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【第8話】最弱パーティー爆誕


青い瞳の人魚(ブルーメード)】最大の危機から遡ること一週間前───

(アルトのギルド追放から一週間後)


再就職を果たすべく入団活動を精力的にやっていたアルトは努力が実ることなく八件目になるギルドから入団を断られている所だった。


  ※


「ごめんなさいね」


小規模ギルド【翠緑の若葉(グリーンディパート)】のギルドマスター兼受付嬢のイリス・スリングは申し訳なさそうに頭を下げた。


ギルドのドアを出て、大通りに続く階段の端にアルトは座り込んでしまう。

途方に暮れてしまう。これで断られたのは八件目。


どうやらバラバロスが変な噂を立てているらしい。


一応あんなのでもバラバロスはこの国トップギルドの副マスターだ。

そんな発言に影響力のあるバラバロスが追放した僕のことであることないこと色々言っているらしく、すぐさまそれが冒険者業界全体に伝わって今やFランクアルトお断りのギルドばかりになっているみたいだ。


大手ギルドならまだしも【翠緑の若葉】のような小さなギルドにまで断られてしまうとは。

せっかく遠くの町まで移住してきたのに、噂と言うものは怖いものだ。


これからどうしよう。


なんとなく財布の中身を確認する。

入っているのは二万GP分の銀貨。これが今の全財産だ。


今日明日すぐになくなるような額ではないが、使い方次第ではすぐ尽きる額である。

このままどこのギルドにも入れなかったらと考えると不安になってくる。


「あ、あの!お姉さん!」


頭を抱える僕に話しかけてきた子がいた。


「一緒にパーティー組んでくれませんか!?」


その子は二杖の魔術杖を握り、ふちの広い魔法帽子を深々と被った少女だった。

緊張しているのか真っ赤な顔をしていた。

初々しい新人冒険者っぽそうな子だ。


帽子に【翠緑の若葉】のギルドマークがある所を見るにギルド員か。

ギルドのドアの前の階段に座っていたから仲間だと勘違いして話しかけてきたようだ。


「な、名前はメアです。後衛職の複合魔術師です!どうか一緒に組んでくれませんか!」


少女は翠緑の若葉のギルドマークの入ったギルドカードを渡してきた。

ギルドカードには冒険者としての情報が色々表記されている。

そこにはたしかに彼女が複合魔術師であることが記されていた。


冒険者の職業には基本の基本職、そこから成った中級職、その上の上級職がある。

僕は基本職の戦士で、複合魔術師は上級職だ。


基本職が数年数十年かけて経験を積み上げた先でようやく成れるのが中級職で、その中級職の中でも一握りの優れた人間が研鑽を積んだ先に達することができるのが上級職である。


年齢は十代後半のようだが、その歳で上級職だなんてよほどの才能を持っているのだろう。

きっと冒険者ランクもFランクどころかBランクぐらい行っているだろう。Aランクであっても全然驚かない。


「あ、あのッ…!」


魔術杖を握りしめ、真っ赤な顔を更に紅潮させた少女は目を潤ませている。

僕が返答しないから困っているようだ。

申し訳ない。すぐに筆談用の紙とペンを取り出し、文字を書いて少女に見せる。


[ごめんね、僕話せないんだ]


「え?あっ、そ、そうだったんですか…!」


少女は無視されたわけではないことを知り、ほんのちょっぴり安心したという顔を見せた。


[ちなみに僕、男だよ。名前はアルト]


「えええッ!ウソ!ホントですか!?」


そんなに僕、女性に見えるのかな?自分では鏡を見てもそうは思わないんだけどな。


「それで…、アルトさん。私とパーティー…」


こちらをチラチラ見ながら少女は恐る恐る聞いてきた。


ああ、パーティー組んでくださいとか言ってたな。

残念だがそれはノーだ。


僕はFランクの最底辺の冒険者。複合魔術師のような上級職の挑むレベルのクエストでは戦力になれない。

戦わないマッサージ要因としてなら同行できるが、僕は自分の力でクエストを戦いたいんだ。そうでなければ冒険者でいる必要がない。


そして勘違いしているが僕は【翠緑の若葉】のギルド員ではない。

ちょうどいま入団を断られたところだ。


君もギルドメンバーじゃないよく知らない男とは組みたくはないだろ?


と、いう旨の内容を紙に書いて少女に渡した。


きっと僕が断っても彼女なら他にたくさん組める相手はいるだろう。

上級職の魔術士なら引く手あまたのはずだ。


むしろ僕がFランクと知ったら少女の方から今回の件、願い下げてくるだろう。

そういう手のひら返しには慣れている。


「う゛え゛え゛え゛ん゛…」


しかし予想を裏切って少女は泣き出してしまった。

涙をポロポロ流してだ。


何でだ。Fランクに組むのを断られてプライドを傷つけられたとでもいうのか?

