレは不格好に片膝から着地――いわゆるスーパーヒーロ着地はばかさねの好みではない――する。

 オレは膝の痕が付いたアスファルトを隠すようにシューズでげしげし。

 そして、なんでかオレのパンツの柄を口にしてぽかんとしている蘭にオレは人差し指を向けて、こう言った。


「蘭! どうしてオレから逃げるんだ!」

「えっと、普通に逃がしてくれない? ……ボク、結構傷心気味なんだけど……というか格好つけて去ったのにつかまるのはなんか恥ずかしいっていうか……」

「むむっ。よく分かんないが、オレなんか蘭に嫌なことしたか?」

「えっと、嫌だというか、何と言うか……好きでだから嫌というか……」


 オレが近づいて、顔を寄せると蘭はそっぽを向いて指先をつんつんと合わせだす。

 ボーイッシュがそんなことしていると愛らしいとも取れなくはないが、だがそろそろオレも抽象的な返答ばかりで嫌気が差してきた。

 ツインが付いたヘッドをぶんぶんさせて悩みながら、オレは返す。


「はっきりしないなあ。好きなら好きで問題ないんじゃないか?」

「ああもうっ! だからボクはそれだけじゃ嫌で……」


 ああ言えば、こう言う。

 好きだの嫌いだの、いっぱい出すぎて正直もうよく分からなくなってくる。

 だが、それでも間違いないのはただ一つだけだ。めっちゃ暗くて蛙がガーガー言ってる中、それに負けずにオレはこう言い張る。


「オレは、蘭が嫌でも好きだ」

「なっ」


 同時に互いの顔がよく見えるよう抱きとめたためか何だか蘭はびっくりしているが、しかしこれは本当のことだ。

 だって、面倒で騙されているっぽくて本当にTSしたのかっていうくらいにおっぱいないが、でも何だかんだ優しさが心地良い。

 それは、勿論友達の範疇だ。だが、しかしそれだって恥ずかしげもなくオレはかなりのものだと主張できるし、何なら。


「好きだー!」

「わ、わわ……」


 こうやって、ちょっと蘭がビビるくらいには叫べるのだ。

 周りの蛙共の愛の斉唱に負けないくらい、オレはしばらく声の限り頑張る。

 やがて、両生類共もすっかり静かになってきたそんな頃合いに、オレは。


「心配すんな、蘭。オレはこんくらい頑張っちゃうくらいには蘭が好きだ」

「あ……」


 腕の中でなんでかのぼせてる蘭にぽつり。

 なんでかきゅうと胸元を掴む彼女を見ながらオレは続けて。



「――――で、お前は邪魔だ」


「ほぅ……」


 なんか面倒なものの切っ先を向けるそれに、牽制の言葉を向けた。

 闇に乗じる、とか聞いたことあるが実際黒い格好されて影から出てこられたら、非常に見辛いものがある。


 まあ、そこはばかさねちゃんアイの優れたところの本領発揮だな。

 見咎めたオレに、キラリと光る何かを引っ込め、そいつは口を開く。


「ふむ。正義の魔法少女に、その仲間。それら諸共にひと突き、というまたのない好機を焦りで不意にするとは、私もまだまだですね」


 なるほど。コレは先に聞いたことのある声を出している。

 まず思い出すのは、あの日血だらけの蘭にトドメを刺そうとしていた悪いやつ。

 そして、オレは次に違う人物も想起する。そして、それに間違いはなさそうだ。


「こいつ……何時もボクと戦ってたアイツ! かさねちゃん!」

「んー……違うな」

「え?」


 だから、オレは蘭のその決めつけに首を振った。

 黒くてなんか背格好かなりわかりにくい感じの男性っぽい何か。それは明らかに戦意というものを失せさせている。


 これは、黒子で代入先である不確定。つまり、何でもありだ。

 ならば、アレでもアリだろうと見当をつけたオレは。


「というか、かなり嘘だろ、お前……えっとなんだっけか」


 でも、中々名前が出てこなくて、困る。

