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【第9話】初クエストに出る


「着きましたねー!師匠ー!」


荷物を背負ったメアが無邪気にはしゃいだ。


気持ちのいい晴天の下、僕とメアはべルートンという町にやってきた。

ギルド【翠緑の若葉(グリーンディパート)】の在るオルーナから列車で3時間ぐらいの場所にあるカエル肉の唐揚げが特産品の活気のある町だ。


列車を降りると駅の中でも至る所で唐揚げが売られていた。


せっかくなのでメアの分と二つ買って食べてみる。

カエル肉らしいが鶏肉のような触感で肉厚ジューシーだった。


「美味しいですね!鶏みたいですけどこっちの方が私好みです!」


メアは大絶賛で気に入ったようだ。

お腹が減ったら食べると言って追加で購入したほどだった。


少しお腹を膨らませ、駅から出て目的地まで歩いて行く。

途中、町と草原を隔てた大きな土手道を通ることになった。


「おー!凄いです!」


土手道の上から広く見渡せた草原の光景にメアは驚嘆の声を上げた。

そこには多くの冒険者が人の二倍ほどある大きなカエルたち相手に戦う姿があった。


まるで敵味方入り混じった合戦かのように、草原一面で戦いが行われていた。

戦士が剣を振るい、魔法使いが魔法を放つ、命を懸けた戦場だ。


「これが…、クエスト。これが冒険なんですね!」


今すぐにでも自分もそこに混ざりたいと言いたげにメアは目をキラキラさせて言った。


クエストは危険なもの、そんな浮かれるものではないが今回ばかりはしょうがない。

ようやく来れたクエストだもんな、嬉しいよな。


「師匠!早く準備済ませて参加しましょう!私たちもクエストに!」


興奮したメアに手を引っ張られて僕らは先を急いだ。


僕とメアの結成して初めて挑むクエスト、それはEランクエスト『ビックトードの討伐』である。


  ※


[クエストを始める前にちゃんとトイレは済ませてきたかー!]


「はーい!済ませてきましたー!」


[武器と防具は万全かー!破損してないかー!]


「何度も確認しましたー!」


[水筒及び非常時用の携帯食は持ったかー!]


「ちゃんとありまーす!」


[笛はちゃんと首にかけているかー!]


「いつでも吹けまーす!」


僕らは宿に荷物を預け、草原入り口の受付小屋の中で戦場に突入する直前だった。


僕は新しく購入した安い剣を背中に携えて戦士職用の防具セットを、メアは二本の魔術杖を手に握り魔法使い職用の軽く動きやすい防具セットを装着している。

見た目だけなら立派な冒険者コンビだ。


[具合や調子は悪くないかー!]


「万全でーす!」


何度も繰り返される問答。

メアは今回すべてが初体験、初めてになることばかり。

自分でもしつこいと思うほど確認を繰り返して事前準備に時間をかける。


しかしメアの方はそれはそれで楽しいと言う。

先日二人でクエスト用の小道具を買いに行ったのも、この準備も、全部が全部ワクワクして楽しいと。


クエストの移動費の半分はギルドが出してくれるんですか。

冒険者ってこういう道具使うんですね。

これも買うんですか!?必要になるんですか、これ…?

寝袋はE-sh社の物が一番いいんですか?ホントだ値段もお手頃ですね。

知らなかったことばかりです。アルトさん…、いえ、師匠!これからもいっぱい色々なこと教えてくださると嬉しいです!


なんて可愛らしいことを言う子だった。


[クエストで一番大事なことは勝つことより生き延びることだ。クエストは失敗しても次はあるけれど死んでしまったら次はない。生存最優先、それを肝に銘じてほしい。何かがあったらメアはまず逃げ出すこと、いいね?]


「はい!分かりました!」


僕らはいま会話をしているように見えるが、実はこれまでのように筆談用の紙に字を書いて意思疎通しているわけではない。

手話である。手話を用いてスムーズにメアと会話しているのだ。


生まれた瞬間から魔法使い系の上級職だったメアは流石というか超賢かった。

あの日パーティーを組んだ後すぐ自分も手話を覚えたいと言ってきたメアはたった三日で手話を読み取ることができるようになっていた。

自分から手話で()()()方はまだ不完全と言うがそれでも凄いことだ。


つくづくこの子は天才なんだと思わされる。


[よし!それじゃあさっそく草原に出るけど、まず最初は足場を確認するように!少しぬかるんでると思うから転ばないようにね]


「はい…!」


この裏手の扉を開けたらすぐ草原だ。

もしもの時を考えて僕が先に出る。


「師匠…」


ドアに手をかけるとメアが逆の手を取ってきた。

緊張と期待で少女の小さな手は震えていた。


ここから先は命懸けだ。

いくら賢くて期待に胸を膨らませていても寸前になれば不安にもなるだろう。


彼女の手をギュッと握り返してあげた。

怖くなっても僕がいる。心が挫け負けそうになっても助け支える僕がいる。

それがパーティー、それが仲間だ。


「私、頑張りますね…!」


いい顔だ。

僕は扉を大きく開けた。


吹き込んできた熱風の中、冒険を知らない少女は最初の一歩を踏み出した。

幼い頃から憧れ続け、夢にまで見た冒険の世界にいま少女はいる。

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