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【第5話】王子とのバトル!


国の第11王子のお姫様リクリーシュ・オーべヴァンスは面白くなかった。

目の前の女の顔をした男、アルトとかいうFランク。

その彼が王子である自分を前にして絶望の表情を顔に浮かべていないからだ。


底辺Fランクのクズスキル【くすぐり】しかないカスのくせに。


泣いて喚いてみっともない姿を晒していたら命までは取らないつもりだった。

自分だけ助かろうとこの場から逃げ出していればわざわざ追うつもりもなかった。


エリーゼの前で惨めな姿さえ晒してさえいれば、許してやったのに。


どうでもいい下級国民のくせしてかっこつけてエリーゼの前に立ちやがって。

まるでこれじゃあ私が悪役令嬢でお前が白馬の騎士みたいじゃないか。


エリーゼは私の奴隷だ。私の奴隷であり犯すべき騎士だ。

誰よりも高潔で強くて美しい彼女の尊厳を踏みにじっていいのは自分だけなのだ。

男なんぞに惚れて女になってしまった騎士なんて、話にもならない。


エリーゼに女の顔をさせたこいつだけは許さない。


こいつは殺す、処刑する。

父には咎められるかもしれないけど相応しい罪なんて後からどうとでも造れる。

私は王子なのだから、すべてが許される。


  ※


シュンッと風切り音がした。それはリクリーシュの剣の振るわれた音だった。

反射的にどうにか身を反らすことで避けることができたが剣先は僕の頬を掠めていた。


切り傷から血が流れる。が、一瞬でその血は止まる。いや凍った。

頬に強い冷たさを感じる。

これが彼女の剣の魔法特性か。


百花氷乱剣(ブリザフリード)、その特性は【氷結】よ!」


氷結。斬った物を凍らせるのか。

刀身は氷のようだし冷気を帯びているから大体そんなところだろなとは思っていたけど…。


「そうよ。切断部分が凍ってしまうのだからむしろ止血を助けてしまうわ」


リクリーシュが剣を振りながら自分でも言ったが、その通りだ。

彼女の氷の剣の特性はむしろ相手の方に得がある。

凍傷になる怖さもあるが命を懸けた戦いの中なら血が止まってくれた方がありがたい。


切断武器とその特性の組み合わせはマイナスにしかならないだろう。

なぜそんな武器を使う?