分からない。あの性根の歪んだリクリーシュの顔が脳裏に浮かぶ。最近の若い子は皆こうなのか?


とりあえず泣き止ませねば。

こんなギルドの前で所属する幼いギルド員を泣かせているのを誰かに見られたら非常にマズいことになる。ただでさえ僕の評判は最悪と言っていいほどなのに。


逃げようかとも思ったが名前を教えてしまっている。


[話をしよう。ここでは人通りの妨げになるから、落ち着ける場所で座って話そう]


とりあえず場所を移動したい僕はそう提案した。

少女はコクンと頷いて子犬のように付いてきた。


どうやら僕に対しての悪意はないらしい。


  ※


「グスッ…、ごめんなさい…、迷惑をかけてしまって…」


翠緑の若葉のギルドから少し離れた公園の噴水のふちに僕らは座る。


涙を流す少女を連れていることですれ違う通行人らに怪しまれたりもしたが、どうやらみんな僕のことを女だと勘違いしたようで呼び止められたりすることはなかった。

初めて女顔に感謝である。


[どうして泣いたんだい?よかったら相談に乗るよ]


ここに来るまでの間にメアも泣き止んでしまったのでもうこのまま解散してもよかったのだが、流石に年上としてほっとく訳にもいかなかった。


困り果てていて誰かに相談したいのは僕の方でもあるんだが、とりあえず話を聞く。


「私ですね…、生まれた時から複合魔術師だったんです…」


[生まれた時から…?]


「はい…、基本職も中級職も飛ばして、最初から上級職の複合魔術師からのスタートだったんです…」


ほとんどの人間が基本職で生まれてくる。

しかし極稀に一握りの天才が才能と資質で、基本職ではなく中級職・上級職の状態で生まれてくることもあるという。この子もその珍しい類のものだったか。

戦士から一向に中級職になれる気配もない僕からしてみれば羨ましい話だ。


「でもですね。複合魔術師ってハズレなんです。使い物にならないんです!だから誰も私とパーティー組んでくれないんです…!」


そう言ってメアは涙を浮かべた。


ハズレってどういうことなんだ?

僕もよくは知らないが、複合魔術師とは魔法と魔法を掛け合わせ威力を数十倍にも増加させて敵に放つ魔法攻撃系職業のはず。上級職の中でも攻撃性能はトップ帯の位置にあるはずだ。

ハズレになるような上級職ではないと思うが…。


そういえば長いこと【青い瞳の人魚】にいたが複合魔術師は誰一人としていなかったし見たこともないな。


「複合して放つのに魔法を二つ唱える必要があるんです…。でも私、基本職の魔法使いを経ていないからレベル低くて、マジックポイント足りなくて…。グスッ…」


僕はメアから渡された彼女のギルドカードを取り出す。

複合魔術師に目が行っていて気付かなかったが彼女のレベルはたった3だった。冒険者ランクもFだった。


どうやら最初から上級職だったせいで基礎ができておらず力を扱いこなせていないという話らしい。

どんな上級職でも必要になってくるのは基本職で学ぶ基礎だからな。


彼女も僕と同様、弱すぎて誰にもパーティー組んでもらえないタイプだったか。

職業が当たりでもレベルが低すぎて力を使いこなせてない魔法使いなんて確かに要らないな。


「一発複合魔法を打ったらMPが尽きて気絶しちゃうんです…。しかもMP自体少ないから本来の威力の半分の火力も出ませんし…」


欠点多いな。

一番の武器である大威力の一撃を放った後は文字通りのお荷物か。


「複合魔術師は超火力を誇りますがデメリットもありまして、単一としての魔法が打てないんです…」


え?それは基本職の魔法使いでも扱える初級魔法も打てないと言うこと?


火球(ファイア)とか氷牙(アイス)とかの?]


「はい…。魔法は複合しないとダメですから実質使えないのと同じなんです…。攻撃特化職業ですから回復補助魔法も扱えません」


それなら新人同士のパーティーにすら入れてもらえないのも納得だ。


複合魔術師をこれまで見たことない訳だ。

手軽に魔法が使えなくなる不便な上級職になんてわざわざなろうとするヤツなんていない。


才能があって生まれた時から複合魔術師だった彼女を除いて、他にいない訳だ。

確かにハズレ職だな。


「グスンッ…」


基礎のできていない大技縛りのMP不足魔術師。

スキルが【くすぐり】しかない戦士の僕と比べても目くそ鼻くそだ。


「一通りギルドのみんなには声をかけたけど誰も相手にしてくれなくて…、初めて見たアルトさんに声を掛けさせてもらったんです…、ギルドの人だと思って…」


青い瞳の人魚のような大きなギルドだったらこの子のような子には新人教育係が付いてそれなりに自立できるまでは世話を見てもらえるだろうが、小規模ギルドの翠緑の若葉にそれを期待することは難しいだろう。