 実際カタカナの名前って覚えにくくって面倒なんだよな。

 だから……と、それはいい。取り敢えずオレはその正体隠しのコスプレを指先でぐるぐる、示して断じるのだった。



「そうだ。お前の名前、《《ゴードリク》》だっけ。オレにはバレバレだぞ?」


 そう。異世界の何とかとか言ってた、アイツ。

 言ってること胡散臭いというか色々と設定に無理があるんじゃないかな、と思っていた存在にオレはようやく近づけた。


 一度蹴ってみて、そうそうばかにできない感じだったのが気になるが、しかし同時にアレはそんなに違わないなとも理解できている。

 ばかさねちゃんが本気になったら敵にもならないでぶち破れそうだし残念だが、異世界とか全部ウソっぽい。


「はっ? ゴードリクは異世界の存在だし、そいつはそこからやって来た別人なんじゃ……」


 でも、何も知らない分かろうとしない、優しい蘭はそんな見当外れなことを言う。

 オレはつい優しい気持ちになって、こう返すしかない。


「ばかだなあ、蘭は」

「はぁっ?」


 背伸びして、撫で撫で。そうして少女の髪の柔らかさと手入れの良さを覚えながら、オレは。


「現実を、見ろよ。この世に何でもは、ないぞ?」

「っ」


 ありそうでも、ないものはない。そんな、理解したくない当たり前のことを伝えるのだった。


 まあ、そもそも魔法なんかで簡単に異世界なんて行けるなら、オレだってばかさねちゃんパワーで既に行ってる。

 そうじゃないんだから、最低でも方法はないと考えるのが自然だろう。


 ああ、応じるように蘭のポッケがキラキラしている。

 それが魔法というよりももう少し現実的な繫がりによる発光なのだろうなと察しながらも黙って、オレは宝石状の端末から声がするのを待つ。


『会話の最中にすまないが失礼するよ』

「あ、ゴードリク! かさねちゃんが君のことを勘違いしているみたいで……」

『ふむ……ラン。唐突に感じるかもしれないがそういえば確か、君は異世界転生をしたと我に伝えたね』

「ゴードリク? う、うん。その通りだけれど……」

『ふふ……』

「え、と」


 笑い声。それはこの場ではどうにも重なって聞こえた。

 だからか恐る恐る、顔を黒の男に向ける蘭。当然のように、彼は口に手を当てまるで笑っているように身を捩っていて。


『君は実に面白いな……全く、この三千世界に転生なんて空ごとの事象があるわけ無いだろう?」


 光消えて通信閉じたその先を、眼の前の男が繋げて語る。


 暗い色した彼の周りにしかし知恵の光がまとわりついて、色を複数持ってぱっぱと瞬く。

 相変わらず夜目が利くオレは、それが脈々としたいのちの輝きそのものであることを察した。


「吸血鬼や魔法だけなら、まだしも」

「あ……」


 そして、それはさっきまでがんじがらめだった黒をはらりと落とす。

 すると、当然のように現れたのは長い青髪に、黒の瞳が特徴的な異人。なんでか王冠的なものを被ったそいつは、光彦に負けないくらいのイケメンだった。


 つまり、この嘘つきは、《《あたし》》の予想の通りの人物ということで。


「さて、改めて名乗ろうか。我は、ゴードリク・バルトラム・ラグナルス。そこのイチガヤランの肉体を用いて反魂の術を研究中の……ただの優しい魔法使いさ」


 そいつの自称の嘘に、霊魂どもが慄きで反証する。キラキラと命達は感情を輝かせて、むやみに綺麗。

 そして暗がりに観るとゴードリクという男の色はどうにも命の真逆で白く過ぎていた。


「なるほど、な」


 ああ、なるほど前にこの世のものでないとオレが勘違いした訳だ。


 こいつはもう半分以上、棺桶の中に足を入れている。



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