ああそうか。僕は気付いた。


「察したかしら?」


察したよ。

なんてサディスティックな女だ。


切断面が凍るということは止血してしまうということは、つまりいくら斬っても相手は失血死しないということだ。なんとおぞましく恐ろしい。


彼女はその氷結の剣を殺さないために握っているのだ。

決して心優しいのが理由ではなく、長く相手を殺さず痛ぶれることを目的にして。


斬られても死なないなんてとんでもない。

正しくは斬られても死ねない、だ。

その剣で死ねるのは彼女が満足して用済みになった時だけなのだ。


「安心を抱き絶望しなさい!四肢を斬り落としても死ねないわよ!ダルマにして可愛がってあげるわ!」


恐ろしいことを言う。


止めどなく続けられる連撃。受けてはならない攻撃が次々襲い来る。

僕はそれらを躱していなし続ける。

冒険者最底辺のFランクといってもキャリアは5年だ。

防御に徹底して集中すればこのぐらいはできる。


でもとうとう捕まりそうになってしまう。


鋭い横薙ぎの一閃。それを僕の方も鞘から剣を抜いて受け止めた。

剣同士の衝突なら僕の方が力は上。力技ではじき返す。


「バカね!」リクリーシュは不敵な笑みを浮かべた。


5万GPで購入した僕の安い中古剣の刀身が粉々に砕けてしまった。

まさか武器すら凍らせてしまうのか?さすがは王族所有の武器、常軌を逸している。


「残念だったわね。これであなたの武器はなくなった!」


僕は砕けて柄しか残っていない剣を投げ捨てる。

結構思い出の詰まった武器だったんだけどな…。


それにしても第11王子リクリーシュ、彼女は強い。

ここまで彼女が見せた駒は武器の特性【氷結】のみ。

メイドさんたちが出る幕もなく、自身のスキルすら何一つ発動させていないのだ。

相手を甘く見過ぎていたのは僕の方だったかもしれない。


「ア、アルトさん…!これを使ってください」


エリーゼが鞘に収まったままの自分の剣を僕に差し向けてきた。

どうやら武器を失くした僕にこの剣を使えと言っているらしい。


「やめなさいエリー。その剣を貸してもすぐ砕けて終わるだけよ」


「じゃああなたは武器を持たない相手を一方的に痛ぶるつもり…?」


「ん~?それの何が悪いの?」


リクリーシュはいたずらっ子のような悪い笑みをエリーゼに向けた。

エリーゼは嫌悪の顔を見せるが、それもまた王子を奮い立たせてしまうだけだった。


「アルトさん!」


再度の呼びかけに反応はしなかった。

エリーゼには悪いがその剣は受け取る気はない。


そもそもこの戦いに剣を使うつもりはなかった。

悪魔のような性格でも相手はこの国の王子。

剣を向けてしまうのはさすがにマズいだろう。ケガをさせるなんてなおさらだ。


だからその剣はいらない。

僕はこの手だけで勝つ。この手とスキルだけで。

相手を傷つけることもなく。


スキル【くすぐり】発動だ───。


  ※


アルトは人指し指と中指の二本でリクリーシュ・オーべヴァンスを指した。

その次の瞬間リクリーシュの足元に魔法陣が出現しバチィイイ!と空気中に電気が走り唸った。


それはスキル【くすぐり】が発動したことを告げる現象だった。


「は…、何?」


リクリーシュが自分の身体を見渡した。


「私いま攻撃された?」


痛みはない。何かバフやデバフをかけられた感じもしなかった。

何も起きてなくて当然である、アルトがやったのはただの対象指定(マーキング)だったのだから。


「何を…、何をしたァ!!!!」


ドスンとアルトとリクリーシュの間にメガネのメイド、イロイが割って入った。

鬼の形相である。きっちりしていた髪が振り乱れるのもお構いなしという感じだ。


「リジェ!こいつの持つスキルは【くすぐり】だけじゃないのかァ!!」


「間違いなく【くすぐり】だけです!装備品も全てレア度1!付属効果は何もありません!」


「貴様ァ!王族へのマーキング行為は即死刑相当の重罪だぞォ!!」


イロイはアルトがやった行為が対象指定の類のものであったことを見抜いていた。


「すぐに解除しろッ!!」


ブチ切れである。いや焦りだろうか。

それも仕方ない。相手は使えないスキルしか有していないはずのFランク。

危険視など一切してなかった相手が突然対象指定(マーキング)などという上級魔法使いにしか扱えぬような技術を使ってきたのだ、焦ってもしまっても仕方ない。


「お嬢様!下がってください!」


眼帯のメイド、サンバラがリクリーシュを後方に下がらせた。

マーキングされてしまったからには何が飛んでくるかわかったものではない。


もはやアルトに対しての警戒度はゼロからマックスに格上げされていた。