「優しそうな女の人、ラストチャンスだと思っちゃっただけに…、つい泣いちゃって…。ご迷惑かけてしまってすみませんでした…」


[そうだったんだね。僕は気にしてないから君も気にしなくていいよ]


「ありがとうございます…。アルトさんお話しし易くて色々聞いてもらえて何だか少し楽になりました」


目を赤くさせながらメアは礼を言って頭を下げた。

一方的に話を聞いていただけだどな。アドバイスとかできなくて申し訳なくもある。


「こんなに人に話聞いてもらえるの久しぶりで、…嬉しいです」


そう言って少女の見せた柔和な笑顔に僕はついドキリとしてしまった。


何だか可哀想だな。


どうにかしてあげたいけど職業を自分で変更することは不可能だ。

基本から中級に、中級から上級に成り上がるときしか職業は変えることはできない。

(変えるというか職を進化させるという表現の方が正しいが)


ハズレ中級職なら上級職に上がるタイミングに当たりを選べばいいけれど上級職から上はない。つまり職業を変更できるタイミングのない彼女は一生複合魔術師なのだ。


やれることといえば地道な戦闘でレベルを上げてMPを増やすことぐらいだろう。

まともに複合魔法を使えるようになれば適材適所で輝ける場所ができるはずだ。


しかしそれは彼女も分かってはいることのはず。

問題はその戦闘に、レベル上げに付き合ってくれる仲間がいないということだ。


レベル3の彼女が使い物になるまでにいくつの戦闘を経たらいい。

お荷物の彼女を連れて命懸けとなる戦いに数十数百回も付き合い続けてくれるお人よしなんていやしない。


「分かっているんです。複合魔術師じゃもう冒険者なんてやめた方がいいなんて…。でもずっと夢見ていたことなんです。憧れだったから諦めたくないんです…。小さなころ冒険者に村を魔物から守ってもらってからずっとあんな風に誰かのために戦える人に、なりたかったんです…」


メアの頬に涙が伝った。


「でももう冒険者やめちゃおうかなって…。低レベルの複合魔術師だからホントはどこのギルドにも入れてもらえなかったんです。それで行くとこなくてウロウロしてる所をイリスさんと出会って、翠緑の若葉に入れてもらえて…。グスッ…」


イリスさん。翠緑の若葉のギルドマスターか。

優しそうな顔をしていたもんな。


「でも、誰もパーティー組んでくれないから、一度もクエスト行ったことなくて。それでギルドマスターのイリスさんがッ今度の休みにッ一緒にクエストに行ってッくれるってッ…ッ!う、嬉しかったけどッそれが情けなくてッ迷惑かけてるなっでッ…!私申し訳なぐで…!」


それはこれまで我慢して誰にも言えずにいたことだろう。

溢れかけていたものを吐露しながら涙を流すメアの背中を摩ってあげる。


誰にもパーティーを組んでもらえない辛さを僕も知っている。

断られてしまった時の悲しみと恥ずかしさも。


クエストに出ずともこの子はずっと戦っていたのだ。


ほっとけないな。

ついさっきこの子のために数十数百回も戦いに付き合い続けてくれるお人よしはいないと決めつけてしまったが、どうやらここに一人いたらしい。


[組もうか]


僕は紙にそう書いて見せた。


フリーの冒険者とギルドの冒険者がギルドの外で組んではいけない決まりはない。

クエストはメアが一人で受けてきて、それを二人で挑めばいい。


[報酬は山分けになるし、難しいクエストにも行けないけど]


[君が知らない冒険を、僕は知っている。それを僕は教えてあげれる]


君と並んで、仲間にとして戦ってあげれる。


[僕とパーティー組んでくれませんか?]


メアは大粒の涙を流しながら文字を読んだ。

何度も何度も、噛みしめるように。


「い゛いんですか…?い゛いんですか…?わ゛、私なんかで…」


僕の方こそ試験用魔石すら砕けない戦士。そこはお互い様だ。

メアに頷いてあげる。


それを見てメアは嬉しそうに安心したように笑った。


「わ゛、私の方からもよろしく、お願いします…!アルトさん…!」


こうして僕は会ったばかりの複合魔術師の少女とパーティーを組むことになった。

メアには仲間ができて僕もクエストに挑める、お互いの困りごとを解決できた実にいいウィンウィンな関係である。


くすぐることしかできない戦士と魔法を使えない魔術師の最弱パーティーの爆誕だ。


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