そして同時にメイドたちの中でアルトはこの場で確殺することが決まった。

逃がした後にマーキングを利用して悪さをされても困る。


「問答無用で死んでもらうぞ!!」


イロイが片足を大きく上げる。頭上よりも大きく高く。

そのせいでアルトからはパンツが丸見えになっていたが、この状況でそれを凝視するほど彼もバカじゃなかった。


上げた足首に足枷が出現しそこから鎖が伸びていくとその先の空中で鉄球が生成された。


パンツに気を取られていたら生み出された鉄球の存在に気付かなかっただろう。

パンツはトラップだったのだ、恐ろしい罠である。


鉄球葬(アイアンメテオ)!!」


踵落としの要領で引き落とされた足先とシンクロして鉄球は急落下する。

その落下先はアルトだった。


人が避けれる速度ではなかった。

容赦なく衝突するアルトの頭と鉄球。

バカン…!スイカのように砕けたのは鉄球の方だった。


「何ィ!!?」


思わぬ結果に驚き顔を見せるイロイ。

その彼女の後ろから身を出したのはデカいメイドだった。


「サンバラちゃん!スピードバフをかけるわ!」


「了解…!暗黒の斬撃(ブラックシャドウ)…!!」


砕けた鉄球の破片を目晦ましにサンバラが黒い剣でアルトを斬る。

移動速度上昇のバフを付与されていたようで移動も攻撃も人の目には残像しか映らなかった。


「この手応えは…!斬れていない!?」


しかしサンバラのバフの入った攻撃もアルトにはダメージゼロだった。


「まさかこれがマーキングした理由か!お嬢様に接近するまでは攻撃無効なのか!?」


イロイの言葉にアルトからの答え合わせはなかった。話せないのだから当然ではあるが。


アルトは歩を進める。リクリーシュに向けて。ズンズンと。

攻撃が何一つ通用しない男が何も言わず近づいてくるのはホラーである。

メイドたちは言いようもない不気味さを感じた。


「止めろ!お嬢様に近寄らせるな!!」


「はい!!」


イロイの言葉に従ってメイドたちがリクリーシュの前に集った。

攻撃が通用しないのなら肉壁になってアルトを止める気のようだ。


「全員どきなさい!」


「はい!!」


リクリーシュの命令にイロイ含めてわざわざ集まったメイド全員がその場から飛散した。


「攻撃が通じないのなら拘束してあげるわ、永遠にね!」


イロイとリクリーシュ、指示を出す者が二人いることで二度手間が発生したと思ったがどうやら違ったようだ。最初メイドたちがリクリーシュの前に壁になったのは実は目隠しするためだったのだ。

これから出す必殺の技を悟られぬために。


姿を見せたリクリーシュは頭上に氷剣を構えていた。

メイドを散らしたのは今から出す技に巻き込まないためでもあった。

ヤバいとアルトが思った時には手遅れで、既に彼は彼女の間合いに入ってしまっていた。


アルトの吐息が凍る。


場の空気が凍てつく。


久遠の氷棺(エピュタール・デレラ)!」


リクリーシュは百花氷乱剣を地面に突き刺した。

地面から冷気が爆発するように吹き出し、二人を中心に氷の花園が咲き乱れる。


それは間合いの中にいる自分以外の生き物すべてを凍結させる必殺の技だった。


「なんて美しい…!」


その光景にイロイの口から言葉がつい漏れ出てしまった。

周りのメイドたちも言葉にはしないが似たようなのことを思ってしまう。

氷の花園にいる自分たちの主の姿があまりにも神々しく見えたからだ。


そこには氷漬けになったアルトの氷像もあった。


「ア、アルトさん…、いやぁああああ!」


エリーゼの悲痛の声が耳に届き、リクリーシュから笑みがこぼれてしまう。


「安心しなさいエリー、この像は砕かないわ。うちの飾りにしましょ。あなたは毎日これを見る度に改めて思い知るの、自分の無力さを」


その時だった。

アルトの氷像の表面部分の氷が砕け、その中から元気なアルトが現れた。


「はあ!?ウソでしょ!?」


思わぬ復活に一手対応が遅れるリクリーシュとメイドたち。

そのままアルトはリクリーシュを押し倒した。


花園の氷が舞い散る。


「無礼者!!王子の私に触れるな!」


「お嬢様を放せ!」


メイドたちがアルトを蹴って叩く。

デカいメイドがアルトの頭を掴んで引き離そうとするがビクともしない。


「何をするつもりだッー!!貴様ッー!!」


イロイが怒鳴った。


何をって。

アルトにはスキル【くすぐり】しかないのだから。

彼はくすぐることしかできないのだから───


そりゃまあ、くすぐるのだろう。


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